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少女達の道筋 SIDE ドゥーロ&シュヴェルツェ

「はーい、ドゥーロなのー」


シュヴェルツェですわ。

今回は私達が皆様をエスコート致します。


「ますー」


 今回私達は王子様にお願いされて、帝国の王都近辺に生息している魔物達を王都へと追い立てていますの。


「ご飯美味しーの」


 こら、ちゃんと王都に追い立てる分は残しておきなさい。


「はーい、モグモグ」


 全く、こんな子が私と同じ元獣だなんて。本当、同じにされるのは心外ですわ。


 話は戻りますが、私が火属性の魔物を、ドゥーロが水属性の魔物をそれぞれ指揮して王都に向かわせていますの。


「もぐもぐ」


 ……ドゥーロの場合は統率というよりも逃亡ですわね。魔物達があの子に食べられないように必死で逃げていますわ。

 実際の話、足の速い巨大カメが襲ってきたら地味に悪夢ですわね。


「一杯魔物を送ったのー。ご主人様褒めてくれるー?」


 ええ、いっぱい褒めて下さいますわ。そしてコレが成功した暁にはあの方との卵を……


「ドゥーロの後でねー」


 今、何か言いまして?


「なんにもー」


 そう、聞き間違いだったのかしら? そうよねこの子はまだ雛なんだから。


「お互い様ー」


 ◆


 という訳で私達の役目はあっさりと終了致しました。

 王子様の計画通り帝国の騎士をおびき寄せた所で王子様の魔法で無力化。

 あとは操られている人間達から異世界人とかいうのを引き剥がす作業をするだけです。

 正直する事もありませんので私達の役目はコレで終わりですわ。


「もぐもぐ」


 貴方さっきから食べてばかりですわね。


「蠍食べるー? 毒がスパイシーで美味しーよ」


 あら有難う御座います。モグモグ、確かにコレは癖になる味ですわね。

 あら? あれは何かしら?


「空から何か飛んでくるのー」


 魔物かしら? いえ、違いますわね。 あれは……


「ご主人様の空とぶお船ー?」


 そう、そうですわ、人間の使う飛翔船と言う物ですわ。

 お母様から昔の人間達が使っていたと聞いていましたが、今の人間の世界には存在していない筈。


「遺跡ー?」


 成る程、私の住んでいた遺跡と同じ様な所から発掘したのですわね。

 素敵、古代の遺跡で出会った男女! めくるめく陰謀! そしてヒロインの正体はなんと!!


「なんか飛んで来たー」


 え? きゃぁぁぁぁ!! 何ですの何ですの??

 何か黒い鉄球がこちらに向かって降り注いでますのよ?


「防御ー」


 あっ、自分だけ甲羅に隠れてずるいですわ! 私も入れなさい!


「残念一人用です」


 そんな事を言っている間にも黒い鉄球が降り注いできますの。

 痛ったー! 痛いじゃないですの! タンスの角に小指をぶつけたくらい痛かったですわ!

 もう許しません! 私は人間の姿から本来の姿、ダークフェニックスの姿へと戻ります。

 漆黒の羽を纏いし闇のプリンセス。それが私ですわ!!


