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南の島のゴーレム

 領主としての仕事が終わる頃、ミヤから異世界人達の移住用に調査していた島の調査が進んだと報告を受け、偽装工房へとやって来た。


「お待ちしておりました。皆さんも既においでになっております」


 工房の中の会議室では、既にセルティアス達異世界の住人が席についていた。


「お待たせしました」


 俺が席に着いた事を確認すると、ミヤが映像魔法具を操作してスクリーンに島の映像を映し出す。


「皆様、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。本日集まって頂きましたのは、移住先の候補地である島の調査がある程度進んだ事をご報告する為です。まずこの島についてですが、砂浜、平地、森が有り、山も存在します。山の中腹から湧き水があふれ、その水が川となって海に流れ出しています」


「砂浜があるのは当然だと思うが」


 苦笑しながら代表の一人が突っ込みを入れる。まぁ、確かにちょっとばかし丁寧に説明しすぎだろうと俺も思った。


「波の強い海域、島の岩質によっては、砂浜が無く断崖絶壁しかない島もあります。そうした島では港の設立が困難となります。それゆえ砂浜の存在を示唆させていただきました」


 ああ、そう言う事ね。ミヤの説明が理にかなっていると分かり質問した代表が羞恥で顔を赤くする。

 データで作られた仮想世界に暮らしていたからこその認識の不足ってわけだな。


「皆さんも疑問がありましたら質問してください。こちらの世界には皆さんが考えもしなかった不可思議な物にあふれているでしょうから、寧ろこの機会に同胞の方々に説明できるようにしましょう」


 コレが原因で変な逆恨みをされても困るので、一応フォローしておく。

 異世界にすんでいたんだからアンタ等の疑問は別におかしくないよって。


 俺の意図を察したスタロアスが軽く会釈で礼を述べてくる。

 理解してくれて何よりだ。


「では私からも質問を。山の中腹から水があふれ川になっているといわれましたが、それは何か重要な意味を持つのでしょうか?」


 スタロアスは自分が質問する事で皆が質問しやすい空気を作ろうとしているようだ。


「はい。水は重要な命綱です。ですが川の水というものは寄生虫などの危険がありますし、毒性のある鉱物が溶け込んでいる可能性もあります。更に言えば地下水なのか、岩場に出来た天然の貯水池が雨水をためているのかも重要です」


「なるほど。水1つとっても重要なのですな」


「だがそれならば浄水器を作れば問題ないのでは?」


 スタロアスの質問を皮切りに他の異世界人達も質問を始める。


「確かに、魔法具を使えば飲み水の心配はないでしょう。ですが、たとえば大災害が発生し魔法具を保管していた倉庫が破壊される可能性もあります。我々は過去の教訓から最悪を想定して調査をしておく必要があるでしょう」


 ミヤの言葉に全員の顔が引き締まる。

 たぶんコレは魔力欠乏症で古代魔法文明人達が異世界に転移した事を言っているんだろうなぁ。


「では説明を再開いたします」


 ミヤが魔法具を操作すると映像が変わる。

 最初に映し出されたのは砂浜だった。


「砂浜は細かい砂の浜と岩場で構成されており、港や生簀を作るのに適しています。浅瀬には危険な魔物の姿は殆ど無く、水中用のゴーレムを巡回させればまず危険は無いかと思われます。ただし沖に出れば大型の魔物も生息していますのでご注意ください」


 海に魔物がいると聞いて再び室内が騒がしくなる。


「沖に魔物がいるのであれば、漁に出るには護衛用のゴーレムが必要だな」


「いや、ソレよりもゴーレムに漁をさせた方が良いのでは?」


 ゴーレムに漁をさせるかー。さすが技術力が高い異世界人だけあるわー。


「いえ、あくまでも生活は人間の力で行うべきです」


 しかしソレにセルティアスが待ったをかけた。


「ゴーレムに頼るのは簡単ですが、それに頼り切れば我々は何もしなくなります。今でさえこの補助ゴーレムに体を任せなければまともに歩く事もできないのですから、安易に楽を覚えてしまったが最後、我々は遠からず種として衰退してしまうでしょう。ゴーレムはあくまでも補助としての使用に留めます」


