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帝都激震

さ、最初は3000文字くらいにする積りだったのに気が付いたら倍以上の文章量になっていた。何を言っているか分からないと思うが以下略

と言う訳で遅くなりました(言い訳)

「作戦会議は終了したの?」


 転移装置を使って馬車に戻ってきた俺達にエメラルダが話しかけてくる。

 ドラゴンカイザーの一件で本性を見せたからか、今までのようなあざとい空気がなくなっている。

 お漏らししまくってたクセに。


「お漏らししまくってたクセに」


「なっ!」


 エメラルダの顔が羞恥に迫る。しまったなー、ビデオカメラとか作っとくんだったわ。


「いや、すまんすまん。つい思ってる事を口にしちまった。何せお前相手じゃ黙っていても意味無いからな」


「ふん、先日のお返しって訳? まぁいいわ。何を考えているのかなんて読むまでもないもの。ドラゴンカ

イザー様の後ろ盾がある限り貴方は無償で帝国を救う事に代わりは無いのだから」


 発言が完全に虎の威を借るなんとやらだ。確かにドラゴンカイザーが付いている以上約束を反故にする事は難しい。だが人に頼りきりの奴がいつまでも上手くいくと思うなよ。


「明日から帝都に入って黒幕連中と本格的に戦う」


 とりあえず決まった方針を伝えておく。


「ソレって私との戦いも?」


 煽る煽る。


「その気は無いよ」


「そうよね、だって貴方は無償で私を助けてくれるのだモノね」


 こちらが反撃の機会をうかがっている事を知っていながらコレだ。

 けどまぁ、俺はその事を知らないのだからどうやっても教えてやれんけどな。


「ミヤさんとアリスさんはどうしたのかしら?」


「野暮用」


 突っついてくるけどホント無駄だぞ。


「まず帝都に入ったらスパイを大量投入して異世界人に乗っ取られている人間を絞り込む」


「スパイというのは貴方のゴーレムの事かしら?」


 早速心を読んできたか。


「どうかしら、以前読んだ記憶からカマをかけているのかもよ」


 探りあいに付き合う気は無いよ。


「乗っ取られている人間が分かったら個別に闇討ちして支配を解く。それが作戦だ」


 俺の作戦を聞いたエメラルダが呆れた顔を見せる。


「それのどこが作戦なの? 貴方一人でそんな事が出来るの? どう考えても残った敵に警戒されて雲隠れされるだけでしょ」


 ここまで頭が悪いとは思わなかった。そう言いたげである。


「別にソレでもいいさ。王宮から敵が居なくなれば失踪した連中は適当な理由で反逆者に出来るだろう?」


 つまりエメラルダが復権する為の土台が出来ると言う事だ。

 反対派が居なければ皇帝になるのも容易いだろうからな。


「ああ、そう言う事ね。確かにそれなら家臣を私に都合の良い者達だけにすげ替える事が出来るからありがたいわ。でも……」


 エメラルダが忘れてるんじゃないのか? と言いたげな視線で俺を見る。


「愛しのマリス姫を助けろってんだろ?」


「そうよ、ちゃんと覚えてるじゃないってマリスは男よ!」


「でも今はステキなレディなんだろ?」


「ぐっ……」


 エメラルダが悔しそうに黙る。ここまで呻くくらいなのだから相当可愛い男の娘なんだろう。

 恋人の変貌と自分の嗜好がせめぎ合って苦しむエメラルダの姿は中々に良い見世物だった。


「安心しろ、闇討ちで助ける最初の人間にしとくからさ」


「本当に頼むわよ。帝国が戻ってきてもマリスが戻らなかったら何の意味も無いんだから」


「はいはい」


 マリス君か。もしかしたら彼こそがこの状況に風穴を開けてくれる切り札になったりしてな。


 ◆


 さて、アリア達に帝都へ向かう様指示した俺は次の行動に移る。

 まず少女達を3つのチームに分ける。これはミヤとアリスからの要望だ。

 自分達の準備に人手が欲しいからというのが理由だった。

 で、チームを分けた結果、アリアとオーナ、それにエメラルダは俺と共に行動し他の少女達はアリスとミヤのチームに分かれた。俺のチームはほかにアルマとドゥーロ、そしてシュヴェルツェが付いてくる。

