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謝罪と天使

『看破』のスキルの副作用で倒れた俺は自室に戻って体を休めていた。

 正直考える事が山ほどある。あの姫の言葉といい、俺の救った少女達はかなりの曲者揃いの様だ。


「クラフタ様、大丈夫ですか?」


 考え込む俺をアルマが気遣ってくる。

 そうだ、まずは目の前の事から解決していかないとな、あれもこれもと欲張っては出来ることも出来なくなってしまう。

 まずは……アルマに謝る事から始めよう。

 一人の女の子の人生を歪めてしまった事への謝罪から……



「……つまり、クラフタ様の魔力を受けて私もクラフタ様と同じ存在になってしまったんですね」


 『看破』のスキルによって判明した衝撃の事実を聞いたアルマは、噛みしめる様、にゆっくりと言葉を紡ぐ。

 ほんのわずかな間ですらとてつもなく長い時間に感じる。正直アルマの顔を見るのが怖い。

 誰だって知らないうちに別の生き物にされてしまったら怒るだろう。俺もそうだったのだから。

 アルマは何と思うのだろう? そこまでして生きたくなかったと言うだろうか? 化け物にされるくらいなら死んだほうがマシだったと言われるだろうか。

 アルマは俺がアンデッドでも構わないと言ってくれた。だがそれは自分がアンデッドになっても良いという意味ではない。

 自然の摂理に反し憎まれ恐れられる存在、それがアンデッドなのだから。


「すまない、俺の所為でアルマから普通の女の子としての人生を奪ってしま……」


「よかったです!」


「ああ、アルマの憤りは分か……え?」


 驚いてアルマの顔を見ると、そこには俺の予想と180度正反対の笑顔があった。


「なんで?」


 訳が分からないよ。アンデッドだよ?


「良かったです、だって、私が不死になるという事は、不死であるクラフタ様と同じ時間を生きる事が出来るという事なのですから」


 アルマはそういって俺に肩を寄せてくる。

 正直ポカーンな感じだ。


「ア、アンデッドになっちまったんだぞ? 人間じゃなくなっちまったんだぞ?」


「でも先生達もアンデッドです」


「え、あ、いやそうだけど」


「わが領地の住民の8分の1はアンデッドですよ。お忘れですか」


 え、あっはい、そうでした。


「ですから私がアンデッドを嫌う理由はありません」


 まさに純粋培養ゆえの偏見の無さ。むしろ心配にすらなってくる。


 ああ、そうか、アルマにとって不死になった事なんて大した意味はなかったのか。

 アルマはいつだって、俺と共にある事を何より大事にしている。


「これからも……ずっと一緒です。世界が終わるその時まで」


 本当なら俺が言うべきかっこいいセリフまで言われた。

 つまりこう言う事か。


「俺の嫁は最高やでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


「キャアッ!?」


 突然叫びだした俺にアルマが驚く。

 いやすまない。だが考えてもみて欲しい、自分の犯したとんでもない失敗を、笑いながらポジティブに受け止め、好意的に受け入れてすらくれたんだ。普通の人間なら怒るのが当然だ、世の過半数の人間はアンデッドは邪悪で危険な存在と思っているからだ。だから退魔呪文なんてモノがあるのだ。

 こんな嫁さん世界中を探したって見つから無いだろう。

 さらに可愛くて胸がデカい! 完璧超人だ。

 完璧すぎてホントに俺なんかで良いのか心配になる。


「あ、あの、一体どうしたんですか? 叫んだと思ったらお顔がコロコロと変わってウンウンうなり始めて……もしかして『看破』のスキルの副作用ですか!?」


 ハッとした顔になったアルマが突然俺を押し倒して顔を近づける。


「直ぐに診察を!! 大丈夫です。私も先生達から医療知識を学んでいますから、簡単な診察くらいなら出来ます!」


「いやいや、そうじゃない。副作用は無いよ」


 そう言って上着を脱がしに掛かったアルマをやんわりと止める。


「そ、そうなのですか? でも、だったら何故あのような?……」


 アルマは俺の顔をじっと見つめて答えを求めている。


「あー、いや、そのな……」


「はい」


 こ、これは! 答えんと駄目なのかー!? 

