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水晶細工を見る

後半編始まります。

 無事必要な量の水晶を手に入れた俺達はグライトの町に戻ってきた。


「コレが人間の町ですの?」


シュヴェルツェが興味津々の顔で町の入り口である門を見ている。


「そうさ、しかも今は水晶祭の最中だ、町中が凄い事になっているんだよ」


 レドウが我が事の様に誇らしげに語る、いや実際出展するレドウからしたら確かに我が事なのだろう。

ソレを聞いたシュヴェルツェのテンションはウナギ昇りだ。


 先ほど草むらで醜態を晒していたペンギンとは思えないハシャギっぷりである。

あの後ぷりぷりと怒ったシュヴェルツェから猛抗議を受けたのだが、そこはそれ俺特製の高純度属性石を定期的に食べさせることで手打ちとなった。

アレだけの美味を味わったシュヴェルツェの胃袋はもはやオレに逆らうことは出来なくなっていたのだよ、クックックッ。


 ついでに言うと定期的に属性石を食わせる為、なし崩しでシュヴェルツェが旅に付いてくる事を認めることにもなった。

コレはまぁ新しい仲間集めに関わることだし構わない、むしろ元獣の幼生の保護は必須だろう。なにしろ彼女は人間の世界に興味津々だ、俺が連れて行かなくてもいずれは外の世界に旅立っていた気がする。

そんな彼女を放っておいて、もしその正体がバレたら、欲にまみれた人間達に捕まって素材として殺されてしまうかもしれないからだ。

 一応、後で母親の元には菓子折りならぬ属性石折りを持っていかないとな。


「おおーい、無事に水晶は取れたのか?」


 唐突に声を掛けられた俺は近づいて来た人物に視線を向ける、よく見るとそれは門番のおじさんだった。


「宿のおやっさんに聞いたぞ、水晶の森に言ったってな。レドウの手伝いだって?」


「ええ、お目当ての物もタップリ採取できましたよ」


「そうか、それは何よりだ、なにしろ最近は森に水晶を取りに出かけて戻ってこないヤツ等も居たからなぁ」


 間違いなく襲撃者に襲われた人間たちの事だろう。

本当なら今すぐ捕まえた襲撃者達を引き渡して犯人を探して貰いたい所だが、今渡しても証拠隠滅の為に黒幕達によって始末されるだけだろうな。

真犯人を探す為にも突き出すのは偵察しているゴーレム達の報告を待ってからだ。



「キャァァァァァァァ!!!」


 突如響き渡った悲鳴に道行く人達が驚いて振向く。

声の主は一刻も早く人間の町を見たくて俺の横で馬車の御者席に座っていたシュヴェルツェだ、具体的に言うとすげぇウルサイ。


「ななななな! 何ですのコレは!!!」


 シュヴェルツェの剣幕を見た人々は外から来た人間が水晶祭の光景に興奮したのだと判断した。

だが実際はそうではなかった。


「な! なんでこの町はそこら中に排泄物が飾ってあるんですの!? 人間はこういうのが好きなんですの!?」


 どうやらこの街で展示されている水晶の中にはダークフェニックスが排泄した高純度水晶が結構な確立で混ざっていたみたいだ、人間にとっては素晴らしい水晶だがダークフェニックス本人にしてみれば肥溜めの「中身」を使って工作をしたようにしか見えないのだろう。


「聞きたいんだが、ダークフェニックスにとって水晶はどういう扱いなんだ?」


 コレは地味に重要な質問だった、ダークフェニックスが排泄したわけではない、天然の水晶を彼女達はどう思っているのだろうか? ヘドロでも見る気分なのだろうか?


「水晶は水晶ですわ、栄養の無い属性石と同じですのよ」


 さらっとシュヴェルツェが答える、どうやら人間には理解できないレベルの何かで判別しているらしい。

論文を纏めて王都の研究会とかに提出すれば受けるだろうか?