 アリアは商人として俺のサポートに付き、オーナは個人的な希望で俺についてきた。アリアの残り二人の仲間であるイリスとウルもアリアと共に行動する事を望んだがアリスが荒事の出来る仲間が欲しいと行って来たのでそちらに回してある。勿論仕事が終わったらまた会えると約束してある。

 正直オーナはつかみ所が無くて扱いに困るんだが役に立つから傍において欲しいと頼まれた。

 ソレをフォローする様にアリア達がオーナを推薦してきたのでまぁそこまで言うのならとオーナも連れて行く事にした。意外とこういうキャラが役に立つかもしれないしね。


「私は精霊魔法が得意なんですよー」


 とはオーナの弁だった。

 精霊魔法と言うとかつて共にパーティを組んだ少女の事を思い出す。

 彼女は今元気だろうか……というか生きているんだろうか? なにしろランドドラゴンのブレスがぶっ放された場所に居たからなぁ。

 しまった、おっちゃんに会った時に彼女等は助かったのか聞いとけば良かった。

 まぁ今更か。それにおっちゃんにはまた会う様な気がするからその時にでも聞けば良いか。


 ◆


「ドゥーロとシュヴェルツェの二人にやって欲しい事があるんだ」


 パーティ分けが決まった所で二人を呼んでたのみ事をする。


「あら、どんな事をすれば良いのかしら?」


「出番ー! 頑張るのー」


 なんかドゥーロが漢字表記で喋っている様な気がする。

 ちったぁ成長してるって事だろうか? と言うか実際成長してきてるな。

 最初は一mサイズの亀だったドゥーロだが、モネ湖で大量の魔物と水の属性を食い漁っている内に随分と成長していた。今では本来の姿に戻ると一〇mオーバーの巨大亀になっている。

 そしてこのサイズになってようやくドゥーロの種族名であるキャッスルトータスの名が理解出来る様になっていた。

 確かにあの姿は御伽噺に出てくる尖がった城のイメージだ。

 そしてそんな成長は人間体の姿にも影響するらしく今のドゥーロは幼女から少女へと成長していた。

 河童系幼女から河童系少女へレベルアップである。きっと肉体だけでなく精神も成長しているのだろう。


「二人には帝都の近くに居る魔物を追い立てて魔物の群れを作って欲しい」


「魔物の群れ? そんな物を作ってどうするんですの?」


「群れー?」


「帝都の近くに無視出来ない脅威を生み出す事に意味があるのさ」


「? よく分かりませんけど、王子様がそう仰るのならそれに従うだけですわ」


「追い込み漁ー!」


 二人共やる気があって結構。


「準備が出来たら通信機で呼んでくれ」


「分かりましたわ!」


「了解の!」


 これで準備完了だな。

 ……いや、一つ大事な準備がまだだった。

 これを終わらせない事には作業に入れない。


 ◆

 

