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ダンスオブマッチョ

「そろそろかな」


 レドウが言っていたパレードを見る為なのか、多くの人達が大通りに集まって来た。

 親子連れや恋人達が多いが何故か男性同士、女性同士の集団も目立つ。いや普通に友達同士と考えれば普通なのだが、何故か彼等の距離はやたらと近かった。


「サーヤ、もうすぐ始まるわ」


「やだ、ユリン、近いってば、見られちゃうよ」


 とか


「今年も一緒に見にこれたな……」


「安心しろ、来年も、そのまた来年もだ」


「ああ……」


 とか言って手を握っていたりもして……

 あれか? この国はそう言うのに寛容なのか? 異世界のアレ事情はよく分からんが。

 もしかして入り口で見た筋肉ムキムキのマッチョマン達もそういう人達だったのだろうか?

 だとしたら世も末だ。



「クーちゃん! カキ氷買って来ました!!」


 なんともいえない光景に複雑な思いを馳せていた俺の元に天使が帰ってきた。

 何だろう、すごく心が洗われる。

 アルマとシュヴェルツェ、そして俺はパレードを楽しむ前に色々と露天を巡って買い食いを楽しんでいた。幾つもの出店を巡ったが。大量の食事も三人で食べればすぐ無くなる。

 今はデザートのカキ氷を二人で買ってきてくれた所だ。


「このカキ氷と言うものもなかなか面白い食べ物ですわね。魔法で作った氷をわざわざ砕いてジュースをかけるなんて。大した栄養にもならない物を娯楽の為だけに口にするなんて本当に無駄な行いですわ」


 と、言いつつ美味しそうにカキ氷を食べるシュヴェルツェ。


「私はタコ焼きと言う丸い食べ物が美味しかったです」


 アルマは元々食が細いので一口サイズの食べ物が好みに合ったようだ。


「私はりんご飴が良かったですわ、あの属性石のような見た目は素敵でしたわ」


 シュヴェルツェは味より見た目にこだわる性質のようだ。アリスの魔王亭で出している高級懐石風料理を好みそうだな。 

 水晶祭に来て気付いたことだが、この町の出店はエライ日本風だ。たこ焼きやりんご飴なんて完全に日本人の感性だろう。そう思って出店の店主に聞いてみたのだが、この祭りで初めて水晶祭を行った人物の発案した食べ物らしい。

 それが物珍しかった事もあり、祭を見に来た客に大ウケ、以後祭の定番となったそうだ。

 発案者の名前は「ササキ=シンノシン」と言い、数百年前のある日ふらりと町にやって来た旅人だったらしい。

 町の前で行き倒れていた彼を町の人達が助け、彼はその恩返しとして町を襲う盗賊から人々を守ったのだそうだ。

 そして盗賊を倒して数日が経ったある日、突然いなくなってしまったという。

 この町を囲む盗賊避けの壁も彼の指示なのだと店主は語った。

 名前からしてササキ=シンノシンは日本人だろう。……つまり数百年前からこの世界と日本には交流があったという事だ。

 異世界人と直接交流が出来るのは、転移装置がルジウス王国、そして生ける古代文明にして転移魔法の権威イザー=アザー。

 可能性で考えるなら過去のルジウス王国に呼ばれた日本人と考えるのが妥当だろう。

 可能ならばルジウス王国の日本人リストを見せてもらいたいもんだ。

 あと異世界人のチョイスの基準も。いくらなんでもラーメン屋でスカウトするなんていう、アレなチョイスは無いだろうし。


「クーちゃん、音がします! パレードが始まったみたいですよ!!」


 アルマの声で現実に帰って来た俺は顔を挙げパレードの音がする方向に視線を向けた。

 始めは音だけしかしなかったが、町の奥、貴族街の方から、魔法によるモノと思われるカラフルでハデな光の乱舞がこちらに近づいて来た。

 光が近づくに連れて観客の声が大きく広がる。


『オオォォォォォォォォォ!!』ォォォォォォォ!?』


 ん? 何か変な音程が混ざったような気が?

 そうこうしている内にパレードの本体が見えてくる。

 

「あれがレドウの言っていたパレー……ド?」


 それは美しいダンスだった。

 水晶のドレスは遠くから見ても美しく、ソレが鳥の様に舞う姿は幻想的だった。

 無色透明のドレスはカラフルな魔法光によってさまざまな色に変化して行く。

 遠目から見ても美しい鳥の輝きに観客達がため息を漏らす。

 本当に、小難しい理由無しに美しかった。


 近くに来るまでは。


 それは『筋肉』だった。

 それは美しい水晶のドレスを着ていた。

 それは漢だった。生物学的な意味で。


 ソレを見たカップルは悲鳴をあげた。

 ソレを見た子供は泣いた。

 ソレを見た赤子は引き付けを起こした。


 大惨事であった。


 彼等は『筋肉ムキムキマッチョマン』の集団だった。 

 俺が町の入り口で見た漢たちだった。

 彼等はダンサーだったのだ。


 キレの良い動き、一糸乱れぬ統一感、常に笑顔を浮かべた『筋肉ムキムキマッチョマン』が美しい鳥を模したドレスを着て踊っている。それはシンクロナイズドスイミングの様に統一され、クラシックバレエの様に定められた動きで我々を魅了した。ダンスだけなら。


