ああもう! わかったから反撃しよう、な!
エメラルダはもう一回同じ台詞を言った。
「マリスはすっかり女装の似合う男の娘になっていたのよ!!」
……え……んー……いやいや。
「女装?」
「そう。ガールズファッション! 只でさえ線の細い子だったのに、女装した事で完璧な女の子になってたの! アレを初めて見た時の衝撃、分かる!?」
全然分からん。
「えーっとだな、マリス君がお前さんの婚約者に呼び出されたら女装して帰って……きた?」
「そう!!」
ちょっと鼻息荒いです皇女様。
「あー、ソレは無理やり着替えさせられたのか? それともなんかあって女装趣味に目覚めちゃった?」
『クククク、人間の業は誠愉快よな』
突然、物理的そして精神的圧力を伴った言葉が俺達を直撃する。
ソレまで無言を貫いていたドラゴンカイザーだ。
ドラゴンカイザーは心底楽しそうな声で笑っている。
アンタさっきから他人の性癖が関わる所にばっか興味示してない?
暇なのか? 暇なんだな!?
『我は時間の概念などどうでもよくなるほど長く生きておる。故に面白そうなものは何でも好むぞ。特に人間は様々な娯楽を生み出す故お気に入りだ。お前達の欲望は果てしない。終いには神の頂きにまで手をかけたのだからな』
「神の頂き?」
何の事だ? ファンタジー的に考えれば自分が神になろうとしたって事か? 太陽に近づいたイカロスとか天に届く塔を作ろうとしたバベルの塔的な? それとも現代的に考えてクローン技術とかか?
『ふむ、異界の人間もやはり業の深い生き物の様だな』
「!?」
こちらが口に出していない事を……ああ、さっき言葉にしなくても分かるって言ってたもんな。
つまりドラゴンカイザーはエメラルダのスキル『心見』の様に心が読める力を持っているって事か?
それともドラゴンもスキルを持っているのか?
ああいや、今はそっちが本題じゃない。まずはエメラルダの話を進めないと。
「あー、それでそのマリス君だけど、只単に女装趣味に目覚めただけって訳じゃないのか?」
色々と投げ出したい気持ちを無理やり落ち着かせ会話を続けるとエメラルダは被りを振って否定した。
「そ、そう言う感じじゃなかったわ。自分の意思で着ている雰囲気だった。だってすっごく着こなしが似合ってたんだもの」
ドラゴンカイザーの不意打ち気味の乱入でも意識を失う事の無かったエメラルダだったが、それでも突然の圧力に心底驚かされたのだろう。再びスカートが黄色い液体で濡れそぼっていた。もうスカートに濡れてない所は無いんじゃないだろうか?
「違うってのは?」
とりあえずそこら辺は気付かない振りをしておこう。優しさは大事。
「なんて言うのかしら。特殊な趣味に目覚めたって言うよりも、別人に、女そのものになったみたいな雰囲気だったわ。しぐさとか、興味を引く物とかとにかく女っぽいのよ」
うーむ、直接あった訳じゃないから何とも言えんが深く知る間柄だから分かる違いって訳か。
「外見は同じだけど中身が別人?」
俺の言葉にそう! と息を荒くして頷く。
「そうなのよ、本人なんだけど別人って感じなの。……でも……ちゃんと私達だけの秘密を知ってたし、マリスなのは間違いないのよ」
その秘密の内容が気になる所だが、それを聞くのは野暮ってモンなんだろうな。
けど秘密ってのは自白剤とかそれと同じような効果の魔法を使えばいくらでも知る事が出来るだろう。
「順当に考えれば件の魔法具で異世界人に肉体を乗っ取られてるって所だろうな」
「私もさすがにこれはおかしいと思って……」
「スキルでマリス君の心を読んだと」
俺の言葉にうなずくエメラルダ。
「マリスには悪いと思ったけど、スキルで心を読んだの。結果は貴方の予想通り別人だったわ。さすがに乗っ取っているのが異世界人とは思わなかったけど」
まぁエメラルダのスキルは心を読むだけだから、俺の『看破』のスキルのようにステータスが見える訳じゃないもんな。
「で、心を読んだのならなんで水晶像になんてされてたんだ?」
ズバリ重要な部分を聞いてみた所でエメラルダは苦虫を噛み潰した様な表情になる。どうやら聞かれたくなかった様だ。
「マリスの記憶から私のスキルの事を知っていたのよ。だから私がマリスの心を読んで真実を知った事がバレちゃったの!!」
目の前であからさまに動揺でもしたんかな?
