町外メイド喫茶
「「「「いらっしゃいませご主人様!」」」」
グライトの町の外。
水晶祭の最終日に参加する為に、町へ入る為の唯一の門への行列に並んでいた観光客達の前に、ソレは現れた。
「メ、メイドさん!?」
「しかも超可愛い!」
浮き足立つ男達。
そう、ソレはメイドさんだった。
太ももの真ん中程までの短さのミニスカート、胸元が大胆に開けられたメイド服。
更にネコミミやウサミミ、果ては尻尾までつけたメイドさんである。
「移動喫茶リストランテまおーでございます」
「お飲み物、軽食、各種取り揃えておりまーす」
店の宣伝と共にメニューを持った美少女メイド達が列に並ぶ客達に近づいて行く。
「本日は開店セールとして飲み物と軽食をセットでご注文のお客様には銅貨一枚割引サービスを行っております」
「き、君! ちょっとメニュー見せてくれないかな!」
「はい、どうぞ-!」
明らかに食事以外が目的の男の元に来た美少女メイドは、手に持ったメニューを胸で支えるように開く。
すると客の目にはちょうどメニューの上に胸の谷間が見えるようになっていた。
「おぉぉぉぉぉ!」
「只今まおーサンドとまおーティーのセットがお勧めでございます」
「じ、じゃあそれを一つ」
上の空で注文する男の視線の先はもちろんメニューなどではない。
「まおーセット一つ入りましたー!」
美少女メイドが元気よく注文を取ると胸の谷間から番号の書かれた細長い板を取り出す。
「「「おおおお!」」」
周囲の行列客までその光景にどよめく。
「商品ができましたら、番号をお伝えしますので、お客様の番号だった時にお返事をお願いします」
そう言って美少女メイドは次の客の所に向かって行く。
「ふっふっふっ。計画通り」
「うれしそうですねクーちゃん」
俺の横では呆れた様に半笑いするアルマの姿があった。
そう、このメイド達は俺が助けた少女達である。
彼女達を使って路上喫茶ならぬ町外移動喫茶を始めたのだ。
町の責任者には祭りの間、町の中は駄目でも外なら営業しても良いだろう?と許可を取ったのだ。
彼女達の事は、俺達が襲われた(と言う設定の)魔物から運よく逃げられた隊商の仲間と言う事にしてある。
最初は町の中の飲食店の売り上げが下がるから拒否されるかと思ったのだが、意外にも逆で、最終日の行列客のストレス解消になると喜ばれ許可されたのだった。
なんでも水晶祭最終日は一番気合の入った作品が展示される事が多いので、新人の作品でも結構な出来の物が見られるそうだ。
偶然ではあるが良いタイミングだったようだ。
さて、俺がこんな事をしているかと言うとだ。
「まおーセットできたよー」
「アリス店長! まおーセット5個入りました!!」
「おっけー」
「洗い物はもっとスピーディに!」
「はい!ミヤチーフ!!」
つまりあの二人が原因だった。
◆
さかのぼる事二日前の夜。
俺はミヤ達と定期連絡をおこなっていた。
「ではその少女達はご主人様の従者とされるのですか?」
「あー、一応適正を見極めて俺の町で働かせるつもりだけど」
ミヤの質問に答えるとアリスも会話に参加してくる。
「それならまおー亭の方にも何人か欲しいわ。やっぱ若い娘がいないとオジサンの受けが悪いのよ」
お前は何の店を開くつもりだ。
「では適正を見極める為にその町で働かせてはいかがでしょうか?」
「いや、祭の時期にコレだけの人数を雇ってもらえるとは思えんが……」
言いたい事は分かるんだけどねー。
「いえ、ご主人様が店舗を立ち上げればよろしいかと」
「俺が!?」
◆
と、言う経緯で移動喫茶を開く事となったわけだ。
ミヤは運営指揮に、アリスはメニュー担当として、そしてカレンことレンとドゥーロは魔物や野盗が近づかないよう護衛を担当している。
最初はミヤとアリスだけだったのだが、レンとドゥーロが来たがったので特別に許可を与えた。
レンは転移装置について知らなかったのだが、こっそりレンを監視していたらしいミヤから、レンが俺に害を与えることは無いとお墨付きを貰ったのでレンにも転移装置の事を教えることにした。
シャトリアでのゴタゴタで転移魔法の使い手であるイザーの事を知っていたらしく、最初こそ驚いたらしいがすぐに納得してくれたらしい。
「お館様、さきほど近隣の魔物が数匹近づいてきましたので追い返しました」
経過報告をしにレンがやって来る。
「ご苦労さん。ゴーレムと交代して休憩していいよ」
「ありがとうございます」
短くそう言った後、レンはアリスの下に向かった。
「ミヤお姉様、一緒にお昼を頂きませんか?」
「そうですね、少ししたら私も休憩に入りますので私の分も作ってもらっておい
て下さい」
今何か不穏当な発言があったような気が……」
◆
「で、どんな感じかな?」
店舗運営を行いつつ、少女達の勤務態度を見ていたミヤに聞いてみる。
「そうですね、即戦力が7人。要訓練が15人。残りは別の仕事に回した方がよろしいかと」
さらっと評価を下すミヤ。 客商売で前線に立てる人間がコレだけいるのなら上出来だろう。
「貴族の方は勤務態度があまり良くありませんので、早々に家族の方に引き取って貰ったほうがよろしいかと」
どうやらミヤ的には側室を増やすのはあまり喜ばしくないらしい。
軽く聞いてみると。
「ご主人様がお選びになられたのでしたら反対する理由もございませんが、彼女達は打算あっての恋愛感情が見え隠れしております。ご主人様の事を深く知れば知るほど打算を考える者は増えるでしょう」
俺が他人に上手く利用されるのは気に入らないと言う訳か。
まぁ、細かい見極めはこのままミヤにおまかせしよう。
俺としても打算だけで結婚するような女は遠慮願いたいからな。
◆
「すみませーん、注文お願いしまーす」
「……はーい! 今行くニャン!」
客に呼ばれてヤケクソでニャン語接客をするエメラルダ。
本人としては大層嫌らしいのだが、メンバー中最高の美貌の持ち主であるエメラルダに接客を求める客は多い。語尾がニャンだしな。
「いいよなあの娘」
「ああ、あのヤケクソ気味の対応が最高に萌えるぜ!」
「嫌なのに仕事だからやらざるを得ない葛藤が最高だ!!」
深い客がいるなぁ。まぁ金を落として言ってくれればこちらは万々歳だが。
というかだな、なんかさっきから行列の客層がおかしくなっていってるんだが。
「時に貴公、上腕二等筋が見事に膨れておるな」
「そちらこそ、腹筋の割れ具合が服の上からでも分かるぞ」
「お主、ずいぶんと鍛えてきたな」
「貴様こそ。去年の様にはいかんぞ?」
何なんだ一体? やたらと筋骨隆々の男達が多いが、これから武闘大会でも始まるのか?
それともボディビルダーの集団か?
おかげで門の前はミニスカメイドと筋骨隆々の男達の楽園と言う不思議空間になってしまっていた。
そして、後にこの集団がグライトの町を阿鼻叫喚の地獄に叩き落す事になるのだが、俺達がソレを知るのはもう少し先の事だった。
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