「アルマ、入るぞ」


 俺はノックもせずに部屋にはいる。

 まぁアルマの部屋は俺の部屋でもあるのでノックの必要も無いのだが。


「…………」


 アルマは俯いたままだ。いつもなら俺が帰ってくれば笑顔で出迎えてくれるのに。

 こうなったのも俺とエメラルダが龍の巣から帰ってきてからだ。

 正しくは事の顛末を話してからだが。

 あの会話のどこかにアルマが心を沈める何かがあったらしい、といってもソレが何なのかさっぱり分からないのだが。


「何をそんなに悲しそうにしているんだ?」


 とはいえ、ここで手をこまねいても意味が無い。

 ここは直接聞くしかないだろう。


「……ごめんなさい」


 それは謝罪だった。


「何を誤ってるんだ?」


「私が、あの人を受け入れたから……」


 アルマのスカートに小さなシミが出来る。

 シミは少しずつ広がっていく。

 そのシミの名は


 涙


 だった。


「ごめんなさい……」


 俺は何も聞かずアルマの言葉を待つ。


「あの人がクラフタ様に近づいた時、あの人には既に好いた人が居ると気付いていたんです」


 これは驚き。よくアレだけの情報でそこまで気付いたな。


「だから私はあの人に好きな人が居るんですね。でも大丈夫ですよ、クラフタ様ならきっとその方を助けてくれますって言ってしまったんです」


 成る程、あの時のアルマとエメラルダのナイショ話はそう言う事だったのか。

 アルマは彼女に本命が居る事を察して俺への好意が真実では無いと理解したのか。その上でエメラルダに協力する行動を取ったのは愛する者の為に己を犠牲にしようとしたエメラルダへのシンパシーだったのだろうか? 

 けどそれは正解であって正解でなかった。

 アルマの善意はエメラルダにとって格好の踏み台だった。

 死と隣り合わせに生きてきたアルマはそれゆえに人の善意と優しさしか知らなかった。だがエメラルダの生きてきた権謀術数の世界はそんなアルマの無垢な優しさすら利用すべき道具でしかなかったのだ。

 それを見抜けず、俺に不利益を与えてしまった事にアルマは罪悪感を募らせていた、それがこの涙の正体ってわけか。


「ごめんなさいクラフタ様」


 罪悪感で縛られた人間の心を解き放つのは容易じゃない。

 かつて身近で同じ様な光景を見た事のある俺にはよく分かる話だからだ。

 けれど今は違う。

 俺は姿こそ子供だけれど、中身は成人した大人だ。

 だから俺はアルマを抱きしめた。


「大丈夫だ。それでも俺はアルマを愛している」


 出来る事、やるべき事は二つ。

 抱きしめる事。そして言葉で伝える事だ。

 ソレだけで良い。

 ただ受け入れ、認め、そしてそれでも好きだと伝える。

 今の俺ならそんな簡単な事が出来る。

 子供の頃に出来なかった簡単な事が今なら。


「クラフタ様……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 アルマは泣きながら何度も謝る。


「好きなだけ謝って、好きなだけ泣け。謝りつくして泣き尽くしたら、俺のやるべき事に協力して欲しい」


 慰めるのではない。

 出来る事を与えるのだ。

 自分で自分を許せる役割を。


 アルマは泣きながら、謝りながら、しかし力強く頷いた。


 ◆


「なんという数だ!」


 ヴィクツ帝国の王都を守護る近衛騎士団副団長グシオ=カマーは戦慄した。

 彼の率いる騎士団の先には数百匹の魔物が群れをなしひしめき合っていたのだから。


「副団長! 敵の数はおよそ八〇〇、内二五はヴェノムエレファント、三七はエレクトリックスティンガーです!」


「ヴェノムエレファントにエレクトリックスティンガーだと!? 単独で行動する上位の魔物が何故群れを成しているのだ!!」


 グシオは戦慄した。ヴェノムエレファントとエレクトリックスティンガーといえばドラゴンを除いて帝国領内に存在する魔物の中でも最強レベルの魔物だからだ。単体でも騎士団が一〇〇〇人がかりで戦う相手だと言うのにそれが六二体、更にソレよりは劣るとはいえまだ七〇〇体近い数がいるのだ。

 確かに近衛騎士は一騎当千の猛者だが、この2体の魔物は名前の通り猛毒と電撃で操り、まともに喰らえば治療に長い時間がかかる。しかも間の悪い事に団長を始めとした部隊の半数は別の場所に現れた魔物の群れを退治しに出て間もない。

 しかもその場所は他の騎士団の管轄のギリギリ外、帝都を守護る近衛騎士団の担当範囲内だった。


「くそ、そんな所の魔物退治など他の騎士団にやらせれば良いのだ!!」


 グシオは典型的な近衛騎士だった。近衛騎士はその性質上、自分達は選ばれた騎士だという選民思想を持つ者が多かった。勿論それに見合った実力を持ってはいたのだが、生憎コネで入団したグシオはその自尊心に見合った実力を持ってはいなかった。


