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異世界人は耕せるか?

コレにて帝国編完結です。

これからしばらくは待ったりノンビリ異世界を楽しむ短編ストーリーを続ける予定です。

「むん! ふん!」


 今日も1日スタロアスがリハビリ訓練を行う。

 新しい体に魂をダウンロードされた彼は、エウラチカ製のゴーレムも補助を受けてリハビリ生活をしていた。

 何しろ出来上がったのは新品の肉体。

 しかもその中にはいるのは全く違った肉体の持ち主。

 コレまで乗っ取ってきた肉体は魔法具のサポートがあったが、新しい肉体は一切のサポートが無い。

 何より、これからダウンロードされる魂の多くはこちらの肉体を得た事のない生身初心者が大半だ。

 その為、スタロアスには新しい肉体の不具合を事細かにレポートしてもらっていた。


「やはりそうですな。ダウンロード直後はまともに体を動かせません。男ならまぁガマンできましょうが、女性となると難しいかと」


 成る程、確かに女の子だと人にトイレに連れて行ってもらうのは恥かしいか。

 ならゴーレムに言うのは……


「クラフタ様、例えゴーレムが相手でも人前でお手洗いに連れて行って欲しいと頼める人はあまり居ないと思います」


 アルマの言葉には女性ならではの説得力があった。

 いや、俺と出会うまで寝たきりだったアルマが言うのだから説得力が段違いだ。

 ……ふと思ったのだが、俺と出会い、体が自由に動く様になる前のアルマはどうやってトイレに……


「クラフタ様、何か失礼な事を考えていらっしゃいませんか?」


「イイエ、カンガエテナドイマセンヨ」


 嫁が怖いのでこの話はやめだ。


「それでですね。このドレスが使えないでしょうか?」


 そう言ってアルマが指差したのは、自分が着ているドレスだった。


 ◆


「おお、コレは良いですな」


 スタロアスがやもすれば興奮を隠せない声で走る。

 ソレと言うのも、アルマのアイデアで作った新型の介護ゴーレムのお陰だ。


「なるほどね。こういう使い方があったか」


 アルマの意見を受けて作った新しい介護ゴーレムは、アルマの護衛用に作ったゴーレムドレスの事だった。

 元々緊急時のアルマを護衛する為に人間の動きを学習したゴーレムなので、新しい肉体の制御に慣れない異世界人達の歩行器としては最適の装備だったのだ。


「コイツで体を動かす為のサポートをさせれば、その内これがなくても普通に生活できるようになる。これは良いアイデアだな」


 俺はアルマを褒めつつ頭を撫でてやる。


「えへへ」


 ふにゃっとした笑顔でアルマが嬉しそうにしている。

 スタロアスの体も異常が無いみたいだし、もう少し様子を見たら魂のダウンロード第二弾を行っても良いだろう。

 次は多くのデータを採取する為に一〇人単位でダウンロードを行ってみるか。

 その為にも、介護ゴーレムを揃えておかないとな。


 ◆


「魂のダウンロード作業完了致しました」


 新しい魂のダウンロード作業が終了した事をミヤが報告してくる。

 前回のデータがあった為、今回はミヤと作業用ゴーレム達に一任していた。

 そして、介護用ゴーレム服を着込んだ新しい異世界人達が秘密工房から出てくる。


「おおー、これが本物の世界かー」


「凄い、空気に匂いがある!」


「体が重いな。これが肉体というヤツか」


 彼等は生身の肉体が感じる感覚に戸惑いと興奮を感じていた。

 セルティアス達の言葉では、異世界の電脳世界は、当時の人間達が安心して暮らせる様に、細部まで自然環境や肉体の感触を再現したらしいが、それでも微妙な所までは再現できなかったとこの世界に来た事で実感したらしい。


