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番外編 バレンタインにヤツ等は現れる?

「地球じゃそろそろバレンタインの時期か」


 寒い冬が続くある日の朝、俺はふと地球の事を思い出していた。


「バレン……タインですか?」


 一緒のベッドで温まっているアルマが俺に引っ付きながら聞いてくる。


「ああ、いろいろ理由はあるんだが、今じゃ女の子が好きな男にチョコっていうお菓子を上げる日になったんだ」


「好きな人にですか?」


「そ、本来はお世話になっている人へのお礼から始まったんだが、お菓子業者の陰謀で恋する乙女が勇気を出して好きな人に告白する日にスリ替わったんだよ」


 マジ製菓業者はモテない男達から刺されても文句は言えない。


「素敵な風習ですねぇ」


 だが、恋する乙女であるアルマにとっては製菓業者のもくろみは素敵な恋の物語に聞こえたらしい。

 まぁ妻なので愛する新妻と言うべきか?


「クラフタ様! チョコという食べ物はどこで手に入るのですか!?」


 む、どこでと言われると困るな。


「いや、チョコは地球にしかないと思うから、この世界では手に入らないんじゃないかなぁ」


「そう……ですか……」


 チョコが手に入らないと知ってショボーンとなるアルマ。

 これはこれで可愛い。


「いや、最近は別にチョコでなくても良いみたいだし、お菓子なら何でも良いんじゃないかな?」


「っ! 分かりました! 私、クラフタ様の為に最高のお菓子を用意して見せます!!」


 ベッドから立ち上がる事で、アルマの体を覆っていた布団がめくれ上がる。

 裸ではないものの、俺の全面的な趣味でかなり薄着の寝巻きはアルマの豊かな体のラインを余す事無く表現する。むしろ見えないからこそエロかった。


 ◆


 こうしてアルマの最高のお菓子作りの日々が始まった。

 こっちの世界では2月14日がわからない為、月の真ん中の日を暫定的にバレンタインデーとし、アルマはその日をタイムリミットとして御菓子作りに専念していた。

 しかしここで想定外の事態が起こる。

 アルマから聞いたのか、町の住人達にまでバレンタインデーの話が広まっていたのだ。

 そうなると真っ先に飛びつくのが商人達。

 彼等はバレンタインデーを異国の愛を伝える風習として多くの人々に広め、女の子達が恋心を伝えるのにふさわしいゴージャスなお菓子を売り出したのだった。

 その光景は、ある意味日本のバレンタインデーを完璧に再現しているといえた。

 少女達は心を寄せる男の為に少しでも良いお菓子を求め、商人はそれに応えるべく高級菓子を売りさばく。


「ぐふふ、バレンタインの為に作り続けてきたお菓子作りの技術が今こそ花開く時よ! 笑いが止まらないわぁふへへへへっ」


 ちょっとご近所に住む魔王が乙女が見せてはいけない表情になっているのだが、そっとしておこう。

 きっとアレは今まで渡す相手が居ないまま技術だけを高めていたのだろうから。


 少々商人達の暴走が気になるが、まぁこれがきっかけで結婚して子供が生まれればマエスタ領の発展につながる。

 まだまだうちは人口が少ないからなぁ。

 などと取らぬ狸の皮算用をしていた俺だったが、騒動の種はすぐそこまでやってきていた事に気付いていなかった。


 ◆


 バレンタインデー当日、それは起こった。


「ひゃっはぁぁぁぁぁ! チョコは粉砕じゃぁぁぁぁぁ!!」


「外国かぶれ共に天誅をぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ドゴォォォォン!!!


