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少女達の道筋 SIDEミヤ

 私の名はミヤ、ご主人様に付けて頂いたステキな名前です。

 本名は自立思考管理装置888号と申します。


 ◆


 本日は我が主の為にヴィクツ帝国の経済を支配する為、ご主人様の許可を頂きヴィクツ帝国の隣に位置する国、シャニン国へとやってまいりました。

 今回、ご主人様は初の国外視察を行なっていたのですが、運悪く帝国の皇女とその守護神に騙されてタダ働きをする事になってしまいました。

 なんとお可哀想な御主人様。

 けれど捨てる神あれば拾う神あり。あ、コレは御主人様の故郷の格言だそうです。

 ええ、話を戻しますね。

 普段は私共にあまり頼られないご主人様ですが、なんと今回の件では私に力を貸して欲しいと言ってくださったのです。

 従者として御主人様にそこまで言って頂けたのならば全力でお役に立つのが従者の本懐。


 ◆


 まず最初に行う事は偵察。このシャニン国で何が必要とされ、何が必要でないか。

 偵察用ゴーレムに盗撮盗聴用魔法具、集音魔法具を使って情報を無差別に収集。

 このゴーレムと魔法具はエウラチカ製ですので御主人様の作られる物よりも高性能です。

 御主人様のご命令があれば即量産するのですが、やはり殿方はご自分の手で成し遂げたいのでしょう。

 集めた情報はエウラチカの大型情報端末にて整理します。

 そこから有用とされる情報を引き出し、必要になるであろう情報、資源、人材の収集を開始します。

 最初に狙うのはシャニン国の御用商人クリー氏。

 彼は今シャニン国の王族の無理難題に頭を悩ませています。

 ですがその問題も私ならば容易に解決できます。

 早速入手した品を手に迅速にクリー氏に面会を求めます。

 何しろ彼には時間がありませんから。


 ◆


「始めましてミヤさん。私が当商店の主クリーです」


 私の目の前にクリー氏が現れる。

 クリー氏はやや豊かな体つきをされた男性です。髪は茶色、瞳は緑とこの国では割とよくある色ですね。

 クリー氏のお店に直接伺いアポイントメントを申請した私でしたが、多少の時間を待たされただけでスンナリと店の中に入る事が出来ました。

 もっとも、この速さこそがクリー氏の危機感の表れなのですが。


「お初にお目にかかりますクリー様。私は……」


 とそこで、クリー氏は私の挨拶をさえぎります。

 

「結構、これでも私は忙しいのでね。用件だけ済まさせて貰おうか。貴方は使用人に対し私が望んでいる品を持って来たと言ったそうだね」


 私は無言で頷きます。


「では聞くが、私が望む物とは一体何かね?」


 クリー氏が言外に圧力をかけてきます。間違っていたらタダではおかないぞと言いたいのでしょう。

 もっとも。私を相手にして何が出来る訳でもありませんが。


「はい、クリー様が求める物。それは隣国の王女様が身に付けていらっしゃる水晶の首飾りよりも大きい水晶です」


 しかしクリー氏は正解を言い当てた事に対して何の反応も示しません。この程度は知っていて当たり前と言う事なのでしょう。


「よく調べておいでで。と言う事は私が求める水晶の大きさもご存知なのですよね」


 クリー氏が現物を見せろと要求してきました。

 そこで私はマジックボックスの中から古ぼけた木箱を出します。


「その中に?」


「はい。とあるお方より譲り受けた一品です」


 勿論そんな事は有りません。この中身の水晶は元獣ダークフェニックスの幼生たるシュヴェルツェ様が生成された最高純度の水晶。具体的に言うと排泄物です。そして古ぼけた木箱はそれらしさを見せる為にエウラチカで偽装した物です。人間は入れ物にも価値を見出す生き物ですから。


