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ドラゴンドロップ

生きた人間が登場

「あの、譲っていただけませんか?ドラゴンドロップ」


ドラゴンドロップ、ドラゴンを退治したときにだけ手に入る非常に稀少な素材。

逆に言えばドラゴンドロップが無ければソレはどれだけ強くともドラゴンとは認められない。

ドラゴンの膨大な魔力が長い時間の間に体内で結晶化したソレは欠片ほどの大きさでも同量の金の数十倍の価値がある。

もちろん量だけでなく純度でも価値は変わるがこのドラゴンはそれほど長く生きている気がしない。

純度どころかまだ結晶化してすらいない気がする、コイツがドラゴンドロップを生成するには早くともまだ数十年はかかるだろう。


「う-んドラゴンドロップはまだ見当たらないんだよね、もしかしたらコイツには無いかも」

「噓ッ!ドラゴンは絶対ドラゴンドロップを持っています!!」


ちゃんと生成していればね。


「ドラゴンドロップの生成条件を知ってる?」

「生成条件?」


あ、やっぱ知らないのか。

情報だけが一人歩きしている悪例だな、ドラゴンは財宝を集める習性があるって奴と同じだ。

実際のドラゴンにそんな習性はない、もしソレが本当なら世界中のドラゴンが金銀財宝を集めるために大暴れして人間達の国は壊滅状態になっているだろう。

金銀財宝を集めるのはあくまで個人の趣味だ、たまたま騎士団や冒険者に倒されたドラゴンの一部が財宝集めを趣味にしていたためだ。

そのお陰でドラゴンは財宝を溜め込むと言う無責任な噂が出来上がったらしい。

この少女も同じだろう。


「ドラゴンドロップは歳経たドラゴンが自身の魔力を体内に凝縮して生み出す結晶なんだよ、結晶が生み出せるほど長生きしていないドラゴンには生成は不可能だ。」


さっきから解体しているがとてもドラゴンドロップがありそうな魔力を感じない。

過去に師匠がドラゴン狩りで手に入れたドラゴンドロップを見たが爪の先ほどの欠片でとんでもない量の魔力を感じた。

つめの先ほどの結晶と比較してもやはりこのドラゴンでは期待できそうも無い。


「やっぱ無いなぁ」


あらかた解体がおわったので無かった事を少女に告げる。下手に言葉を濁しても生殺しだ、実際無いし。


「そ、そんな」


少女は呆然として地面にへたり込む。

かわいそうだが無いものはないからしょうがない。


「やっと、あの子を助けられると思ったのに」


そんな呟きと共にくぐもった声が聞こえてくる。

泣いているのだろう。

誰か助けるために必要なのか。


「なんでドラゴンドロップが必要なんだい?」


ダメ元で聞いて見たが彼女は答えてくれた。


「妹の病気を治すために必要なんです」

「病気?」


ドラゴンドロップを使って病気を治す?血や内臓じゃなくて?