「じゃあ、水晶で作られた細工物は美しいと思うのか?」


「ええ、勿論ですわ! お母様と違って私は人間の芸術にも理解がありましてよ、職人が心を込めて造った品に篭められた情熱はとても心地よい波長を感じさせてくれますわ」


 ほぅ、どうやら本当に人間には理解できない何かを感じているみたいだ。


「じゃあ僕は早速作業に入らせてもらうよ!!」


 待ちきれないといわんばかりにレドウは荷物を持って馬車を降りようとする。


「そういえばレドウさんは何を造るんでしたっけ?」


「ドレスだよ、最終日に踊るダンスチーム用のドレスさ!!! ああ、あと採掘を手伝って貰った水晶の代金だが冒険者協会に預けてある報酬で支払うからコレを持っていって!」


 言うが早いか懐から取り出した羊皮紙を俺に渡したレドウはそのまま去っていった、以外に健脚である。


 だが遠ざかっていたレドウの動きがピタリと止まる、そしてくるりと回ってこちらに向くと……


「依頼を受けてくれてありがとう! ホントに助かったよ!!」


 そう短い礼を言って去っていった。


「その紙は何ですか?」


アルマとシュヴェルツェが興味津々で羊皮紙を見てくる。


「コイツは依頼達成の書類だよ、ココに冒険者協会と依頼主の名前が書いてるだろう? コレを渡して依頼が完了した事を冒険者協会に報告するんだ。そうすれば報酬が貰えてステータスカードに依頼を達成した事が記載されるんだ」


「人間って面倒な手続きをするんですのでね」


 まぁ確かに。だがこういった実績を蓄積することで冒険者協会は冒険者の実力を正しく理解し適切な依頼を回してくれるようになるのだ。

実績が増えれば実力者にしか回されない依頼、依頼書が貼り付けられる掲示板に乗らない仕事が貰える様になる。

まぁ俺は基本依頼を出す側なんだけどな。


「ああ、そうだ、レドウの護衛を用意しないとな」


 俺はイヤリング型通信機で馬車の中に格納してある戦闘用ゴーレムにレドウの護衛をする様指示を出す。

すると馬車の荷台から小さなウサギがピョコンと降りてくる。そう、コイツが戦闘用ゴーレムだ。

見た目は30Cmほどの小さなウサギだがその戦闘力は馬車を引いている馬に引けをとらない。馬が格闘戦用ならウサギは暗殺用だ。どんな戦闘スタイルかは……わかるね?


ウサギがレドウを追って行ったのを確認したら先日泊まった宿屋に向かって馬車を進める。

金は既に払っているので店主に一言断わってから厩舎に停める。


「さて、俺は報酬を受け取りに行くけど二人はどうする?」


「私はクーちゃんに付いていきます」


「私も付いていきますわ」


「んじゃ行くか」


 ◆


「凄いですわ!」


「はい! 凄いです!」


 冒険者協会に向かう途中、町中に飾られている水晶細工を見ながらアルマとシュヴェルツェは歓声を上げていた。ときどきシュヴェルツェが違う悲鳴を上げるが大抵は賞賛の声だった。

