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隠された部屋

 さて、普通の犯罪の証拠は掴めたが水晶を探しに来た人間を襲った件、闇ギルドとの関連、そして奴隷達を彫像に変えた魔法具を探さないとな。

とはいえこの部屋にはもう何もなさそうだ、あと怪しいのは……


「対面の部屋も調べるとするか」


 証拠の品を宝物庫に入れて反対の部屋に向かう。


 ◆


 其処は小さなアトリエだった、机の上には水晶細工を作る為のモノであろう、彫刻刀や砥石などの工具が置いてある。

奥には作品とおぼしき彫像が何体も乱立している。

だが俺にはそれがムドの作品を偽装するためのダミー工房だと容易に理解できた。


「完璧に使ってないな」


「分かるんですか?」


「ああ」


 何故ならそれらの工具には碌に使った形跡がなかったからだ。

工具は申し訳程度に使用感を出して机の上に放置してある、だが部屋には水晶の欠片や工具の整備汚れといった人の気配が一切見受けられなかった。

いくら綺麗にしていたって工具には傷が付くし、毎日漂白でもしない限りその傷には汚れがたまるからだ。


 とりあえず『捜索』スキルを使用して部屋を見まわすが特におかしな所は見受けられなかった。

隠してある物は無い……か。


「クーちゃん、奥に扉があります」


 再び探索タイムに入るかと思われたが状況はすんなりと動いた。 

アルマのそばに移動してその視線を追ってみると奥に扉があった。

さっきまでいた場所とはちょうど彫像を挟んでいた為に視界が遮られて見えなかったのか。

 だが『捜索』スキルが反応しなかったという事は隠す気はなくただ単にモノが散らかっていただけだった訳だな。

 そういえばここにある彫像、えらくエロいが……まさかこれがさっき話していた人間を使って作られた彫像なのか?


恐る恐るスキルで鑑定をしてみると……


『ティファナの水晶像

 魔法具によって水晶の彫像にされた女性』


 うわぁぁぁぁぁぁぁ‼ マジだこれ‼ ムドの奴ホントに人間を彫像に変えてやがった。

知ってはいても実物を見てしまうとなかなか嫌な汗が出るもんだな。

ここまでくると全員確認しない訳にはいかず、残りの彫像も鑑定する。

 結果は、当たっていて欲しくなかったが予想通り全員人間だった。


「五体全部元人間か、一体どれだけの人間を彫像に変えて売り捌いたことやら」


 なかなかに厭な気分にさせてくれる。


「これ、水晶じゃありませんわね」


 彫像にされた人間をじっと見つめていたシュヴェルツェがポツリと呟く。


「どういう事だ?」


「見た目は水晶なんですけど、何か違いますわ」


 ふむ、元獣であるシュヴェルツェがそう言うって事は何かが違うんだろう。

見た目通り本物の水晶になっているって訳じゃないのか?

もしかしたら古代万能薬で治る可能性もあるか。

けどアレは割と貴重な材料を使っているので数がない、つーか水晶化した人間が薬を吸収できるのかという疑問もある。


「まずは件の魔法具を探し出してから考えたほうが良さそうだな」


 そんで見つかったら魔法具の魔法プログラムを解析して元に戻す方法が無いか模索してみよう。

と、いう訳で奥の部屋を探索しに行くか。


 ◆


「ここは完全に倉庫だな」


 アトリエの奥は様々な素材や資料が溢れる物置となっていた。


「この倉庫、なんだかおかしな感じですね」


「荷物の配置が意図的すぎますわ」


 アルマとシュヴェルツェが言う事は良く分かる。

この部屋の荷物はなんと言うか、まるでTVゲームのダンジョンの様に迷路状に配置されていたからだ。


「ですが私達の目はごまかせませんわ」


「ああ」


「「普通は足の踏み場なんて作れないからな(ですわ)」」


「そういう考えがいけないんですよ」


 アルマさんの視線が冷たい。


「ではスキルの使用をお願いしますクーちゃん」


 クールな視線を送って来るアルマさんに促されて『探索』スキルを使う。

予想通り「通路」の行き止まりの一つに隠し床があった。


「ここに魔法具が隠されているのかな?」


「開けてみましょう!!」


 シュヴェルツェに促されて隠し床を開ける。


「はいはい、よっと!」


 だが以外にもそこにあったのは……


「……隠し階段……ですか?」


 アルマのいう通り、それは隠し階段だった。


「こんな所に隠し階段? けど下の階には普通に部屋があったよな?」


 どういう事だ?


