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古き夜の目覚め

 帰るべき肉体をなくし、僅かに肉体の残った姫達死病に犯されている。

 出来る事は他人の身体を乗っ取って仮初の肉体を得る事だけ。

 行くも進むも地獄である異世界人に対し、俺は言ってやった。


「お前達を助けてやろうか?」


「な、何!?」


 俺の言葉にスタロアスが困惑する。


「助けるとはどういう意味だ!?」


「お前達全員をこの世界で……いや、生身の肉体で暮らせるようにしてやるって話さ」


「馬鹿な!! その様な事出来る筈がない!!」


スタロアスがありえないと否定してくる。確かに彼等の肉体は朽ちてしまったらしいから否定したくなる気持ちも分かる。

 だがそれは、彼等にその技術が無いからだ。


「まずは手付けとしてお前達のお姫様の病気を治してやる。魔力欠乏症をな。知ってるんだろう? 俺なら魔力欠乏症を治せるって事をさ」


「む……ぅ」


 うめき声を上げるものの否定はしない。当然だ、俺が魔力欠乏症を治してアルマを救った事は周知の事実。この時代の国家を超える技術力を有する異世界人達が知らない筈がない。

たとえ本人が嫌がっても、姫を愛する家臣達は病が癒される事を望むだろう。


「それだけでも試す価値が有るとは思わないか?」


 スタロアスはなおも唸りながら悩んだが、遂に観念したのか、膝を突いて俺に頭を下げてきた。


「承知した、貴公の申し出を受けさせて戴く……どうか姫を、セルティアス様を救って欲しい。


「契約成立だな」


 ◆


「ここならドラゴンカイザーの目も届かんだろ」


 そこは一面の平野、多くの建物が立ち並んでいたヴィクツ帝国の首都とは真逆の光景。

 俺は異世界人達の転移装置ギランドールを使ってルジウス王国へと来ていた。

 ザックリとした転移だったので街道からは遠い。まぁその方が好都合だ。イキナリドラゴン型のゴーレムが市街地に現れたら近隣住民がパニックに陥ってしまうからな。

 ヴィクツ帝国内ではドラゴンカイザーに全て知られてしまうからだ。

 まぁ、ドラゴンカイザーが俺の考えている事を全部読めていたのならあまり意味は無い事だが、これから話す事、やる事だけでも知られないようにするのは十分に意味が有る。


「ここでセルティアス様の治療を行うのか?」


 スタロアスが不安を滲ませながら俺に確認してくる。

 レットは警戒心バリバリでこっちを見ている。

 

「いや、治療は俺の領地で行う。魔力欠乏症の治療は時間がかかるからな。治療の経過をジックリと見ていく必要があるんだよ。帝国内じゃ落ち着いて治療なんて出来ないだろ?」


