気まずい旅路
タイミングを逃すと気まずいですよね
お早うございます皆さん、クラフタです。
実はわたくしただいま非常に困った事態に直面いたしております。
昨晩飛翔機で夜の空に舞い上がった俺達だったが、すでに朝日は昇り世界に色が着
いていた。
「すごい、こんな高いところから世界を見渡せるなんて」
すぐそばでは女の子がはしゃいでいる、昨晩知り合ったばかりの子だ。
夜の闇では気付かなかったが朝日に照らされるその姿は相当な美少女だった。
年のころは12歳くらい金髪が大変綺麗だ、地球の金髪とは違い本当に黄金のように輝く髪をしている、エメラルド色の瞳はその髪と相まってまるで妖精のようだった。
「高いだけじゃなくとっても速い」
うん良かったね。
彼女は早いとか高いといった単語を連呼してはしゃいでいる。
だが昨夜の彼女と比べると無理にはしゃいでいる感が否めない。
やはり妹のことが心配なのだろう、不安を無理やりはしゃぐことで押さえつけているんだ。
なにしろ地上で馬車に載るよりオレの飛翔機に乗ったほうが遥かに早い、
それなら俺に任せて今使える最速の手段を選ぶのは当然だ。
「うわっ、町があんなに小さい。あの白い塔はアスガの町の時計塔よね、あの塔があんなに小さく見えるなんてどれだけ高いところを飛んでいるの?」
だいたい標高500m位です、それ以上高く飛ぶと君の体が耐えられないからね。
たった500mと思うかもしれないがされど500m、上空は強い風が吹くし気温も低い、さすがに高山病になるほど高くは無いが普通の人間には十分きつい。
風防も椅子も無いフュ-ゲル号は立ち乗りが基本だ、はしゃいでる今は良いがしばらくしたらキツさを感じてくるだろう、ソレまでに距離を稼いでおかないと。
「ねぇ、コレってもっと高いところを飛べないの?」
「ん、いけるけど上げないよ」
「えー、なんで?」
「上に行くほど生身の人間には危険になるからだよ」
「そうなの?」
「そう、それにコイツもそれほど性能が良い訳じゃないから」
「こんなものを作っておいて良くもまぁ」
いや実際性能は余り良くないのだ、師匠の作ったものと比べて。
師匠の作った飛翔機をF1のフォーミュラカーと考えるなら俺のは原付である、更に言えば鳥人間な大会に出てすぐ落ちる感じの。
このフォーゲル号は機体をキリギリまで軽くして更に風の属性石の効果で軽量化したものを俺の魔力で無理やり飛ばしているのだ。
いわば魔力のジェットエンジンだ、強度を得るため構造もシンプルに、さらに操縦から燃料まで全て俺の魔力頼りという飛翔機というには余りに原始的な機構だったりする。
オマケに燃費が悪い、俺の魔力が常人をはるかに上回るからこそ出来る無茶だ。
それでも一日中は飛んでいられない。
どこかで降りて休む必要がある、さすがにマジックポーションをガブ飲みして飛び続けたくは無いし。
だがそんなささいな問題よりも俺には重要な問題がある、ソレもきわめて緊急性の高い問題だ。
その問題とは
『名前を聞いていない』
だ!!!!
うん、出会いがあれだったからうっかり名前を聞きそびれてしまった。
一回聞き忘れるといまさら聞くのも気まずいよね。
どうしよう。
「ねえ、今更だけど貴方の名前を教えて。」
そう、こうやって気軽に聞けたらなぁ。
・・・ん?
「名前?」
「そう、貴方の名前。私はフィリッカ=ミンティ=ルジオスよ。」
さらっと自己紹介始まったー!
悩み損かよ!