 考えても見て欲しい、いくら上手くとも『筋肉ムキムキマッチョマン』の集団がキラキラの女物のドレスを見に纏い、汗を撒き散らしながら一糸乱れぬ動きでダンスを踊りながら行進する光景を。


 シュールを通り越してホラーである、しかも笑顔。


 だがこの光景を見て微動だにしない人物達がいた。

 出店を開いている たこ焼きとイカ焼きの店主達だった。基本出店の主の八割はこの町の住人だ。

 彼等はこの光景を見ながらノンビリと批評を行っていた。


「いやー今年も一見の客が驚いていますなー」


「はっはっはっ、当然でしょう。自分が見たモノを他人にも進めたくなるのが人情と言うモノ。ソレがコレなら尚更です」


 つまり自分の見たスゴいアレな光景は、他人には内緒にして「スゴイ」とか「一度見たら忘れられない」とか言って言葉巧みに祭りに参加させ驚かせる負の連鎖が生まれているらしい。

 それ罰ゲームですやん。


「そういえば、今年のドレスはパクトガ老ではなくその弟子の作品のようですな」


「ああ、そうでしたか。道理で彼の作品と比べると甘さが目立つと思ったら」


「ですが失敗を恐れない良いデザインだ。思い切りの良さは師匠譲りですな」


「確かに、これなら若い者にも仕事を任せられる」


 どうやらこの祭りは毎年こういう出し物で締めるのが慣わしのようだ。


「あのー、この町のダンスパレードっていつもこうなんですか?」


 俺が店主達に声を賭けると、二人は少し驚いた顔を見せたがすぐに笑顔で答えてくれた。


「「ああ、コレがこの町の名物、漢暗黒鳥祭りだ!!」」


 名前から言ってダークフェニックス関係なのだろうか?

 と思ったら店主達が懇切丁寧に教えてくれた。


「このダンスは水晶と森の守護者であるダークフェニックスに捧げられるモノでな、あのドレスもその為の物で、この町一番の職人が時間をかけて最高の物を作るんだ……といっても今年はちょっと事情があって、そのお弟子さんの作品なんだけどね」


 たこ焼きを焼いていた店主が答えるとイカ焼きの店主が言葉を続ける。


「だがその未熟故の荒さが勢いを呼んでいる。コレはなかなかに見ごたえがある出会いの舞だ」


 曰く、このパレードは水晶の森に住むとされる森の守り神ダークフェニックスと水晶を取りに来た人間との出会いを表したダンスらしい。

 そして祭の目玉となる様にと、水晶のドレスを作ったら……誰にも着れない粗大ごみが出来上がった。

 女性ダンサーだけで無く、男性のダンサーでも、このドレスを着る事は出来なかった。 

 だが重量を減らすとせっかくのドレスの美しさが半減してしまう。

 製作者はどうしようかと途方にくれていたが、ふとある事に気付いた。

 そうだ、誰にでも着れる様にすると出来が悪くなるのなら、誰でも良いから着れる人間を探そう、と。

 そこで集まったのが『筋肉ムキムキマッチョマン』の集団だった訳だ。

 もうそこで前提がおかしいが、視野狭窄に陥った人間と言うのは、時に不合理と言う言葉では説明の出来ないレベルでなんかやらかしてしまう。

 この件はまさにソレだ。なぜ誰も指摘しなかったのだろうか?


 そして運が悪かった事に、当時の人達がソレを面白がってしまった。斬新だと言って。

 以後『筋肉ムキムキマッチョマン』のパレードはこの祭の定番にとなって、この町は無駄に繁栄したらしい。

 そんな中、ふと隣の二人が、この異常な光景をどう思っているのか気になった。

 まずはアルマ。


「スゴイですねー、とっても綺麗です」


 どうやら生まれ育った環境が特殊だった所為か、目の前の光景の異常には気付かなかったみたいだ。

 さて、それでは本命、本物のシュヴェルツェの反応だが……正直怖い。


 自分の親と人間との出会いの物語、ソレがこんな『筋肉ムキムキマッチョマン』の集団が踊り狂う脚本なっていると聞いたら、普通怒るだろう。

 だがその心配も無かった。


「コレはコレで有りですわ」


 ねぇよ。

 水晶の森の遺跡で、謎の人物が与えた本の数々によって、シュヴェルツェは立派な貴腐人となってしまっていた。


 そして、『筋肉ムキムキマッチョマン』の集団が踊り狂う狂気のパレードは、ヤケになった若い観客達の声援で無事に終了した。


 こうして……来年も新たな犠牲者が増える事が確定した。

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