反撃計画(味方に対して)
面倒な事になった。
エメラルダの策に嵌ってうっかり無償で帝国を救う事を約束してしまったのだ。
しかも帝国の守護者であるドラゴンカイザーの前でだ。
まぁ後者に関しては帝国内ならこちらの会話は筒抜けらしいのでどこだろうと大差なかっただろう。
っつーかこの件に関してはドラゴンカイザーもグルだった。
無償奉仕を約束したなんてバレたら陛下は怒るだろうし、この事がバレたら他の貴族達から突き上げを食らうのは間違いない。
更にその事を盾に帝国、と言うかエメラルダが内乱の解決後に更なる譲歩を求めてくる可能性すらある。
この場合不味いのは世界中のドラゴンを従え、かつ本人も師匠達よりも強いと豪語するドラゴンカイザーだ。
多少話を盛っていたとしてもそれでもドラゴンの王、強いのは間違いない。
◆
「と、言う事が有りました」
さすがにこのままではいけないので、これまでの経緯をアルマを始めとした俺の素性をある程度知っている人間(人間以外も含む)に相談する事にした。
ちなみにここは帝国領土にある俺の馬車ではなく、帝国領外に待機させてあるエウラチカの会議室である。勿論移動は転移装置だ。
帝国内のあらゆる出来事を理解出来ると言っていたドラゴンカイザーでも、帝国の外ならその監視も行き届かないだろう。
「はっきり言ってクラフタ君が甘い所為ね」
バッサリと俺を斬ったのは魔王であるアリスだ。
アリスは師匠達と交流があるので俺の知らない所で古代文明について色々と話を聞いていたらしい。
主にパル師匠がアリスに胃を捕まれたのが原因っぽいが。
何で全身骨の師匠が胃を捕まれるのかは不明だがアンデッドってそう言うものらしい。
俺の事まで話してないだろうな。
「既婚者のクセに女の涙に惑わされるなんて先が思いやられるわ。貴族なんだからハニートラップには気を付けなさい!」
「うう、言い返せない」
「あの、ドラゴンカイザーという方はソレ程お強いのでしょうか?」
と、聞いてきたのはミヤだ。ドラゴンカイザーとの対面ではミヤ達は留守番だったからな。
「あれ? ミヤはドラゴンカイザーの事知らないのか?」
これは正直ミヤからこんな質問が出るとは思わなかった。なにしろミヤは古代魔法文明の時代から生きる生体端末だ。てっきりその辺も詳しいかと思っていた。
「私は管理端末ですから、業務に関わらない内容の知識はあまり無いのです」
成る程、そう言われれば納得だ。必要なソフトだけインストールされたパソコンの様なもんか。
『ドラゴンカイザーは間違いなく現存する古代生物の中では最強の存在だよ。たぶん4元獣の成体よりも強いんじゃないかな』
「え? マジですか?」
今のはクアドリカ師匠だ。今回の件はドラゴンカイザーに詳しい人のアドバイスが必須なので師匠達にも参加を要請したのだ。といっても師匠達は通信機越しでの参加だが。
つーかこの世界で最も高貴な魔物と言われる元獣よりも強いのか。
ドラゴンが最強といわれる所以もドラゴンカイザーの存在があるからなんだろう。
『神が直接生み出した生き物だからね。神聖性から何から既存の生物とは比較にならない性能だよ。余りにも強すぎて僕らも相互不可侵条約を結んだくらいだからね』
と言ったのはコル師匠だ。
となるとそもそも魔物としてカテゴライズされているのかも怪しいな。
どちらかと言えば神とか悪魔として認識されているかもしれない。
『彼を始めとした古龍は余りにも規格外すぎてステータスの魔法やスキルでも彼等の力を数値化する事は不可能なんだ』
あー、某バトル漫画で測定機械が爆発するキャラみたいなもんかー。
っつーか今ドラゴンカイザー以外の上位ドラゴンの存在が示唆されたような気が……
「そりゃまたハンパないですね」
『何しろアイツはこの世界でも数少ない神言を使える聖在だからな』
「聖在?」
『『馬鹿っ!!』』
どうやら失言だったらしく、クアドリカ師匠達がパル師匠を叱責する。
「今のは一体どういう……?」
『いや、なんでもないなんでもない。こちらの話だから』
「……」
『……』
「雛形」
『っ!』
「擬似神言」
『っ!!』
顔を見ずとも師匠達の表情が見て取れる。
絶対動揺してる。
「ドラゴンカイザーが教えてくれたんですけど、俺って雛形らしいですね」
『ぷぴー、ぴー』
たぶんパル師匠のものと思しき口笛が虚しく鳴り響く。
「この件について教えて頂きたかったんですけど、こちらに関係の無い話なら擬似神言とか帝国と共同で調査研究しても良いですかね?」
『っ!……それはあれだ、今は帝国の姫君にしてやられた事に対して対策を練らなければいけないんじゃないかな?』
あのクアドリカ師匠がもの凄く分かりやすい話題の逸らし方をしてくる。
そんなに触れて欲しくない話題なのか。
