肥え太った黒幕共
草木も眠る丑三つ時。
レドウの護衛に置いたゴーレムからさっそく襲撃者が来たと連絡が入る。
森で襲われた時と同じパターンだな。
ゴーレムには一人だけ残して仲間の場所を探れと命じた後、捕獲用のゴーレムを引き連れ現場に向かう。
◆
レドウの家の近くに到着すると既に襲撃者達は地に倒れ伏していた。
襲撃者を倒したウサギ型ゴーレムは俺が来た事に気付き、ぴょこぴょこ跳ねながら近づいてきて足元を八の字にグルグルと回る。
こういった動物の動作は地球に居た頃の友人が飼っていたウサギを参考にしてある。
ちゃんと動物らしさが無いと不信がられるからな……もっとも馬は何故かあんな風になってしまったのだが、一体何が悪かったのだろうか?
戦闘があった事がレドウに気づかれなかったかと思い、念の為コッソリとレドウの家の窓を覗く、だがそれは杞憂だったらしくレドウは作業に没頭していた。
どうやらバレずに済んだらしい。
ああ、暗殺用であるウサギにもサイレントボールを搭載して隠密性を高めるのも有りか。今度改造する時に搭載するかな。
ウサギの頭を撫でて褒めてやった後、再びレドウの護衛を命じる。
するとタイミング良く、ワザと逃がした襲撃者が仲間と合流したとの報告が入った。
倒れている襲撃者達を拘束した後、ゴーレム達に馬車の中の拡張空間にある牢屋に襲撃者達を閉じ込めるよう命じ、ついでに以前捕まえた連中に食事をやるよう命令しておく。
さて、それじゃあ逃がした襲撃者とその仲間の所に行くか。
◆
追跡していた猫型ゴーレムのビーコンを追ってやって来たのは裏町でも路地裏でもなく、上流階級の区画とおぼしき場所だった。
というのも明らかに家のグレードが高いからだ。
どうやら犯人は貴族かそれに近い社会的地位が高いヤツの様だな、まぁ権力者が悪というのは良くある話だ。
もしかしたらこの住宅の中に闇ギルドの本拠地があって報告に来ているのかも知れない、念の為『気配遮断』スキルを発動してコソコソと移動しながらゴーレムの居る場所に向かう。
先行して襲撃者を追跡していたゴーレムは、先ほど居た場所からそれほど遠くない場所に在る屋敷の近くに居た。
「お疲れさん、この家か?」
「ニャ」
猫型ゴーレムはその通りと頷く。俺は猫型ゴーレムと共に物陰に隠れ、宝物庫から蛇型ゴーレムを取り出して件の屋敷に向かわせる。
蛇型ゴーレムはシュルシュルと塀を伝い屋敷に入って行く。
ゴーレムが入って行ったのを確認したら『領域』と『結界』のスキルを発動。
領域のスキルで周辺の生物と魔力の感知を、『結界』でうっかり誰かに近づかれないようにする。
領域で確認できる人間は……と、けっこう居るな、まぁ住宅街だから当然か。
目の前の屋敷のには40人くらい居るか、多いのか少ないのか微妙な所だ。
準備が整ったので宝物庫から携帯ゲーム機のような物を取り出しスイッチを入れる、するとディスプレイには豪奢な通路の映像が映る、もっともその視界は天井から見たモノだった。
携帯ゲーム機に見えるコレは蛇型ゴーレムのコントローラーだ、ディスプレイにはゴーレムが見たものが見えるようになっている。
最もオレの技術では映像のデータは極短い距離しか飛ばすことが出来ない為、こうして近くで無いと映像を受け取ることが出来なかった。
このあたり要改良だな。
と、気を取り直してと、屋敷の中の探索を再開しよう。
ゴーレムを天井の梁にそって這い進ませて行くと大きなホールに辿り着く、左右にドア、正面に階段があり踊り場まで登ったら左右に分かれて上がる構造になっている。
領域スキルでは左右の扉の向こうには誰も居ない、だがその奥に2,30人は居るみたいだ。
おそらく使用人と護衛だろう。
ん? なんか二人ほど建物の外、恐らく庭の済みに居るな。……あれか? 逢引か? 念の為、念の為ゴーレムに命じて偵察をさせておく、ついでに画像も撮っておくように。
さて、話を戻してっと……どっちに行こうか? まぁ悪党は高い所に居るのが定番だから上に上がるか。
ゴーレムは既に天井にへばりついているので階段を上る必要は無い、ちょっと上に這い上がれば直ぐ二階の廊下だ。
二階に上がったら再びゴーレムを天井に上げ奥に進んでいく、幾つものドアのある廊下を進んで行くと突き当たりにぶつかる。
そこで道は左右に伸び、どちらも少し歩くと奥にに曲がる構造だ。
とりあえず左を選んで奥に進んで行くとまた右に曲がる、その先には左右に扉があり、奥に向かうと右に曲がる様になっていた。どうやらO字の通路になっていて元の場所に戻るようだ。
何でこんな変な構造になっているんだろうか?