「・・・クラフタ=クレイ=マエスタ・・・です」
「ミドルネーム!あなた上位貴種なの!」
「え?なんで分かったの?」
何でバレたんだ?協会の人たちにもバレなかったのに。
「だってミドルネームは上位貴種の証じゃない」
「そうなの?」
「貴方、貴族なのにそんなことも知らないの?」
「いや、貴族じゃないし」
平民です。
そんな平民の俺に驚いたのか説明をしてくれるフィリッカ。
「いいミドルネームというのは選ばれた上位貴族だけが名乗ることの出来る名前なのよ、これは生まれた瞬間に決まる物なの」
「生まれた瞬間?」
「そうミドルネームを名乗ることが出来るのはミドルネーム持ちの血の繋がった親から生まれた子か生まれたときにミドルネームを得ているかの2択のみよ」
「自称とか偽名とかは?」
「無理ね、ミドルネームは神に愛された者のみが名乗ることを許される神聖な名前よ、仮にミドルネームを詐称したとしても名乗ることが出来ないの、文字通り口に出来ないのよ」
「どういう原理なんだ?」
「神殿は神の御業と言っているわ、そしてその根拠がスキルよ」
「スキルは唯の苗字持ちでも持てるじゃん」
「一つならね、でもミドルネーム持ちはスキルを二つ以上所持できるわ、それが神に愛されたと言う証拠だと言うのが神殿の言い分」
それってつまり。
そちらの表情で考えていたことがわかったのだろう、えらく嬉しそうな顔で言ってくる。
「つまり貴方はスキルを最低でも2つ持っているということよ。」
あっさりばれた、ついでに上位貴種とスキルについてある程度分かった。
「協会はそんな事教えてくれなかったけどなぁ」
「協会?何で協会が出てくるのか知らないけど不思議じゃないわよ」
フィリッカは俺が冒険者と気付いていないのかな?ドラゴン倒したのに。
「何か知ってる訳?」
「だってミドルネームと複数スキルの事は貴族達が情報を秘匿しているからよ」
ああ、そういうことか、ミドルネーム持ちがスキルを複数所持していると言うことは切り札を隠し持っているという証明に他ならない、普通のスキル持ちでも隠すのに複数持ちならなおさらと言うわけか。
「この件は禁忌に近い内容だから喋ると最悪処刑されるわよ」
うわーお。
嫌なオチを聞いた。
「まぁ貴族でなくても一部の人たちは知っているし公然の秘密ってヤツ?それでも大多数の平民は知らないけどナイショにしておいたほうが良い事に代わりはないわ、それに君ならその心配も無いでしょ、もうすぐ本当の貴種になれるし」
「ん?なに?」
「別になんにもー」
何か引っ掛かる事をいっていたような気がするが。
本物の貴種?
問い詰めたいところだが視線を大地に向け強制的に話題は終了してしまった、これ以上喋る気はないということだろう。
確かに俺が協会で名前を考える時、無意識に筆が走った。
あれが神に愛されたと言うことなのか?俺はこの世界でミドルネームを名乗ることを許されたと。
ぐーーー
俺の真面目な考察は腹の虫に中断させられてしまった。
「・・・聞いた・・・?」
「そろそろ降りて休憩しようか」
「・・・・うん・・・・」
顔を真っ赤にして俯くフィリッカ、なんか可愛い。
その後俺はフォーゲル号をゆっくり滑空して地上に降りた。
「地面が懐かしいわー」
やはり空の浮遊感は慣れなかったか、地面に降りたとたん大きく息を吐いて脱力するフィリッカ。
「じゃ次の町で食事としゃれ込みますか」
「なんで町に直接降りないの?」
「パニックになるだろうが」
「あ、そっか」
空から人間以上の大きさのでかい鳥が降りてきたら人を襲いに来た魔物に間違えられてもおかしくはない。
最悪魔法や矢が飛んできただろう、そうならないようにも目撃者のいないところで降りたのだ。
「でもコレどうするの?どこかに隠しておくの?」
「まさか」
俺は懐から宝物庫を出してその中にフューゲル号を収納する。
「マジックボックス、そんな貴重なものまで。君やっぱり貴族なんじゃ」
「マジックボックスなんて運がよければ古代遺跡で手に入るでしょ、言うほど貴重じゃないよ」
言外に古代遺跡で手に入れたと伝える。
実際古代のアンデッド研究者達が住む古城でリッチに貰ったので遺跡で手に入れたと言えるだろう、かなりキツイが噓ではない。
「むー」
「さっさと町に着いて食事にしよう」
今度はこっちが話を強引に切り上げ俺は町に向かう。
「ちょっと待ってよー」
フィリッカがあわてて追いかけてくる。
10分ほど歩くと俺達は町に到着した。
「やっと食事が出来るわ」
「いや、まだだ」
「え、なんで!?