「妹は魔力欠乏症なんです」


魔力欠乏症、生まれつき魔力の生成が上手くいかず魔力の変わりに生命力を削ってしまう病気だ。

この世界ではあらゆる生物は生きるために無意識に魔力を消費している、差し詰め呼吸をするように。

魔力欠乏症の患者は正常に魔力という酸素を生成できないため上手く生命活動が出来なくなるわけだ。


「ドラゴンドロップを与えればその魔力で数十年分の魔力を与えることが出来るんです」


なるほどそういうことか。

うーんそういうことなら力になってあげたい気もするが正直な話俺がドレインした所為であんまり魔力残ってないんだよな。

残った魔力を搾り出してみればそれなりの量はあるだろうけどジュースじゃないんだから魔力だけ抽出とか無理だよなぁ。


・・・・いや、出来るかも。


俺は少女に気付かれないように素材抽出スキルを使用する、抽出する対象は魔力だ。

初級素材抽出スキルは複数の素材を抽出することは出来ない、また抽出できるのは触れている物からのみだ。

慎重に魔力のみを搾り取っていく、解体した素材から魔力の多い部位を選んで抽出していき素材合成の魔法を使用する。

ドラゴンの血液を核にして魔力が凝縮し濃縮された魔力が血を媒介に固形化する

、本来は合金を作るための魔法だがちいさな素材を掛け合わせてインゴッドを作ることも出来る。

直接触れなければいけないから使いどころの難しい死にスキルと思っていたが思わぬところで役に立ったな。


「あれ?もしかしてコレって」


我ながらわざとらしい声を上げる。

だが藁にもすがりたい少女は俺の大根演技には気付かなかった。


「もしかして!」

「うん、これの事かな?」


そういって彼女に仄かに緑色の光をたたえた薄いエメラルドのような石を見せる。

透明な緑の石は地属性の証だ。


「この膨大な魔力!間違いなくドラゴンドロップです!!」


実際にはなんちゃってドラゴンドロップだけどな。

本来のドラゴンドロップと比べれば格段に質は劣るがそれでも普通の人から見れば十分な魔力量だろう。


「あぁ、コレがあれば妹は・・・」


少女は泣きながらドラゴンドロップを見ていたが飛び跳ねるようにこちらに向き直り懇願してくる。


「お願いです!どうかコレを譲ってください!!」


・・・うーん、正直気が進まない。

コレが惜しいってわけじゃないんだけどコレを渡したからっていって病気が治るわけじゃないんだよね、

コレを使ってもどれだけ持つか、なにしろなんちゃってドラゴンドロップだからなぁ。

本物と比べてたいした魔力量じゃないからおそらくもって数年、さらに処方の仕方にもよる。


「コレを使っても病気は治らないと思うよ」

「それでも良いですから!!」


あ、コレ絶対分かってないわ、というか信じたい事以外受け入れることが出来なくなってるな。

妹さんが心配なのは分かるがこれじゃ近い将来絶望するだけだぞ。

うーん、ここは師匠にお伺いを立てるか。


「ちょっと考えさせて」


そういって考える振りをしながら耳につけたイヤリングを触れる、装飾に見せかけたスイッチを入れイヤリング型通信機を起動させる。


『師匠、聞こえますか?』


―――――――――――――――


『ああ、聞こえるよ、何かトラブルかい?』

『ええ、よっぽどが居ました』

『居たの?すごい確率だな』


ええ、居ましたとも。


『なんでも妹さんが魔力欠乏症らしくてドラゴンドロップが欲しいとか』

『なるほど、アレの魔力なら生成できない魔力の代用には十分以上だからね。でもあのドラゴンはそれほど長生きしているようには見えなかったけれど』

『正解です、一応抽出した魔力でソレっぽいのを作ってみましたが焼け石に水ですね。』

『どうやってソレっぽいのを作ったのか興味あるなぁ』


やばっ

カインの件があるからスキルには余り触れられたくない。


『真面目な話特効薬って無いんですか?』

『あるよ』


あるんだ。


『魔力を生成する機能が不全を起こしているんだからソレを直せば良い』

『具体的には?』

『魔力を無理やり流し込んで穴を広げる』


乱暴だなぁ。


『なんか痛そうですね』

『実際苦しいよ、魔力欠乏症は言ってみれば水という魔力の流れる通路の入り口が狭くなっていると思えばいい、赤ん坊は生まれた時泣き声をあげることでへその緒から取り込んできた栄養の変わりに呼吸で酸素を取り込むことを覚える。

魔力も同じさ、おそらく生まれた直後にトラブルがあって正しく魔力を生成出来なかったんだろう。

生まれた直後は母体から供給されていた魔力が残っていたがそれが無くなるにつれ魔力の生成に不備があることが明るみに出たんだろう。

誰かが魔力を無理やり流し込み穴を広げてやれば良い』

『そんな簡単に直るならとっくに現代でも誰かが治療法を確立させているような気がしますが』

『他人に魔力を流し込むのは危険だよ、魔力の質を合わせて通路を破壊させないギリギリを流し込む必要がある、普通の人間じゃ無理だね』

『じゃあお手上げですか』


師匠達なら出来るかもしれないが吸血鬼やミイラにリッチが現れたら大パニックだろう。


『いや、適任者が居るよ』

『すぐ会えますか?』

『もう会っているよ』

『師匠達ですか?』

『いや』

『ヴィクトリカ姉さん?』

『いや』

『じゃあ誰なんですか?』


まさか幽霊が居たとかじゃ無いよな。


『君だよ』


『え?』


『君のドレイン能力だよ』

『いやアレは吸収専門で』

『スキルは使用者の考え一つで用途の幅が大きく広がる、君のドレインを使えばその子の魔力を吸い取ることで魔力の質を理解し逆流させることで魔力を流し込むことが出来るだろう』

『考え方一つ・・・』

『まぁそんな方法教えてないしやり方もわからないから君しだいなんだけどね』


思いっきりこっちにブン投げたー!!!


