天敵と呪い
「痛っー」
メルクリウスと触れた際に発生した静電気のような何か。
思わず手を見ると、何と指先が焦げていた。
「大丈夫ですか!?」
以外にもメルクリウスが慌てて俺の身を気遣う。
以外というのも変だが、メルクリウスの落ち着いた風体から、慌てるというイメージが思い浮かばなかったのだ。意外に普通の良い子なのかも知れない。
だがそのメルクリウスは俺に触れることはできなかった。
「触らないでください!!」
俺とメルクリウスの間に割って入ったアルマがメルクリウスを威嚇する。
「クラフタ様の手当ては妻である私がします!!」
「え?」
ん?
アルマさん今何か重大なミスを犯しませんでしたか?
「あ、ですが……」
アルマはメルクリウスを無視して水系統の回復魔法で俺の手を癒す。
さすがに師匠達の教えを受けているだけあってその手並みは鮮やかだ、瞬く間に指の傷が癒えていく。
1分とかからずに俺の指を治療したアルマはメルクリウスにキツイまなざしを向ける。
「クラ、クーちゃんに一体何をしたんですか!?」
傷の治療が済んだ事で少し冷静になったのか、アルマの呼び方が戻る。
いまさらだが視線だけで周囲を見回す、少女達はこの状況に驚くばかりで俺の名前について注目した娘は少なそうだ。
いや寧ろ、
「今妻って……」
「妻ってあの妻?」
「まさか戦う前から勝負が決まっていたと言うの!?」
「まて、この世界には略奪愛と言う言葉がだな」
「貴女天才!?」
これが乙女の平常運転なんだろうか? さっぱり分からん。
ともかく、オーナの様に何を考えているのか分からない娘やアリア達の様に旅で荒事に馴れている娘達は状況を見極める為にじっとしている。
かの国の姫様は涼しい顔で食事を続けているがこちらも何を考えているのか分からない。
「わ。私は何も……」
「何もしていないのにこんな事になるわけがないじゃないですか‼」
確かにアルマの言う通りだ、ただ触れただけで手が焦げるとか、どこの虫殺しの外灯だよ。
だがそれもメルクリウスのステータスを見れば分かるだろう。
俺は『測定』のスキルを使い……ってあれ?
『測定』スキルが無くなっている、そして代わりに『看破』上級と書かれたスキルがステータス欄に追加されていた。
『鑑定』から『測定』になってさらに『看破』とスキルが変化したか。
統合ではなく変化か、こんな事になったのは、間違いなくメルクリウスと触れたことが原因だろうなぁ。
せっかくなのでどんなスキルか確認してみるか。
『看破
ステータスを確認でき、隠匿スキルによる秘匿も無効化する。
また本人すら知らない隠された素質を知ることができる。
あらゆる能力を数値で見ることが出来、感情すらも数値で表記できる』
な、なんかとんでもないスキルになってるぞ。
試しにメルクリウスのステータスを見てみよう。
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名前:メルクリウス=シー
性別:女
年齢:15歳
Lv28
クラス:ハイプリースト
派生クラス:ラブスレイブ
イビルプリースト
ハイプリエステス
種族:人間(半天使:貴種)
スキル
・上級浄化
・中級聖音
スペル
・中級回復魔法:消費魔力10
・中級範囲回復:消費魔力25
・中級状態異常回復:消費魔力12
・中級退魔:消費魔力13
・初級範囲退魔:消費魔力9
・上級神聖結界:消費魔力55
能力値(最大素質値)
生命力:120/120(755)
魔力:355/355(2000)
筋力:2(3)
体力:3(5)
知性:6(8)
敏捷:2(4)
運 :7(7)
感情:恋/78
対象:クラフタ=クレイ=マエスタ)
『神聖国ファルクスの神官、ただそこに居るだけで魔を祓うことから聖女と呼ばれ人々から深く愛される。彼女を疎ましく思う邪な者達の手によって誘拐され奴隷の身分に落とされる。