「むぅ……」


「う……」


 と、話をしていると、俺の腕の中で眠るマリスことセルティアスが身じろぎを始めた。

 そろそろ起きるみたいだ。

 けど暴れられたら困るし、一応縛っとくか。

 俺は宝物庫からロープを取り出しセルティアスを縛って行く。


「お、おい! 一体何をしている!!」


「姫様に何をする!!!」


「ん、いや。そろそろ起きそうだから休戦した事を納得させる為の説明をしないといけないだろう? んで、その間に暴れられたら困るからちょっと縛っておこうかなと」


 と話しながらちょちょいっと縛る。ちなみにコレはエウラチカでも使っている魔法素材のロープなのでとっても強靭だ。普通の刃物で切るのは非常に困難である。


「ん……スタロア……ス?……もうちょっと寝かせて……」


 まだ寝ぼけているのか俺を黒紳士のオッサンと勘違いしているセルティアス。


「もう朝を越えてお昼ですよ。さっさと起きてくださいお姫様」


「んー……?」


 身体を起こそうとして上手く起き上がれない事に首をかしげるセルティアス。

 目をしょぼしょぼさせながら首を動かして自分の身体を見ると何故か縛られている光景を目にする。


「…………なんで?」


 コイツ寝起き悪いな。


「……え?」


 あ、気付いた。


「は、離して!! スタロアス!! レット!!」


 囚われのお姫様みたいなセリフだけど、これを行ってるのは女装した男の娘なんだよな。


「はーい落ち着いて。アンタ等も手伝ってくれよ」


 俺に話を振られたスタロアス達が慌ててセルティアスを宥め始めた。


「落ち着いて下さいセルティアス様! その者とは休戦協定を結びました!」


「姫様、落ち着いて!」


「え? 休戦? どういう意味?」


 見知った顔の声を聞いて、少しは落ち着いたらしいセルティアスはスタロアスに説明を求める。


「実はですな……」


 ◆


 スタロアスから説明を聞いたセルティアスが俺の腕の中で唸り声をあげる。


「この人が私達を救う手段を持っていて、その証拠としてまずは私の魔力欠乏症を治療する……ですか」


「そうそう」


 セルティアスが身体をよじって俺を見る。


「本当にその様な事が出来るのですか?」


 真剣な眼差しだ。身体を失った異世界の民の命が懸かって居るのだから仕方ないともいえる。


「ああ。アンタ達が他人の肉体を乗っ取らずにこの世界で暮らす事が出来るようにしてやる。その代わり用意する体には文句を言わない事。いいな」


「……そうですね、よほどおかしな身体でなければ民も文句は言わないと思います」


「そこは安心して欲しい。用意する体はそれなりのモノを用意するからさ」


「…………信頼して……良いのですね?」


 セルティアスが目に涙を滲ませながら再度問いかけてくる。


「約束する。君達を生身の身体に戻してやる」


 そして遂に涙は決壊した。


「……ありがとう……ござい……ます……」


 セルティアスは涙を流して俺に礼を述べる。

 これで異世界人の手からヴィクツ帝国を取り戻す依頼は7割終わった様なもんだ。

 さっさと全部終わらせたいぜ。


「それじゃあ、まずはその身体を返して貰おうか。その身体の持ち主を求めているヤツがいるんでね」


 エメラルダとの約束も守らないとな。

 非常に腹立たしい事だが、ここら辺の約束を守らないと、ドラゴンカイザー達が何をしてくるか分からない。

 まぁ、報復は何らかの形で絶対にするけどな。


「まずは君の精神を元の身体に戻して、それから魔力欠乏症の治療だ」


 そうしないとマリスが解放できないもんな。


「それなのですが、お願いしたい事がございます」


 セルティアスが俺に願い事?


「私の肉体を元に戻すのは一番最後にして頂けますか?」


「最後? そりゃまたどうして?」


 セルティアスは真剣な目で俺を見る。


「私は王女です。民の上に立つ者として、自分が先に救われる訳には参りません。ですので、私の体は全ての民を救ってから治療してください」


「姫様! それでは姫様のお体が!!」


 スタロアスが諌めようとするが、セルティアスは頑として譲らない。


「勿論このお方の肉体はお返しいたします。私は病の身に戻り、皆が救われるのを待ちます」


「姫様……」


 スタロアス達はセルティアスが決して譲らない事を悟り声を落とす。

 まぁ、そんな頑固な性格じゃなければ自分の肉体を捨てようなんて思わないよな。


「分かった。その案で行こう。ただし、クスリは飲んでもらう。治療の前準備だけでも受け入れて貰えないのなら、この話は無しだ。医者のいう事を聞け」


 セルティアスは薬の摂取にも抵抗を示したが、結局民を救う事と天秤にかけられては断れず、首を縦に振った。

 まぁセルティアスに飲ませる薬はアルマに飲ませた希釈ポーションだから、アレを飲んでいる限りは早々危険な状態にはならんさ。スタロアス達にも後で教えておこう。


「では俺の領地へとご案内致しましょう」


 ◆


 そして数ヶ月が経過した。

 セルティアスの命令によってヴィクツ帝国から異世界人は居なくなり、彼等は一時的に俺の領地へとやって来た。

 異世界に残されていた古代人の残りを受け入れる為の魔法具は、エウラチカの魔法具開発工房をフル稼働する事で更なる量産を行い、必要人数分を確保して全員がこちらの世界へと送られてきている。

 今は暫定的に犯罪者の肉体を与える事で仮の肉体での生活をしてもらっている。

 生身の肉体の感覚を理解させる事で、後に与える新しい肉体になじみ易くなって貰うためだ。

 新しい肉体を用意するには少々時間がかかる為の緊急措置である。

 ともあれ、これでエメラルダから受けた依頼はコンプリート。晴れて俺は自由の身となった。

 俺の帰還に合わせてアルマ達も帰ってきており、ドゥーロとシュヴェルツェはモネ湖でのんびり暮らしている。予断だがあのペンギン、実は水中でも結構な速度で動ける事が判明した。まさかの陸海空全対応である。

 ただ、ミヤとアリス達は今も帝国周辺の国で色々とやっていた。

 色々と仕込みをしているとの事だ。

 まぁミヤは俺が頼んだ仕事の調整の為に度々エウラチカに戻ってくるし、アリスも魔王亭とまおー亭の経営が有るからこっちもちょくちょく戻ってくるから遠くに行っている気はあんまりしなかった。


 え? 何か忘れていないかって?

 ヴィクツ帝国を襲った異世界人を帝国から追い出す。けど俺が受けた依頼はそれ以外にも有るだろう?

 ああ、分かっているさ。勿論それも解決済み。

 ただし、それは依頼主の希望とは大きく違う結末となったけどな。


 工房のドアがノックされる。

 どうやら帰ってきたようだ。


「どうぞ、開いているよ」


 俺が許可を出すと、ドアがそっと開けられ、小さな影が部屋の中に入ってくる。 


「クラフタ様。セルティアスさんのお薬を届けて来ました」


 俺の工房に入ってきた人物は、一見すると少女に見間違う少年だった。


「お疲れさん、マリス君」


 そう、彼こそがヴィクツ帝国次期皇帝である第五皇女エメラルダの恋人であり、俺がエメラルダから救出を依頼された人物、マリス少年その人であった。

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