あ、あかん。泣きそうな目で睨んどる。さすがにお漏らししたり泡吹いて気絶したりと皇女様カリスマブレイクしすぎてプライドが限界か。
「あー、そういやなんでマリス君はエメラルダのスキルの事知ってた訳? 帝国でも限られた人間しか知らないんじゃないのか?」
いくらエメラルダでも惚れた相手だからってポロリと教えちゃうなんて事……あ、いかん。マジ泣きそうになってる。無し無し、この話題は終わりな。
「つ、つまりマリス君の身を守りたければ大人しく捕まれって言われた訳だな。それなら仕方ないよな」
「脅迫とか無しで普通に力ずくで捕まった……」
おーう。
「私は……次期皇帝だから、自分達の指導者が……復活した時に使う……から保存する……って言われて水晶に変えられた」
ヤバイヤバイヤバイ。マジ泣き始まった。ちょっ、だれか何とかしてくれ!!
『精神に負荷を与えて気絶させてやろうか? 後で精神に異常が残るかもしれんが』
物騒だなオイ!
「却下だ却下! ああもう、分かったから、俺が助けてやるから。そのマリス君も帝国も俺が救うから、な! だから泣き止め」
「……ホント?」
へたりこんだエメラルダが上目使いにこちらを見る。こうしてみるとホント美少女なんだよなぁ。オシッコまみれだけど。
『業……』
ドラゴンカイザーさんは黙っててください。
「ホントホント、恋人も帝国も全部助けてやるから!」
「ホントにホント? 後で帝国寄越せって言わない? 自分を皇帝にしろって言わない? 帝国の国庫からありったけの財産寄越せって言わない?」
「言わないから! 何も要らんから!」
その瞬間、エメラルダはニヤリと笑った。
「聞きましたかドラゴンカイザー様! ルジオス帝国のマエスタ=クレイ=マエスタ侯爵が見返り無しで我が国を救ってくださると約束して下さいましたわ!!」
何ぃ!?
『うむ、確かに聞き及んだぞ。リスタニアの三賢者の弟子は我が子の国を無償で救ってくれるとこの我の前で断言してくれたわ』
何ぃぃぃぃぃぃぃ!!
「ふふふふふふふっ、この瞬間を待っていたわ! 私だけの力ではどうしようも無い状況で、この絶望を覆す力を持った人間が私に無償で力を貸してくるチャンスを!!」
ま、まさかコイツ。俺を誘導する為にワザと泣いたのか!?
「それだけではないわ。ドラゴンカイザー様の元に来る事も、いえ、その前から貴方は私の策に嵌っていたのよ!」
ど、どういう事だー!!
「クラフタ、貴方は通信の魔法具で自分の国の王と相談をしていたわね」
「な、何故それを!? 政治的な事はお前の前では考えない様にしていたんだぞ」
エメラルダのスキルは使用回数のあるタイプだ。常時心を読む事なんて出来ない。それを考えれば使う時を考えて温存するのが道理だ。
「あなた今、心を読むスキルは使用回数があるから使い所を考えるはずって思ったでしょう? でも甘いわね! 私はそんな事考えずに貴方の姿を見かけたら私の姿に気付く前に即スキルを発動していたのよ。だって人間考えちゃいけないって思っても考えちゃうものなんだから。私の姿が見えなければなおさらよ!」
コイツ馬鹿だー! いや俺が警戒していない時にスキルを使うのは間違いではないが、それだと本気でどうでもいい思考を読んでたかもしれないんだぞ!
