ぬるま湯の決闘
物理で説得
「今のうちに認めればこれ以上恥を掻かずにすむぞ少年」
向かい合ったレノンがそういってくる、まぁ向こうから見ればこっちは詐欺師だからなぁ。
「こっちはアルケミストなんで道具を使いますが良いですか?」
「かまわん、全力で来たまえ」
10mほど離れた位置でレノンが剣を構える、こちらは宝物庫から数本の試験管に入った薬と武器をマントの内側から取り出したように見せかけて出す。
マジックボックスはそれなりに貴重なのでひけらかすことも無いだろう。
「その変な道具が君の武器か?」
俺の武器を見てレノンが不思議そうに聞いてくる。
俺の武器『七天夜杖』、パルディノ師匠とコル師匠の教えを受けて自分で作った俺の専用武器だ。
一見すると巨大な宝石が両側面についた金属塊だ、だが俺の魔力に呼応してパーツが展開し杖の形状を取る。
「なんと!杖となったか」
俺の武器を見て驚愕の表情を見せる、こちらがマジックアイテム使いと判ったからだろう。
魔力の篭った魔法剣程度なら現代のアルケミストでも作ることは出来る、だが自動で形状を変化させる武器など魔法文明が崩壊し多くの技術を失った現在の技術では早々作れるものではないからだ。
「なるほど確かにそれなりの実力を持っていると見える」
古代文明の技術で作られたマジックアイテムは総じて強力な武器が多い、七天夜杖も何かあると見ているのだろう。
「だが」
レノンが倒れこまんばかりに前傾姿勢をとる。
「武器の性能が優劣を決めるわけではない!!!」
その叫びとともに突撃してくる、早い、1足で3メートル近く跳んだ。
だがこちらも見ているだけではない。
「ウインドシューター!!」
風の魔法で2本の薬を飛ばす、薬の中身を警戒しレノンは同然避けようとするがウインドシューターの魔法を追い抜いて後から放った魔法が飛び越えてくる。
中級風魔法の「ブラストシューター」だ、完全に虚を疲れたレノンはブラストシューターに当たり動きが止まる、その隙に軌道を修正したウインドシューターに乗った薬がレノンに降りかかるが薬が当たる前に剣ではじかれる。
はじかれた事で試験管が割れ剣に薬がかかる、狙い通りだ。
「連続で魔法が使えるとはスキル持ちか!?」
「さあね」
魔法を唱えた後は発動硬直と言う硬直時間がある、この硬直時間中は魔法が発動できないのだ、ほんの2.3秒だが戦闘中には大きなラグとなる。
ラグを発生させない理由をを無詠唱スキルと考えたのだろう。
だが違う、七天夜杖の魔杖モードは魔法の増幅、詠唱補助をしてくれる、これでわずかな発動硬直のみで連続して魔法を使える様になる。
しかもブラストシューターは威力速度共に上なのでこうして先にはなった魔法を追い越す曲芸が出来る。
次の薬を構えるがすでにレノンは行動を再開していた、更に3メートル跳んで来る、のこり4m。
薬を投げる、避ける、残りを2本同時に投げる、更に避ける足が地に着き再び跳躍が行われようとする。
瞬間レノンの動きが止まる、最初にかけた薬が効いてきたのだ、薬の名は麻痺薬だ。
七天夜杖を剣モードに変形させ魔力を込める剣モードの能力は込めた魔力を刀身の任意の方向に射出できることだ。
レノンの反対側の刃から大量の魔力が吹き出り、魔力のブースターで刀身を加速させレノンの剣に叩きつける。
動けるようになったレノンだが回避は間に合わない、子供の腕力なら受けきれると判断し受けに回るがこちらはそれが狙いだ。
先ほど薬が掛かった箇所を狙い刃は吸い込まれるようにレノンの剣を両断した。
「っ!!!馬鹿な!!」
レノンの剣を切り裂きその勢いのまま地面にぶつかった剣をバウンドさせレノンの首に突きつける。
「終わりです」
静寂が場を包む。
「そこまで!勝者クラフタ!!」
フィリッカが俺の勝利を宣言すると周囲の野次馬達が歓声を上げる。
なにしろ小さな子供が騎士に勝ったのだ、しかも結果は瞬殺完封だ、レノンは負けを認めていないがこの状況なら勝敗は誰の目にも明らかだ。
フィリッカはあえて宣言することで状況を進めたようだ、レノン達が食い下がれない様に周囲の野次馬達を巻き込んで。
「負けたら認めるって言ったわよねレノン」
だが当のレノンは折れた剣を見ながら呆然と立ち尽くしていた。
「ちょっとレノン?」
「え、あつ、はい・・・・そうですね、私の負けです」
「?認めるのなら良いのだけど・・・」
明らかにさっきまでと比べて様子がおかしい、剣を見たままボーとしている。
「あー剣が折れちまったからなぁ」
「なにか知っているんですか?」
知っているのかトロス!!