まぁ、こっちも本心で帝国に情報を公開する気は無いけどな。
これなら後で突つけばパル師匠あたりが口を滑らすだろう。
今はクアドリカ師匠の言う通り帝国に対する対策を練る方が先か。あんまり突つくと相談に乗ってくれなくなりそうだし。
相談に乗って貰った後で改めて突つくとしよう。
「で、ですね。帝国相手に無償で事件解決というのはやはり問題がある訳です。一応自分も貴族なので」
「つまり、どうにかして帝国に『貸し』を作っておきたいって訳ね」
「そう言う事。なんか良いアイデア無い?」
『問題のひとつであるドラゴンカイザーなんだが』
クアドリカ師匠から何かあるみたいだ。
『彼と我々、と言うか古代魔法文明人は相互不可侵条約を結んでいた。何しろ世界最強のドラゴンだからね。戦うメリットが全く無い。だからお互いに手を出さない事にしていた訳だが、もしかしたら今回の件で彼が手を出さないのはその関係があるかも知れない』
それはつまり……
「今回の件、異世界人だけでなく古代魔法文明人の生き残りが居るって事ですか?」
『ちょっと違うな』
今度はパル師匠だ。
『ほれ、以前ルジオスを攻めてきたバギャンって奴の武器を奪った事があったろ』
「……ああ、あれですか!」
そういえばそんな事があった。アレ師匠達の土産として渡したまんまだったわ。解析結果とか全く聞いてなかったわ。
『あれな、確かに見た事も無い技術の結晶だったんだがな、どうも見覚えがある気がして色々調べてみたんだわ』
パル師匠が見覚えあるって事は古代魔法文明時代に既に異世界人と交流があったって事か?
確かに異世界への扉を開く技術はその時代に作られた物だし、遭遇していても不思議は無いが。
『あれな、根本の技術が俺らの世界の物と同じだったのよ』
…………はい?
「ど、どう言う事ですかソレ!?」
まさかの回答に声を荒げてパル師匠に問い詰める。
『落ち着け落ち着け。詳しい事はコルに変わるわ』
と、今度はコル師匠が説明を引き継ぐ。
『じゃあボクから説明するけど、クラフタ君が持って来た武器を解析した所、あの装備に使われている内部構造に魔法プログラムに酷似した物が仕込まれていたんだ』
「魔法プログラムに酷似ですか?」
『そう、それに気付いたボク達は古い文献を漁ってようやく答えに行きついた。ソレはかつてこの世界に存在していた古代文明の物だったんだ』
「っ!?」
ここに来てまさかの超古代文明!? 古代魔法文明よりも更に古い文明が存在していたのか!
『と言ってもボク等の文明の1000年位前の文明だからそう古くは無いけどね』
十分古いです。
『彼等が使っていたプログラムは僕達が使っている魔法プログラムになる前の技術だったんだ。今となっては誰も使わなくなった技術だから気付くのが遅れたよ』
「良く気付きましたね」
「やるじゃんホネ」
「さすがですパル=ディノ様」
違和感に気付いたパル師匠を皆が褒めたてる。
いや、正直驚きだ。PCで言うなら今の窓PCしか使った事の無い世代が、昔のでっかいフロッピーパソコンの技術に精通しているようなもんだからな。これが賢者と呼ばれる古代の魔法使いの知識欲か。
『いやー、女の子と合コンする為の知識として仕入れといてよかったぜ。さすが俺』
「「「「……」」」」
余計な事を言わなければ良かったモノを。
「さすがコル師匠」
「やるーコルッち!」
「さすがはコル=フィノ様」
『あっれー? 俺ちゃんの評価はー?』
ねぇよ。
ソレはともかく、コル師匠の言葉が確かなら……
「バギャン達異世界人は元々この世界の住人で、古代魔法文明人と同じくドラゴンカイザーと相互不可侵条約を結んでいた?」
『多分ね、あの時代に文明が途切れたって話は聞いた事が無いから、彼等の時代に条約が結ばれてソレがずっと続いていたんじゃないかな』
成る程ねー。
「しつもーん」
映像が届いていないにもかかわらずアリスが手を挙げて師匠達に質問する。
「古い技術って事は私らより技術的には下な訳? 楽勝ムード?」
割と鋭い質問だ。
けどそれは……
『いや、調べた限りでは当時の文明と比べ格段の進歩がなされている。僕らの魔法プログラムとは別ベクトルで進化が進んでいった感じだよ』
成る程、別方向に進化か。あのSFっぽい装備もそう考えれば納得がいくな。
「ですが何故彼等は自分達の事を異世界人と呼んだのでしょう」
今度はミヤの質問だ。
「それはやっぱり、彼等が異世界に移住したからじゃないか?」
まぁ考えれるのはそこら辺だよな。
と言うのも、彼等の使うある魔法具を見たからなのだが。
『魂の簒奪器』彼等が他人の体を乗っ取る際に使用する魔法具だ。
身に着けた相手の肉体をこの魔法具の中の魂が乗っ取ると俺のスキルは教えてくれた。
だとすればその魂は何処から来たのか? その魂の本来の肉体は?
