悪巧み娘達……だニャン
ドラゴンカイザーへの貢物の事で頭を悩ませていると、ドアがノックされた。
どうやら最初の一人がやってきたようだ。
「ローザです」
「入っていいよ」
「失礼します」
ローザと名乗った少女が部屋に入って来る、彼女はとても見事な縦ロールをしていた。
うん、最初に奴隷から解放したあの縦ロールの事だ。
彼女はこのエルーカ国の貴族の娘で、フルネームをローザ=ワサンボンと言う。
いかにも縦ロールに似合いそうな名前だが、この国の貴族の娘は名前に花の名前を与える事が多いのだそうな。
おそらく彼女の名前もローズ(薔薇)から来ているのだろうが、フェニックスが焼き鳥だったりする世界なので俺の世界の常識に当てはめるのは危険だ。
「さて、さっきの続きだけど、君はどうしたいのかな?」
単刀直入に質問した俺に対しローザはモジモジとしながら頬を染めるばかりだ。
これは長引くなぁ。
だが話を聞かなければいけない娘達は他にも居る訳なのでさっさと進めたい。
「君達との契約は実家から呪印の解呪料金を支払ってもらう事だ。だから今の状況は契約違反と言う事になりこちらとしても厳しい対応を選択せざるを得ない」
「ど、どういう対応を取るつもりなの? 私達が喋るまで待たないと私達の家がどこか分からなくて困るのは貴方じゃない?」
どうやらローザ……達は自分に有利な状況を作る為にわざと家の場所を言いたくないらしい。
どう有利にしたいのかは分からないが。
とはいえ彼女達から聞き出した自分しか知らない事(故郷が分からないように重要な部分はぼかしていたが)や侵入者用に配置した置物型ゴーレムが聞いた会話や呟きをミヤに報告し、各国にばら撒いた転移マーカーを使って転移させた情報収集用のゴーレムからを各地の情報を精査、誘拐および行方不明になった貴族の娘に関する情報と照合する事で半数以上の少女達の故郷は判明していた。
だが現状では彼女達に俺の情報網の異常さを知られる訳にはいかないので向こうが喋るまで待つというスタンスをとっている。
まだ故郷が判明していない少女もこれからの会話で判明するかもしれないからだ。
だが調子に乗られても困るのでちょっと脅す。
「奴隷商に売り飛ばす」
「っ!?」
途端にローザの顔が青ざめる。
むしろ何でそれを考えないのだろうか? 無条件に俺が甘い対応をしてくれるとでも思っていたのだろうか?
「ちょっ、ちょっと待って!!」
「待つ道理もない」
「み、身元不明の女なんて売っても解呪料の半分の金にもならないわよ! それじゃ赤字よ!?」
「構わんよ、一人売っぱらって残り全員が対価を支払ってくれればそれでいい」
ローザの顔色は文字通り蒼白だ。おそらく奴隷にされ呪印を刻まれたときの事を思い出しているのだろう。
「ご、ごめんなさい! 私たちエメラルダ様に言われて時間稼ぎをする為に実家の場所を言わなかったの!」
何?
「一体どういう事だ!?」
「実は……」
つまりこういう事だ。
貴族の娘達が俺を困らせる事で解呪の代金が回収できなくて困る。
そんな時に颯爽とエメラルダが表れ彼女達を説得するという筋書きだ。
既にエメラルダとの交渉は成立しているので、始めは何故こんな事をしたのか分からなかったがよく考えると彼女達が教えてくれなかったのはエメラルダと交渉を始める前だ。
おそらくムドのダミーハウスに置いて来た時に仕込んでいたのだろう。
交渉が失敗した時の予備として。
「けど何でそんな馬鹿な話を受けたんだ? 俺の心証を悪くするだけで何のメリットもないじゃないか」
「その、エメラルダ様は……詳しくは言えませんがやんごとなきお方で、それで私達では……」
ああ、そういえばエメラルダは帝国の姫だもんな、一貴族の娘と巨大な帝国の姫ではその権力には大きな隔たりがある。
ローザ達も二つ返事で従わなければならないって訳か。
彼女達も貴族、その内の何人かは舞踏会などでエメラルダと交流があったらしく、証拠は無くとも彼女の素性はあっさりと判明したらしい。
「分かった、そういう事なら罰則は緩めてやろう」
あからさまに安心した様子で息を吐くローザ。だが罰を与えないとは言っていない。
「じゃあ、教えて貰えるかな? 色々と」
「は、はい!」
こうしてローザは正直に自身の素性を明しエメラルダとの密約を白状した。
エメラルダも鞭だけではなく、飴を用意していたらしい。
曰く、
「エメラルダ様に協力すれば、エメラルダ様の夫となった貴方の側室にして頂けると約束してくださったんです」