「無論、大半の内容は本当どうでも良い内容だったわ。オーナの胸が凄く大きいとか、シュヴェルツェは絶壁とか」
やめろ、それは割りと本気で俺にとって交渉カードになる。
「まぁ、ルジオスが貴方の作った通信魔法具を譲渡する代わりに近隣諸国と同盟を結んだって事は有名だから、貴方が自国の王と連絡をとっているのは確信していたわ」
通信魔法具の事は各国の上層部しか知らないトップシークレットなんですけどね。
一体どこの国に入り込んだスパイが洩らしたんだ? ここら辺腐っても大国か。
「だからルジオスの王が貴方を使って帝国に借しを作ろうとしている事は分かっていたの。だからこちらの真意を悟られない様に振舞うのに苦労したわ。知ってた?私達竜人は頭の角でドラゴンカイザー様を始めとした貴龍と思念会話が出来るのよ。私はこれでドラゴンカイザー様と策を練っていたって訳」
つまりドラゴンカイザーもグルだったって訳か。松ぼっくりみたいな体してるクセにやる事はセコイじゃねーか。
『すまんなクアドリカの弟子よ。我は子孫が可愛い』
親バカか。
「ごめんなさいねクラフタ侯爵。これが政治よ!」
得意満面のエメラルダ、でもお前ドラゴンカイザーの圧でさっきから洩らしまくりなんだがソレも政治なのか?
とはいえ、これは不味い。いってみれば皇帝以上の権力者の前で貴族が見返り無しの助力を約束しちまったんだからな。しかも相手はドラゴンの王、もし怒らせたら世界中のドラゴンが敵に回る。それだけでも恐ろしいのに、ドラゴンカイザー本人(本龍?)も敵に回るのだから……
仮にも相手はドラゴンの王、松ぼっくりみたいな体をしていても……強いよな?
『ちなみに我はお前の師が三人揃っても勝てんぞ』
聞きたくなかった最新情報。つーか師匠達にも勝てん相手って居たんだな。男はドラゴンを狩って一人前とか言ってたクセに。
『当然だ。神に直接生み出された最も神に近い我と神言も満足に支配できぬ進化のなりそこないであるアンデッドでは格が違う』
……さすがに師匠達を出来損ない呼ばわりはムカつくな。だったらその弟子の俺は何だってんだ?
『くくく、お前は違うかもしれんな。なにしろお前は、お前の師達が待ち望んだ成功するかもしれない雛形なのだからな』
雛形、またそれか、そいつは一体何なんだ? それに神言ってのも。こいつは一体何を知っているんだ?
『ふむ、やはり教えられていないか。良かろう、利用されるだけではお前も面白くないだろう。ドラゴンの王たる我が知恵を授けてくれよう』
やたらと偉そうに松ぼっくりが語り始める。
『雛形については我が話す権利は無い、ゆえに直接師に聞くがよい』
イキナリ肩透かしかよ。
『我が教えるのは神言についてだ』
神言、さっきからいっている言葉だな。漫画的に考えれば真言とか呪文のような力を持った言葉だろうか? けどこの世界には魔法があるしなぁ?
『然り、魔法もまた神言に至る為に手段なり。神言とはお前も良く知る力だ』
俺もよく知る力?
『神言とはお前達人間がスキルと呼ぶ力の事だ』
「な、何だってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
この言葉が後に俺を新たな冒険の舞台に連れて行くきっかけとなるのだった。
……ま、今は関係ないけどね。
『なんじゃ、感動が薄いのぅ』
すいませんねぇ。立て続けに衝撃の展開があったんで衝撃慣れしちゃいました。
『しまったな。事件を解決させてから褒美として教えた方が驚いたか』
そんな驚かせる事に必死にならんでも。
『ここに人間が来る事は稀だからの。いや、今回の事件は良い余興になりそうだ』
子孫が可愛い割には人事なんだな。
『子供の喧嘩に親が手を出す訳には行くまい?』
思いっきり人を利用しといて良く言う。
俺の恨みがましい思念を感じ取ったのだろう、ドラゴンカイザーは愉快そうに笑っていた。
コイツ等いつか痛い目見せたる。




