嫁をギュッとね
一時間ほどかけ全ての奴隷達の呪印を無効化した俺は続けて古代万能薬を呪印跡に塗っていた。
縦ロールに塗った時もそうだったが呪印というのは一種の入れ墨なので魔法プログラムを解呪しても呪印の模様そのものは残ってしまうのである。
ある意味、この残るという現象そのものが第二の呪印といえるだろう。
そんな呪いを古代万能薬の肉体正常化作用を用いて強制的に元の綺麗な肌に戻し呪印の痕を消す。
こうして奴隷、いや元奴隷達はようやく呪印から解放された。
「ありがとうございます、ご主人様」
「これからは貴方様に誠心誠意お仕えいたします」
そういって元奴隷達が半裸のままで情熱的なお礼のキスをしてくる、もちろん大小さまざまな胸が密着して天国なわけだ。
とはいえご主人様とか言われているからといって俺が新しい奴隷の主になったわけではない。
縦ロールに言ったように古代万能薬は緑金貨一枚分の価値がある、貴族や豪商の娘ならそれを支払うのも容易だろうが平民や没落貴族の娘ではそうもいかない。
そこで俺は彼女たちを雇うことにした、俺の店の店員として給料から古代魔法薬の代金を天引きで支払わせるのだ。
これには彼女達も大喜びで首を縦に振った。
元々金が無くて売られてきたのだから、雇ってもらえるというのは彼女たちにとっては願ってもない申し出なのだ。
そして普通ならとても払いきれない代金を月賦で支払うことができるとなれば断る理由もない。
日本的に考えるのなら終身雇用に近い雇用形態だ。
俺としても初期段階から忠誠心が高く、逃げだす可能性の低い部下が手に入るのだから願ったりかなったりである。
それに俺の街は日本をベースに作ってあるから休みもあるし衛生環境も良い、ハッキリいって下手な国の貴族街よりすごしやすいくらいだ、労働環境に不満を抱くことはないだろう。
正直ここまで親切にしてやる義理は全く無いのだが俺も男、女の子に良い所を見せたいと思ってしまうのは仕方のない事。
決してアルマの視線が突き刺さっているのを恐れての事ではない。
いやまぁ、この光景ってどう見てもハーレム以外の何物でもないからなぁ、勘違いをされないようにビジネスライクな関係になって自分を律しないといかんのよ。
別にいいじゃん、異世界なんだし貴族とし跡継ぎを沢山残さないといけないし周囲も公認なんだからハーレム作っちゃえYOとか言ってはいけない。
そんな事になったら俺の理性が崩壊するからだ。
「ここは私達も脱いだほうが良い場面ですの?」
シュヴェルツェさんが恐ろしい事をおっしゃる。
やめてください、お願いします。
「さぁ、呪印は解除したからもう自由だ。出口まで案内しよう」
俺達は元奴隷、そして未来の従業員達を連れて隠し通路からダミーハウスに出る、もちろんムド達を放置するつもりはないしアトリエに置かれた水晶にされた人達の救出もある。
「ここで待機していてくれ、何かあったら……コイツが俺を呼んでくれるから」
そういって猫型ゴーレムに彼女達の護衛を頼む、コイツは純戦闘用ではないが護衛程度の戦闘なら可能だ。
「シュヴェルツェは彼女達の護衛を頼む」
「分かりましたわ! 敵対するものは私の闇の炎で焼き尽くして差し上げますわ!!」
闇の炎! はたしてそれは厨二的な意味なのかそれともダークフェニックスの固有能力なのかどちらなのだろう?