「言わぬが花。ドゥーロはつっこまないの」


 私は風の様に空に舞い上がり人間達の操る飛翔船に向かって行きました。

 彼等の乗る船は人間の道具にしてはなかなかの物ですが、私のような空を飛ぶ魔物にとっては脅威といえる速度ではありませんでした。

 飛んでくる鉄球を回避し、時には闇の吐息で溶かしつくし、瞬く間に彼等の懐まで迫りました。


 ◆


 時間は少し遡る。


「アレが伝説の元獣だと?」


 ヴィクツ帝国 空挺船団団長 ゲルデス=ロームは遥か上空から地上を見下ろしていた。

 その視線の先には城の様に尖った甲羅の巨大な亀が見える。


「キャッスルトータスとはあの程度のものであったか」


 帝国が始めに魔物の群れが現れたと報告を受けた際、慣例どおり近衛騎士団が出撃した。

 だがその中に複数の凶悪な魔物が居る事が報告された事で、彼は周囲の制止を振り切って帝国の虎の子である空挺船団を発進させた。

 コネで入隊したグシオ率いる軍勢ではヴェノムエレファントを始めとした魔物の群れを倒せないと踏んだからだ。

 だがそれは友情でもなければ使命感からでもなかった。

 彼が所属する空挺船団は長らく実戦を禁じられていたのだ。

 それは彼等の運用する飛翔船が希少だったからに他ならない。

 古代の遺跡から発掘された飛翔船は帝国にとって貴重な研究資料だ。

 しかしその資料は遺跡から発掘された際には既に多くの機能が破損していた。

 つまり壊れていたのだ。

 長い時間をかけてかろうじて飛べる飛翔船を研究し、壊れて動かない同型の船から無事な部品をもぎ取って交換する事で漸くまともな運用が可能になってきた所だった。

 しかしそれも試験運用と言うよりはちゃんと飛ぶかどうかの実験程度の物であり、さらに動力が破損している為長時間の飛行も不可能だった。

 詰まる所空挺船団とは、故障した飛翔船をニコイチ、サンコイチして動くようにしたモノが実際に動くか試す為の実験部隊にしか過ぎなかった。

 空挺船団に期待が置かれているのは数十年、数百年後の話であり、現状においては間違っても戦場で破壊されてはいけない帝国の財産なのだ。

 現状における空挺船団の役割りは式典における他国への威嚇と国民の士気高揚程度の用途でしかなかった。

 その為空挺船団はお飾り船団と呼ばれており、この部隊への所属を望む者はよほどの馬鹿か空に魅入られた者、あるいは左遷された者だけだった。 

 前者二つであったならそれでも幸せだっただろうが、不幸な事にゲルデスは後者だった。

 それゆえゲルデスは空挺船団を動かし、魔物の群れを撃退する事で戦果を挙げようとしていた。

 幸い、今の帝都はおかしくなった貴族や騎士で溢れており、彼の独断専行を止める事のできる者は誰も居なかった。


「ふん、伝説の魔物とやらの正体などこんなものよ。どうせ古代の無能な軍人共が自分の無能さをごまかす為に大げさに語ったのであろう」


 魔物を追い立てていた元凶であるキャッスルトータスを発見した彼は、その姿を見た事で勝てると踏んだ。

 噂に聞くキャッスルトータスは城のごとき巨体で歩く山脈と言われていたそうだが、眼下に映る姿はせいぜい一〇m程度。

 コレなら上空からの一斉射撃で圧倒できる。


「よし、総員戦闘体勢! 砲撃用意!」


 ゲルデスが副長に攻撃を命じる。


「……団長、本当にやるのですか?」


 副長であるトルバ=リスキマが不服そうにゲルデスに問いかける。


「貴様、それでも軍人か! 上司の命令には絶対服従するのが軍人であろう!!」


「ですが我が船団に戦闘許可は下りていません。勝手に戦えば軍務違反で処罰されます!」


「だから処罰されたくなければ戦功を上げろというのだよ。ここに居る以上貴様も同罪だ。それと、我が船団ではない。私の船団だ、いいな」


 ゲルデスがトルバの胸を突き飛ばして遠ざける。


「副長、二度は言わん。攻撃だ」


「……了解であります」


 トルバはかろうじて声を搾り出し部下達に命令する。


「総員戦闘体勢! 砲撃用意!」


「了解! 砲撃用意!」


 部下が巨大な筒に鉄球を押し込む。

 そして筒の反対側に立っている魔法使いが魔力を練り上げて行く。


「砲撃準備完了致しました!」


 部下の報告を受けたゲルデスが号令を下す。


「全弾、撃ぇぇぇぇぇ!!」


