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怪盗対探偵

 水晶祭で展示された水晶細工が収められた貴族の屋敷のとある部屋。

 そこで対峙する怪盗とカエル男。

 凄い絵面である。

「……」

「……」

 俺達は無言で対峙していた。

「おい……」

 沈黙に耐え切れなくなったのは怪盗の方だった。

「なんだ?」

「いい加減そのイカれた格好を辞めろ!」

 お前に言われたくはないわ。

「いやなら力ずくで脱がして見せろ」

 せっかく正体がバレないように変装したのである。わざわざ脱ぐ奴もいまい。

「ではそうさせてもらおう」 

 意外にも怪盗は俺の挑発に乗ってきた。

「そう簡単に出来るかな」

「出来るとも、いや、もうしたと言うのが正しいかな」

「は?」

 気が付くと怪盗は手にカエルを模したヘルメットを持っていた。

 そのヘルメットは俺の作ったケロッグ君にそっくりであった。

「ほう、これは可愛らしい少年ではないか」

「っ!?」

 慌てて自分の顔を触る。だが無い、ヘルメットが無い。今まで被っていた筈のヘルメットが無くなっていた。

「貴様何をした!!」

「ああ、これかね?君の頭に乗っていたのでちょっと借りたのだよ。だが私の琴線には触れないようだ。返却しよう」

 そう言ってヘルメットを放り投げてくる怪盗。

 俺は平静を装いつつ、ヘルメットを受け取りながら『看破』のスキルを発動する。だが……

『アンノウン』

 結果はこれだ。恐らく隠蔽系の上位スキルを持っているのだろう。俺の看破は防がれてしまった。

 現状で分かった事。

 コイツは俺に気付かれる事なくヘルメットを奪う事の出来る知覚できない能力を持っている。

 第二に看破のスキルを無効化出来る。特に二つ目がヤバイ。

 俺の看破は人間の限界を超えたスキルに成長した。使い方を誤ればこの身が破滅するレベルの力だ。

 だがコイツはそれを無効化した。俺が無意識に出力を低下させた可能性はある。だがそれならこちらが出力を上げればよいだけの話だ。

 そう、こんな話をしている事から分かる様に、今の俺は『看破』のスキルの出力を上げているのだ。

 既に周辺の景色のステータスが見え始めている。だがそれでも目の前の男のステータスは『アンノウン』だった。

「お前何者だ?」

 正に心からの疑問だった。

「我が名を聞くか少年よ。……よろしい、ならば答えよう。われこそは七つの天より飛来せし夜の支配者。世界のあらゆる宝を手に入れる者!! そう! 我が名は!!」


 怪盗がバッと杖を持った手を上に上げる。


「怪人黒紳士!!」


 怪人と来ましたかー。

 猛烈に冷めていく心。


「……どうしたのだね少年? こういうときは「何ー!」とか「な! 何だってー!!」という所であろう?」


 どう言う所だそれは。


「やれやれ、怪人の名乗りに答えるのは探偵のマナーだろうに」


 やれやれと方をすくめる怪盗こと怪人黒紳士。


「誰が探偵か」

 

「少年はアレだろう? 少年探偵、そしてその珍妙な格好も探偵七つ道具なのであろう?」


 オイオイ。まさかとは思っていたが、まさかコイツ日本人か!?

異世界デビューでハッちゃけちゃったのか?


