雲の世界
出世と左遷は紙一重
文章の挿入位置にミスがあったので修正いたしました。
ついでに全体の誤字脱字、文章も修正しました。
「不束者ですがよろしくお願いいたしますクラフタ様」
「嫁入りじゃ無いんだから」
「お望みでしたら」
「いやいや」
結局勢いのままにこの浮島の主にされてしまった、城に連絡しようにも居留守使われてるし。
パルディノ師匠とは一度きっちりと話をつける必要があるな。
「クラフタ様、早速ですが所長としての業務が滞っておりますので所長室へどうぞ」
「いや所長の仕事なんてやったこと無いし」
「大丈夫です、新任の所長のサポートも私の業務の一環ですので」
「ちょっと待ってよ!」
フィリッカがあわてて止めに入る。
所長権限で彼女には翻訳機能のある客人用IDを発行してあるのでミヤとの古代語の会話を理解できるようになっている。
「クラフタ様は所長としての義務がございます、邪魔をなさらないでください。」
「その前にこっちの用意があるのよ!!」
ミヤがこっちを見てくる。
「悪いけど人命が掛かってるんで余りゆっくりはしていられないんだ」
「では目的地まで研究所を移動させましょう」
「急ぐんでね、あまり時間はかけたくない」
この浮島は雲をまとって移動している、つまり雲と同じ速度で移動しているということだ。
地上を移動するよりは早いだろうが俺の飛翔機のほうが最大加速は上だ。
「では雲を広げましょう」
なんか言ってきた。
「雲を広げる?」
「はい、この研究所は雲に身を隠すことで隠密性を上げています、その為この研究所には雲を人工的に生成する装置が搭載されています。
この機能のお陰で戦時中も敵の目を欺くのに大いに役立ちました」
「ソレは判ったけど雲を広げたらどうなるの?」
「この研究所を地上から観測できないようにすれば」
「すれば?」
「この研究所の最高速度を引き出すことが出来ます」
なんか凄そうだ。
「どれぐらいの速度が出せる?」
「地上に影響が出ない範囲ですと5日で大陸の端から端へ行けます」
この世界の大陸の大きさがわからないが多分結構な速度だな。
というか地上に影響の出る速度で動けるのかよ。
うーんここまで食い下がってくる以上無碍にすると後が怖いな。
「じゃあ頼もうかな」
「それでは目的地の情報をお願いいたします」
「え?」
「クラフタ様のお話ですと研究所に記録されている国家および都市の情報は役に立たないと判断いたします。
また当研究所は過去の戦争で機能の大半を封印されております。
それは飛行機能とステルス機能以外の機能を封じる事でエネルギー放出を最小限にし敵兵力にエネルギー反応を検出されないようにする為です。
当研究所は雲の中に隠れていましたので地上を観測する機能も封印されております、封印された機能を開放し改めて地上の情報を取得する必要がございます。
ですが現状地上の民に研究所を見られるのは好ましくありませんし情報の収集に時間が掛かりますので手動で地図情報を更新する必要があります」
「この世界の地図はある?」
「こちらに」
鈍い音と共に空中に地図が浮かぶ。
おおっ、立体映像か。燃えるな。
「なにこれ!?」
フィリッカがイキナリ出てきた地図に驚いている、知識のある俺でも驚くのだから初めて見たフィリッカは相当驚いただろう。
「現在地を」
「はい」
現在地に光点が灯る」
「フィリッカ、光が灯っているところが現在地、山脈のふもとだ。
王都の位置を教えてくれ」
「判んないわよ」
「え?」
「軍人じゃないんだから私地図なんて見たこと無いわよ」
あーそうか、昔の人にとって地図って言うのは国家や一部の貴族が作ることの出来るもので今みたいに人口衛星で空から情報を取得できなかったから貴重な品なんだった。
当然地図を見ることを許される人物も限られてくる、平民は人づての伝聞と街道伝いに移動することで道を確認する。
貴族とはいえ軍人でもないフィリッカが地図を見ても判らないのは道理だ。
「王都の近くに特徴的な物は無いか?大きな山とか湖とか」
「河が近いわ、フラテス河。王都から少しはなれたところにあるの、あと昔からある凄く大きな橋があるわ、皆その橋を渡って王都に来るの」
「ミヤ、地図情報にフラテス河と橋はあるか?」
「フラテス河とマンテッカ橋ですね、地図に情報があります」
「まずはそこを目指してくれ。そこから夜に飛翔機で王都に向かって飛ぶ」
「直接町まで行かれないのですか?」
「いや、たとえ夜に行ったとしても仮にも王都だ、上空を見張るものはいるだろう、雲の中から降りてきたら怪しまれる可能性がある。
最悪上空に向かって探知系魔法を使われるかもしれない。
ソレは避けたい。
「承知いたしました。それでは雲を生成した後研究所を第3巡航速度で移動させます」
「ねぇ、雲ってどうやって作るの?」
「ご覧になられますか?」
「うん、見たい見たい」
「それでは部下に案内をさせます」
ミヤがパンパンと手を叩くとドアの向こうから2頭身の人形が歩いてきた、何というかコミカルな外見だ。
70cmくらいの大きさで表面は陶器のようなプラスチックのような素材だ。
ディフォルメした鳥のような外見をしている。
「可愛いーっ」
確かに何処と無く愛嬌が無いともいえない。
「ナビゲート端末6号です。どうぞよろしくお願いいたします」
「喋った!!」
「はい、私どもはお客様と潤滑なコミュニケーションを取れるよう会話機能を有しております」
「すごいのね、えっと6号君?やっぱり貴方も名前は無いの?」
「はい」
フィリッカは番号で呼ぶのがお気に召さないようだ。
「うーん、やっぱ味気ないわよね」
「私めがお気に召しませんか?」
「ううん、そうじゃないわ。やっぱり名前が無いのは寂しいから名前を付けましょう」
「私に名前でございますか?」
「んー。よし!!君の名前はロックよ!!」
それ6号だからだよな。
お手の内心の突っ込みをよそに名づけは進んでいく。
「ロック、それが私の名前」
「そう!!君の名前よ!」
「承知いたしましたお客様、私の名前はロックでございます」
「6、ロック。お客様の案内をよろしくお願いいたします」
「承知いたしました」
早速意気投合した二人は雲発生装置を見に出て行ってしまった。
正直俺も行きたかったんだけど。
「さ、クラフタ様。所長室に行きましょうか」
望みもむなしくミヤに引き摺られて所長室に連れて行かれることとなった俺だった。




