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昇る朝日

お待たせしました!

二ヶ月振りの再開です!

 ここはマエスタ領、アクアモルトの町の端に造られた秘密工房。

 秘密といいながら堂々と存在している。

 表向きは古代の魔法具を再現する研究所と言う事になっている。

 だがその正体は空中研究機関エウラチカで開発した異世界人達の新しい身体を用意する為の施設だった。

 ぶっちゃけそれが終わったら魔法具の開発工房にするつもりなのでそう名付けたのである。


 だが、厳密にはココで異世界人達の体を創っている訳ではない。

 肉体の開発製作はエウラチカで行い、ここでは異世界人の精神を新しい肉体にダウンロードする為の場所なのだ。

 なにしろエウラチカはこの世界においてオーバーテクノロジーの塊。

 たとえ異世界人がこの世界に元々住んでいた同胞であり、高度な文明を持っていたとしても、エウラチカの正体は極々一部の人間以外には知らせる気は無かった。

 彼らは元々敵対していた間柄。和平を結んだからと言って安易に信頼するわけには行かない。 

 だから転移装置を使って完成した肉体を保存容器ごとこの工房に転送、工房の装置と接続してこちらで魂の注入作業を行う事にした。


「それじゃあ、魂のダウンロード実験を開始する」


 白衣を翻して宣言した俺にミヤが黒く小さな金属板を差し出す。

 金属板には中央に小さな宝石がはめ込まれ、その石から細い金色の線が走っている。

 ぱっと見た感じ、パソコンなどの基板に似ている。 

 コレこそが異世界人の魂が封じられた魔法具の核だった。

 大きさは地球でいうマイクロSDカードくらいの大きさだ。

 こんな小さなものに人の魂が入るというのだから古代の技術には驚きである。


 この金属板に入っているのは、セルティアスの家臣であるスタロアスだった。

 同胞達に施術する前に自分が実験台になりたいと言ってきたので、セルティアスの同意を得て彼の魂からダウンロードする事にしたのである。


 金属板を手に俺は新しい肉体が入っている保存容器の前へと進む。保存容器には四〇代のダンディな中年男性の肉体が浮かんでいる。

 この肉体がスタロアスの新しい肉体だ。

 俺は肉体の入った保存容器から伸びた二〇Cmはある太いチューブをたどっていく。

 チューブの先には高さ1m程の長方形の金属の塊に繋がっており、その上面には大きなディスプレイと複数のボタンが取り付けれられていた。

 コレこそが肉体に異世界人達の魂をダウンロードする魔法具の本体である。

 俺はその魔法具の中央にあるくぼみにスタロアスの魂が入った金属板をはめ込む。

 すると金属板は僅かに沈み込み、水晶で出来た蓋がスライドして金属板を仕舞いこむ。

 

「よし、ダウンロードを開始する。ミヤ、実験の記録を開始してくれ」


「承知致しました。記録装置を起動します」


 ミヤがダウンロード魔法具の金属塊の側面に記録装置の接続端子をはめ込んで、記録を開始する。

 なにしろコレは初めての実験だ。

 どんな不具合があるか分からない。だから実験で得られたデータを検証して次回以降のダウンロード作業の安全性を高めなければいけないのだ。


「よし、ダウンロード開始!」


 俺は魂のダウンロード装置を起動する。

 魔法具の中央に収納された魂の入った金属板中央の宝石が輝き、金のラインに光が走る。

 そしてダウンロード魔法具のモニターがスタロアスの魂のダウンロード作業の進捗状況を示すパーセントバーを表示する。

 同時に肉体の入った保存容器のランプが光り、ダウンロードが順調に進んでいる事を教えてくれる。


「ダウンロード作業順調に進行中。予想ダウンロード完了時間は四〇分後と推定されます」


「ちょっと昔のパソコンソフト並みのダウンロード時間だな」


 正直暇なんだが、何が起こるか分からないので突然のトラブルにすぐ対応できる様に待機だ。


「それにしても、人間の体がこんなに簡単に創れてしまうなんて」


 俺の後ろで実験の様子を見ていたセルティアスが驚きの声を上げる。

 今回の実験は彼女の側近であるスタロアスで行っている。

 ソレゆえ、彼女は自分も実験に立ち会いたいと言ってきたのだ。

 なお、マリス君はお留守番である。流石に一般人である彼をここに連れてくるのは機密の問題で危険すぎる。

 逆にレットはここにいても役に立たないので、部下と共に周辺の見回りを行うと言って出ていった。

 クレバーである。セルティアスの護衛は良いのだろうか? それともこちらを信頼してくれているのか?