「もしかして部屋と部屋の間に空間があるのでは?」


 アルマのナイス言葉でイメージがまとまった、なるほどそういう事か。


「どういう事ですの?」


 人間の建築物に疎いシュヴェルツェはピンと来ないようだ。


「つまりこの階段の真下にある部屋と部屋の間には分厚い壁があってその間にこの階段がすっぽり収まっているんだ」


「人間は変な家を作りますのね、普通に一階から降りることができるようにすれば良いのに」


 シュヴェルツェの言いたいことはもっともだ、だが普通を良しするのは普通の人間。

そしてこの屋敷を作らせたのはムドの父親だ、当然まっとうな用途の部屋ではないだろう。

一階なら地下室があるかも知れないと思うだろうが、普通二階から地下への隠し階段があるとは思わないだろう。何しろ不便だし構造的に無駄が多いからだ。

そして逆に言えばそんな事をしてでも知られたくない何かがあるのは明白だ。


「しかし良く分かったな」


「はい、お父……物語で敵国に攻め込まれた王族がお城から逃げ出す為に、上の階からでも逃げ出せるよう隠し階段を作るお話を読んだことがあります」


成程、王族御用達の抜け道と言う訳か。そういえば以前の襲撃でも隠し通路を使って避難していたっけ。


「よっし、それじゃあ降りてみるか」


「明りの魔法を使います」


 アルマが魔法で明りを付けた事でようやく隠し階段の全容が照らし出された。

とはいっても普通の階段だったのだが。

階段を降りていくと随分と頑丈そうな鍵の掛かった扉が表れる。


「鍵がかかっていますね、戻って探しますか?」


「いや、わざわざ探さなくても壊せばいいだろ」


「あらワイルド」


 宝物庫から出した弱体化薬を錠前にかけ、柔らかくなった所でナイフで切り裂く。

すると錠前は豆腐の様にあっさりと切れた。


 扉の奥に誰かいるかも知れないので領域スキルで生命反応を探知する。

扉の奥には数メートルおきに生命反応が感知できる。

恐らく捕まっている奴隷達だろう。

扉のそばには生命反応が無いので安心してドアを開ける。


 ◆


 扉のを開けた向こうはちょっとした地獄だった。

入ってすぐは少し広いホールになって、そこには奴隷達が逃げない為の見張りが常駐するスペースになっていた。そしてそこには見張り達が変な角度で倒れ伏してイビキをかいていた。

どうやらこの地下室にも睡眠薬の煙は入って来ていたようだ。

見張り達から武器と持ち物を取り上げた後で縛り上げておく。

 その後に周囲を見回すと左右に通路が続いているのが分かった。

領域スキルで感知できる生命反応があるのは右で左からは魔力反応が感じられた。


「まずは奴隷の救出から始めるか」


 右の扉を開けて中に入ると典型的な牢屋になっており牢の中には一人ないし二人が入れられており合計十人の奴隷達が捕まっていた。


「拷問はされていないみたいだな」


「きっと彫像にする為に傷を付けたくないのですわ」


 ああ、なるほどね。


「それにしても……」


俺捕まった奴隷達を見回す、奴隷達は……


「いい趣味してんなぁ」


 全員がかなりのレベルの美少女だった。

まぁ売り物にするんだから顔のいいのを選んだのだろうが、幼女から美少女までタイプも見事にバラけている。まるでギャルゲーのヒロイン総出演といった風情だ。

これを見れば奴隷ハーレムを作りたがる人間の気持ちも分かるというものだ。


「クーちゃん……」


 ヤバイ、アルマさんの視線が氷の魔法もビックリの冷たさだ。

このままではイケナイ趣味に目覚めてしまう、何とか話題をそらさないと。


「いやーしかしよくこれだけ奴隷を集めたもんだよなぁ、あの子なんてかなり良い服を着てるし、もしかして貴族なんじゃないのか?」


 実際目の前の少女はかなりいい服を着ていた。見ただけで質の良い布を使っているのが分かるし、デザインも奇をてらったりせず上品さをかもし出している。そしてトップクラスの美少女だ。


「ええ、そうですね。とても御綺麗な方です」


 いやいや顔を見ていった訳じゃないよ、本当だよ。


「……」


「ア、アルルさん?……」


 アルマは無言で美少女を見ている。ヤバイ、なんか地雷踏んだか?


「クーちゃん」


「はい!!」


 平坦な声でアルマさんが俺に話しかけてくる。

これはいつでも転移装置で逃げる準備をしておいた方がよさそうだ。


「あの人、大変な人かもしれません」


「へ?」


 アルマが青い顔をしながら呟いた、どうやら妻裁判に掛けられる心配は無いようだ。


「大変と言うと?」


「あの人のドレスの刺繍、ヴィクツ帝国のモノです」


「ヴィクツ帝国?」


 聞いたことある様な無い様な? しかし帝国か、とうとう帝国来たか。

やっぱりファンタジーといえば帝国だよな。


「はい、ヴィクツ帝国は国家として古く強大な国力を持っています。当然文化水準も高く昔から家庭ごとに美麗な刺繍をすることでも有名です」


 それはまた優雅な。


「で、そうなると貴族も専用の刺繍師や刺繍デザイナーを雇って美しい刺繍を作らせます。

自然自分の家の紋章に相当する刺繍が出来上がります、平民が貴族の刺繍を真似することは許されません。最悪罰せられます」


なるほど、つまり刺繍を見れば彼女がどこ家の娘か分かるという寸法か、こいつは便利だ。


「しかもあの刺繍はかなり高位の貴族しか入れる事の許されない刺繍です」


「へー、そりゃ連れて帰れば謝礼も相当貰えそうだな」


「……ええ、無事に連れて帰れば望みの褒美が貰えると思いますよ」


「そりゃすごい、もしかして王族とか? はっはっはっ」


「その通りです」


まぁいくらなんでも王族は無いよなぁ……ん?


「いま王族て言った?」


「はい」


「そうか……」


そうか王族か……


「そっかー」


……


「って! マジか!!」


「……マジです、この金毛鳥の毛で編まれた糸で描かれた鎧龍は興国の祖が打ち倒した魔物、フルアーマードラゴンをあらわしています。金毛鳥の毛でこの刺繍をする事を許されるのは王位継承権5位までの人間だけです」


急に大事になって参りました。


「それってつまり」


「はい、国際問題です。この事が帝国に知れたら間違いなくこの国は一夜で滅ぼされます」

やばい事に首を突っ込んでしまった。

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