奴隷からの解放
地下室で水晶にされている女性達を元に戻した俺は彼女達を落ち着かせた後、眠っている奴隷達を起こすことにした。
「じゃあ、奴隷にされた人達を起こすとしようか、手分けして起こしてください」
「分かりました」
アリア達も一緒に奴隷達を起こす手伝いをしてくれる。
「あの、クーちゃん……」
「んー? どうした?」
俺も起こそうと近くの奴隷に近づいた時、アルマが俺に声を掛けてきた。
「起きないんですけど……」
「え?」
「こっちもです」
「こっちもよ」
そこかしこから起きないコールがあがる。
「もしかしてアレの所為じゃ……」
アルマの言うアレとはもちろんアレだ、俺が霧状にして散布した睡眠薬の事を言っているのだろう。
「だ、大丈夫なんですかコレ? もしかしてこのまま起きないなんて事は」
「だ、大丈夫、そんな時の為の……ええと……あった!!」
懐の宝物庫から気付け薬を取り出す。
「コイツを使えばどんなお寝坊さんも一発さ」
薬ビンのコルクを外し奴隷達の鼻先に薬を近づける、すると……
「臭っさ!!」
「なにこの匂い!」
次々と奴隷達が目を覚まし始める。
「どうだい? 特性気付け薬の効果は?」
そう言って振り向いた先には鼻を摘んでジト目こっちを見る女の子達の姿があった。
「臭いですわ」
シュヴェルツェの言葉に全員がうなずく、たまらずアルマが換気魔法を唱えて空気を清浄化する。
ちょっと反省。
◆
「と、とりあえず助けて頂ける事には感謝致します」
貴族と思しき奴隷の一人が代表として俺達に話しかけてくる。
ブルーの髪を腰まで伸ばした縦ロールのがスゴイな。
目を覚ました奴隷達は相当気付け薬の匂いが衝撃的だったのか口を押さえて堪えていた。
そこまでキツイ匂いにした覚えは無いんだけどな。
「それで、どうやって私達を奴隷契約から解放して頂けるのですか?」
「え?」
「奴隷契約です、私達は契約魔法の効果で主から遠く離れられないんです」
へぇ、そんな契約魔法か、そんなのもあるんだな。
「まさか分からずに私達を救うといったんですか?」
途端に奴隷達の顔が失望に染まっていく。
「ああ、大丈夫ですよ、貴方達を買った男は脱税や密輸でこれから捕まります。ですから貴方達は自由になれますよ」
だが奴隷達が戸惑ったような顔で俺を見る、そこに喜びの感情は無い。
「……貴方は知らないようだけど、一度奴隷になったら主が死んでも奴隷の身分から解放される事はないのよ。主が国に変わった後奴隷商に格安で買われて、また新しい主の下に連れて行かれるだけ、それだけなのよ……」
奴隷の世界も大変だなぁ。となると奴隷契約の魔法を破棄しないといけない訳か。
神器である大星剣メテオラに封印されたスキルに使えるモノは無いかな……っとその前に。
「奴隷契約の証である呪印を見せてもらえませんか?」
「え? 呪印? なんで?」
「確認したい事があるんです、上手くすれば魔法を誤魔化せるかも」
「ウソ、そんな事できる訳……」
「このまま奴隷として新しい主の元に行く方がいいですか?」
そう聞くと縦ロールは観念したのか大きく息を吐き、なぜか服を脱ぎ始めた。
「え? 何で脱ぐんです?」
「仕方ないでしょう、呪印は脱がないと見せられないのだから」
そう言って服を脱いだ縦ロールはブラジャーも外して俺に胸を見せ付ける。
「コレが私の呪印よ」
縦ロールの言うとおり呪印は鎖骨の下から胸を通り越してヘソの上あたりまで刻まれていた。
女の子の肌にこんな物を刻むなんてひどい話だ、ああ、けど魔法的なものを解除すれば古代万能薬で肌は戻せるか。
気を取り直して早速呪印の魔法プログラムを読み解いていく。
「んー」
「どうしたの? 早くしてくれない? 人前で裸にされて恥ずかしいんだから」
「いや、胸が邪魔で呪印の魔法プログラムが読みづらいんだよ、もっと左右に広げてくれる?」
「な!?」
躊躇したもののここまできたらもう同じと思ったのか両手で左右の胸を開き谷間を広げてくれる。
スゴイ光景だがここは解析に集中だ、でないとアルマの視線に射殺されてしまう。
俺は魔法プログラムを読み込む為にさまざまな角度から呪印を見る、いくら広げているからといって胸は立体だから一方向からだけでは見れないのだ。
「私……もうだめ、恥ずかしくて死にそう……お父様お母様、御免なさい、私もうお嫁にいけない……」
なんか罪悪感がスゴイんですがコレで解析できなかったら俺呪われるんじゃないだろうか。
「大体分かった、術式をイジれば無力化できるっぽい」
「ええっ! 本当なの!? いえアレだけの目に会わされたんだから本当でないと困るのだけれど」