更に言うと今日飾られている作品は先日見たモノとは違った、前に聞いた通り一日置きに作品が替えられているようだ。


 めぼしい作品をチェックしつつ作品と共に並べられているカードを見る、このカードには作者や作品名、そして番号が書かれていた。

気に入った作品の名前をメモに書き込んで後々のスカウトの用意をしておく、俺の街に来てくれるかもしれない優秀な職人を探すのもこの旅の重要な目的のひとつだ。


 ◆


 冒険者協会に着いた俺達はカウンターの職員にレドウの羊皮紙を見せる。


「コレはレドウの依頼か、お前等よくあんな依頼を受けたな、大した儲けにもならないだろうに」


 呆れたように言いながらもテキパキと受け取りの書類と報酬を持ってきてくれる職員。


「丁度水晶の森のガイドが欲しかったんですよ、まぁ利害の一致ってヤツですね」


 なるほど、と笑う職員、襲撃者の事を伝えたい気持ちが湧き上がるががもう少し待とう、ゴーレムの報告を聞くのが先だ。


 報酬を受け取ったら特に用も無いので返す刀で祭に戻る、とは言っても俺の目的は祭では無いが。


「これからどうするんですか?」


「一度遺跡に戻って調査をする。シュヴェルツェには遺跡の案内を頼みたいんだが」


 アルマの質問に完結に答えるつつシュヴェルツェに頼み込む。


「え? 私ですの?」


 展示されていた作品を見ながらシュヴェルツェが返事をする。


「ああ、あの遺跡を本格的に調査したい」


「まぁ、それは構いませんけれど……」


 そう言いつつも水晶細工をちらりと見るシュヴェルツェ。


「慌てて行く必要は無いのではないですか? 折角のお祭りなのですから楽しんでも宜しいのでは?」


 とそこでアルマがシュヴェルツェに助け舟を出す、おそらくは自分も祭りを楽しみたいのだろう。


「あー、まぁ」


 見るとシュヴェルツェが目を輝かせてこっちを見ている。

ううむ、遺跡の調査に付いては自主的に協力して貰いたいしなぁ、仕方ないか。

ここは嫁の顔を立てて折れるとするか。


「分かった、今日は一日祭を楽しもう。で、明日遺跡の調査をする」


「「はい!!」」


 ◆


 満面の笑顔で返事をする二人、畜生可愛いじゃねぇか。


「アルル! あれ可愛いですわ!」


「シュヴェルツェさん、アレも素敵です!」


 早速水晶細工に夢中になる二人、コレは俺も楽しんだ方が勝ちかな。

二人を見失わないようにしつつ『測定』スキルで立ち並ぶ作品を見て行く。


『水晶の剣

 敵の魔法攻撃を刃で受けるとその魔法を吸収する。剣を振ると吸収した魔法を放つことが出来る。

 ただし魔法は一発しか吸収できず剣の許容量以上の魔法は吸収できずに壊れてしまう』


ほほう、なかなか面白い。


『水晶の水筒

 水筒に入れた水は特殊なカットと一子相伝の魔法細工技術によって何ヶ月経っても清潔な状態で飲料水として使用できる』


こっちは見た目だけでなく実用性にも拘っているのか。お?こっちは……


『虹水晶の人形

 極限まで計算されたカットで取り込んだ光が万華鏡の様に輝き人形の中に虹が生まれる』


 魔法的な小細工なしの純粋に芸術品として昇華された人形だ、本当に人形の中に虹が出来ている。コレは掛け値なしに凄い。


 ほかにも何か面白いものは無いかと見回すと視線の先に人だかりが出来ているのを見つける。

何事かと見に行くとそこには見た事のある肥満体が居た、森に行く前にレドウと話していた男だ。

確かムドとか言ったか。


「さすがムド殿の作品ですな」


「ええ、文字通り気品に満ち溢れた作品ですな」


「鑑定眼の無い素人が見てもこの作品の素晴らしさが理解できることでしょう」


「これは今回のコンテストもムド殿が優勝でしょうな」


「はっはっはっ、結果が出るまで分かりませんよ」


 とか言っている割には顔は自信満々だ、見た目は悪人デブっぽいが実は実力派エリートだったりするんだろうか?

その後も取り巻き達に持ち上げられながらムドは上機嫌で去っていく。

折角なのでムド達が去った後にムドの作品を見てみる事にした。


「うぉ・・・・・・・・」


 そこにあったのは、有り体に言えば裸婦像だった……いや裸婦像である事そのものは構わない、地球の美術品にも裸婦像はあるからな。だがその作品もデザイン……というかポーズが問題なのだ。

 あー、日本人に分かる様に言うなら『エロフィギュア』だろうか、ムドの作った裸婦像からは芸術性というものはさっぱり見受けられずむしろ作り手の欲望が透けて見える。

 う、うむぅ、美術品が云々はともかくオークションで売ればスケベ親父は大量に釣れそうだ、日本に生まれたならエロフェギュア原型師として大成したことだろう。

えーと、作品タイトルは……


『リビドー』


「……」


うん、何というか、うん……

気を取り直して別のものを見よう!

こうして俺達は暗くなるまで水晶細工を楽しんだのだった。

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