「副団長、その、それだけではないのです」


「一体何だ! さっさと言え!! この愚図が!」


 グシオの部下は爵位以外に能の無い無能上司の理不尽に憤りを感じるが、何とかソレを飲み込む。

 この程度で腹を立てていてはこの上司の下では働けないからだ。

 それにこれから話す内容次第では目の前の男は気絶してしまうかもしれない。

 そう思うと目前の危機が少しだけ楽しくなってしまうのも仕方ない事だった。


「それが、魔物の中に元獣が、元獣キャッスルトータスの姿が確認されました」


「…………」


 最初グシオは部下の言葉を理解出来なかった。

 キャッスルトータス、元獣と呼ばれるそれは伝説に近い存在であり、その姿を見れる者は数百年に一度と言われるくらいだ。

 最近では地方の小国でキャッスルトータスの幼生が保護されたなどというバカバカしい噂があったがグシオは信じていなかった。そのような希少な存在が実在したのなら帝国首脳陣が黙っていないからだ。

 だからグシオはソレを村おこしの詐欺だろうと断定した。

 それゆえグシオは部下の言葉を信用できなかった。

 グシオは腰に下げた遠視の魔法具を取り目に当てる。


 これは古代遺跡から発掘された遠くのものを直ぐ傍で見ているかの様に見る事ができる素晴らしい魔法具だ。まさに人の上に立つ自分にこそ相応しい魔法具である。もちろん庶民は手の届かない値段だ。


 とグシオは思っていたが実際には当時の量産魔法具なので、実際にはそれほどの価値は無かった。

 ぶっちゃけグシオはふっかけられたのだ。

 その魔法具で魔物の群れの一番後ろを見たグシオは戦慄した。


 そこには山があった。その山は動いていた。その山は魔物達を追い立てていた。

 その山には足があった。その山には尻尾があった。その山には頭があった。


 その山がヴェノムエレファントとエレクトリックスティンガーの群れを追い立てている。口から吹雪を吐きヴェノムエレファントを凍らせた。その山は凍らせたヴェノムエレファントを砕いて美味そうに食べる。ソレを見た他のヴェノムエレファントとエレクトリックスティンガーが悲鳴をあげて逃げ出す。

 帝都に向かって。

 グシオは理解した。あの山が原因だと。あの山がおやつ気分で魔物の群れを襲い、それに恐れた魔物が逃げ、その魔物を恐れた他の魔物が更に逃げて一つの群れと呼ぶべき塊を作った。

