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騎士達の事情

「ここからが帝国か」


俺の視線の先には広大な広さの平原が広がっていた。

水晶細工の町グライトがあるエルーカ国は直径が50kmほどしかない。なのでグライトの町から数時間馬車を走らせただけでもうヴィクツ帝国との国境にさしかかった。


「店長、前方ヴィクツ帝国との国境付近に何か居ます!」


 御者台で馬車を走らせていた少女が声をあげる。

 俺が救った元奴隷の一人であるアリアだ。

 アリアとその仲間達は俺の護衛役として前衛で働く事を選んだ。

 彼女達は危険な仕事をする事で危険手当を受け取り俺からの借金を早く返済して自由になりたいらしい。

 元々アリア達は旅の行商だったので野党や魔物の相手も苦ではないと言う訳だ。

 正直前衛というか外の世界でも立ち回りの経験がある人間が居るのは大変ありがたい。

 なにしろ俺やアルマは戦闘力は高いがそれ以外の交渉事などは下手すると一般人以下だからだ。

 だから彼女達に仕事を与えるという名目で冒険者や商人の立ち振る舞いを学ばせても貰おうとこっそり考えている。

 そんなアリアの警告に従い、帝国との国境付近を見ると確かに何かが居る。

 だがまだかなりの距離がある為その詳細は掴めない。

 俺は懐の宝物庫から視力向上の薬を取り出し飲み干す。

 魔法薬の効果で俺の視力は常人を遥かに凌駕するレベルとなり、国境との境目にいる存在を確認する。


「アレは……騎士か?」


 俺の視界に移ったのは馬に乗り白い鎧を着た騎士の集団だった。

 人数は5人、巡回パトロールかな?


「この距離で分かるの?」


 後ろから声をかけてきたのはヴィクツ帝国の次期皇帝であるエメラルダ皇女だ。

 もっとも今はその身分も怪しいもんだが。


「白い鎧を着た騎士だが知ってるか?」


「白い鎧だけじゃ分からないわ。旗は? 旗の色と紋章は見えない?」


「旗?」


 エメラルダの言葉に従い旗を探す。


「あぁ、あったあった。赤色の旗だ、紋章は剣が交差した絵だな」


「赤い旗に交差した剣……第一騎士団だわ!」


 途端にエメラルダの表情が明るくなる。


「知り合いでもいるのか?」


「ええ、第一騎士団の団長はドリヴィック=ヴィクタリア、皇家に深い忠誠を誓う騎士よ。彼の部下も高い忠誠心を持っていて騎士団の中では最も信頼ができる存在よ」


 凄いフラグもあったもんだ。

 嫌な予感がビシバシするぜ。


「彼らに協力を仰ぎましょう。彼なら私と面識があるから王族の証が無くても力になってくれるわ!!」


 そろそろフラグを積み上げるのは止めた方がいいと思うんだが。


「店長どうしますか?」


 俺達が話し込んでいるのを見てアリアは馬車を止めていたようだ。

 国境沿いで騎士団が待ち構えていると分かればそりゃ警戒するってもんか。


「エメラルダはどうしたいんだ?」


 俺が受けた依頼はエメラルダを竜の巣に連れて行き、国の守護神であるドラゴンカイザーから皇帝になる許可を貰う手伝いをする事だ。

 だからエメラルダが騎士団と行動を共にする事を選ぶのならそれはそれでかまわない。

 後は騎士団がエメラルダを竜の巣へと連れて行くだろう。

 とはいえなんだか嫌な予感がするから期待しすぎない方がよさそうだが。


「まずは彼らと話をしたいわ」


 まぁ順当な答えか。現状では彼らが仲間なのかも分からないからな。


「じゃあ馬車はここにおいていくからアリア達は馬車の護衛を頼む。何かあったら即座に逃げろ。ミヤに言えばすぐに合流できるから」


「分かりました」


 ミヤの教育が行き届いているからかアリア達は特に何を言うでもなく俺の指示に従った。


「アルルも馬車で待機してくれ。騎士団とは俺とエメラルダだけで交渉する」


 心を読むスキルを所持しているエメラルダはアルマの素性を知っているが、アルル達はそうは行かない。

 だから引き続き人の居る場所ではアルマの事は愛称で呼ぶ事にしていた。


「はい、分かりました。何かありましたら直ぐにお呼びください」


 俺の実力を知っているアルマは特に不安も無いようであっさりと送り出してくれた。

 ちょっと寂しい。


 ◆


 俺達は馬車内部の異空間屋敷に格納しておいた予備のゴーレム馬に乗って国境に近づく。

 ゴーレムといっても外見は本物の馬そっくりなのでゴーレムとバレる心配はほとんど無い。 

 俺が馬を操ってエメラルダが後ろに乗る形だ。

 俺のゴーレム馬は俺が操作せずとも最適の動きを自分で選択してくれる。

 ただそこまで高性能なゴーレムを所持している事をエメラルダに知られない為、俺が手綱を握って馬を操作するフリをしていた。エメラルダのスキルでこちらの情報がある程度漏れているのは知っているが、だからと言って何でも知られて良いという訳ではない。