『ちょっ師匠!』

『相談してきたということは何とかしたいということだろう?けれど私達はその方面は専門外でね、何とかしたければ君が決めたまえ』


・・・はぁ、自分で決めろか。

まぁ面倒ごとをしょい込むんだ、責任は自分で持つのが当然か。


「あの!!」


「うわっ!」

「それで、譲ってもらえるんですか!」


少女が痺れを切らかせて聞いてくる、治療法にかまけてすっかり忘れてた。


「あー、そうだね」

「ず~っと黙ったままで考え込んでいるし、そんなにコレが必要なんですか?」


いや必要なのは君のほうだろ。


「いやこれを譲るのはやぶさかではないんだけどね」

「本当ですか!!」


少女が食いつかんばかりの勢いで迫ってくる、近い近い。


「その前に!」


触れ合うほどに近づいた少女の肩を掴んで離す。


「あ、お金ですか?大丈夫です、持ち合わせは無いですが、し…屋敷に帰れば用意できますので必ず支払いに来ます!!」


後払いかよ。

やっぱり良いトコのお嬢さんか、ドラゴンドロップが欲しいと気軽に言ったりするぐらいだから貴族か大店の商家の娘といったところかな。

なにより悪意に疎そうだ。


「金の問題じゃない」

「え?お金じゃないなら何ですか?まさか領地とか?そういったものは私の一存では」

「領地でもなく」


領地とか言い出すと結構な大貴族なのか?


「まさか私を・・・」

「寝言は寝て言え」

「なっ!?」


よほどショックだったのか驚愕の顔を見せる。


「そんなことでもない」

「私が…そんな事?」


「俺が言いたいのは妹さんの病気はドラゴンドロップでも完治しないということだ」

「でもドラゴンドロップの魔力なら!」

「延命にはなるって言いたいんだろ、本物のドラゴンドロップなら数十年分の魔力として代用できるだろうけどコレにはそんな魔力は無いよ、もって数年分

これはドラゴンドロップの成り損ないだよ」

「・・・っ!それでも・・・良いんです」


さっきから俺が否定しているからこちらの言いたい事は伝わってるんだろう、認めることは出来ないが。


「落ち着けよ、これで治すことは出来ないが治療する方法が無いわけじゃない」


「・・・え?・・・」


少女が何を言っているんだという目で見る。

まぁ魔力欠乏症は本来不治の病だからその気持ちは分かるけどな。


「あの、今治るって言ったの?」

「治療法は知っている」

「!!!っ教えて!!!お願い!!」


少女は俺の肩を掴んで必死の形相で懇願してくる。


「お願い、欲しい物があるなら何でもあげるから、お金だって好きなだけあげる、私を好きにしても良い!