キャッスルトータスのドゥーロは吹雪のブレスを放って来たから炎系のブレスを放つ可能性はかなり高い。
いずれじっくり見せてほしいものだ。
「私はクーちゃんと共に」
アルマが自分もついていくと主張する。
「ああ」
そういってポンとアルマの頭に手を置く。
「頼りにしている」
「……はい!」
よし、これでアルマの機嫌がちょっと良くなったぞ。
◆
再び隠し通路から地下室に入った俺達はムド達の所に向かわず地下倉庫に向かった。
「上に行かないんですか?」
「んーその前に地下にも裏帳簿が無いかと思ってさ」
「裏帳簿ですか?」
「ああ、水晶にされた人達が何人いるか分からないからな、聞いたところで素直に答えるとも限らない。だから裏帳簿をゲットしておこうと思ってさ」
「皆さん助けられるんですか?」
「そこまでする義理はないよ、あくまでその機会があった時に余裕があったらだよ」
「素直じゃないですね」
むむ、なにやら見透かされたようなことを、コレはお仕置きが必要だな。
決して夫婦間の力関係を誇示したいわけではない。
「そーゆー分かったようなことを言う娘は……こうだ!!」
「きゃぁぁぁぁぁ」
俺は後ろから抱き付いてアルマの胸を揉みしだいた、うーん、この一年でさらにボリュームが増している、完全にフィリッカのサイズは超えているな。このまま育てばすごい事になるぞ、これが天然ものだというのだから恐ろしい。
「や。やめて……ください……こういう事は二人っきりの時に……」
「二人っきりだよ」
そういいながらも揉み続ける。
「ええ……と、ム、ムードを大事にですね……」
ふむ、ムードか、つまりムードを出せばいいんだな。
「愛してるよ」
「ふぁっ!?」
おお、いい反応、よーしよしこのまま行ってみよう。
「アルマは本当に素敵なお嫁さんだよ」
「うう……ん……」
「君と出会えたことが俺の人生で最高の幸運だ」
「わ、私も……です……」
よしイケる!!
「でも、今はやらなければいけない事が……」
「後でも大丈夫だろう?」
アルマのストレスが溜まるたまっているからな、ここで甘いムードを作ってメロメロにしてやらないと、妻の不安を取り除くのも夫の仕事だ。
「そんなに私の胸を触りたいんですか?」
「アルマの胸が最高だよ」
将来性も含めてな。
「先ほどの人のように大きくないですよ」
「大きさが全てじゃないさ、アルマだからいいのさ」
オーナは規格外なのであってアルマも相当デカイんだがなぁ、人は上を見てしまう生き物か。
「クラフタ様……」
「なんだいアルマ?」
「クラフタ様は侯爵として沢山世継ぎを作る必要があります、他の貴族家とつながりを持つためにその家の貴族を側室に持つ必要があることも分かっています、そうして貴族は関係を強固にしているのですから。いずれ国中の殆どの貴族からクラフタ様の下に娘が送られてくるでしょう」
何その公式ハーレム、コレが中世ファンタジーの価値観か。
「もちろんその内の何人かは敵対派閥に妨害され諦めるでしょう、そもそも結婚できる娘のいない家もあるでしょう」
だな、今までだって俺が知らない所で色々と動いていた、これからもそういう事は起こるのだろう。
「沢山の女性に囲まれるのは貴族男性の甲斐性です、分かっています。でも……」
泣きそうな顔でアルマが俺を見る。
「私を忘れないでください、屋敷の片隅でもかまいません、時々でもかまいません。私の元にも来て下さい」
そう言って俺の胸にそっとすがりつく。
あー、参った、そりゃそうだよな。アルマはしっかりした娘だけどまだ子供だ、思春期真っ盛りだ。
ハーレムアニメのキャラじゃないんだから不安になるのも仕方ない。
幼い頃から病弱で何もできず、何も残せずに死だけが確実なゴールとして目の前にあったんだから自分には何もないと思ってしまうのも無理からぬこと。
アルマは根本的に自分に自信を持てないんだ。
