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眠れる水晶の姫

「コイツが転移装置だったのか」


 俺の目の前にはかつてルジオス国を襲ったドラゴンゴーレムの姿があった。

 ギランドールと呼ばれたソレを【看破】スキルで鑑定する。

 その結果、ギランドールは大規模な次元転移を行う為の巨大魔法具として開発された事が分かった。

 しかし実験は失敗。世界の壁を守護する世界結界に遮られ、その機能はこの世界の中でしか発動しなかったらしい。

 その為、次元転移を諦め、移動可能な戦略兵器として運用する為に装置を巨大ゴーレムに搭載したのだろう。

 この辺り、始めから目的を達成したらドラゴンカイザー達と事を構えないよう、即座に帝国から出て行ける準備があったのかも知れない。

 けど俺やおっちゃんは普通に日本から転移できたんだよなぁ。なんでコイツは失敗したんだろう?

 もしかしたら世界結界ってのは大規模転移だけを想定して作られたものなのだろうか?

 だから個人単位の転移は網の目をすり抜ける小魚のように無視された?

 さらに言うと、ギランドールの転移技術には空間魔法の第一人者イザーの魔法式も使っているらしい。

 どうも自分達の次元転移技術だけでは駄目だと思い、途中から彼女の力を借りて改装したみたいだ。

 けれど、スキルが示すイザーの転移技術は、空間転移と書いてあり次元転移用の魔法式とは書いてない。

 明らかに次元転移されない様に技術が選んで譲渡されている。

 理由は分かる。

 リリスだ。

 元日本人で洗脳魔法具を手に入れたリリスはシャトリアという国を支配した。

 イザーもまたその時に支配されている。

 つまりバギャン達異世界人との同盟を長引かせる為に、わざと使えない技術を与えたのだろう。

 あくまで想像だが。

 きっと技術を小出しに出して、色々有利に取引を進めたかったんだろうな。

 けどその前に俺が来て、取引はご破算になったと。ざまぁ。


 俺はギルドランを調べる。コイツを使って転移を考えていたという事は、転移先が連中の本拠地の可能性があるからだ。

 ギルドランの背面にコンソールを発見した俺は、翻訳スキルを使ってその文字を解読してゆく。

 

「ん? ペイロードが空いてる?」


 コンソールにはアラームマークが表示され、輸送用のペイロードが開いている事を告げていた。

 ふむ、何か運ぶつもりだったのかね。

 転移先の座標を知りたかったが、アラーム表示が邪魔で操作が出来ない。

 結局アラームの消し方が分からなかったので、仕方なくペイロードを閉めに行く。

 翻訳は出来ても操縦方法が分かる訳ではないのだ。


「おっと、忘れ物」


 俺は床に寝かせて置いたマリスを担いで運ぶ。

 気絶したマリスは全身をグルグル巻きにされており、魔法具を取上げ、魔法を使えない様に口も封じてある。更に言えば睡眠薬でぐっすり眠っても居るのでしばらくは起きない。

 もちろんマリスの中の人は取り外し済みだ。

 マリスを米俵の様に担いで、ペイロードのある尻尾の下に下りる。


「結構広いな」


 ギルドランの尻尾の下には四角い空洞が広がっており、そこには様々な品が格納されていた。

 財宝に金貨、魔法具に携帯食料などなど。

 恐らく本拠地に持っていって他国の乗っ取りをする為の資金にするつもりなのだろう。

 そしてその中に一際目立つモノが置いてあった。


「ああ、見つけた」


 そこにあったのは、美しい水晶の像だった。

 美しい少女の姿を模した像……では無く、水晶の像にされた美しい少女が正解だ。

 かつて黒紳士に奪われた最後の少女像。

 遂に見つけた。

 あとはこの少女を元に戻せば水晶像にされた女の子は全員解放だ。

 俺は少女に近づく。


「そのお方に手を出すな!!」


 背後からの声に俺は身を前に跳ねさせる。

 直後、俺の足元にナイフが突き刺さった。

 床に着地した俺は身を捻らせて背後を確認する。そこに居たのは予想通り黒紳士ことスタロアス=ダーム、そしてレットだった。


 スタロアス達が威嚇として武器をちらつかせるが、はっきり言って威嚇にもなっていない。

 既にこの状況は詰んでいるのだ。

 彼等にとって。


「後ろに攻撃魔法をぶち込んでも良いんだぞ」


「「っ!?」」 


 俺が後ろに向けて手をかざすと、スタロアス達があからさまに動揺する。


「マリスの本体は既に回収している。それにこの位置なら俺の攻撃の方が早くこの像に届く。降参しろ」


 進退窮まったスタロアスが苦々しげに唇をかむ。

 レットもまた現状を打開する方法が無い為にスタロアスの決断を待つしかなかった。


「…………降伏する。だから姫の身体を傷つけるのだけは止めてくれ……」


 こうして、異世界人達は完全に俺に降伏した。

 