 今回ダウンロードされたのは、こちらの世界の人間の肉体をのっとった事のない、完全な電脳世界の住人達だ。

 彼等は異世界で磨耗した初代入植者達の人格データを劣化コピーした子供というべき存在らしい。

 意図的にコピー元の記憶データを継承せずに、一から子供の肉体データで育てる事で、子孫繁栄のシミュレーションを行っていたのだそうだ。

 死ぬ事のない電脳世界だが、長すぎるデータ生活は精神を磨耗させ、最後には精神を崩壊させてしまう者も居たそうだ。

 その為、定期的に人格コピーを育てる事で、次代の後継者を育てていたのだという。

 いつかこの世界に帰還する日を求めて。

 当時から生きている師匠達にも同じ事が言えそうだが、その辺りは個人の資質と肉体の有無が影響しているのでは無いかとの事だった。


 で、今回はその生まれた時から肉体のない彼等のデータを取る為にダウンロード作業を行ったという次第だ。


「では皆さん、皆さんの暮らす住居に案内しますので付いてきてください」


 彼等の管理は指導者であるセルティアスとスタロアス達で行う。

 俺が出張っても素直に言う事は聞かないだろうし、一から十まで俺が面倒を見るのは筋違いだ。

 俺はあくまで彼等がこの世界で生活する事が出来るようにするだけである。

 勿論、その際の経費はセルティアス達からタップリ頂く訳だが。


 まぁ、なんにせよ、彼等が上手くこの世界に馴染めばこの仕事は完了である。

 後は職業の斡旋とかをして上手く溶け込んでもらうとしよう。

 個人的には彼等の持つ技術を学ばせてもらいたいものであるが、そういった政治的問題に絡みそうな内容はジックリと腰をすえて交渉する事にしよう。


 ◆


 それから数週間後、順調にダウンロード作業を行った事で異世界人は結構な数になっていた。

 その為、彼等の事は集団で病に感染した異国の患者という設定にして、アクアモルトから離れた場所に新たな村を作ってそこで暮らしてもらう事にした。

 勿論監視用の動物ゴーレムはそこかしこに配置してだ。

 村長はセルティアス、補佐はマリスとスタロアス、自警団団長としてレットを任命し、農民として働いて貰う事にした。

 とはいえ彼等は新しい肉体のリハビリをしている最中なので、ゴーレムを補助労働力として貸し出す約束になっている。

 というのも、彼等は生身の体を得た事で本物の食料が必要になったからだ。

 データ生命の時代は味を再現した食事行為をするだけだったが、生身の肉体には栄養が不可欠。


 そして、こちらの世界では、彼等が魔法具を作るための施設がなかった。

 どれだけ高い文明を有していても、ソレを製作するための設備がなくては宝の持ち腐れだ。

 ヴィクツ帝国で仲間の魂をダウンロードする為に作った魔法具も、こちらの世界で作った設備の為に本来作れるはずの魔法の数段下の性能のものしか作れなかったらしい。

 今のこの世界がかつての技術を失っているせいで魔法具をまともに作れないのなら、彼等は設備が無い為に作れない状況だった。

 あと、大半の一般市民にはそうした知識も技術もないという悲しい現実があった。

 高レベルの文明であっても、一般人までそうかといわれれば話は別なのだ。

 パソコンの達人でもパソコンのない世界ではただの人。

 なんとも世知辛い。

 もっとも、そんな彼等を遊ばせる様な無駄なマネをする気はなかったので、セルティアスの許可を取って彼等と技術交換を行う事にした。

 セルティアス曰く、


「マエスタ侯爵には、言葉では言い表せないほどの恩義があります。喜んで技術交流の申し出をお受けさせて頂きましょう」


 との事だった。


 ちょっとチョロくね?

 後ろのスタロアスが青い顔をしていた様な気がしたが、見なかった事にする。

 で、こちらは魔法具の開発施設を提供し、彼等がこちらの設備で作れるようにデチューンした魔法具をこちらに卸してもらう契約をした。

 用意するのはエウラチカの魔法具開発設備のダウングレード版。

 開発施設にはこっそりと見張りゴーレムを入れてあるので、開発会議などを盗み聞きし放題。

 まぁ、セルティアスにその気はなくとも、他の野心家の家臣がこの世界の文明レベルを見て野心を抱かない保障は無いからね。

 保険は何重にも用意して損は無い。

 今の所はこの世界に無用な混乱をもたらさない為に、作った魔法具は村の外には出さない様に言ってあるが、それも強い強制力は持たないだろう。 

 と言う訳で、彼等を別の村に押し込めたのは、そうした技術格差がばれない様にする為である。

 もしそれがバレたら、周辺国から大量のスカウトがやって来るのが目に見える。

 せっかく和平がなったのに、またぞろ戦いになるのはゴメンだ。

 で、技術者達とはミヤが技術交流をする事となった。ちゃっかり師匠達も参加していたが。


 後は、こちらの世界では電脳世界の技術を生かせない連中が農業をする事になった訳だが、いかんせん素人の集団。彼等が使いものに成るには相当の時間がかかると思われた。

 しかし捨てる神有れば拾う神あり。

 異世界の電脳世界で農業や畜産業を営む者が居たお陰で、こちらの農作業を一から教える手間が省けた。

 どうも相当リアルなVRゲームで生産職を営む感じで暮らしていたらしい。

 食料は無限に沸くわけではなく、プログラマーはちゃんと作物を育てないといけない様に電脳世界を構築していたみたいだ。

 最初は面倒くさいとぼやいていた連中も、現実の食材が生み出す複雑な味の魅力にハマって農作業にいそしむ者が出始めている。

 娯楽が少ないのも大きかったみたいだが。

 おかげで、今のところは特に問題も起きないでいた。

 あくまで今のところはだ。

 ゲーム感覚が抜け切らないから頑張っているが、これが何ヶ月も続けばなにかしら問題が発生するだろう。

 その時俺が手を下さないで済むとありがたいのだが。

 今はセルティアス達の手腕を信じるとしよう。

 全ての異世界人達のダウンロード作業が終わった訳ではないが、現状特に問題も見受けられない。

 これなら、彼等もこの世界に順応する事が出来るだろう。


 色々と問題があったが、これまで様々な問題を引き起こしてきた異世界人との因縁が何とかなって人安心だ。

 漸く面倒事の終わりが見えた俺は、息抜きを兼ねて町の視察に行く事にする。

 この次に襲い掛かってくるであろう新たな面倒事が来る前に。

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