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寄り添う星と沈む帝国

いつも感想、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます。

「クラフタ様。セルティアスさんのお薬を届けて来ました」


 俺の工房に一見すると少女に見間違う少年がやって来る。


「お疲れさん、マリス君」


 そう、彼こそはヴィクツ帝国次期皇帝である第五皇女エメラルダの恋人であるマリス少年だった。

 彼は今、俺の助手となってセルティアスの身の回りの世話を行っている。

 しかも自分の意思でだ。

 身体を乗っ取られていた彼が何故そんな事をって?


「そのままゆっくりしてくれば良かったのに」


「いえ、今はクラフタ様からもっと薬学を学びたいので。ひいてはそれがセルティアスさんの為にもなりますから」


 この一言でお察しである。

 そう、マリス少年はセルティアスにぞっこんであった。


 ◆


 セルティアスを本当の身体に戻したあと、マリスは目を覚ました。

 そしてセルティアスの口から事の真相を打ち明けられ、彼女の謝罪を受けた。

 それは怒って良い事である。自分の身体を勝手に乗っ取られ、あまつさえ使い捨ての乗り物扱いされていたからだ。


「という訳です。マリス様には本当にご迷惑をお掛けいたしました。謝ってすむ問題ではないと理解しております。望むなら私の首を貴方に捧げましょう」


 魔力欠乏症の身体に戻った事でまともに動けなくなったセルティアスがベッドの上でマリスに謝罪の言葉を述べる。


「いえ、セ、セルティアスさんがそうせざるを得なかったというのは僕にも分かります。末席とはいえ貴族ですから」


 マリスは頬を薄く染めながらセルティアスの謝罪を受け止めた。


「ですから、僕は貴方を恨んだりなんてしません。寧ろ僕は恨むよりも……愛されたい」


 そう言って、マリスはベッドに横たわるセルティアスの手をとりキスをした。


「……」


 何を言われたのか分からずにポカーンとするセルティアス。

 逆にスタロアスは顎がはずれそうになっており、レットは顔を真っ赤にして2人を凝視している。

 アルマとミヤはあらあらまぁまぁといった感じで眺めている。


「……え?」


 ようやくマリスの言葉の意味を理解したのか、セルティアスが顔を真っ赤にする。


「え? え? え?」


 言葉の意味は理解してもそれが納得できる訳ではない。セルティアスが困惑しパニックに陥る。


「セルティアスさん、僕の伴侶になってください!!」


 ド直球です。マリス少年スゴいわ。周囲の見ている皆が照れくさくて顔を逸らしている。視線は釘付けだが。

 

「ステキです」


「ええ、同感です」


 アルマさんとミヤさんが何故か俺を見ながら感想を述べる。

 何故こっちを見る。


 ともあれ、マリスは聡い少年だった。

 セルティアスの説明から、己が悪となって民を救おうとしている事を感じ取った彼はセルティアスを許したのだ。

 ぶっちゃけ惚れた弱みというのも大きいのかも知れない。


「あ、あの……私には民を導く義務が……」


 セルティアスがこちらに視線を向けて助けを求めてくる。

 

「ああ、分かってるよ」


 俺の言葉にセルティアスが安堵の息を吐く。


「今まで迷惑かけられた分の利息として今すぐ答えを出して貰う。ああ王族としての義務とかは無しな。治療とかに関してはこっちが責任をもって仕事するから。あくまでプライベートで答えるように」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 セルティアスが絶望的な悲鳴を上げる。 


「さすがですクラフタ様!」


「お見事ですご主人さま」


 アルマとミヤがサムズアップで俺を褒め称える。

 もっと褒めてよいのだよ。


「あ……あう……」


 セルティアスがスタロアスとレットに助けを求めるが、当の2人は窓際に退避して世間話に興じていた。


「いやー、クラフタ殿の町は近代的ですなぁ」


「そうですね。故郷に勝るとも劣らないステキな観光地だと思います」


「はう……」


 部下に見捨てられ、迷惑をかけた負い目からセルティアスが観念した様にため息を吐く。


「……」


 諦めて正面を向いたセルティアスは、ずっと自分を見つめていたマリスの眼差しと向き合う。

 その真剣な瞳を意識し、再び顔が真っ赤になる。

 うつむきそうになる顔を必死で上げながらセルティアスは声を振り絞った。


「わ、私には……王族としての責務があります。だから今はまだ貴方の思いに答える訳にはいきません。答えてはいけないのです……ですから……全てが終わったら……その時まだ私の事をす……す……お、思っていてくださるのでしたら、もう一度お聞かせ願えますか? もしその時でも答えが変わらないのでしたら……私も貴方の思いに真剣に応えます」