 それにエメラルダの心を読むスキルは使用回数の問題で常に読める訳ではない、それに読める内容も表層で意識している事だけのようだ。だから必要な時でもなければスキルの無駄使いはしない……と思う。

 だから決して背中に当たる感触を楽しむ為に二人乗りをしている訳ではない。


 ◆


 騎士達まであと500mほどまで近づく。

 すると騎士達の方にも動きが見えた。


『そこの二人組! コレより先はヴィクツ帝国の領土である!! 即座に馬を止め入国理由を述べよ!!』


 音を伝える伝声魔法を使っているのだろう。まるで大音量のスピーカーを使っているかのような轟音が周囲に木霊する。

 述べよって、この距離でこっちの声が聞えるのかな?

 と思ったらこちらに向かって騎士達がやって来る。

 ふむ、彼等の伝声魔法は一方通行か。

 指示に従いゴーレム馬を止める。


「無駄な抵抗はするな。正直に理由を話せば手荒な真似はしない」


 先頭の騎士がそういいながら馬の歩みを緩めて近づく。

 騎士達は全員が兜を被っている為に容姿の判断が出来ない。

 いわゆるバケツヘルムという奴だ。視界大丈夫なんかねコレ?  


「その声はグレイ=スーンですね」


「っ! 何故私の名を!?」


 警戒する騎士、グレイに対しエメラルダは身をずらして俺の影から顔を覗かせる。


「私ですグレイ」


「エ、エメラルダ殿下!?」


 エメラルダの姿を見て驚くグレイ。


「久しいですね、最後に会ったのは時節の挨拶のときですか」


「な、何故殿下がここに!? 殿下は正体不明の賊に誘拐され行方知れずと……」


「ええ、その通り……グレイ、私は何者かに誘拐され奴隷へと堕とされる所だったのです」


 実際には奴隷にされた挙句水晶の彫像にされてたんだけどな。


「なななな、なんですとぉぉぉぉ!? ま、誠ですか!?」


 驚きのあまりバケツヘルムが傾くグレイ。

 後ろの騎士達も衝撃の展開にオロオロとしている。

 大丈夫かコイツ等?