「多分何らかの理由でこの世界に住めなくなったかして、移住先として異世界を選んだ。けどその異世界でも住めなくなったからこっちの世界に戻ってきたんじゃ無いかな」
よくある話だがそれが一番可能性が高いんじゃないかと思う。
「師匠達はその文明の時代に何か大きな異変があったとかの情報は無いんですか?」
俺が質問すると師匠達は珍しくウーンとうなり声を上げる。
『どうかな? 僕はその頃生まれてなかったから分からないや』
『私もちょっと分からないな。まだ子供だったからなぁ』
クアドリカ師匠達でも知らないみたいだ。って言うか師匠達はアンデットになってしまっているので正直子供時代とか想像がつかん。
『俺ちゃん情報だとその時代は魔力欠乏症が流行った時代だな』
まさかのパル師匠ニュース。
「魔力欠乏症って言うとアルマの掛かっていた?」
『そそ、魔法全盛期の人間に取っちゃ魔力欠乏症はおっそろしい病気だかんな。恐らく逃げ出したのは病気が流行していた地域の連中だろう。異世界なら病気にもならないって思って逃げたんじゃね?』
ふむ、ソレは十分ありそうだな。かつてこの病気にかかっていたアルマも十歳にして命の危機に晒されてたもんなぁ。
ところでアルマはさっきから無口だな。今日は全然喋ってない。具合で悪いのかな?
と思ってアルマに具合を尋ねようとしたのだが、テンションの高いアリスにさえぎられてしまう。
「これはアレね、病気怖さにこの世界から逃げ出した連中が再び戻ってきて、この世界の支配者の座に返り咲こうとしているのね!!」
漫画の読みすぎだ。と言いそうになってしまったが、正直俺も似たような事を考えていたのでそっとしておくとする。
「話を戻すが、バギャン達バキュラーゼ人は元々この世界の住人でその関係でドラゴンカイザーも手を出せないという説が濃厚ってことで良いかな」
アリスもアルマもウンウンと首を縦に振って俺の言葉を肯定する。
「で、対策としては戦って無力化してから魔法具を引っぺがす。連中の真の目的に関しては帝国を取り戻してから直接聞くって事で」
大分ざっくりとした策だが無駄に殺したくないので現状はこれくらいか。
「となると後は帝国ね」
「あの、ご主人様。確認しますが今回の件は異世界人から帝国を取り戻すのが目的で間違いありませんね」
ミヤの言う通りであっている。けどソレが一体だと言うのだろう?
「ではエメラルダ王女に対しての意趣返しの件に関しましては私が担当させて頂きたく思います」
「何か良いアイデアがあるのか?」
俺の質問に対してミヤは笑顔で答える。
「はい、詳細をお教えしてしまうと姫君のスキルによってご主人様経由でばれてしまう可能性がありますので詳細は黙秘とさせて頂きます」
ああ、ソレが良いかもな。現状だとエメラルダのスキルとドラゴンカイザーの力で俺の思考は読まれてしまう可能性が高い。だったらミヤの言う通り完全にお任せにした方が良いだろう。
「じゃ、あたしもミヤと一緒に行動するわ。私も私なりのやり方で手伝いたいしね」
アリスもやる気のようだ。なかなか頼もしい。戦闘向けでこそ無いがアリスのスキルは使い方によっては十二分に使える強力なスキルだ。
「分かった、帝国に対しての意趣返しについては二人に任せる」
「承知いたしました」
「むわぁーかせて!!」
俺からゴーサインが出た二人は、親指を立ててサムズアップのポーズをとる。
やる気まんまんだなぁ。
「あ、そういえばエメラルダとメイド達の教育はどうなってるんだ?」
彼女達はミヤが教育しているので途中で放置されると困る。
「ソレに関してはご安心下さい。彼女達は御主人様への忠義に溢れた完璧なメイドに再教育してあります。私がいなくともそれなりの仕事は出来ますのでご安心下さい」
ミヤから手遅れ宣言が出される。そうかー、調……教育は完了しちゃったか。
貴族の娘達が、同じ女であるミヤをお姉様と呼んで叩かれて喜んじゃう教育が完成しちゃったか。
この状況をうやむやにする為にも絶対に勝たねば。うーん、後が無いなぁ。
「それとエメラルダの教育ですが、現状で私の命令ならば素直に聞きますがドラゴンカイザー様の件が有りますので私が命令すると御主人様が約束を反故にしたと判断される可能性があります。ですので現状は放置されるのがよろしいかと」
それって俺への忠誠心よりもミヤへの忠誠心の方が上って事だよな。
……いや、今は考えない様にしよう。今は目の前の問題から解決していかねば。
◆
と言う所で会議は終了した。
あんまり長引くとエメラルダ達に怪しまれるからな。
帝国に対する対策はミヤ達に任せて、俺達はバキュラーゼとの戦いに専念するか。
なお、お子様であるドゥーロはずっと寝ていた。