自身を救ってくれたクラフタに恋をする。』
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おおおお!? なんだこりゃ! 今までとは比べ物にならないほどの情報が見えるようになったぞ。
派生クラスとか最大素質値とか書いてあるな。
それぞれイメージがグレー表記っぽいから、修行したらこうなれるとかそういう感じなんだろうな。
所で派生クラスのラブスレイブって何だ? 直訳すると愛の奴隷だが。
感情、恋って言うのが何か関係してそうだな。
所で隣の78ってなんだ? やっぱ100がMAXなのかなぁ。
スキルの『浄化』、これが原因だろう。
『浄化(上級)
周囲3m以内のアンデッドを天に還す』
ああ、これが原因だわ。俺は半アンデッドだから人間部分があるおかげで助かったっぽいな。
しかも上級だから回数無制限だし、ステータス説明から考えてもパッシブスキルっぽい。
とんでもねぇチートスキルだぜ。
他にも半天使とか気になることは山ほどあるがこの辺にしておこう。
まぁこのスキルに関しては他の子達のステータスとすり合わせて調べていくとしよう。
「アルル、そのへんにしときなさい」
とりあえずこの諍いを止めるのが先だ。
「でも……」
「メルクリウス、君は聖職者だね」
「は、はい! あ……でもなんで?」
自分が神官である事に気付かれ驚くメルクリウス。
確かに今の彼女は普通の私服姿なので普通は聖職者とは分からないだろう。
「さっきのは退魔魔法の一種だろう?」
「え、あ、はい。そうです」
流石にスキルとは言えないか。上級スキルは強力で在るが故にうかつに人に言うわけには行かない。
さらに彼女の『浄化』スキルは聖女の称号と密接な関わりがある事は考えるまでもない。
ここは気付かないフリをするのが大人の対応だ。
「実はここに来る前に邪悪な者達と一戦交えていてね、ソレが原因だろう」
うん、先日金の為に簡単に人の命を狙う襲撃者と戦ったのは間違いない事実だ。
今のうちに魔法具でアクセサリに偽装した大星剣メテオラから手ごろなスキルを探して自分に付ける。
お、『抵抗』中級のスキルがある、これで何とかなるだろう。
ほら、といってメルクリウスの手に触れるとほんの少し電気が走るような感覚はあったが先ほどまでのような目に見えるような異常は起きなかった。
なんとか上手く行ったようだ。
俺の言葉の意図を汲み取ったアルマの表情が変わる、どうやら意図的に行なった事では無かったと気付いてくれたようだ。
誤解と分かった事でアルマは顔を真っ赤にしてメルクリウスに謝罪をする。
「も! 申し訳ありませんでした!!」
「あ、い、いえ。私こそ、スキ、退魔魔法が暴走してご迷惑をおかけしましたのでお互いさまです」
「……ありがとうございます」
どうやら仲直りが出来たようで何よりだ。
だがこの後も彼女達の今後を話さなくてはならないし……
なによりアルマの異常をどうにかしないといけない。
さっきからアルマの周囲に禍々しい魔力が渦巻いているのだ。
地下室での暴走といい、恐らくこの魔力が何らかの原因に違いない。
本来ならアルマに許可を取ってから行なうのだが、今は周りに人もいる。
後で誤る事にして俺は『看破』のスキルをアルマに対して使った。
アルマが何か異常を抱えているのならこのスキルで何かが分かるはずだ。
「……ッ!?」
俺は目を疑った。
表示されたアルマのステータス、そこにはこう書かれていた
名前:アルマ=ハツカ=ルジオス
種族:人間(1/4不死:上位貴種)
『不死の皇子クラフタの血の呪いにより不死の種子を得た魔の寵姫』
恐ろしい事に、アルマは俺と同じアンデッドとなっていた。
クラフタがアルマを本名で呼んでいたので修正いたしました。
ご指摘頂きありがとうございます。