左右のドアは閉まっているので中に入ることは出来ない、だがオレのゴーレムなら内蔵した兵装で壁に穴を開けるのは容易い。とはいえ中に人が居たらばれてしまうのでここは『領域』スキルの出番だ。
ゴーレムの位置はビーコンで分かるのでその近くに居る人間を感知する。
左の部屋に4人、右の部屋に5人か。通り過ぎてきた部屋にもちらほら居るがそこは別にいい。
人数的にはどちらも同じか、じゃあ人数の少ない方の部屋を盗聴しよう。
この蛇型ゴーレムに搭載された盗聴器は結構な性能で、ゴーレムが完成した時試しにフィリッカの部屋を盗聴させた際には着替えの際の衣擦れの音まで拾うことが出来た。もっともその後即効でゴーレムを発見されて半殺しの目にあったが。
半不死になった俺に生命の危機を感じさせるなんて恐ろしい女だったぜ、土下座してフィリッカ専用のオーダーメイド魔法具を造る事でようやくアルマにつげ口するのを許してもらったほどだったからな。
まぁその後でいかにフィリッカに見つからないように覗くかを追求して今の完成度に至ったわけだが。
俺が何回半殺しにされたかは聞いてはいけない、男には挑まなければならない山があるのだ。具体的には二つほど。
おっと話が脱線した。
ゴーレムの盗聴機能をオンにすると大声で怒鳴りつける声が聞こえてきた。
『ばっかもーん!! 逃げ帰ってきたとは何事だ!!』
『で、ですがやたらと強くて可愛い動物に襲い掛かられて全員瞬く間にやられてしまったんです』
やたらと声のデカいが老いた男の声と気の弱そうな男の声が聞こえる。
『はぁ? 動物にやられたとか貴様は何を言っているんだ? 貴様等はプロなのだろう? 高い金を払って雇ったのだぞ!!』
『そ、それはそうなのですが……』
『ええい、貴様ではラチがあかん! 上司を呼んで来い!!』
『か、畏まりました!!』
雇い主とおぼしき老いた男の怒鳴り声がした直後、勢い良くドアが開きそこから痩せぎすな男が飛び出してくる。男は天井にいるゴーレムに気付かず慌てて外に向かって走って行った。
「まったく、コレだから躾のなっていない下っ端では話にならんのだ。連絡役を寄越すならもっとこう、ムチムチの乳のデカイ女を寄越せと言うのだ!!」
声の方向にゴーレムの視線を向けると男が出てきた部屋のドアが開いている、どうやら慌てる余りドアを閉め忘れていたらしい。
中の住人に見つからないようにコッソリ天井伝いに中に入るとそこにはデップリと太った二人の男が居た。
「まったく役立たずは困るねパパ」
「全くだ」
良く見ると片方はレドウに因縁を付けていたムドじゃないか、そして相手の男は父親か。
「お前のライバルになりかねない連中を潰しコンテストに優勝させる、それだけの簡単な仕事を失敗するとは闇ギルドも使えんな」
「大丈夫だよパパ、僕の作品は最高だからね、いつも貴族のお偉いさん達が買ってくれるじゃないか」
「ふふふ、そうだな、お前の作る彫像は人間の根源的な衝動を突き動かす素晴らしい作品だ、ワシも鼻が高いわ、はははははっ!!」
ただのスケベ根性だろそれ。
「そうさ、僕の作品は最高だよ、何しろ最高の奴隷達をモデルにしているんだからね」
「うむ、折角だ、コンテストに優勝したら新しい奴隷を仕入れるとするか」
「ホント! ありがとうパパ!! これでまた最高の芸術品が出来るよ!!」
「ハッハッハッ」
ゴーレムから送られる映像を見ていた俺は絶句していた。
二つの肉塊がブヨブヨと揺れながら嗤っている、なんと気色の悪い光景なのだろうか。
こいつらの会話から察するにムドの作ったエロ彫像は本物の奴隷をモデルにして作られたモノの様だ。
しかも他にもあのエロ彫像は作られていて本当にスケベ貴族達に買われていたとは……
他人の商売に口出しをする気は無いがなんというかこいつらは気色が悪すぎる。
「それにしてもパパが買ってくれたあの魔法具はホント凄いね。奴隷があっという間に美しい水晶になるんだから」
ん?
「そうだな、古代文明の遺跡から発掘した正体不明の魔法具と言う触れ込みだったがまさかあのような魔法具だったとは。お陰で極秘の奴隷売買がはかどるわ」
なんだ?
「僕は作品が認められ、パパは奴隷が高く売れる。本当にあの魔法具は最高だよ」
「あれを持って来た冒険者もまさかこれほど使える道具とは知らなかっただろうな、用途も使い方も分からないからと二束三文で買い叩いて正解だったわい」
「ほーんと馬鹿なヤツだったね、使い方が分からないなら奴隷を実験台にすればよかったのに」
「全くだ」
「「はははははははっ!!」」
◆
……どうやらこいつ等が作っている彫像は何らかの魔法具が関わっているらしいな。しかも内容を聞く限りかなり危険な感じがするぞこれ。
コレは本腰を入れて調べたほうが良さそうだ。
魔法具がらみの事件、コレは出会うべくして出会ったのかもしれないな。
師匠達からの依頼、危険な魔法具の封印。
初仕事はこの町でする事になりそうだ。