 それだけ言ったセルティアスは顔を真っ赤にして布団に潜ってしまった。

 これ答えを言ってるようなもんですよね。


「セルティアス様……おめでとうございます?」


「っ!」


 レットの祝福にフトンの中のセルティアスがもだえる。

 トドメ刺してんなよ。


 そんなこんなでマリスの告白大会は無事終了し、彼は俺に弟子入りを願った。

 セルティアスの治療を手伝いたいと。

 まぁ断る理由もないんでOKした。いちいち希釈ポーションつくるのメンドイし。

 ちなみにセルティアス達に希釈ポーションの事を教えてやったらマジでヘコんでた。

 異世界にまで逃げた自分達の決死の選択はなんだったのかと呟きながら。

 まぁそれぐらいの嫌がらせはいいだろう。

 彼等のお陰で俺は今まで相当迷惑を被ってきたのだから。


 ◆


 んで、もう1つ問題が残っていた。

 うん、過去形なんだ。

 そう、問題はエメラルダの事である。

 俺は恋人であるマリスを異世界人から救い出して欲しいとエメラルダから依頼を受けた。

 ……受けたんだが、どうもその情報には致命的な齟齬があった訳だ。

 具体的にはエメラルダとマリスの間に。

 エメラルダはマリスに助けられて彼にぞっこんだった。

 けど当のマリスは別にエメラルダの事を好きでもなんでもなかった。


「僕とエメラルダ様は恋人同士などではありません。僕はただの騎士です」


 うん、一方的な片思いだったんだ。

 いわゆるストーカー的思考という奴だ。

 エメラルダはマリスが大好きで、自分に愛されるマリスも自分の事を愛してくれていると錯覚していた。

 けどマリスとしてはエメラルダは継承権を持った皇女。

 間違ってもその愛情を突っぱねる訳には行かない。

 そんな事をしたら家族や友人にどんな迷惑がかかるか知れないからだ。

 たとえエメラルダにその気がないとしても、断ってエメラルダが恥をかかせられたと知ったら周囲の者が何をするか分からない。

 だからマリスは受け入れるしかなかった。

 けれどそれが皇女の戯れならば、表ざたには出来ない愛人という立場なら仕方ないと諦めていた。

 その位の関係なら貴族の世界ではよくあるとエメラルダも言っていたしマリスも理解していた。

 だが、それをエメラルダがやらかした。

 婚約者との婚約を破棄して元婚約者にしてしまったのだ。

 ここんとこ俺も聞いてないんだが、どうもガチでやらかしたらしい。

 正しくは婚約破棄秒読み段階状態。

 恐らくソレが原因で婚約者君は異世界人と手を組んだとみえる。

 つまりマリスも異世界人もエメラルダの婚約者君も、全員が彼女に振り回されていたという訳だ。

 その中には俺も入っているけどな。

 けど依頼は依頼だ。依頼を破棄すればルジウス王国と帝国の戦争に発展する危険すらある。

 最悪ドラゴンカイザーが介入する事すら。

 マリス君もそれは理解していたので、俺達は帝都に戻る事となった。


 ◆


 俺達が戻って来たと聞いたエメラルダが喜び勇んで城の入り口まで迎えに来る。

 皇族自ら迎えに来るとは熱烈だねぇ。


「お帰りなさいマリス!!」


 周囲に人がいるのもお構い無しに両手を広げてマリスに抱きつかんとするエメラルダだったが、マリスはそれを華麗にスルー。


「え? マリス?」


 抱擁を避けられてきょとんとした目でマリスを見るエメラルダ。


「エメラルダ様」


「ええ、ええ、そうよ! 貴方の恋人エメラルダよ!! 会いたかったわ!!」


 エメラルダは喜びに目を滲ませて再びマリスを抱きしめようとする。

 だがまたしてもマリスはエメラルダの抱擁を回避する。


「マ、マリス?」


