透明なドレス
水晶祭最終日、ミヤとアリスに店を任せて、俺とアルマはレドウの作品を見に来ていた。
ちなみにシュヴェルツェは原料がアレな事を理由に俺の誘いを拒否した。気持ちは分からなくもない。
「これがレドウの作品か」
「スゴイドレスです、細工も精緻で、とっても綺麗……なんですけど」
アルマが言いたい事も分かる。レドウの作り上げた大量のドレスは、全体に水晶細工がちりばめられており、その出来は欠片一枚として妥協が無かった。、精度は言うまでも無く、何よりもセンスが違った。
鳥を模した細工はまるで来た者を水晶で出来たハーピーと錯覚させる事だろう。
ソレが数十着、コレだけの数と精度のドレスを作るのにどれだけの手間が掛かった事か。
だがそれゆえに気になる事が一つ。
それは……
「デカイよなこのドレス……」
「はい、とっても大きいです」
そう、何故かレドウの作ったドレスは大きかった。
全てが。
コレではまるで男物だ。いや、もしかしたら巨人やオーガなどの多種族の女用なのかもしれない。
「君達!!」
俺達はなにやら納得の意かないモノを感じつつもレドウのドレスを眺めていると、当のレドウが向こうからやって来た。
「あ、どうも」
俺の挨拶に続くようにアルマがぺこりと頭を下げる。
「君たちの協力で間に合ったよ!! 本当にありがとう!!」
イヤホントよく間に合ったよな。あの塊を全てこのレベルの細工に加工したんだから、レドウの実力は本物だったのだろう。いや、もしかしたら加工系のスキルとか、スペルが存在していてそれで早いのかもしれないが。まぁそれにしたってあのセンスは本物だ。
「無事間に合った様で何よりです」
「とっても綺麗です!」
俺達の賞賛を受け取ったレドウは一瞬喜びに顔をほころばせるが、すぐに表情を引き締めた。引締め切れなくて所々笑いが滲み出ているが。
「これで驚いてもらっては困る、祭りの最後、この大通りで僕のドレスを着たダンサー達がパレードを始めるんだ。驚くのはそれからだよ!」
「パレードですか?」
「そう、年に一度の水晶祭、その最後に行われるダンスパレード! ソレがこの町の最大の名物なんだ!!」
パレードというとエレクトリカルな感じのアレか?
「よくもまぁそんな大役を得る事が出来ましたね」
イヤホントに。
「元々僕の師匠が担当する予定だったんだけど、体調を崩してしまわれてね。代役をどうするかと言う所で、師匠から直々のご指名が入ったと言う訳さ」
直々にご指名が入るとは、意外に有能らしい。ああ、細工士としての能力にパラメータを極振りしたタイプなんだろうなきっと。
だが師匠か。その人物の体調を直せばウチの領地で技術指導をしてくれるかも知れんな。
「レドウさん、ダンサーの方々がいらっしゃってますのでドレスの回収を行います。それと着付けの指導もお願いします」
「分かりました! それじゃあ、僕は行くよ、君達も祭を楽しんでいってくれ!!」
そう言ってスタッフと共に去ろうとしたレドウだったが、足を止めてこちらに振り返る。
「パレードは夕方から開催されるから是非見に来てくれ!! 森であったあの子もぜひ誘って欲しい。パレードを見れば彼女の水晶嫌いも吹き飛ぶだろうから!!」
いや、そうじゃない。
だがこちらの内心など知らないレドウは言いたい事を言って満足したらしく、軽やかに身を翻して雑踏の中に消えていった。
「呼ばれるんですか?」
ビミョーな表情でアルマが聞いてくる。
「呼ばない訳にもいかんなぁ」
正直どうなるのか判らなくて怖いが、まぁ誘うだけ誘ってみよう。
◆
「是非参加させて貰いますわ!!」
意外にもシュヴェルツェは乗り気だった。
「一体どういう事だ?」
「たぶん、ドレスではなくパレードで誘ったからだと思います」
「ああ」
つまりダンスパレードならドレス、そしてその原料については関係ないと思ったのか。
まぁ、聞かれなかったしいっか。
「これで私の本も更なる重厚さを得ますわ!」
「本?」
「ええ、私の夢は人間の本を書く事」
「人間を題材にした話って事か?」
俺の言葉に頭を振るシュヴェルツェ。
「ちょっと違いますわ……人間という存在はとても愉快な物語を、湧き上がる清水のように生み出す事の出来る不思議で素敵な存在。ですが人間の寿命はせいぜい数十年。どれだけ素敵な物を作り上げてもその存在は不滅足りえない。だから私は人間の物語を作り上げたいんですの。沢山の町、沢山の国、悲劇、喜劇、喜びに悲しみ色々な物を見て回って、ソレを物語として残したいのですわ」
なるほど、ソレがシュヴェルツェの望みか。
「そして物語の第一章の主役は貴方ですわ。王子様」
え? 俺?
「私が生まれて始めて出会った人間の男。物語の始まりにふさわしい人材ですわ!!」
そう言うモンなのか。まぁ本人がソレで良いならいいのか?
人間の歴史を物語にする魔物か。むしろコイツこそが面白い存在だと思うのだが。
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