奴隷達から歓声が上がる、先の無い絶望的な未来から解放されるかも知れないと分かれば声を上げたくなるのも当然か。
「とはいえ他人の術式に手を入れるのは危険だ、失敗したらどうなるか分からない、それでも良いと言う人だけ解呪を行うつもりだ」
そういうと途端に声が小さくなる、まぁ言って見れば実験台だからな。
「かまわないわ、やってちょうだい」
意外にも即座に解呪を頼んできたのは縦ロールだった。いや、縦ロールが意外だったのではなく、コレだけ早く決心が固まるとは思っていなかったからだ。
「アレだけ恥ずかしい思いをさせられたんですもの。ここまできたら最後までやらないとワリが合わないわ。その代わり失敗したら一生恨むから」
そう言ってキッと俺を睨む縦ロール。
「了解、じゃあ解呪の施術を行うからこっちに横になって」
そう言って宝物庫から取り出した布の上に縦ロールを寝かせる。
そして同じく宝物庫からペンのような金属棒を取り出す、コレは魔法のプログラムを書くペンだ。
コイツを使って呪印にプログラムを書き足し奴隷術式を無害化する。
「悪いんだけどこれから行うのは秘伝だから皆向こうを向いていて」
そう言って奴隷達を部屋の隅に寄せて反対側に向ける。
アルマとシュヴェルツェに見張りを任せておけばいいだろう。
縦ロールにも目隠しをして作業を見れないようにする。
女の子をほぼ全裸で目隠しをして牢屋に寝かせるってスゴイ犯罪臭のする光景だよな。
あ、ヤベ、アルマの殺気が高まってきた、作業に集中しよう。
「んっ……あっ……」
なんか艶かしい声を上げながら縦ロールが身をよじる。
「動かないで」
「だって、くすぐったいんだもの」
「動くと失敗するから我慢して」
「わ、分かったわ」
数分後
「終わったよ」
「は……あ、や……っと?……」
施術を必死で堪えた縦ロールは頬を赤く染めて息も絶え絶えだ。
「く、くすぐったかったー、本当にコレで呪印から解放されたの?」
「ああ、後は元主から離れれば実感できるよ」
「そう……ありがとう」
そう言って目隠しを外した縦ロールは胸元の呪印を撫でながら礼を言ってくる。
その表情は複雑だ、恐らく呪印の痕が残る事でこれから自分を待ち受ける未来が不安なのだろう。
ソレは周りの奴隷達も同じだった、奴隷から解放される希望が見えたら、その先にある新たな絶望を垣間見てしまったのだろう。女の子の体に奴隷の証が刻まれているのはどう考えてもマイナスだからな。
「そんな貴方にこちらのお薬」
「はっ?」
いきなりセールスマンの様なことを言い出した俺に目を丸くする縦ロール。
「大きな怪我の痕にこのお薬を塗るとあら不思議、あっという間に傷跡が消えました。お嬢さんもお一ついかがですか?」
「ほ、本当なの? 本当に呪印を消せるの!?」
縦ロールは俺の方を掴んで聞いてくる。
「高いよ緑金貨一枚」
奴隷達からどよめきの声が上がる、日本の円換算で100万円くらいだ、実際材料の関係で高くなるのよ。
「払うわ! 屋敷に帰ったら必ず!」
「まいどー」
そう言って縦ロールの胸に、いや呪印に古代万能薬を塗りたくる。
え? 本人に塗らせないのかって? 野暮な事言うなよ、うーん縦ロールは普通サイズだけど張りがあっていいさわり心地だ。
「ん……」
真っ赤な顔で堪える縦ロール、その表情は解呪の時とはまた違う表情だった。
縦ロールの呪印全てに薬を塗り終えた頃には殆どの呪印は消えかけており、まもなく全ての呪印が消え縦ロールは美しい肌を取り戻した。
「どうですかお客さ……ん!?」
見ると縦ロールは口元を手で覆い涙を流していた。
「あ……ありがとう、ありがとう……」
まさかここまで喜ばれるとは。
「お礼っく……したい……けど、私、何も……ひっく無い……から」
「ああ、ちゃんと払ってもらえるんならむぶっ」
「ん、むっ、む……ぅ」
俺は突然唇を塞がれた、塞いだのは縦ロールの唇だ。
「お礼……受けとって……」
そう言って俺に覆いかぶさって何度もキスをしてくる縦ロール。いや不味い、ほぼ全裸の女の子が熱っぽい表情をして胸を押し付けながらキスをしてくるんですよ。
「「「「キャー!!!!」」」」
奴隷達から黄色い歓声が上がる。
男として色々とヤバイ、ちょっともうマジで辛抱……
「っ!!!!!!」
その瞬間、俺の背筋を今まで感じたことの無い冷気が襲った。
「……」
アルマ様が笑っていらっしゃる。
アルマ様が笑っておられる
アルマ様がどす黒いオーラを立ち上らせながら笑顔でこちらを見ております。
俺はなおもキスをして来る縦ロールを引き剥がして言った。
「それじゃあ解呪して欲しい人は来て下さい」
俺は粛々と解呪作業を行なった。