 マリスの行為に困惑するエメラルダ。


「此度はエメラルダ様に申したい事があってまいりました」


 マリスはエメラルダの目をまっすぐと見据えながら語る。


「どうしたのマリス? そんなに改まって」


「私、マリス=グレイアはエメラルダ様付きの近衛騎士の座を返上致します。つきましては騎士爵の爵位も返上させて頂き、一平民となる事を宣言しに参りました」


 周囲のギャラリー達がどよめきを上げる。

 当然だ。皇女付きの近衛騎士がその身分の全てを捨てて平民になるなど狂気の沙汰としかいいようが無いからだ。帝国の貴族からすれば皇女のお気に入りで近衛騎士であるマリスは究極の逆玉を手に入れたラッキーボーイなのだから当然だろう。しかもエメラルダは相当な美少女、拒絶する理由などどこにもある筈がない。


「な、何を言っているの? ……あ、貴方ね!! 貴方がマリスに何か吹き込んだんでしょう!!」


 俺が何か言ったと考えたエメラルダが俺に食って掛かる。

 とんだとばっちりだがまぁ状況を考えればそう考えるのも仕方ないか。

 しかし愉快な状況である。


「いえ、その方は関係ありません。僕の個人的な理由です」


 しかしそんなエメラルダの勘違いをマリスはばっさりと切り捨てた。


「エメラルダ様。僕は真実の愛を見つけました。僕はその人の為に生きたいのです。己の人生を捧げたいのです。今日はそれだけを貴女に伝えに参りました。クラフタ様、帰りましょう」


「りょーかい」


 俺は呆然とするエメラルダに声をかける。


「エメラルダ皇女様、ちゃんと約束どおりマリス君は取り戻してきたよ。まぁ、その後マリス君がどうするかは本人の自由だけどね」


 それだけ言って俺達は城を出た。

 正気に戻ったエメラルダが追っ手を差し向けたものの、既に俺達は転移装置でルジウス王国に帰還済み。 これで漸くエメラルダと帝国から解放されたのだった。  

 いやーエメラルダのポカーンとした顔は笑わせてもらいました。


 ◆


 後日エメラルダからルジウス王国宛にマリスを返せという手紙が来たとかいう話だが、陛下は平民のことなぞ知らんがなとつっぱねたらしい。

 相手は帝国と心配する家臣も居たらしいが、その頃には既に帝国には様々な問題が発生し衰退待ったなしの状況であり、その情報は俺が陛下と周辺国の王に献上した通信機で既に陛下の耳に入っていた為に安心して無視できたとの事だ。

 このあたりはミヤとアリスがやってくれた帝国への、というかエメラルダへの報復の成果である。

 ミヤは帝国からごっそりと金や資源を巻き上げ、アリスは帝国の周辺国を誑し込んで帝国の影響力を著しく低下させた。

 この件は後に従属国の反乱と呼ばれ、力のない国でも強固に連携すれば大国を墜とす事が可能だと歴史に刻まれる事になる。何国家存亡の危機まで招いちゃってんのよ。

 この件でドラゴンカイザーが怒らないかと心配したのだが……


「ああ、ドラゴンカイザーは帝国が滅亡しなければ動かないよ。最悪、子孫が生き延びれさえすればね」


 とのお言葉を師匠から頂いたので一安心。

 エメラルダの方も帝国の建て直しが忙しくてそれどころではないから手紙くらいしか出せないのだとか。

 まぁ力ずくでマリスを取り戻そうとしても異世界人の方々が許さない訳で。

 彼等もずっと乗っ取られていたマリスには負い目がある訳で、しかも当の本人が自分達の主の恋人とあってはもうね。


 と、言う訳で残った問題はあとひとつ。

 異世界人の新たな肉体だ。


「そろそろ準備も整う頃だろうし、事を始めますかね」

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