 アルマは俺の目から視線を逸らさずにじっと見続ける、押し倒したまま。


「……アルマは俺の天使だと思ったんだよ……」


「……そうですか……」


 そのままじっと俺の顔を見つめるアルマ。


「……は?」


 時間差でアルマがビックリした顔をする。


「え? え? え? ソレってどういう意味ですか?」


 まぁ普通は驚くか。


「アルマと出会えて幸運だったって事さ」


「わ、私もクラフタ様と会えて幸運です……クラフタ様が居なければ今頃私は死んでいたのですから」


 だから幸せだと言うアルマ。

 アルマにとっては「今」生きているという事実が何より重要らしい。

 そしてアルマが今も生きていられる理由、つまり俺が幸せである事がアルマの喜びなのだと。


「感謝こそすれ、恨む理由など毛頭ありません。私は「今」幸せなんです」


 強い、アルマは本当に強い娘だ。割とメンタルが弱い俺とは大違いだ。

 ソレでいてメンタルが図太いウチの妹とも大違いだ。


「俺の妹とは大違いだなぁ」


「……クラフタ様、妹さんがいたんですか」


 ああ、言ってなかったか。口にしたような気はしたんだけどなぁ。


「ああ、3つ離れた妹がいるよ」


「それでは妹さんさみしがっているでしょうね」


「むしろそれでいい」


「え?」


 妹はなー、うん、アレとは離れ離れになった今のほうが良いと断言できる。

 カイン君、ありがとう。


 俺の態度から、妹について聞いてはいけないと思ったのか沈黙が部屋を支配する。


「『看破』のスキル」


「はい?」


「『看破』のスキルだけどさ、あれって、本来人間には使えないスキルなんじゃないかな」


「どういうことですか?」


 ここで俺は、コレまでの経験から得たスキルについての仮説を述べた。


「最初俺のスキルは『鑑定』上級だった。他にもスキルを持っていたが、それは一旦置いておく」


「はい」


 アルマがまじめな顔をしてうなずく。


「その後カインによって瀕死の重傷を負った際にアンデッド化して、『ドレイン』のスキルを手に入れた」


「私の治療をしてくれたスキルですね」


「そう、で、その影響で『ドレイン』は魔力や生命力を与える事のできる『生魔吸与』に変化した。けど

それ自体はドレインの時でも出来たんだ。スキルが変化した事でその行為がより簡単に行なえるようになっただけで」


 クアドリカ師匠が言った様にスキルは使い手の発想しだいで使い方の幅が広がった。

 この辺り師匠達は俺の知らないスキルについての情報を持っているんじゃないかと思う。


「じゃあスキルって一体なんなんでしょうか?」


 なかなか深遠な命題だ。


「スキルには等級があり、その等級によって使用に制限が掛かる。上級になると使用回数は無限になり、100%の精度で使える様になるんだと思う」


 だが、と俺は言う。


「それはあくまで人間に使える100%なんじゃないだろうか」


「何か根拠があるんですか?」


「ある」


 そう、ある。それも俺の身近にいた。


「アリスだよ」


「アリスさんが?」


 イキナリアリスの名前が出てきて驚くアルマ。

 だが彼女の存在はとても重要なものだ。


「アリスは魔王だ。そしてアリスの使うスキルの等級はそのものずばり「魔王」!!」


「そうでした!」


 はっとした顔でうなずくアルマ。そうなのだ、スキルを100%で使えるのならば「魔王」などと言う等級は不要のはず。

 つまり俺達が使っていたスキルと言うのは人間に仕えるレベルまでデチューンされたものだったのではないだろうか?


「そう考えると俺のスキルが変化したり、複数のスキルが統合して別のスキルになるのも人間用に劣化したスキルが本来のスキルに性能を戻していったからじゃないかと考えれるんだ」


「では『看破』のスキルは……」


「元々人間用のスキルじゃないものを、俺の不死の因子が無理やり覚醒させた結果なんじゃないかと思う」


「人間用じゃないスキル……ですか」


 このスキルはたとえば、そう、メルクリウスの種族欄にあった天使のような人間の上位種族が使うものなのかもしれない。この世界の天使が地球の天使と同じならの話だけど。

 だが油断してはいけない。この世界のフェニックスは生きた焼き鳥だ、天使と思ったら巨大クリオネが出てくる可能性も否定できないのだ。

 ……突然頭が割れて丸呑みにしようとするメルクリウス……無いな、うん無い……


「それでは『看破』のスキルはもう使えないのですか?」


「ああ、ソレなんだが、『生魔給与』の時の様に注意して使っていけば、また『測定』や『鑑定』にレベルダウンするんじゃないかと思うんだ。不要な情報は見ないように気をつければいけると思う」


 まぁ、たぶんだが。これは要練習だろう。

 スキルの所持数もそういった人間という器の限界に関係しているんだろう。個人差で多少限界値は違うがおおむね種族ごとの平均値は決まっているんだと思う。

 ただ俺の所持限界数は魔王であるアリスを超えているので、個別スキルの能力の強さのほうが、所持数よりも人間に対する負担が大きいのかもしれない。

 逆にいま付けているスキルを全部外せば『看破』を自在に扱えるかもな。


 そうなると次に気になるのが俺のスキル所持限界数だ。

 アリスは魔王だ、それも神々の一員である「混沌」から直接スカウトされた、いわゆる選ばれし者である。

 まぁ、最近の魔王は残念キャラ路線で売っているらしいが、それにしたって偶然半人前のアンデッドになった俺が魔王であるアリスよりもスキルキャパがあるとは思えない。

 その根拠は先ほども話したスキル等級、「魔王」だ。

 魔王だけが到達できる、無制限にスキルを使えるだけの上級を超えた、人間には引き出せない領域の効果を発揮する等級。

 正直言って『看破』の情報量はおかしい、まるで誰かが編集した資料を見ているような特定の出来事まで表記されていた。

 SF的に言えば全ての事象が記録されているアカシックレコードと言う奴だろうか?

 そんなアホみたいに強力なスキルを使えるようになったのは、俺の肉体の隠されたポテンシャルが原因なのかもしれない。

 結局のところ、ソレを知るのは師匠達だけなのだが。


「一度サシで話したほうが良いなぁ」


「何がですか?」


「ん、ああ、まぁ本音で会話せんとなぁって話」


「はぁ……」


 とはいえ、今は色々やらにゃならん事があるから直ぐには無理か。

 とりあえずは彼女達の今後の事だ。

 そう意識を切り替えた時だった。


 ドンドン


 誰かが俺の部屋のドアを叩く。一体誰だろうか? さっきの事もあるし、心配してお見舞いにでも着てくれたのだろう。

 ベッドから起きてドアを開けに行こうとすると、先にアルマが立ち上がる。


「私が開けます」


 出来た嫁だ。

 新妻感全開でアルマがドアを開けると、外にいた人物は間髪居れずに中に入りドアを閉めた。


「ご機嫌いかがかしら、クラフタ君」


 突然部屋に入ってきた人物、そう、あの人物である。


「改めてご挨拶させていただくわ。

 私の名前はエメラルダ=ジェイ=ヴィクツ

 ヴィクツ帝国第5皇女にして次期ヴィクツ皇帝よ」


 件のお姫様であった。




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