「宝の展示場に突如現れた怪盗!! そして怪盗の犯行を止める為に現れた少年探偵!! くぅぅぅ!! 予告状を出して正解であったわ!!」


 そんなモンを出しとったんかコイツは。

 コレは日本人確定くさいな。


「とにかく、ここにある品は……あ、いや持ってっても良いけど一点の彫像だけ置いていってくれ。そうすればこちからは何も言わん」


 盗難現場を放置するのもどうかと思うが、よくよく考えたらそこまで世話をする義理もない。

 それに当の俺もやってる事はコイツと同じなのだ。ならばこれ以上波風立てずに彫像にされた最後の娘を助けるべきだろう。


「ほう、つまり少年は探偵ではなく私と同じ怪盗だという事か?」


「どう捉えてもらっても構わん」


「ふむ……」


 怪盗、いや怪人黒紳士は顎に手を当てて考え出す。


「うむ、決めたぞ」


 黒紳士がこちらを見る。


「欲しければ力づくで奪うと良い」


 そう言ってマントを翻す。


 そして、翻ったマントが地に落ちた後には、部屋に有ったはずの全ての水晶細工が消えていた。


「なっ!?」


「少年と私は同業者、ならばお行儀良く譲り合う義理など無い。そうだろう?」


 やってる事は只の犯罪だが、その手口は正しく怪盗だ。一体何をやったのか皆目見当も付かない。

 どうやら本気で厄介な相手に遭遇してしまったとみえる。

 他の水晶細工はどうでも良いが、彫像にされた娘だけは助け出さないとな。


 懐の宝物庫から捕獲用意のネットガンを取り出す。

 黒紳士に照準を合わせ引き金を引く。その瞬間、無音で折りたたまれた捕獲用ネットが飛び出す。

 ネットは即座に広がり、半径五mを多いながら黒紳士に飛び掛る。そしてネットは……

 

 俺を捕獲した。


「…………は!?」


 ど、どういうことだ? 黒紳士を捕らえようと放った筈なのに、何で俺が捕まっているんだ?


「おやおや、何を遊んでいるのかね?」


 黒紳士がおどけた様子で笑う。

 俺は懐から切れ味を魔法のナイフを取り出しネットを切り裂き脱出した。


 黒紳士から何かをしようと言う動きは無い。こちらの反応を楽しんでいるみたいだ。

 だったら今度はこれだ。

 俺は宝物庫から七天魔杖を取り出し、スタッフモードを展開する。

 改良した七天魔杖スタッフモードは魔力をこめるだけで地水火風の四属性の上級魔法を発動する事が出来る。最近周囲の魔法使いのインフレが酷い気がするので此方もパワーアップは必須なのだ。


 場所が場所だけに燃える火属性は却下。密室なので強力な風属性もよろしくない。屋敷が吹き飛ぶ。土属性も床に穴が開く。となれば残るは水属性だ。

 俺は上級水属性魔法、ハイドロシュトロームを発動させる。

 この魔法は術者を囲む様に周囲をリング状の水輪が複数展開し、其処から水圧カッターを全周囲に向けて乱射する魔法だ。部屋がボロボロになる?

 問題ない。水圧カッターの刃は極うすなのでバレないバレない。

「行け!! ハイドロシュトローム!!」

 部屋の中で大量のカッターが飛び交う。さしずめそれは水の手榴弾だ。

回避しようもない密度の攻撃をどう避ける?


 黒紳士に高圧カッターが向かっていく。

 だが黒紳士は回避する様子も見せない。

 オイオイ、まさか避けないつもりなのか?

 そのまさかだった。

 とうとう黒紳士は水圧カッターを避けもせずに直撃を受ける。

 マズイやっちまったか!?


「うーん、驚いたのだよ」


 だが其処には傷一つついていない黒紳士の姿が合った。


「な!」


どう言う事だ!? 避けるでなし、耐えるでなし、確実に直撃した筈なのに何故か黒紳士は無傷だった。


「さて他に手はあるかね少年」


 そう言って両手を広げた黒紳士の袖から赤いものが滴り落ちる。なんだ?

 其処に落ちたのは、赤く萌えるゲル状の物体だった。


「何だそれは!?」


 落とした事に気付いた黒紳士は慌ててソレを懐にしまいこむ。


「いかんいかん」


 だが俺は見た。見て調べた。俺のスキルでそれが何なのか理解した。


『ファイアスライム

 文字通り燃えるスライム。燃えるが死ぬことは無い。体の表面に高温の炎を発生させる特殊な粘液が分泌されており、触れるモノを瞬く間に焼き尽くす。

 素材は火属性の薬、魔法具の作成に広く利用できる』


 なるほど、コイツを体に纏わせる事で水圧カッターを蒸発させたのか。

 しかし、そんなこう高熱の魔物をどうやって纏っていたのか?