「いやね、まえに酒の席で隊長の剣は代々伝わって来た家宝だって自慢してたからさぁ、それが折れちゃってショックなんじゃないかなぁ」
「ちょっとクラフタくん、やりすぎたんじゃないの?」
「いやいやこっちは一方的に巻き込まれたんだよ、むしろ正当防衛だよ」
「なにそれ?」
異世界人の辞書に正当防衛の文字は載っていないようだ。
正当防衛とはいえなんか悪い事したなぁ、後でちょっとフォローしておくかな。
「まぁ勝ったら認めるって言ったのはそっちなんだからもう文句は言わないわよね」
「ええ、負けは負けです。姫に従いましょう」
「もともと姫を探すのが目的ですしね」
「それにアルマ様の御病気を直せるのですからな」
「ええ!」
「いやいや」
保証は無いって言ったろうに。
一応釘をさしておくか。後で逆恨みされたらたまらないし。
「保証は無いですよ、あくまで可能性があると言う話しですから」
「それでも可能性があるなら賭けるしかないわ!私のコインは全て君にベットしたのよ!!」
「最善は尽くすけどね」
「クラフタ殿!!」
少年から格上げされてるな。
「先ほどは申し訳無い」
「まぁ、実際子供ですから」
「いや、相手の実力を判断できなかった私の未熟だ。
姫をお連れ頂き誠に感謝する、そしてアルマ様の事をよろしくお願いいたします」
「さっきも言いましたけど保障はありませんよ」
「ですが全力を尽くしてくださるのですよね」
「じゃあちょっと本気を見せますか」
「?」
「レノンさん剣を貸してただけますか?」
「かまわんがこの剣はすでに死んでいる」
レノンの言うとおりだ、この剣からは魂が失われている。
この世界では生物以外のものにも魂が宿る、文字通り道具に魂が吹き込まれるのだ。
だから壊れて魂が失われた道具はもう使い物にならない、直してもなぜかまともに機能しないのだ、もしかしたらコレも名前やスキルに関係あるのかもしれない。
「ええ、ですから新しく作り直します」
「作り直す!君はアルケミストではないのか?」
「アルケミストですよ、ただ少し多芸なだけです」
「なんと」
「その剣、預けていただけませんか?」
さすがに家宝だった剣を作り直すからよこせとは言えんし持ち主の許可は必要だ。
レノンは少し逡巡したのち剣を鞘ごとベルトから外す。
「また、戦えるようになるのか?」
「直すことは出来ませんが生まれ変わらせることなら出来ます」
「ありがたい、ぜひ頼む」
レノンは今度こそ躊躇せずに剣を渡してくる。
「ここじゃ作業できませんから人の来ないところにいきましょうか」
「それなら良い所があるよ」
トロスが声をかけてくる、では彼に任せよう。
て俺達はトロスの案内で町外れの森の中にある猟師小屋にいた。
「姫様を探している時に見つけたんだ、猟師が狩りをする時ぐらいしか使わないからちょうどいいだろう」
「ここなら丁度良いですね」
俺は宝物庫の中からパルディノ師匠にもらった簡易鍛冶工房を取出す、コレは溶鉱炉等の鍛冶に必要な機能だが十分なスペースが確保できない人間の為の簡易機材だ。
本格的な鍛冶場に比べれば劣るが今回の用途には十分使用に耐えられる物だ。
「袋からこれほど大きな道具が!!」
「もしかしてアイテムボックスか!?」
「ほう、コレは驚いた」
レノン達が口々に驚く、本当は宝物庫です。
簡易工房を起動させてから剣を分解する、そして分解した刀身を工房の素材投入口に放り込む。
その様子をレノンが複雑そうな顔で見つめている。
簡易工房から熱が出てくる、鉄を溶かすために高熱を発しているのだ。
更に宝物庫から素材を取出す、属性石の結晶とその触媒のミスリル鉱石だ、折角なので属性を色々盛り込んでしまおう。
単純に属性を盛り込むとメリットだけでなくデメリットも取り込んでしまう、そのため盛り込むのは一つずつ、触媒のミスリル鉱石と反対属性の属性薬を混ぜ込み属性のデメリットを可能な限り