ほわーとうっとりした様子で話すローザ。
エメラルダの計画では彼女を助け出した功績で俺に貴族の位を授け結婚。
その後協力した娘達を俺の側室として帝国に取り込むつもりだったらしい。
ローザ達としても帝国と親戚関係に成れれば故郷に帰っても肩身の狭い思いをしなくて済むからと多少の打算があったそうだ。
なんでも貴族の娘が誘拐されただけでなく、奴隷にまでされたとなったら口さがない連中は彼女達が傷物にされた上に捨てられたなどと吹聴して回り、父や兄が政治の舞台で不利になる可能性が高いという恐れがあったそうだ。
で、そんな自分達に嫁ぎ先と帝国とのパイプが出来れば、彼女達の価値はトランプゲームの大富豪で革命を行なう様に大逆転するのだとか。
だから多少のリスクを覚悟してもエメラルダに協力したらしい。
小国が逆らえない帝国の姫としての立場を良くもまぁ効果的に利用したもんだ。
「エメラルダとの交渉は済んでいるから心配はしなくてもいい、君達の立場は彼女が保障してくれるだろう」
色々あったが結果的にはエメラルダは俺の嫁になる事が決まった訳だし、彼女達の事も悪いようにはしないだろう。もしエメラルダが彼女達との約束を違えたなら厳しい罰を彼女には与えなければいけない。
具体的には龍の試練攻略の契約の破棄も考慮に入れる必要がある。
裏切りはホント良くない。
っつーかホントに側室にねじ込む気なのだろうか?
結局ローザの望みはエメラルダとの契約内容と同じで俺の嫁になりたいというものだった。
いくら誘拐されたからといっても貴族の娘が呪印を刻まれ奴隷として過ごしたなどという事実は文字通り嫁の貰い手が無くなる大問題だった。
いくら黙っていても体に刻まれた呪印を見られたら即バレてしまう。
そうなれば破談どころか家の恥、そんな娘は万が一にもバレる事が無い様に屋敷の奥深くに幽閉される事になる。その結果は文字通りのごくつぶしと言う訳だ。
そんな恐ろしい未来に恐れ戦いていた少女達を俺があっさりと解放したもんだから、少女達はそりゃあときめいた訳だ。
何しろ一生残る奴隷の刺青と呪いから解放されるなんてそれこそ創作の世界でもなけりゃありえない話だったのだから。
まぁこの世界にはスキルっていう規格外の力を発揮する「何か」があるから、必ずしも可能性は0では無いのだが。
そして彼女達は貴族の娘、庶民よりも創作の世界に触れ合う機会が多い。
シンデレラ症候群とでも言えば良いのか、彼女達はめったに遭遇できない貴重なロマンスにどっぷりと浸かっていた。
むしろ帝国とのパイプについての方がおまけみたいな感じだ。
とはいえ手当たり次第に手を出すわけには行かないので、彼女達には俺を騙した罰を受けてもらうことにして、罰が終わるまでこの話は保留と言うことにした。
「それで、コレが罰なんですか?」
貴族の少女達がモジモジして俺の顔色を伺う。
「なんで私まで……」
その中にはエメラルダの姿もあった。お前が原因なんだからな。
「こんな格好恥ずかしいです」
そう、俺は貴族の娘達に特別な衣装を着せていた。とはいっても別にエロ衣服を着せたわけではない。
彼女達に着せた服、それは……
「いやー、似合っているよ、その『メイド服』」
そう、俺が貴族の娘達に着せたのはメイド服だった。
それもスカートの長いクラシック系ではなく今風、というか地球風の何ちゃってメイド服だ。
「足がこんなに露出しているなんて」
「胸が出すぎじゃないですかコレ?」
「何で私の衣装ネコミミが付いてるんですか?」
尻尾もあるよ。
うん、彼女たちは今、太ももの真ん中くらいまでの短さのミニスカートを履き、胸元が大胆に開けられたメイド服を着ていた。
さらにオプションでネコミミやウサミミも完備だ。
「俺の店ではその衣装を着たまま働いてもらうからよろしくね」
「「「「「ええー!!!!」」」」」
屋敷の中に少女達の悲鳴が響き渡る。
「わ、私、帝国の王女なのに……」
「金を払ってもらうまでは君達は俺のモノだから、しっかり従業員として働いてもらうよ。特にエメラルダは彼女達を扇動した罰として接客中は語尾に『ニャン』を付ける事、一回忘れる度に罰を与えるから」
「鬼ー!!!」
ゴーレムに語尾を言ったか監視させよう。
「悪魔!!」
余談だが、後日正式に店を立ち上げた際、ネコミミメイドさんカフェは大変好評を博し、やけになったエメラルダのニャン接客は男性客のハートをわし掴みにした事だけを報告しておく。