 まぁ、今はセルティアスの疑問に答えてあげよう。


「さすがに人間の体を簡単に創れはしないよ。この体はクローンさ」


「クローン?」


 おっと、地球の用語は分からんか。


「複製って事。個人的なコネで古代魔法文明人の遺伝子サンプルが手に入ってね。それに当時の生体端末素体育成装置を流用して新しい体を促成培養したんだ」


 勿論コネと言うのはエウラチカの事である。エウラチカには当時の職員の健康診断で採取した血液などが宝物庫に保存されていた。宝物庫は亜空間につながっている為、この世界とは違う時間の流れとなっている。

 その為、非常に新鮮な遺伝子情報が手に入った訳だ。

 それをミヤ達生体端末の素体育成装置に投入して、ダウンロードする魂と相性の良い肉体を創り出したのである。

 相性が良いといっても、それが本当に正しいかはこれから調べるので過信は出来ない。

 今正にダウンロードを行っているスタロアスが、初の魂移植実験の成功例になるからだ。

 ソレゆえ、スタロアスのダウンロード実験が終わっても即次のダウンロードを行えない。

 色々と調査が必要なのである。

 そんな訳で俺達はモニターと睨めっこしながらダウンロード作業を行うのだった。


 ◆


「まもなくダウンロードが完了いたします」


 モニターにダウンロード完了までのカウントダウンが表示される。


「5,4,3,2,1、ダウンロード完了。素体の心臓を起動します」


 ミヤが装置を操作すると。保存容器の中の肉体がビクンと震える。


「生命活動の開始を確認しました。保存容器内の保護液を排出します」


 淡々とミヤが作業を進めていく。

 スタロアスの新たな肉体が収められた保存容器から、肉体を保護する溶液が排出されていく。

 そして半分の溶液が排出されると、スタロアスが保存容器の壁にズルズルともたれ倒れていった。


「スタロアス!?」


 その様子を見たセルティアスが悲鳴を上げる。


「問題ありません。出来上がったばかりの肉体ですので、まだ魂が肉体を自分のものだと理解できていない様です。これは時間をかけてリハビリを行えば回復いたします」


 まぁその辺は長期間寝たきりだった人の体力と筋肉が衰えて体が上手く動かないようなものだろう。 

 リハビリに関してはミヤに任せれば良い訓練メニューを考えてくれるだろうさ。


「保護容器を開封します」


 ミヤの報告と共に、保護容器が上に競りあがっていき、容器にもたれかかっていたスタロアスが床に倒れこむ。


「ゴーレム、彼の体を拭いてやれ」


 俺の指示に従って控えていた小型のゴーレムがタオルをもってスタロアスに近づいてゆく。


「……ぁ……」


 スタロアスは礼を言おうとしたらしいが、まだ声が上手く出ないらしい。


「いくつかテストをしますので、はいは瞬きを一回。いいえは瞬きを二回お願いします。わかったら瞬きを一回してください」


 ミヤがスタロアスに幾つかの簡単な質問をしていく。

 そして数回の質問が終わったミヤがこちらを向いた。


「スタロアスさん本人の魂の定着を確認しました。後はリハビリを行って正常に動ける様になるかを調査します」


 そこまで完了して漸くダウンロード実験は終了である。

 あとは本格的にダウンロード作業を開始する。


「ま、とりあえずはダウンロード成功ってことで祝おうか」


「承知致しました」


「マエスタ侯爵、本当にありがとうございます!」


「約束したからね」


 ともあれ、無事実験が成功して何よりだ。

 後はこの後のリハビリと調査も上手く行ってくれよ!

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