南国移住計画
異世界人のゴタゴタも終わり、平和な日常が戻ってきた。
アレからも帝国からはしつこくマリスを返せって要求が来ているみたいだけど、例によってミヤとアリスの工作が足を引っ張って強攻策には出られないようだが。
むしろ帝国は弱体化を良い事にちょっかいをかけてきた周辺国の対応に大わらわなのだとか。
金が無い、物が無い、食料が無い、人材が無いの無い無いづくして悲鳴も出ない有様とは哀れな事だ。
不幸中の幸いかエメラルダは愚かな人間では無いので、しばらくは国力の回復に注力する事だろう。
それでも数十年は国力の回復に時間がかかるだろうが。
なにせ帝国は広い。
そしてその広さに胡坐をかいていたから内側はボロボロだ。
クーデターが起きる前に国を立て直せると良いね。
◆
さて、当の異世界人であるが、今も向こうの世界から魔法具に魂を移してこちらの世界に輸送されて来ている。
何せ1つの世界の人間が丸まる送られてきているのだ、その数はハンパではなかった。
幸いなのは、その最大数がそこまで多く無い事。
魔力欠乏症から逃げだした彼等は残った僅かな同胞と共に異世界に逃げ出し、その先で更にデータの世界へと移住した。
データになった彼等は生身の生物ほど繁殖する必要がなくなった事で、少なくは無いが、世界がパンクするほどの人数ではなくなった訳だ。
で、ここで1つ問題が発生する。
うん、ぶっちゃけると人が多すぎる。
世界はパンクしないが、マエスタ領としては多すぎるという話だ。
このまま異世界人が肉体を手に入れ続けると、土地や食料の問題でマエスタ領に人が住めなくなる。
となれば考えられる対策は移住だ。
異世界人をどこか別の所に住まわせる必要が出てきた。
と、いう訳で彼等の指導者であるセルティアスに来てもらう事にした。
「移住ですか?」
「ああ、このままだとマエスタ領だけでは異世界人達がすむ事は出来なくなる。そうなる前にどこか彼等だけで住める場所を探したい」
「理由は承知致しました。我々も元々は帝国の広い国土を狙っていましたし」
ああ、確かに帝国は無駄に広かったからな。拡大政策的な意味で。
「理想を言えば大きな無人島とかが良いな。異世界人の技術力は一線を画している。日常の生活ですら便利な魔法具が介在する国家があるとなれば多くの国が思惑を持って接してくるだろう」
魔法具の大量売買とかならまだしも、技術提携を要求したり、盗難、最悪民を誘拐する可能性も出てくる。
あと陸続きだと国境問題がね。幾らでも戦争をする為の理由付けが出来るから困るのだ。
「だから俺の無人偵察ゴーレムが調査した中にある無人島で、人間の生活に適した島を開拓してはどうかと思うんだ」
「確かに、大陸から離れた島なら、文明水準の違う人間の国があってもおかしくありませんからね」
「最初は島の調査と開発をゴーレムが行い、安全が確認できたら転位装置で一気に移住って所かな」
「そうですね。移住した先で未知の病気が蔓延していたら大変な事になってしまいますからね」
流石に魔力欠乏症で異世界に逃げただけあって、セルティアスの心配事は病気に集約されるみたいだ。
その後、必要な調査内容を打ち合わせた後、俺はミヤに無人島調査を行うことを命じるのだった。
◆
「ご主人様、移住計画の準備が整いました」
執務室で仕事をしていた俺の元にミヤがやって来る。
「分かった」
俺は仕事を切り上げて、異世界人の魂を新たな肉体にダウンロードする為の偽装工房へと移動した。
◆
「調査の方法に関して説明させて頂きます」
偽装工房の中には俺を始めとして、アルマ、セルティアス、スタロアス、そして異世界でセルティアスを支えていた政府関係者達が列席してした。
「まずセルティアス様より貸与して頂いた大型転移ゴーレム、ギランドールによって調査対象の無人島上空に転移。その後上空より調査用ゴーレムを排出。ギランドールは空中で待機し、ゴーレムから受け取った情報をこちらに転送して貰う事になります」
ミヤがテーブルに置かれた魔法具を操作すると、上空に映像が浮かぶ。この世界の地図のようだ。
「我々の暮らすルジオス王国がこの赤い点です」
地図に赤い光点が示される。
「そして目的の無人島がこの青い点です」
ルジオス王国から下のほうへ大分下がった所に青い点が表れた。
「そちらから伺った人口を十分に受け入れる事ができ、将来の人口増加を考えるとこの島が丁度良い大きさと判断しました」
ああ、確かに人は増えるもんな。
「ギランドールは既に転移可能な状態で、ゴーレムの搭載も完了しております。後はご主人様の命令さえあれば何時でも転移可能です」
俺はセルティアスを見る。
セルティアスもやってくれと頷いてくる。
「よし、ギランドールを転移させて島の調査を行ってくれ」
「承知致しました。ギランドール転移開始。ゴーレム達は調査任務を開始しなさい」
ミヤの顔が人形めいた表情になる。
思考能力を魔法具やゴーレムの操作に回している証拠だ。
少しするとミヤの表情に柔らかさが戻ってくる。
「ギランドールの転移が完了致しました。ゴーレムからの映像来ます」
ミヤの言葉が終わった直後、地図を映し出していた立体映像が青空の映像に変わる。
画面の下のほうに金属の床が見える。
と、そこで視界が動き出した。どうやら映像を送っているゴーレムが動き出したみたいだ。
金属の床、ギランドールの格納庫を移動し、ゴーレムの視界が下へとスライドしていく。
格納庫の端から、はるか空のした、海と無人島が映し出される。
そして飛んだ。
一瞬視線が上に動いたかと思ったら、凄まじい勢いで画面が下に動き出したのだ。
「「「「っ!?」」」」
画面とはいえ、突然落ちていく映像は心臓によろしくない。
見れば周囲の連中も僅かに表情が引きつっていた。
画面に視線を戻せば凄まじい勢いで地面が近づいてくる。
これ、このまま地面にぶつかったらまずいだろ。
しかし、映像の視界が地面で埋まろうとした瞬間、突然落下が止まった。
「上級風魔法によるエアクッションです。人間では衝撃で命に関わりますが、ゴーレムでしたら問題なく停止できます」
なかなか心臓に悪い光景だ。
一瞬映像が振動する。どうやらゴーレムが無事に地面に着地したみたいだ。
と、そこでゴーレム達が思い思いの方向に動き出す姿が見えた。
「各ゴーレムはそれぞれが指定されたエリアの調査に向かいます。砂浜、平地、森、山、川、そして海の調査です。また生物や植物を採取しての病原菌の調査も同時に行います。以後の情報が纏り次第、皆様には再度ご報告の為に集まって貰う事になります。本日の調査報告は以上となります」
ミヤのシメの言葉で、偽装工房に集まった人々が椅子を立ち外へと出て行く。
「人が住める場所だと良いですね」
期待半分、不安半分でセルティアスが呟く。
「さてさて、一体何がいるやら」