ずっと何もできず、心配されるだけの自分を申し訳なく思っていた。
今師匠達やラヴィリアに色々と習って猛勉強しているのもその反動、命の恩人である俺の役に立ちたいからなのだろう。
まったく、健気にもほどがある。
救われているのは俺も同じなんだからさ。
「アルマ」
俺はアルマを強く抱きしめる。
「アルマを捨てたりなんかしない。アルマは世界で唯一俺の全てを知っている女の子なんだぞ」
ヴィクトリカ姉さんやミヤは置いておく、人間としては唯一だ。
「俺の悩みも、苦しみも、全てを受け入れて愛し支えてくれるアルマを、何故忘れたりなんかするものか」
「クラフタ様……」
俺を見上げるアルマの目から涙がこぼれる。
「たとえ誰の所に行こうとも、最後には必ずお前の元に帰ってくる。俺が一番愛しているのはアルマ、お前だ」
そっと口付けをした。
数分が経ってようやく俺達は唇を離した。
アルマはキスを終えるのを嫌がり何度もねだってきたのだ、もしかしたら彼女達にキスされた分を取り戻そうとしていたのかもしれない。
とはいえコレでアルマの機嫌は完全に戻った、コレで捜索の続きができるというものだ。
「さーて再開するか」
「は、はい!」
「裏帳簿を探すついでに金目の物とご禁制の品があったら宝物庫に放り込んでおいてくれ」
「え? 良いんですか!?」
「これだけあるんだ、多少なくなっても問題ない。それにこの国は王を失ってまともに機能してないから、ここにある品も貴族達の私服を肥やすために中抜きされるさ。俺達も襲われた慰謝料として貰っても何の問題もないよ。ついでに奴隷にされた彼女たちの分の慰謝料も貰っておこう、人数いるから結構な額になるぞ」
たとえ奴隷といえども最低限の権利はある、そんな彼女達を物言わぬ彫像に変えるのはその最低限の権利さえ奪う最低の行為だ。
まぁこの世界の奴隷に対する概念は良く分からんし、アルマもお姫様だから知らんだろうなぁ。
それに国によって奴隷に対する法律や扱いも違うだろうから、今度ミヤに頼んで資料を集めてもらったほうがよさそうだ。
「そうやって彼女達の借金を減らして早く解放してあげるんですね」
「途中経過が変わった所で最終的に俺の懐に入ってくるってだけさ」
「そんな所も素敵です」
悪質で見つかったら確実にお縄になるような危険なモノを残して俺達は上を目指す。
念のため『領域』スキルで生命反応を確認しようと思ったら時間切れでスキルの効果が切れていた。
そこで再び『領域』スキルを使って生命反応を検索した俺はおかしなことに気付く。
「反応が足りない?」
「何が足りないんですか?」
そこはムド達が眠っているはずの部屋だった。そこにはムドとその父親の二人が眠っているはずなのに生命反応が一つしかない。
「ムド達の反応が足りない、もしかしたら起きて逃げたのかもしれない! 急ぐぞ!」
「はい!」
俺達は隠し階段を駆け上がる、目を覚ましたどちらかが屋敷の人間が起きないことを不振がり外に助けを求めに行った可能性があるからだ。
だとしたらアトリエの人達を急いで助けなければならない。
だがその前に現場の確認だ。
◆
アトリエを走り抜ける間に宝物庫から浮遊する魔法の手『ブロックアーム』を取り出し起動する。
ブロックアームはシューティングゲームのオプションのように俺の左右に浮遊する。
さらに建物の中であることを考慮してショートソードとスモールシールドを取り出す。
アルマは俺の後ろについて援護の構えだ。
「通信機を起動しておけ」
「はい!」
状況によっては会話ができなくなるかもしれない、その為の思念通話だ。
そしてまもなくムド達の部屋にたどり着く。
開けっ放しになっていたその部屋の奥には、黒い影が存在していた。
全身黒尽くめの忍者みたいな格好をした子供のような体躯。
そしてその足元は血に染まっていた。