「どうぞご検分下さい」


 そう言って私は木箱の蓋を開けます。


「…………っ!?」


 ここで初めてクリー氏の顔色が変わりました。

 先程までのポーカーフェイスが消えうせ、今は何処にでもいる年齢相応の男性といった感じになりました。


「いかがでしょうか?」


「こ……これ程の水晶を何処で……いや、重要なのは純度だ! おい!鑑定士を呼んで来い!!」


 クリー氏に命じられた使用人が落ち着いた仕草で退室します。もっとも、水晶に驚いたのかその足運びはいささか乱れていましたが。

 いけませんよ、従者たる者常に冷静でなくては。



 数分ほど経過し、ようやく鑑定士の方がいらっしゃいました。


「遅いぞ! さっそくこれの鑑定を頼む!」


「っ!? し、承知しました」


 テーブルに置かれた水晶の大きさは三〇cm、鑑定士の方が驚くのも無理はありません。

 通常水晶は時間が経つにつれ属性の影響を受け属性石へと変化して行きます。

 私の生まれた時代にはそこそこの大きさの水晶も普通にありましたが、人々に採掘されていく内に属性に侵されていない水晶の数は激減してしまったという訳ですね。


 鑑定士の方が水晶を見ながら脂汗を垂らしています。恐らく『鑑定』のスキルを使用しているのでしょう。


「間違い有りません、最高純度の水晶です。属性の侵食は全く見受けられません」


 震える声で応える鑑定士さん。

 ソレを聞いたクリー氏も手を震わせながら水晶を凝視されています。

 いい年をした大人達が魔物の排泄物を前にして興奮しています。

 もしここにシュヴェルツェ様がいらしたらどんな顔をされた事でしょうか。


「こ、これ程の純度の水晶を一体何処で、いやそれよりも保存処置をしなければ! 早くしないと属性に侵されてしまう!」


 水晶は属性に侵食されて属性石になってしまいますが、特別な加工を行なえば属性の侵食を受けなくなります。クリー氏が言いたい事はそれですね。


「クリー様、その前に商談を」


「い、いやソレよりも処置を……」


「商談を。それはまだ私の物です」


 本当は御主人様の物ですが今は御主人様の名を明かすわけには行きません。ここはガマンです。


「わ、分かった、いくら欲しい? 王宮からの依頼だから金は出せるぞ」


「白金貨5枚」


「白!?」


 クリー氏だけでなく鑑定士の方、使用人の方も仰天しました。

 それもその筈、それだけのお金があれば一等地に豪邸が建てられますから。


「い、いくらなんでもその金額は……」


「そうでしょうか? この大きさの水晶が何処で手に入りますか? コレを他の国、例えば帝国に持っていけばどれだけの価値になるとお思いで?」


 その言葉に一瞬顔が緩むクリー氏。恐らく買い取った水晶を依頼主が求めるサイズだけ切り取って収め、残った水晶を売りに出すつもりなのでしょう。


「し、しかしそれだけの大金となると私も直ぐにはお金が出せない……」


 勿論分かっています。その為にふっかけたのですから。


「では白金貨二枚を前払いして頂き、後日緑金貨での分割支払いでは如何でしょうか?」


「い、良いのかね!?」


「はい」


 破格の品を破格の支払い条件で提示され食いついてくるクリー氏です。

 すでに今のクリー氏には水晶を収めないと王室からの信頼が失われると言う焦りが綺麗さっぱり消えうせています。


「で、では契約書の準備を……」


「それと、分割の条件としてお願いしたい事がございます」


 私の言葉にほら来た! といった顔を見せるクリー氏。さすがにこのままスンナリ終わる等とは毛ほども信じていなかったみたいです。


「き、君の要求は何だね?」


 精一杯の威厳を保とうとしていますが目の前のご馳走の所為で全く威厳を保てていません。

 