 魔法使いが術式を発動させ爆音と共に鉄球が射出される。

 幾十もの鉄球がキャッスルトータスに向けて放たれていく。

 降り注いだ鉄球が大地に突き刺さる。

 それはさながら漆黒のスコールだった。


「……イマイチ当たらんな」


 ゲルデスが不服そうに呟く。


「上の許可が下りませんからな」


 実戦に投入される予定の無い部隊である為、彼等はめったに実弾訓練をさせて貰えなかった。

 更に言えば今発射している砲弾もその大きさと円の精度から一発作るのに相当の時間と金額を必要とされていた。はっきり言って赤字である。

 だがそれでも伝説の元獣を捕獲すればおつりが来るとゲルデスは考えていた。


「団長、陸軍が逃亡を開始しました!」


「何!? 詳しく話せ!」


 部下の報告を受けたゲルデスが喜色満面で部下に詳しい報告をさせる。


「はっ、魔物の軍勢に恐れをなした陸軍は戦う事無く戦線を崩壊させ逃亡。その姿に統率された様子は無く、恐らくは魔物への恐怖で統率が崩れたものと思われます」


 部下からの報告を受けたゲルデスが高笑いを始める。


「ふはははははははっ! それ見た事か。だから我が空挺船団に予算を投入しろと言ったのだ。よーし、良いぞ良いぞ。コレで我が船団が魔物を撃破すれば私の発言力は圧倒的なものとなる。どうだ副長、私の判断は間違っていなかっただろう」


 しかし当の副長はゲルデスの言葉を聞いていなかった。


「おい、どうした副長、ちゃんと答えんか」


 ゲルデスが視線を向けると副長が船のヘリに捕まって何かを見ている。


「副長? そうか、元獣がこうもあっさりと無力化して驚いたのだな。むははは、ならば仕方あるまい。どれ、私も我が船団の力を見せてもらおうか」


 ゲルデスは上機嫌で飛翔船のヘリに手をかける。

 そして下を見下ろそうとしたその瞬間だった。


 それは現れた。


 漆黒の体躯。

 黄色いくちばし。

 真っ赤な瞳。

 短い翼。

 円筒形のシルエット。

 

 それは何処からどう見てもペンギンだった。

 もっとも、この世界にペンギンが居ない為ゲルデス達にはその姿から連想出来るものはなかったのだが。


「な、何だあの不細工な生き物は?」


 ソレがゲルデスの最後の言葉になった。


 クェェェェェェェェ!!

 

 その生き物はゲルデスの言葉に怒ったかのように奇声を上げる。

 真っ赤な瞳はゲルデスを睨みつけていた。


「黒い翼、真っ赤な瞳、そして体から溢れる漆黒の炎。まさか……伝説のダークフェニックス……」


 かすれた声でトルバが呟く。

 その言葉が引き金になったのだろうか、彼らの乗っている飛翔船が凄まじい揺れに見舞われる。


「な、何事だ!?」


 トルバはすぐさま横に居るはずのゲルデスを探した。

 無能であっても彼が指揮官だ。彼の許可なくして船団の指揮は出来ない。

 しかしそこにいる筈のゲルデスの姿は何処にもなかった。

 それどころか船のヘリも無い。ついでに言えば甲板もなかった。

 ゲルデスの居た場所は船体ごと消滅していた。

 

「なっ!?」


 見れば船体の淵には黒い炎が踊っている。ゲルデスが居た場所を囲むように。

 この黒い炎を見てトルバは確信した。

 ゲルデスは元獣の怒りを買ったのだと。


「総員攻撃を中止! 即座に撤退せよ!」


 懸命な判断である。

 だがその判断を下すには既に遅すぎた。

 船団の船から次々と黒い炎が上がる。

 轟音と共に船体に丸い穴が空いて地上に向かって落下してゆく。

 

「撤退! 撤退! 撤退だぁぁぁ!!」


 通信魔法の使い手が船団に指令を伝え、動ける船は我先にと逃亡を開始する。

 結果、帝国の飛翔船は全体の八割を失い、かろうじて大破を免れた船も長い整備を必要とする事となった。

 後年、帝国の歴史書にはこの事件が原因で飛翔船の軍事利用が忌避される様になり、研究は遅れに遅れ他国に引き離される原因となったと記載される事になる。

 

 ◆


 ふぅ。すっきりしましたわ。

 まったく、天空と黒炎の支配者たる私に手を出そうなど大間違いなのですわ。


「死屍累々ー」


 さて、お仕事も終わりましたし、王子様の下に戻りましょうか。


「はーい」

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