「幸い、こちらの方に危うい場面を救って頂き難を逃れました」


 俺が見つけた時には完全に手遅れだったけどな。


「こ、この少年が?……」


 いつもの様に疑惑というか驚きというか半信半疑の目で見られる。

 まぁ見た目は子供だからな。


「見た目で判断してはいけません。彼はとても優秀な方です、それに私だけではなく、人攫い達によって奴隷商に売られた多くの少女達も救ってくれたのですよ」


 微妙に真相とはずらして説明してるな。まぁ本当の事を言ったら既に奴隷にされた後だとバレてしまうし仕方ないか。


「おお、なんと……」


 グレイとその仲間の騎士は今だ半信半疑ながらもエメラルダの言葉を受け止め俺に畏敬の視線を送ってくる。


「改めまして、私はグレイ=スーン。殿……エメラルダ様をお救いして頂き誠に感謝いたします」

「私はレン=ヒャックです。グレイ隊の副長です」

「私はマキリ=スウ。グレイ隊の魔法騎士です」

「私はバドル=バスです。同じくグレイ隊の魔法騎士です」

「お……私はリヒャックです。グレイ隊の従騎士です」


 グレイとその部下達が自己紹介をしてくる。


「クーと言います。旅の商人をしています」


 今の俺は平民の振りをしているが貴族に名乗られた以上、こちらも名乗り返さないと失礼だ。

 とはいえ本名を名乗るわけにも行かないので偽名というか愛称で通す訳だが。


「グレイ、話したい事があるの。ドリヴィックと会わせて貰える?」


 エメラルダがその名を呼んだ途端グレイ達の雰囲気が変わる。


「どうしたのグレイ」


 グレイは苦虫を噛み潰したような顔で応える。


「そ、その……団長には……会わない方がよろしいかと」


「どう言う事?」


 グレイは一瞬躊躇った後、その理由を口にした。


「……団長は『主役症候群』にかかってしまわれまして……」


 『主役症候群』と言うと確か帝都で流行っている作者不明の物語に異様にのめりこんで自分を登場人物だと錯覚する心の病気だっけか。

 要するに厨ニ病だな。


「……ドリヴィックが?」


 エメラルダが信じられないといった顔で呟く。


「はい、『仮面の騎士青盾』という冒険物語に熱中してしまわれて。それからと言うもの、その騎士の真似事ばかりされて……」


「うそ……」


 エメラルダの気持ちも最もだが地球でも某有名アクション大作のファンが主人公のコスプレをするのも結構ある話し出しなぁ。

 まぁそう言うのは普通イベントの時や家の中だけの話で外にコスプレしたままで歩く奴なんて……いや日本に居たなぁ。確かアレはテレビにも出てたっけ。


「あの、お話から察するに今も、仕事中もそんな感じなんですか?」


 俺の質問にグレイ達が居た堪れない感じで頷く。

 あたりか。


「上司の方は何も言わないんですか? 騎士団の偉い人なら何というかその、世間体ってモンがあるんじゃないかと」


「君の言いたい事は分かる、とても分かる! そうなのだ、その通りなのだ! 我々も君と同じ事を考え総騎士団長に進言したのだ、せめて仕事中はやめさせてほしいと!」


 俺の言葉に興奮し、その時の事を語り始めたグレイのトーンが突然落ちる。


「だが聞き入れては貰えなかった。総騎士団長は仕事に支障をきたさなければ問題あるまいと、個人の趣味にとやかく言う権利もあるまいと……」


 その時の事を思い出したのか頭を抱えるグレイ。


「…………」


「…………」


 本当にいたたまれない空気だ。直属の上司が厨ニ病になってそのノリで仕事してるとかどんな拷問だよ。


「やっぱりおかしいわ」


 そりゃおかしいだろう。


「ドリヴィックはガチガチの堅物騎士よ、遊んでいる暇があったら剣の鍛錬をしたいと言い出す位の。そのドリヴィックが冒険物語に没頭して我を忘れるなんてありえない!!」


 どうかなー、人間ハマる時はあっという間だぞ。


「何かあったとしか思えない。そうよ、そうに決まってる!」


「何か根拠があるのか?」


 正直現状だと感情論だからなぁ。本当にハマってるだけの可能性も。


「実は我々も怪しく思っていたのです」


 え? マジ?


「姫が誘拐された後も『主役症候群』にかかる人間は更に増え、今では騎士団の4割が『主役症候群』にかかってしまったのです。個人の趣味の問題ですし、総騎士団長がああ言っている為に強くは言えず、というか言っても聞いて貰えない現状で」


 あー、厨ニに正論ってぬかに釘だしな。


「騎士団の4割が!? いくらなんでも異常だわ! なんでだれも是正を命じないの!? 騎士団が動かなくても大臣や他の者達も居るでしょう」


 確かに4割は異常だ。

 しっかし騎士といったら世間体を気にするモンだろう。騎士団がそんな状況で他の誰も是正しないってのは、むしろそっちのほうが異常なんじゃないだろうか?


「それが、王族の方々を含め誰一人として聞き入れて貰えず、それ所か陳情に行った者が次にあった時には

『主役症候群』にかかっていた有様でして」


「そんな……王族が何もしないなんて何を考えているの?……」


 うーん、大臣だけでなく王族まで放置か。ここまで来るとさすがに怪しいな。

 しかもクレームを言いに行った奴らまでミイラ取りがミイラになるとは。

 洗脳か? しかし洗脳ならそんな変なキャラにする必要も無いよな。

 むしろ変なキャラにする必要があった?

 これは一度調べてみた方が良いかもしれないな。

 このままだと竜の巣に行ってカイザードラゴンから皇帝になる為の許可を貰う事自体意味の無い事になりかねない。

 なんとなくだが、その黒幕に心当たりがあるのだ。


「エメラルダ、一度そのドリヴィックという人と会ってみよう」


「いや、今の団長に会うのはやめた方が良い。最近では少しでも怪しい人間を見ると悪の組織の一員だと言って捕獲を命じるのです……」


 ソレもう強制的に仕事をやめさせた方がよくね?

 おそらく総騎士団長とか言うのが陳情を握りつぶしているんだろうけど。

 きっと捕らえられた人間も件の病にかかってるんだろうな。


「俺はドリヴィックという人が本当にただ物語にハマっているのかが気になるんだ。もしかしたら帝国は俺達の予想以上に良くない状況になっているかも知れない」


「何か思い当たる事があるの?」


 エメラルダの言葉にうなずく。


「ちょっと前にこれに近い状況になっていた国をみてね。もしかしたら帝国でも同じ状況なのかもしれない」


 多少ケースは違うが結果として国が病んでいるのはあの時と同じだ。

 連中が組織的に動いているのならかならず帝国にも居る筈。

 

「情報を得る為にも虎穴に入る時だ。少々手荒い事になるかもしれないけどね」


今度はこちらが攻撃するターンだ。

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