「いえ、簡単な事です。クリー様の懇意にしている商人の方々に私を紹介して欲しいのです」


 クリー氏は始めキョトンとした顔をしますが、ようやく納得がいったという顔をされました。


「ああ、そう言うことか。成る程、良いだろう、君を紹介させて貰おう」


 そうコレこそが私の作戦。

 帝国周辺の国家すべての商人と友好を結び流通に喰いこむ事です。

 商売をする以上その土地にいる先達の許しを得なければまともな商売は出来ません。

 最悪の場合、悪質な妨害を受けて商売どころではなくなってしまいますから。

 クリー氏はシャニン国有数の商人。小国の商人といえどその影響力は侮れません。

 とはいえ大国で商いをする大店の商人と比べれば脇が甘いといわざるを得ません。

 私の持ってきた水晶の魔力にすっかり引っかかってしまったのですから。


 ◆


 そして数週間後、ここはヴィクツ帝国の帝都の商店街。

 勿論私がここにいる訳ではありません。私が放った偵察用動物型ゴーレムからの映像です。


「どうなってるんだ? 商品が全然入ってこなくなったぞ?」


「食料どころか布も入ってこないんだが」


「鉄や銅も一緒だ。鉱山から来る筈の商人達がこぞって周辺国に行っちまってる」


「肉や魚、酒も殆ど入ってこないぞ」


「一体どうなってんだ?」


 商店街の商人達が揃って頭を抱えています。


「聞いた話じゃ帝国周辺の国の商人が帝国内の買取レート以上の高値で買い取っているらしい。だから農民も採掘師も織師も皆国外に売りに出ちまうって話だ」


「それ所か国外の商人が直接買い取りにくるって話だ」


「何だそりゃ! 採算なんて取れないだろう!?」


「分からん。そんな事をしても他の土地から買い取った品のほうが安いだろうから売る意味も無いだろうし。一体何の目的があってこんな訳の分からない事をしているのやら」


 実は取れます。

 高いといっても現在のレートよりもちょっとだけ高いだけですし、食料はマジックボックスに入れれば時間の経過を遅らせる事が出来るので腐敗の心配は有りません。それ所か御主人様の開発した転移装置があれば一瞬で移動が可能ですのでその食料が貴重な地域で売れば利益は出ます。

 周辺国で買取をしているのはご主人様がお助けした元奴隷の少女達。

 そして買取に出向くのは彼女達が雇った周辺国の現地住人。

 唯一のコストは人件費ですがそれはを買取交渉役のみで残りはゴーレムで運営していますので必要なのは買取交渉役の食費と給料のみ。

 仕入れ交渉は彼等が行い、搬送はゴーレムが行なうので馬などの輸送用の生き物も不要です。

 ドラゴンカイザー様は帝国内で起きている事はご理解しているそうですが、帝国外ではそうも行かないでしょう。しかも買占めを行っているのは何も知らない現地住民です。

 ドラゴンは人間の商売などに興味を持ちません。これから起こる事にも無関心でしょう。 


「連中は帝国の商人を滅ぼすつもりか?」


「だがそんな事をしたら帝国そのものが動くぞ」


「いや、今の帝国が動くか?」


「アレだもんなぁ」


 現在の帝国政府は異世界人改め古代文明人達の侵略活動によりボロボロです。

 そんな政府に期待するほど彼等も愚かではないと言う事なのでしょう。

 私もその通りだと思います。今頃になってようやく帝国の役人の方々も動き始めていらっしゃるみたいですが私が雇った方々が彼等に黄金色の鼻薬を差し出す事で動きを遅らせています。 


 ◆


 更に時間が経過し、帝国の物資の不足は深刻なレベルに達しました。

 帝国政府は国外の商人の買取量を厳しく制限し、また国内での一次生産品の買取額の上限制限を設定。

 強制的に国内に商品が循環する様にしたのです。


 しかしコレは国民の強い反発を招きます。

 買取は地下深く行なわれ、再び物資の不足が発生しました。

 コレに対して帝国政府では物資の強制徴収すら議題に上がる様になります。

 とはいえ、帝国は大きすぎます。大きすぎる体の手足は見えないもの。

 そんな事をしても末端の腐敗は止まらず流出は確実に続いて行きました。


 そしてとうとう帝国は周辺国に対して帝国から買取を行なう者を捕らえよという無茶苦茶な要求を始めたのです。

 もはやなりふり構っていられない状況のようです。

 しかしそんな帝国に周辺国は物資の取引を進めます。

 それも帝国の周辺国家全てからです。

 コレは暗に脅迫といえるでしょう。彼等は馬鹿にするのもいい加減にしろと言っているのです。

 いかに帝国が強大でも物資が決定的に不足している状態で戦争は出来ません。

 しかも相手は周辺国家全てです。 

 下手をすればクーデターすら起きるでしょう。

 更に言えばこの要求の直前に少女達は全員撤退させ山奥に作った屋敷にかくまっています。

 勿論ゴーレムの護衛付きで。


 捕まえる相手もいない状況ではどうしようも無く、遂に帝国は周辺国の提案を受け入れました。

 「現在」の帝国相場よりも少し高い金額での物資の買取が始まったのです。

 コレを待っていた私は、今まで買い占めていた物資を帝国領内に放出しました。

 それも周辺国の提示した販売額よりも少しだけ安い金額で。

 人間、安い品には食いつきます。

 それが本来ならありえない価格だとしても今の相場よりも安ければ安いと錯覚するのです。


 これにて私の作戦は終了。

 御主人様が受けた損害は、私が倍以上の儲けを出す事で手打ちとさせて頂きます。

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