 ソレが帝都に近づく魔物の群れの正体だったのだ。

 グシオは失禁した。このままでは殺される。

 巻き添えを食って殺される。


「に、逃げろ! いや、戦え! 魔物と正面から戦うのだ!」


 ソレは死の宣告だった。

 絶対に死ぬ戦場ですらない殺戮空間に、自分から進んで死にに行けといわれたのだ。

 表向きは皇帝に絶対の忠誠を誓う忠実な騎士達の間で動揺が走る。


「む、無茶です! あんなの勝てっこないですよ! 傷を付ける前に踏み殺されるのがオチです」


 ソレは正しい判断だった。

 もはや狂奔と呼ぶべき状態にまでなった魔物の群れに挑んでいっても戦いにすらならない。


「馬鹿者! 貴様等はそれでも誇り高き近衛騎士か! 騎士ならば民を護る為に己が命を掛けるのは当然であろう」


 ソレは確かに正論だった。

 だがその正論は時と場合による。そしてソレを是とする正しい騎士はこの場には一人としていなかった。


「私が団長達を呼び戻すまで貴様等は近衛騎士として命を掛けて魔物を食い止めよ! これは副団長命令である!!」


 それは誰の眼から見ても逃げる為の言い訳だった。

 そしてその自分本位の命令が部隊を崩壊に導いた。

 騎士達は我先に逃げ出す。

 突然の事に呆然となるグシオ。

 しかし直ぐにハッとなって自分も逃げ出す。


「ま、待て貴様等! 逃げ出すなど騎士の恥ぞ! 私の盾になって死なんか!」


 理不尽きわまりない発言である。

 しかし、まるでその言葉に従うかの様に騎士達の間に異変が起きた。

 突然騎士達が倒れだしたのだ。ある者は馬から落ち、ある者は運よく馬の背中に倒れ込んで馬の進むままにいずこかへ消えた。


「な、何が起こっているのだ!?」


 まさかまだ他の魔物が? 

 グシオはまだ見ぬ魔物の姿に恐怖に駆られる。


「全く、近衛騎士って言っても口先だけだな」


 ソレは子供の声だった。

 そしてその声を最後にグシオは意識を失った。


 ◆


 近衛騎士団の騎士達は全員意識を失った。

 俺の使った睡眠の魔法薬の効果で。

 馬に乗っかったままの連中はオーナに任せる事にする。

 精霊使いの彼女は動物と意志の疎通が出来るそうだから、逃げる馬を宥めすかすのも容易だろう。

 走っている馬に追いつくようゴーレム馬を貸しているのでおっとりしたオーナでも問題なく追いつける。

 しっかしホントコイツ等最低だな。

 誰一人として民の為に戦わんとか、近衛騎士の名が泣くぞ。

 っと、その前にドゥーロの連絡せんとな。

 通信機のスイッチを入れてドゥーロに指示を下す。


『ドゥーロ、作戦は成功した。魔物の群れを帝都から逸らしてくれ」


 しかし魔物は一向に向きを変えない。


『おーいどうした? 向きが変わらないぞ』


『んー、無理』


 無理だった。

 俺は魔物を追い立てて帝都に近づける事で邪魔な騎士団を二手に分け、更におびき寄せる事で帝都を空にし、騎士団の憑依された連中を救助しようと考えたのだ。これなら騎士団の人間が全員元に戻っても帝都に居る黒幕の仲間は気付かない。

 グッドアイデアだと思ったんだがな。

 魔物を追い立てたドゥーロだったが、別に魔物に命令できるわけではない。

 つまり追いたてられた魔物達はレミングスよろしく命がけで逃げ惑うのだ。

 うん、ヤバイね。


『しゃーない。ドゥーロ、デカいのを撃つから避けろ』


『のー』


 了解の意と思しき言葉と共にドゥーロが進路を変える。

 ソレを確認した俺は魔法を発動させる。


「ユグドラシアルブリザード!!」


 俺の手前に小さな氷の塊が現れる。

 塊は前に向かって細い枝が伸びていき、枝が更に分かれ葉のように氷の塊が出来、更にドンドン枝が増えていく。その様はまるで氷の樹が横に向かって生えていくかの様だった。

 そして氷の枝葉魔物の群れを包み込むと己の枝に、葉に、果実に魔物達を取り込んでいく。

 そして数百メートルの巨大な樹が完成した時には、動く魔物は一匹たりとも存在していなかった。


 ユグドラシアルブリザード、遺跡で発掘した試作魔法の一つでランダムに生える氷の大樹に対象を取り込んで凍結する範囲魔法。欠点はその特徴であるランダム性で、大樹の大きさは魔法の発動が完了するまで分からない。それゆえに術者の魔力を喰らい尽くしても魔法は発動を続け最悪生命力まで奪う大失敗作。

 文字通り普通の人間には扱いきれない危険な魔法だ。

 俺のような人間を辞めてるような魔力の持ち主で無ければとても使いこなせないだろう。

 っつーかマジ疲れた。この魔法は乱発できんな。


「おいしー」


 そしてそんな危険魔法の産物ををおいしそうに食べる亀が一匹。


「さーて、コイツ等に処置を施しますか」


 疲れた体を引きずって、俺は騎士団に取り付いた異世界人を引き剥がす作業にいそしむのだった。

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