お使い
食事前の方は食後に読まれることを軽く推奨いたします。
襲撃者達を捕まえた翌日の朝。
「さぁー!今日も水晶を採掘するぞー!」
朝からレドウのテンションが高い、昨夜はダークフェニックスの水晶(糞)を抱えてとびっきりの笑顔で寝ていたからな。
逆にその光景を見ていたシュヴェルツェは文字通り汚物を見る目で見ていた。
まぁ巨大ペンギンの糞を笑顔で抱きしめている人間を見て良い気分でいられる奴はそういないだろうな。
朝なので朝食はパンと昨夜のブルーロブスタースープの残りで軽めに済ませる。
巨大サファイアで出来たブルーロブスターの甲殻は傷をつけないように解体して馬車に収納してある。
お陰で馬車の中はギリギリいっぱいになる寸前だ。
「しかしアレだけの大きさの甲殻が良く収まったね」
「それはレドウさんの技術のお陰ですよ」
そう、ブルーロブスターの甲殻を解体したのはレドウだった。
彼は傷がつくと価値が下がる甲殻を見事に細かく分解してくれた、それもかなりのスピードでだ。
その実力を目の当たりにすると彼が水晶祭の出展を許されたのも理解できる。
解体の礼金として甲殻の一部は彼に譲り渡すことにした、職人の彼なら良いモノを仕上げてくれるだろう。
余談だが彼が解体してくれた甲殻は流石にこの小さい馬車には収まりきらなかった。
なので宝物庫に何割か格納しておいたのだ、幸いレドウは細工仕事以外の細かいことは気にしない性格だったようであっさりと信じてくれた。
「そろそろ森に行きますか」
皆を促して森に再度向かう。
と言うのもレドウが細工仕事を行う為にも早く町に戻らなくてはいけないからだ。
時間的に言えば午前中いっぱいが限度か、まぁ奥の方は結構水晶があったし運が良ければダークフェニックスの糞があるだろう。
最悪シュヴェルツェの……
◆
「クーちゃん」
と、最悪の事態を想定していた俺にアルマがこっそりと話しかけてくる。
「どうした?」
「昨日の人達はどうするんですか?」
おや、気付いていたか。
「あの人達、森の入り口にいた人達ですよね」
「起こしちゃったか、悪い」
「いえ、クーちゃんが眠っていない事は知っていましたから」
だからアルマも起きていたらしい、何つーかアルマって夜に強いよな。
前に師匠の所に行く時もこっそり付いて来たし、夜明け前に起きるとすぐ目を覚ますし、眠りが浅いのかな?
「水晶祭に出る職人の妨害だと思う。犯人は分からないが、まぁ参加者の誰かだろうな。
昨夜の内に町にスパイを放ったから帰る頃には犯人の情報もある程度集まってるだろうさ」
昨夜眠る前にグライトの町に転移して盗聴用の動物ゴーレムを数十体放ったのだ、壁に覆われた町なので鳥型をメインに小型愛玩動物型のゴーレムも少量製作した。
「私達はどうするんですか?」
「このままレドウの護衛を続行して町まで戻る、その後はゴーレムに影ながら護衛をさせてスパイゴーレムが犯人を特定して証拠も確保するまで昨日の遺跡を調べる」
「古代魔法文明の遺産だからですか?」
「ああ、それにニホンジンが絡んでいるから用心するに越したことも無い。師匠達から頼まれてもいるしな」
そう、俺は領地を出る前に師匠達に頼まれていた。
◆
「古代魔法文明の遺跡調査ですか?」
「そう、私達の文明の発明品はこの時代の人間には危険な品が多いからね。
丁度外の国に行くわけだし頼めないかな、なにしろ私達は完全にアンデッドになっているからね」
クアドリカ師匠の言うとおり師匠達はアンデッドだ。
パルディノ師匠やコル師匠は見た目から死体だし一番マトモな外見のクアドリカ師匠も目が赤く牙が生えているから吸血鬼と丸分かりな訳で。
ウチの国の様に昔からアンデッドが国に関われるレベルで発言力を持っていたり(ここ数百年は持っていなかったが)ネクロマンサーが力を持っている国で無いとそこまで人々の心は寛大ではないらしい。
特に特定の神を信仰する宗派はアンデッドを神の摂理に逆らう邪悪な存在として敵視しているそうだ。
半アンデッドの俺もバレるとそこらへんマズイらしい。
「そう言うわけでよろしく頼むよ。使えそうなモノがあったら好きにしていいから」
「使えそうに無いモノはどうすればいいんですか?」
「結界魔法で封印を強化するか物理的に手を出せないように隔離して欲しい、もし手遅れなら破壊を頼むよ」
あっさりと言ってくださる、シャトリアで受けた洗脳魔法具と薬はマジヤバかったんですけど。
ああ、でもあれを考えれば危険な遺跡を封印して回るのは、寧ろ自分の為にもなるのか。
そう考えると断ることもできんなぁ。
「分かりました、その役目お受けします」
「それでこそ私達の弟子だ、ではその為にも出発の日までミッチリ修行をしようか。君がどれだけ成長したか見せてもらおう」
◆
「どうしたんですか?」
急に黙った俺にアルマが心配そうに聞いてくる。
「あ、ああ、なんでもない」
いかん、後半思い出してはいけない記憶を思い出しそうになってしまった。
出発までの記憶は永久に記憶の海の底に沈めておかねば。
「ソレよりも今は水晶を探そう、時間も無いしな」
「はい!」
◆
しかしその後数時間かけて水晶を探したが、まったくと言っていいほど見つからなかった。あっても使い物にならないような小型の水晶ばかりだったからだ。
「せめてダークフェニックスがまた現れてくれれば」
レドウがため息をついてうずくまる。
もう出発の時間が近づいている、このままでは水晶の加工時間が足りなくなってしまうな。
「それにお腹が空きましたわね」
シュヴェルツェがポロリと洩らす、確かに食事時だ。
そう、食事時だ。
「シュヴェルツェ、ちょっと話がある、付いてきてくれ」
「何ですの?」
レドウの護衛をアルマに任せシュヴェルツェを連れて森の奥にやって来る。
「こんな奥に連れて来てどういうつもりですの? っ!? まさか卵の件をココで!? そんな、まだ早いですわ、私達まだ会ったばかりですのよ! ……でも、貴方が望むのでしたら……私……」
「シュヴェルツェ」
「クー」
俺は宝物庫から取り出した高純度属性石をシュヴェルツェの前に差し出して言った。
「コレを食べてウンチをしてくれ」
「……」
「……」
無言で見つめ合う。
「……」
「……」
ただ時間だけが過ぎてゆく、何故か森の奥なのに魔物達が寄ってこない。
「へ……」
シュヴェルツェが声を上げる。
「変態ですわー!!!!!!!!!」
はなはだ心外である。