だから・・・お願い・・・教えて・・・」


感情が高ぶりすぎたのだろう、涙を流しながら少女はお願いと言い続ける。


「はぁ、だから落ち着けって。

俺は治療法を知っている、だけど教えて出来るものでもないんだ。

治療は俺がする、だが失敗する可能性がある、むしろその可能性が高い。

失敗すれば妹さんの命の危険もありうる。」


魔力の質を調べ逆流させる為にドレインをする必要がある、だが相手は魔力が常人よりはるかに少ない、吸い取る量を失敗したら本当に死んでしまうかもしれないんだ。


「屋敷には宮廷魔導師に匹敵する治癒魔法の使い手がいるわ」


その魔法使いに教えろって言うわけか。


「実力は関係ない、素質の問題だ」

「もしかして・・・スキル」


分かっちゃうよなぁ。


「いくつかの約束を守れるなら治療をしても良い」

「わかったわ、行きましょう!!」

「早っ!内容を聞かなくて良いのか?」

「言ったでしょう、何だってするって。妹を助けてもらえるならどんな条件でも飲むわ」

「ずいぶんと大切にしているんだな。」

「・・・逆よ・・・」

「?」

「私はあの子の病気を知っていて何もしてこなかったのよ、かわいそうとは思ったけど自分が苦しいわけじゃない。結局は他人事だもの」

「それが何で」

「あの子、もう長くないのよ、もって数ヶ月だって」

「それは・・・」


状況が変わって何か思うところが出来たって所か、これ以上聞くのはさすがにマズイよなぁ。


「だとしたら急いでいったほうが良いな」

「今から戻れば夜明けごろには町に着くわ。そしたら朝一の乗合馬車に乗って出発する。大体2ヶ月もあれば屋敷に着くから」

「遅すぎるな」


そんなペースじゃ家に帰ったころには治療が不可能なほど衰弱している可能性がある、むしろかなり高い。


「でも今使えて一番早いのは馬車くらいしか。」

「奥の手を使う」

「奥の手?」


『パルディノ師匠!』


おれは繋がったままの通信機を通して師匠に話しかける。


『おーどうした?』

『遠出をするので飛翔機を城のそばに出して置いてください』

『こんな夜にアレを使うのか?危険だぞ?』

『上空を飛べば障害物に接触する危険も少ないです、一.二時間もすれば夜も明けます』

『ふーむ、まぁいいか、俺の使うか?』

『師匠のは上等すぎるんで俺のでいいです』

『墜落防止にパラシュートを用意しておいてやるよ』

『ありがとうございます、二人分お願いします』

『おっデートか?二人っきりで夜空のデートとはやりますなぁ、くっくっくっ』


なに言ってんだこのおっさんは。


『クアドリカ師匠、急病人の治療のためしばらく城を空けます』

『わかった、返ってきたときの為に特訓のメニューを吟味しておくよ』


ものっすごいテンション下がった、帰りたくなくなるなぁ。


「ねぇ、何処に行くの?」


少女は俺が何処へ行こうとしているのか分からないので不安そうに聞いてくる。


「この付近に立ってる古城は知ってる?」

「吸血鬼が住んでいたって言う城よね」

「そこの近くに馬より早い道具を置いてある」


「もしかして古代魔法具?」

「を参考に俺が作った物」

「あなた魔法具職人なの!?」


少女が驚く、魔法具職人とは古代文明の高度な魔法具を現代の技術で模倣する職人だ。

古代魔法具はその製法が複雑すぎて現代の機材では必要な精度や魔法具のタイトな挙動を制御する魔法プログラムは再現することができない、

そのため職人は魔法具の設計思想を読み取り現代の技術で可能なレベルまで性能を劣化させる。


バイクを参考に自転車を作るイメージと言えば通じるだろうか、この工程を繰り返すことでより複雑な構造を完成させていつかはバイクを完成させる、それが魔法具職人の目的だ。


「俺は唯のアルケミストだよ」


「うそ・・・」


まぁ専門家でもない奴が劣化品とは言え魔法具を作るのだから驚くのも無理は無い、ちなみに俺の魔道具は基本師匠の模倣だ。今のところは。


「唯のアルケミストが一人でランドドラゴンを倒せるとは思えない、しかも夜に」


あ、そっちですか。


「ま、色々あるの」

「色々・・・」


なんか疲れたような感じで言われたな、失敬な。

そうこうするうちの城の近くに置いてある飛翔機を見つける。


「あれだ」

「なにこれ?鳥?」


確かに鳥に似ていなくも無い、コレは地球の飛行機をモチーフにした乗り物だ。


「乗って」


少女を飛翔機の上に呼ぶ。


「う、うん」

「コレを背負って」

「何これ?」

「何かあった際に体を守る物、あとこのベルトを体にこうやって巻きつけて金具で固定、そしたらベルトの先端の金具をここの接続棒に固定して」

「う、うん」


体にF1のシートベルトのような固定具をつけパラシュートを背負い最後に飛翔機の取っ手にカラナビを接続して準備完了。


「この手すりを掴んで」

「う、うん」

「じゃあ飛ぶからしっかりつかまってて」

「飛ぶ?」

「フォーゲル号発進!!」


ふわっと機体が浮く


「きゃっ」


姿勢を正した後ゆっくりと機体を前進させながら上昇させていく。


「え、これって、まさか飛んでるの?」


まだ暗いが飛翔機が飛んでいるのが感覚で分かったようだ。


「ああ」

「すごい・・空を飛ぶ魔法具を作るなんて」


ドッグファイトは出来なくとも一応この世界にも飛行の魔法があるのになぁ。


「で、何処に行けばいいんだ?」

「え?知らないで飛んでいるの」

「まだ聞いてない」

「あ、そういえば」

「で、どっち?」

「暗くてわかんないわよ」


今は夜中、さらに上空高くを飛べば周囲の物は闇に溶けてしまう。

「町の名前と方角を教えて」

「町は・・・王都、王都ルジオン。方角は南よ」

「りょーかい」


飛翔機に取り付けてある方位磁石を見て進路を変更する。

この世界で初めての遠出だ。


「それでは王都ルジオンに向けて」


「出発!!」

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