打ち消す。
全ての属性石を調整する頃には剣の鉄も解けてきて受け皿に流れ込んでくる、ここで更に素材抽出スキルで不純物を減らし鉄の純度を上げる、スキルの使用もこの簡易工房の機能と思ってくれるだろう。
魔法で刀剣のイメージをしながら剣製を行う、魔法の製剣には鎚は不要、プログラムが勝手に剣を作りだしてくれる。
ただしこの術式はパルディノ師匠がコル師匠に頼んで作らせたプログラム、通常のプログラムよりも遥かに精度が良い。
それはつまり細かい調整が出来る、自由度が高いと言うことだ。
精製した鉄を棒状に伸ばし、熔けた属性石をかけるように混ぜ込んでいく。
刀身にプログラムを追加して魔力を消費することで各強力な属性の攻撃が出来るようにしておく。
剣の純粋な出来は一流の鍛冶職人に劣るが剣に属性や魔法攻撃を仕込める物は少ないのでその分では上回っている。
そして完成する刀身、元の剣に付いていた金具や柄を流用して組みなおしていく。
完成した。
「出来たよ」
「「「もうですか!」」」
剣の完成に皆驚く
さてこの属性剣名前は何としよう。
「レノンさん、この剣の名前どうしますか?」
「名前ですか?」
「まえの剣と同じなのも芸が無いでしょう。」
「名前・・・か・・・」
そう言って悩んでしまう。
「クラフタ殿」
「はい?」
「貴方につけていただきたい」
「俺にですか?」
「この剣は貴方の手によって生まれ変わった、ゆえに名も貴方につけてほしいのだ」
「名前ですか・・・」
ふむ、この剣は地水火風の4属性持ちでさらに魔力さえ消費すれば初級よりも弱いがかろうじて各属性のシューター系魔法が使える。
その剣の名前は・・・
「ザ・シーズンと言うのはどうでしょう?」
四季をつかさどる属性剣と言う意味だ。
「ザ・シーズン、素晴らしい名前だ」
「この剣は4つの属性を宿しています、それゆえどの属性の敵と相対してもそれなりに戦えます、また魔力を通せば各属性のマジックシューターを発動させることが出来ます。」
「コレを私が受け取って良いのですか?」
「ええ、コレは元々貴方のものですから」
「・・・つ・・・・クラフタ殿!!」
「なんですか?」
「感服いたしました、これほどのものが作れるのです、アルマ様のご病気もきっと治せることでしょう」
いや、失敗の可能性もあるんだけどね。
「それではすぐに町を出ましょう」
なんかドサクサで一緒に旅をすることになっているな。
「その必要は無いわ」
フィリッカが口を挟んでくる。
話は彼女に任せて俺は簡易鍛冶工房をしまう。
「アルマの治療は急務よ、私達は急いで戻らないといけな」
「ですから我々が馬車を用意します」
「それよりももっと早い物があります、クラフタ君!!」
「ん、何?」
片付けが終わった頃を見計らってフィリッカが話しかけてくる。
「飛翔機を出して」
「ん?了解」
言われたとおりに出す。
「コレがどんなものか教えてあげる、クラフタ君飛んでる所を見せてあげて」
「はいはい」
レノン達を信じさせる為飛翔機は宙に浮かぶ。
「「「「おお!何と自然に空へ」」」
そして前進する。
「クラフタ君もっと上まで上がって見せて」
「了解」
言われたとおりに高度400m位まで上がる
「このまま南南西の方角までかっ飛ばして」
「パラシュートと命綱は」
「もう付けてる」
「じゃ行くよ」
フィリッカの指定どおり磁石を見ながら南南西に飛ぶ、そして数分経った頃。
「で、いつ戻るんだ?」
「今戻ってるわよ」
はっ?何を言っているんだこいつは
「いや皆が待っているのは町だろう?」
「違うわ、私が戻る場所は向こうよ」
そういって南南西を指差すフィリッカ。
まさかコイツ・・・
「さぁ!つまらないアクシデントに巻き込まれたけどさっさと帰るわよ!!」
コイツ!!お供の騎士達を無視してさっさと帰るつもりだ!
「いざ!!王都ルジオンへ!!」