「何事だっ……っって、えぇ!?」


 何の騒ぎだと思って屋敷の外へと出てきた俺が見たのは、幸せそうなカップル達に襲いかかる全身骨のリッチを筆頭にした嫉妬メンズ……ではなかった。


 そこに居たのは、道路の真ん中で黒焦げになって正座をするパル師匠と、その仲間達だった。

 決してクアドリア師匠達では無い。以前クリスマスで壁を殴っていたモテない集団達だ。

 だが何故か彼等は一様に黒焦げになって正座をしている。

 そしてその前には、俺の妻アルマを始めとした町の女の子達がたたずんでいた。

 全員殺気立っている。

 そしてアルマの右手には魔法の威力を高める杖が、その隣にいるミヤの両手にはおそらく武器であろう魔法具が握られていた。

 二人共笑顔ではあるが、その目は笑っていなかった。

 否、笑っていないのは後ろにいる女の子達もだった。


「パルディノ元副所長、何か言いたい事はありますか?」


「い、いえ」


「先生、今日は何の日かご存知ですか?」


「バ、バレンタインデーです」


 何百何千年も生きてきた筈の大魔法使いが脂汗を垂らしてうつむいている。

 アンデットって脂汗を垂らせるんだなぁ。


「バレンタインデーとはどのような日ですか?」


「お、女の子が好きな男に告白する日……です」


「そうですね、ではパルディノ元副所長達は何故街中で暴れていたのですか? 何かそうせざるを得ない理由でも?」


 アルマとミヤに矢継ぎ早に質問されて、パル師匠は顔面蒼白だ。

 アンデッドって顔面蒼白になるんだな。 


「あ、ありません」


 観念したようにうめくパル師匠。


「そうですか、では今日はお帰りになった方がよろしいかと」


 意訳しなくてもさっさと帰れと言われてるよ。


「はい……」


 哀れ、パル師匠とその仲間達は何一つ目的を果たせないまま解散する事になってしまった。


 ◆


「「「「ハッピーバレンタイン!!」」」」


 執務室で仕事をしていた俺の目の前に、突然4人分のお菓子が差し出された。

 いや、一人分はお菓子でなく魚だったが。


「これはっ!?」


 我ながら大根役者だが、ここは驚くのがマナーだろう。


「バレンタインのお菓子です! 私達からクラフタ様への愛をお伝えする為に用意させていただきました」


 アルマが頬を染めながらお菓子を差し出してくる。

 俺の嫁は最高や。リア充バンザイ!


「これは私からです、リスタニアでよく食べられていたお菓子を作ってみました。これは再び私に生きる意味を与えてくださった感謝の気持ちを込めた品です」


 ミヤが俺の手を握りながら笑顔を向けてくる。

 俺が既婚者で無ければ惚れてしまうトコロでしたわ。


「これは私からよ、こっちの世界の材料を使って可能な限りチョコレートを再現してみたわ」


 アリスが差し出してきたのは、いかにもテンプレなチョコーレートだった。

 ハートマークに愛してると書かれたベタベタなチョコだ。

 っていうか、コレを渡すって事は俺の事が好きだという事なのだろうか?

 それとも量産した商品には全部同じ内容が書かれていたのか、謎は深まるばかりである。


「ご主人様にあげるのー」


 ドゥーロはいつもどおりだった。

 コイツにはまだ恋愛感情というものが無いだろうから、バレンタインも男にお菓子をプレゼントする日くらいにしか思っていないのだろう。


「ドゥーロもご主人様好きなのー」


 取り敢えず頭をなでてやりました。


「皆、ありがとう! 大切に頂くよ」


 俺は4人に感謝の言葉を送る。


「じゃあ、ホワイトデーは3倍でよろしくね!」


 アホが余計な事を口走った。


「ホワイトデーって何ですか?」


 やめなさい、ソレは聞いてはいけない。


「ホワイトデーってのはね、チョコを貰った男が女の子に告白の返事をする為にプレゼントをお返しする日なのよ! しかも三倍もするお返しを!」


 馬鹿止めろ!


「そうなんですか!?」


「三倍!? 三倍で美味しいものがもらえるのー!?」


 こうして、アホな魔王の所為で人々にホワイトデーの存在が知られてしまい、あわやお返しは三倍という恐るべし風習が根付くところであったが、領主権限をフルに使って三倍だけは阻止するのであった。

 その件については、一部女子からは不満の声が上がったが、ほぼ全員の男達からは感謝の声が上がったので不満の声も消えたのだった。


 あと、義理チョコという悪しき風習が根付く事も全力で阻止した。

 職場の義理チョコとそのお礼返しとか明らかにお互い負担だったからな。

 俺は人知れず世界を救ったのであった。

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