竜の巣
設定ミスでアリアと馬車も龍の巣に入っていたので修正しました。
龍の巣、ソレはドラゴン達の聖地。
帝国に住まう全ての民にとっての禁忌の地。
空を埋め尽くす黒い影、赤い影、青い影、白い影。
大地を埋め尽くす緑の影、金の影、銀の影。
視界を埋め尽くすは尋常ならざる存在の群れ。
人知を超えた遥かな高みより見下ろす者。
すなわちドラゴン
今この竜の巣には、間違いなく世界を滅ぼせるだけの「数」のドラゴンが集まっていた。
◆
そんな聖地で今、無数のドラゴン達がゴロゴロと転がっていた。
なんだこれ?
その光景は、まるで獲物を加えたワニがトドメをさす際に繰り出す攻撃『ローリング』を連想させる。
「なぁエメラルダ。これって一体どんな意味があるんだ?」
「ご、ごめんなさい、私にもよく分からないわ。ドラゴンは神聖な存在だからきっと何か重大な意味があるに違い無いと思うのだけれど」
などとエメラルダは言うが、ゴロゴロ転がるドラゴン達から上がる声は「ぐぃー」とか「ぐごごごご」
とか、なんかえらい気の抜けた声ばかりだった。
ネコの喉を撫でた時のようなリラックス感というか……
その時、ある巨大なドラゴンに目が止まった。
そのドラゴンは遠目から見ても巨大で、まるで山のような巨体だった。
「マウンテンドラゴンね。一説によるとアレでもまだ子供で成体になれば巨大な山脈を形成するといわれているわ。山に狩りに出かけた猟師達が突然の地震に驚いたら、実はソレがマウンテンドラゴン寝返りだったなんて話があるくらいだから」
「へー」
エメラルダの説明を流しながら、件のマウンテンドラゴンの体、その鱗と鱗の間に見える黒いモノを凝視していた。
それは、巨大な虫だった。あえて言うならばノミ……だろうか?
マウンテンドラゴンが転がる度に巨大ノミが砂と共に転げ落ちていく。
つまりこのドラゴン達の行動は……
『砂浴び』だ。
ドラゴン達は砂漠でゴロゴロ回転する事で鱗と鱗の間に住み着いた虫を荒い落としていた訳だ。
うーん、なんかでっかいハムスターみたいだな。
◆
微妙な気分のまま、俺とエメラルダは龍の巣へと入っていく。
龍の巣に入って良いのは皇族とその伴侶だけだからだ。
お互い結婚する気はないけどな。
数百数千のドラゴンの視線が俺達を射抜く。
だが不思議と周囲のドラゴン達は俺達をじっと見ているだけで襲ってくる様子が全く無い。
ランドドラゴンやストームドラゴンと戦った俺としてははなはだ疑問だ。
「なんでよそ者を襲ってこないんだ?」
「当然でしょ、神聖な聖地を血で汚す者なんて居ないわ」
「いや、あそこにいるランドドラゴンとか問答無用で襲ってきたぞ。ストームドラゴンは人の釣った獲物を奪って行ったし」
正直言って連中の行動は野生の獣のソレだ。とてもそんな気の利いた配慮が出来るとは思えない。
「まるで実際に戦ったみたいな口ぶりね」
「ん、ああ。昔やりあった事がある」
「ふふ、良く生き残ったわね。ドラゴンと二回も遭遇して逃げ延びたなんて凄い幸運よ」
エメラルダが感心したように笑う。
そういやこの世界におけるドラゴンって、大量の人員を投入し多大な犠牲をだしてようやく勝てるレベルだっけ。
「いや、どっちも返り討ちにしたけど」
「……え?」
エメラルダの笑顔が止まる。
「いや、真正面から返り討ちにした」
「ええと……大量の戦力をそろえて万全の体制で罠に嵌めたの?」
「いや、準備は万全にしてたけど基本一対一のタイマンで倒した。ストームドラゴンはちょっと想定外の理由だったけど」
今思うとランドドラゴンもストームドラゴンもほとんど魔法薬の力だけで退治したようなモンだよな。
あの時は武器はそれなりに良い物だったけど特別な魔法具じゃなかったし、魔法も使えて中級までだったからな。 防御力低下や身体能力向上の魔法薬、それに麻痺薬といった補助系の魔法薬だけで戦っていたなんて今思うと結構危ない橋を渡っていた気がする。
古代魔法文明の魔法薬じゃなかったら絶対効かなかっただろうな。
「ドラゴンを一人で倒すなんて……本当に人間なの貴方?」
うーん、人間かといわれたら半分以上不死だけど一応人間だなぁ。まぁこの世界獣人とか居るしあんまし人間とかなんとか種族を気にする意味無いよね。
「それにしてもホント襲ってこんな」
「たぶんだけど、ドラゴンカイザー様の目があるからよ」
ドラゴンカイザー、確かヴィクツ王国を興した神祖にしてあらゆるドラゴンの王だったか。
「ドラゴンカイザー様のお膝元で暴れることの出来るドラゴンなんて居ないわ」
なるほど、群れのボスの許可無く勝手は許されないって事か。
『然り』
声が聞こえた。
その声を聞いたエメラルダが膝をつき倒れる。
膝をつきたくなる足に力を込める。意識を手放そうとする心に活を入れる。
辛うじて意識を失うのだけは避けたが恐ろしいまでの威圧感だ。
『ほう、我が声を聞いて意識を保つか。大変結構。それでこそ我が元に来るに相応しい。さすがはクアドリカ達リスタニアの3大魔導師が作り出した雛形だ』
クアドリカ師匠? この声の主は師匠達の知り合いなのか?
『然り、我こそはドラゴンの王』
俺達の前に巨大な影が姿を現す。
まさか、そんな、これは……
『我が名はドラゴンカイザー』
俺の目の前に現れた『巨大な松ぼっくり』としか言いようの無いそれは、そう名乗ったのだった。