 ◆


「それで、この水晶像はいったい誰なんだ? お前は姫と言ったが、もしかして……」


「お前の想像通りだ。その身体は我等の姫、ルード国王女、セルティアス様の本体だ」


 身体を拘束され、動けなくなったスタロアスが頷く。

 ちなみにレットも拘束済みだ。

 しかしなるほど、マリスの中の人の名前はセルティアスって言うのか。


「君も聞いていた通り、我等は魔力欠乏症から逃れる為に異世界へと転移した。だが異世界に逃げてもなお、魔力欠乏症は我等の身体を蝕んだ。それ故、全ての民が魔力欠乏症から逃れる為に、魂を魔法具の世界に移住させた。そう、我々は魂のみで生きる事を選んだ。だがそれでも捨てられないモノがあった」


「魂の抜けた肉体か」


 スタロアスが頷く。


「我等は肉体を冷凍封印し、いつか復活する事を夢見た。元々はその為の魂の移住だったのだ。しかし、何時まで経っても魔力欠乏症を治療する方法は見つからなかった。次第に人々は元の肉体に戻る事を諦め、虚構の世界で享楽にふける様になった」


 確かに、さっきの話だと病気にかかった肉体をどうしたかは言ってなかったもんなぁ。

 けど、なんか違和感がある。

 ……ああ、そうか。


「でもお前達はこの世界に戻ってきた。そしてマリスの本当の身体も持ってきた。けど、だったら何で俺の所に来なかったんだ? 俺が魔力欠乏症を治療した事はお前達も知っていただろ? 自分達の肉体を冷凍保存していたのなら、自分の身体に戻れる方がいいだろ?」


 アルマの魔力欠乏症を治した俺の存在は当時大きな話題になった。

 素性の知れない子供に貴族の位を与え、王女の婚約者にまでした。

 その情報はルジオス国が俺を囲う為に大々的に発表したから皆知っている事だし、コイツ等が知らないとは思えない。

 俺にはソレが不可解だった。


「無いのだ」


 スタロアスが悔しげに呟く。


「無いのだ、我々の肉体は! 我々の肉体は失われてしまったのだ!!」


スタロアスが声を枯らして絶叫する。


「我等の肉体を保存していた装置は自然回帰派によって破壊され、我々は戻るべき肉体を失った! 僅かに残った同胞の肉体はかろうじてこちらの世界に運び込めたが、セルティアス様は肉体を失った同胞の事を

考えれば、自分だけが元の身体に戻る事はできないと言って己の肉体を水晶に変えてあの者達に与えた」


 成る程な、電脳世界を作る魔法具だけで無く、肉体まで破壊されたのか。

 そしてその事に責任を感じたセルティアスは贖罪として己の肉体を放棄した。

 そしてムドはその水晶像を己の作品として展示したと。

 自分だけ戻る気は無い。だったら捨ててしまえとは豪気な事だ。

 いや、決意といった方が良いか。

 けどスタロアス達はそうは思わなかった。

 例え罰せられると分かっていてもセルティアスの肉体を取り戻さずにいられなかった。

 恐らくレットがムド達を殺したのはそうした理由があったからなのかもしれない。


 しかし詰んでるなぁ。 

 肉体は死病に冒され、魔法具の中に精神を避難させたら、その世界を肉体共々破壊された。

 このままじゃ皆死んじゃうから元の世界に戻って他人の肉体を乗っ取ってでも民を救いたいと。

 引くも無理なら進むしかない。

 そりゃヤケになって無茶な事をしたくもなるか。

 お姫様も大変だねぇ。


 だが、だからと言ってそれを許す訳には行かない。どんな理由があろうとも、他人の肉体を奪って良い理由にはならないからだ。

 さっきまでは力ずくで止めるしかない状況だったから戦ったが、今は相手の最も大事な存在であるセルティアスが俺の手の中に居る。しかも肉体も一緒にだ。

 だったら、これからはバトルの時間じゃない。交渉の時間だ。

  

「助けてやろうか?」


「何?」


 俺は、スタロアス達にとっておきの交渉を持ちかけた。

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