「持ち合わせが無いからランドドラゴンの素材を売らないと」
「何よそんなこと?良いわよご飯ぐらい奢ってあげるから」
「いやそういうわけにも、それにこれからの事を考えたらどの道お金は必要だし」
「まずはご飯が先よ、何処のお店がいいかなー」
「はぁ、しょうがないか」
フィリッカの空腹は限界だったらしい、聞けばセントラルの町でランドドラゴンを退治する準備をしたらすぐ飛び出して来たので丸一日食べていないらしい。
「よーし!ここよ、私のカンがここは美味しいと言っているわ!」
やめて変なフラグ立てるの。
「突撃ー!!」
フィリッカが叫びながら入り口に近づいていくが彼女がドアを開けることは無かった。
なぜなら
ドアが吹き飛んだからだ。
「ごぼぁうっ」
店のドアが吹き飛んだ瞬間店内から何かが飛び出してくる、そしてソレは向かいの家の壁にぶつかり動きを止める。
「う、うぐぇ・・・」
ソレは人間だった、腰に剣を下げ金属を要所に仕込んだ硬皮鎧を来た30代くらいの男だ、おそらく冒険者だろう。
「最近の店は入り口に近づくと人間が射出されるのか」
「無いから、そんなお店無いから!」
小粋なジョークですよ。
「もう終わりか、冒険者などと言ってもその程度か」
そんなテンプレなセリフを言いながら店の中から人が出てきた、なんだこの強制イベント。
驚いたことに男を吹き飛ばしたのは女性だった、銀の鎧に鞘に華美な装飾がついた剣。
いかにもな女騎士だ。
「さて、貴様が見たという女性について教えてもらおうか」
「これは入れそうも無いなぁ」
「む、すまない客か」
長引くと思ったら気さくにどいてくれた、結構良い人だ。
「んじゃ、入るか」
「・・・・」
「どうした?」
「・・・・」
俺の陰に隠れ女騎士から顔を背けながらフィリッカが俺の袖を引っ張る。
「何だよ?」
「やっぱあっちのお店が良い」
「いやここがいいって言ったのお前じゃん」
「いいからっ!」
小声で叫ぶとは器用なことする。
「はいはい」
さっさと食事にありつきたいんですが。
「店に用があるんじゃないのか?」
女騎士が聞いてくる、そうだよなぁ。
「いやツレが向こうの店がいいって言うんで申し訳ないですけど失礼します」
「怖がらせてしまったか、申し訳ない」
「いえ」
フィリッカが引っ張るので軽く挨拶をしてこの場から離れる。
後ろでは女騎士が意識を失った男に話しかけていた。
店から離れてしばらく歩く。
「なぁフィリッ…」
「名前禁止!!」
「なんでだよ」
「いいから!これからは名前で呼ぶの禁止!!!」
「あの女騎士か?」
「・・・・・」
沈黙は肯定と受け取りますよ。
これはカマをかけてみるかな。
「ああ、あの女騎士が捜していたのはお前だったのか」
「話したことあるの!?」
「さっき」
きょとんとした顔から真っ赤な顔になる、カマをかけられた事に気付いたらしい。
「秘密にしたいのならそれでも良いが何も知らないと口裏を合わせることも出来んぞ」
「・・・・・・私の家に仕える騎士よ」
騎士が仕えるって事はやっぱり大貴族の娘で確定か。
「なんで隠れたわけ?」
「・・・叱られるから・・・」
「はい?」
「家を黙って出てきたから、きっとそれで探しに来たのよ」
なるほど家出だったわけか、通りで貴族の娘が一人でいたわけだ。
「どっちにしろ帰ったら叱られるだろ」
「っー!」
拗ねるなよ。
さて、どうしたモンかな。
「ここ入りましょ!」
まぁバレたらその時だ、俺には関係ないしやる事だけやればいいだろ。
フィリッカを追って店に入るとなにやら店員と話し込んでいた。
「申し訳ありません、ただいま大変込み合っていまして相席でもよろしいでしょうか?」
「えと、どうする?」
「いいんじゃね?」
「じゃ相席で」
「ありがとうございます、こちらです。」
店員に連れられて移動する。
その先には銀の鎧を着たいかにも身なりのよさそうな二人組みの男達がいた。
「お客様、相席していただいてもよろしいでしょうか?」
「ええかまいませんよ、どうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言って席に座ろうとするがフィリッカが座らない。
「どうした?」
「・・・・・・」
なんかすごい変な顔をしている。
「アレ?姫様?」
席の男が素っ頓狂な声を上げる。
ここまでくるとちょっとしたコントだな。
追っ手を撒いたと思ったらその先に別の追っ手がいたなんて。
「ま、まさか!フィリッカ様、このような所でお会いできるとは」
相方の男もフィリッカに気付いたらしい、感動したように言う。
だがフィリッカは答えない。
「フィリッカ様?」
「どなたの事ですか?」
お?
「私はリーナと申します」
堂々とフィリッカはのたまった。
それはねーよ。