家出姫と石頭の騎士
話を大きくするのは大抵他人
やぁ皆クラフタだよ、僕は今針の筵です。
「なるほど姫さ…リーナさんはそちらの彼と一緒に旅をされているのですか」
「その若さで旅をしているなんて大変じゃないんですか?」
「大丈夫ですわ、彼とても強いんですのよ」
なんか知り合いらしいんだけどフィリッカが自分の事をリーナとか言い出してこの茶番である。
何考えてんだコイツ?
さし当たって注文した飲み物を飲むことで会話から逃げているが全然味がわからんわー。
どう着地するんだこの会話。
「所で二人はどういう関係な訳?」
知り合いさんの若い方、名前はトロスと言うらしいはそんな事を聞いて来た。
「私たちは将来を誓い合った仲ですわ」
ぶはぁぁぁぁぁっ!
吹いた、コイツはイキナリ何を言っているんだ。
つーかこっちに投げてくんな!!
「ほほぅ、若いと言うのはすばらしいですな」
もう片方の歳を取った方、グルガーさんと言うは茶番と分かっているからこちらの反応をスルーした。
「駆落ちとはやるなぁ二人とも若いのに」
「嫌ですわ、私達は清い関係ですわ」
やばい、コレは非常に不味い。
もしかしてコイツラこっちに全部丸投げる気じゃないだろうな。
だが甘い、こんな事もあろうかと対策は練ってあるのだ!!
「ご注文のお料理お持ちいたしましたー」
ふふふふ、食事中は返事したくてもできない、甘かったな。
「それではごゆっくりどうぞ」
他人の金で食う飯ウメー。
その後も小競り合いを続けていた三人だったがフィリッカがかたくなに認めないために言葉が無くなっていった。
どうやら諦めたようで全員食事に没頭することとなった。
だがその考えは甘かった、彼等は諦めていなかった。
彼等は待っていたのだ、硬直した状況をひっくり返すカードが手元に来る時を。
「戻ったぞ、と言っても空振りだったがな」
「お疲れ様です隊長」
「何か注文しますか?」
「では冷たい紅茶を頼む」
「了解です」
どうやら知り合いと待ち合わせだったらしい。
「待ち合わせですか、だったら俺達席を移動しましょうか?そろそろ他の席も空いてきたみたいですし」
「気を使わなくていいよ、隊長此方合い席のになったクラフタ君とリーナちゃん」
「む、君はさっきの」
「あれ?さっきの騎士さん」
「二人とも知り合いだったのか」
「ああ、彼等が食事するのを邪魔してしまってな。丁度良い、先ほどのお詫びに支払いは任せてもらおう」
「いえ、そこまでしてもらう必要は」
「なに、コレも何かの縁だ」
「はぁ」
何というか有無を言わせない雰囲気があるな、なかなか強引な御仁だ。
「私はレノン=フォリア、騎士だ。よろしく頼む」
「俺はクラフタ=クレイ=マエスタ、こっちはリーナ」
いちおうフィリッカの顔は立てておく。
「ミドルネームの苗字持ち、君は貴族か」
「いえ、貴族ではないです」
「では生まれつきか、なるほど良い気配をしているわけだ」
「恐縮です」
「リーナ殿といったかよろしくお願いする」
「・・・はい・・・」
フィリッカが俯きながら消え入るような声で返事をする。
様子がおかしい、汗がだらだら出て必死で顔を見せないようにしている。
バレてもトロス達にした様にしらばっくれれば良いのに。
「それが出来ない訳があるんだよ」
こちらの内心を察してトロスが耳打ちをしてくる。
「お嬢さん、もしかして具合が悪いのですかな?」
グルガーさんがフィリッカの逃げ道をふさぐ。
「む、それはいかんな、医者を呼ぼう」
「いえ、必要ないですから」
「そういうわけにはいかん、さあ、私がおぶってやろう」
なるほどそういう人ですか。
「いえ本当に良いですから」
「汗もかいているな、早く見てもらったほうが良いな。さぁ」
「きゃっ」
レノンが強引にフィリッカの腕を取り立ち上がらせる。
「さぁ、行こ・・・ぅ?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「姫様」
「人違いです」
「姫様!」
「だから・・・」
「探しましたぞ!さぁ城に帰りましょう!!」
話を聞かない類の人でしたかー。
「はーなーしーてー」
「城に帰ったら離します」
有無を言わさずフィリッカが捕獲される、なるほどコレではしらばっくれても意味は無い。
「言われなくても城には帰るわよ!アルマを治療する方法が見つかったんだから!」
「「「っ!?」」」
フィリッカの言葉に動揺する三人。
「姫様、それは本当ですか!」
「ええ、とある伝手であの子の病気を治せる人を見つけたのよ」
「い、いったい誰があの病気を?」
「ふふふふふ」
フィリッカは勿体つけながら俺の手をとり引き寄せる。
「この彼こそアルマの病気を治すことの出来るアルケミストなのよ!!」
「「「・・・・・・・」」」
あ、呆れてる。
そりゃま今の自分は子供だから信用できなくて当然だ。
「姫様、そのお気の毒だとは思うのですが・・・」
グルガーさんが言葉を濁す。
まぁ言い難いよな、主君の娘の連れてきた男が・・・
「姫様、騙されてはいけません。アルマ様のご病気は宮廷魔導師でもさじを投げたほどです。」
「病気の進行を抑えることも出来ませんからねぇ」
レノンとトロスが代わりに否定する。
「ほんとだって」
「だってねぇ」
「姫様、あの病はこのような子供に治せる病気ではありません」
グルガーさんが複雑な表情で会話に加われないでいる、フィリッカの連れてきた人間に失礼を働くわけにはいかないが俺のような子供に治せるわけが無いと言う同僚達の言葉も正しいのだ。
「お気になさらずに」
「その、すまん」
だがフィリッカ達の問答はヒートアップし続けているようだ。
「ホントなのよ!彼はすごいんだから!」
「すごいかもしれませんが現実を見て考えてください」
本と糠に釘だなぁ、糠と言うよりは鉄塊だが。
「ホントよ!だって彼はドラゴンを倒したんだから!!」
言ってしまった、ヒートアップしたフィリッカは店中に響く声でそう叫んだ。
当然客の視線が集まる、だが彼女は気付いていない。
「彼はたった一人でドラゴンを倒した英雄なんだから!!」
だから人を巻き込むのはやめてください。
「その少年が?ドラゴンを?」
レノン達が疑わしげな目で見てくる。
「そうよ!」
なぜかフィリッカが偉そうにしている。
だがレノン達の疑いは晴れそうに無い、やがて彼女はこういった。
「でしたら彼と戦わせてください、ドラゴンを倒したと言う実力が本当にあれば私も信じましょう」
おーい、ちょっと待って。
「ふふ、やって見なさい。返り討ちにしてくれるわ」
聞けよ人の話。
「表に出たまえ少年」
こうして俺は初対面の騎士と決闘することになった。