 指導者であるセルティアスにそう言われては逆らえないと彼らはその意見を受け入れる。

 確かに今の彼らはまだ現実世界に精神が適応できていない。

 今補助用のゴーレム服に何かあったらアホウドリもびっくりのチョロイ餌として魔物や大型の獣に捕食されてしまう事だろう。


「次に森についてご説明いたします」


 さらっとコレまでの会話をスルーしてミヤが説明を続ける。

 神経太いわー。


「森の中には様々な植物が生えており、薬になるものも毒になるものも自生しています。また人間が栄養を摂取できる果物や根菜の類もいくつか見つかっています」


「おお、ソレはありがたいな。その食料が島の固有種であれば品種改良をしていずれ他の国々と交易を行う際の売り物になるだろう」


 食料関連の仕事についているらしい人物が会話に食いついてくる。


「薬になる植物も気になるな。一部の薬剤は島内の温室で栽培が可能になるのはありがたい」


 とは医者の弁だ。

 電脳世界で暮らしていた異世界人の医療技術ってどうなってんだろうな?


「ただし森や山には魔物が生息していますので、この島で暮らす場合は街を城壁で覆い、ゴーレムに護衛させる必要があるでしょう」


 やっぱ魔物が居たか。


「どれくらいの強さの魔物なんだ?」


 コレは俺の質問だ。

 異世界人が戦って倒せる魔物かどうかというのは問題だ。

 いや、以前の他人の肉体を乗っとっていた彼らなら戦えただろうが、憑依魔法具のサポートのない今の彼らでは戦士であるバギャン達ですらまともに戦えないだろう。

 うん、バギャンも生きているんだ。

 前回の戦いで彼の本体の入っていた魔法具は確保していたからね。

 今回の生身へのインストール事業でバギャンも新しい肉体を手に入れ今は新しい肉体に慣れるべく訓練中だ。

 そう、新しい体にね。


「ご主人様の質問なのですが、じつを言いますと少々答え辛い状況です」 


 珍しくミヤが言いよどむ。


「どう答え辛いんだ?」


「はい、ソレがですね」


 ミヤは魔法具を操作して島を上空から見た全景を表示する。


「この島は地区によって魔物の強さが大きく変わるのです」


 ミヤがそう言うと、島の映像に赤い線が引かれていき4つのエリアに分割された。


「まず砂浜は魔物がいないので脅威度は〇です。次に平原ですが、こちらは足の速い魔物が生息しています。そして森は群れを作る魔物が多く、単体の強さはそれほどではありませんが仲間を呼ばれると厄介です。また昆虫系の魔物が多いですね。山岳部には鳥系の魔物と飛竜が生息しており、地形的な不利だけでなく単純な魔物の強さも島では上位です。また山岳部には洞窟がところどころにあり、内部には危険な魔物が多く存在します。魔物の単純な強さでは洞窟の中が一番危険でしょう」


となると洞窟は基本入らない様に人避けをしないといけないって事か。


「魔物を駆除してから移民するか?」


「いや、この世界では魔物は様々な素材になる。ゴーレムに生活圏を守らせて危険な魔物だけ駆除するべきでは?」


「いやいや、危険だからと絶滅させるのはいかん。生態系が崩れると予想外の生物が島の調和を荒らしてしまうぞ」


 学者っぽい人が安易に駆除発言をした人達を戒める。

 確かに地球でもそんな話し有ったよなー。

 まぁソレをいったらこれからあの島に移民するかもしれない彼らこそが最大の外来種なわけだが。


「まずは毒などの危険な能力を持っていないかを調査する必要がありますな。そして洞窟の調査も行わせて島の全容を明らかにしませんと」


「同時にゴーレムに城壁を作らせてからその中で町を作らせましょう。擬似的な生活空間を作る事で現地の生物がどう動くかを観察するのです。その為のダミーとしてゴーレムは適切だ」


「異議なし」


「ソレがいいでしょう」


学者さんの意見に全員が賛成していき、セルティアスもそれに同意する。


「そうですね。実際に住んで見ないと危険はわかりません。なるべく人間に近い形状のゴーレムを派遣して町の建設にあたらせましょう」


 どうやら今後の方針が決まったらしい。


「じゃあミヤのゴーレムは引き続き島の調査を。新しく開発用のゴーレムを派遣する事にしようか」


「承知いたしました」


 俺の指示にミヤが従う。

 しかし、この指示が島に眠る新たな騒動のタネを目覚めさせる事になるとはこの時点では誰も気付いていなかった。

 っていうかあんなの気付ける訳ないだろ。

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