 もしかしてそれもコイツのスキルなのだろうか? うーん、ステータスがアンノウンに成っていなけりゃな。

 大星剣メテオラで切れば相手のスキルを奪える可能性もあるけどこいつの能力が分からない以上、もしもヘルメットの時の様にメテオラを奪われかねない。



 どうしたモンかと場が硬直する。

 そんな時だった。外から声が聞こえてくる。


「おお、どうやら騒ぎすぎたようだな。ふむ、これ以上ここに居ても無意味か。少年、私はこれで失敬させてもらうとしよう」


「まて!」


 こうなっては仕方がない。俺は彫像が水晶にされた人間であり、その少女を救う為に潜入したのだと告げる。

 こちらの事事を一方的に教えるのは下策だが、コイツの能力は未知数だ。

 うかつな事をして逃げられるわけには行かない。それに黒紳士と真正面から戦うのには情報が少なすぎる。

 コイツと戦い続けたらそれこそ決着が付くのは何時になるやら。すくなくとも、コイツの能力の謎を解明するまでは全面戦争になるのは避けるべきだろう。

 黒紳士の様子を見る。すると黒紳士は体を小刻みに震わせながら涙を流し始めた。


「なんという悲劇!! まさかそのような悲しい真実がこの彫像にあったとは!!」


 オーバーアクションで俺の話に涙を流しながら彫像の少女に憐憫の感情を寄せる黒紳士。

 これはチャンスか!?


「あ、ああ、そう言うわけだから彫像を……」


「しかし断る!!」


「何でだよ!!」


 いい加減面倒に成ってきたな。


「その悲劇、美しすぎる!! 永遠に美しき水晶となって生き続ける少女、だがそれ故に正に我が宝にふさわしい!! そして私は感動したぞ少年! やはり君は探偵であったのだな!!」


しまった、逆効果だったか。 と言うかコイツにとって正義に属する相手は何でも探偵枠なのだろうか?


「はははははははははっ!! 彫像が欲しければ私を追ってくるが良い!! 待っているぞ少年よ!!」


 ノリノリで叫ぶ黒紳士がマントを翻すと、そのままマントは地に落ちること無く黒紳士を包み込んでいき、マントはどんどん小さくなって最後には消えてしまった。


「転移スキル!?」


 魔法にしろ、スキルにしろアイツは転移能力が有るって事か。

 さては俺からヘルメットを奪ったのもその能力が原因か。


「くっそ、逃げられた」


 領域スキルを使って見るもココから逃走する反応はない。完全に逃げられてしまった。

 後に残ったのは俺と、全ての荷物が奪われたからっぽの部屋だけだった。

 外の音がどんどん近づいて来る。このままだと俺の姿も見つかってしまう。

 ここはひとまず撤退だ。


 ◆


 倉庫となっていた部屋から転移装置を起動させ、俺は馬車の中にある魔法の屋敷に戻ってきた。

「完全にやられたな」

 今回は俺の負けである。だが次はそうはいかない。

 次に有った時はスキルを使うまもなく無力化させてもらう。


「お帰りなさいませご主人様」


 俺が帰っていた事に気付いたミヤが出迎えに現れる。


「ただいま」


「お食事に致しますか?お風呂にいたしますか?」


「いや、このまま宿の方に帰る。アルマを待たせているしな」


 そう言って宝物庫にケロッグ君をしまおうとしたのだが。


「ご主人様、背中に何か付いていますよ」


そう言ってミヤは俺の背中に付いていた物を取って見せる。


「コイツは……」


 それはカードだった、漫画に出てくる怪盗が警察やマスコミに送りつけるような、


「予告状か」


 其処には次の犯行予告について書かれていた。


『予告状、ヴィクツ帝国の宝、金糸鳥を頂きます』


 正しくそれは怪盗からの予告状だった。


「つまりヴィクツ帝国に来いって事か」


 犯行日は一ヵ月後、それまでに帝国に来いって事か。


「面倒な事に成ってきたな」


 貴族娘達を故郷に返し、お姫様を龍の巣に連れて行って試練を受けさせ、そして怪盗から少女を助け出すと。

 文字通りフラグが立ってきた感じが凄いな。

 明らかに作為的なものを感じる。

 問題は何処が作為で、何処が偶然かだ。

 これは問題を解決するだけで無く、情報を集める事も重要になってきたな。


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