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水晶祭 三日目

水晶の森、ソレは本当に森中のあらゆる物が水晶で出来ていた。

木も草も石も何もかもだ、動物すら体がキラキラ輝いている。

まるで漫画やアニメに出てくる景色みたいだ。


「こりゃ凄いな」


「こんなにいっぱい水晶があるのなら採掘も直ぐに終わりそうですね」


「いや、そうでもない」


はしゃぐアルマの言葉を否定するレドウ、ふむ? こんなにあるんだからお目当ての水晶も直ぐ見つかりそうなものだが?


馬車から降りたレドウは足元に落ちている拳大の水晶を拾い上げる。


「これを見てご覧」


レドウが拾い上げた水晶は実に10Cmはある大きな水晶だった、ここにはそんな水晶がそこら中にゴロゴロしていた。


「とても綺麗ですけどこれではダメなのですか?」


アルマには只の綺麗な水晶にしか見えないようだが俺は鑑定系のスキルを持っている事でこの石がレドウの目的には使えない事が理解できた。


「これは属性石ですね」


「ああ、よく分かったね」


レドウは俺の回答に満足したように肯定する。


「え? これが? でも・・・」


「クー君が言ったようにこの石は属性石だ、といってもほんのわずかに属性の力が込められているだけに過ぎないけどね。

この石は水晶としては属性が混ざってしまって水晶細工としては使えない、そして属性石としては込められた属性が薄すぎてこれまた使えない、だからこれではだめなんだ」


「全然気付きませんでした」


一人だけ分からなかった事でアルマが落ち込んでしまう。


「いや、分からなくて当たり前だよ、本当なら訓練をつんだ職人がようやく分かるものだからね、そう言う意味ではクー君はすごいよ、よく分かったね」


「いやまぁ」


「クーちゃんは凄いんです」


実際はスキルのお陰です、だが俺が褒められた事で何故かアルマの機嫌が良くなった。


「所でこれだと何で使えないんですか?」


俺の質問にレドウは良い所に気付いたねと前フリをしながら講義を始める。


「まず水晶と属性石の違いを説明しよう、水晶と属性石、実はこれ、同じ物なんだ。

さらに具体的に言えば水晶に属性が混ざった物が属性石となる」


「水晶に属性が混ざるって言うのはどういう事なんですか?」


「この世界の神話は知っているかい?」


「石の神様が色を分けて神様と世界を創ったって話ですか?」


「そう、水晶とは属性の影響を全く受けていない石、つまり創造神である透明な石の移し身といわれている、逆に属性石の属性と言うのは7色のいずれかの神の力を注ぎ込まれた状態と言うわけだ」


ああ、神話と逆で色が戻っている訳だ、しかしそうなると・・・


「ではどんな水晶でもわずかでも属性が注ぎ込まれたら属性石になってしまうのですか? 今お祭りで展示されている細工物も属性石になってしまうのでしょうか?」


ちょうど俺が聞きたかった事をアルマが聞いてくれる。


「そうでもない、ある一定の大きさになった水晶には属性の力が流れ込まなくなるんだ、

そして僕達職人が必要としているのはそうした属性石になる心配の無くなった大きさの水晶と言うわけさ」


ほー、水晶にそんな特性があったとはねー。


「僕達の目的は混じりっ気無しの純粋な水晶を見つける事だ。けど森の入り口付近は根こそぎ荒らされていてお目当ての水晶を手に入れる為にはもっと奥まで行かないといけない。危険だが覚悟はいいね?」


「もとよりそのつもりです」


「クーちゃんについて行きます」


「そっか、じゃあ行こうか、この先は道が整備されていないから馬車での移動は出来ない、ところでこの馬車は魔物避けの香草を積んであるのかい?」


魔物避けの香草、文字通り魔物の嫌う匂いを放つ香草で行商人達は馬車にこの香草の煙を吸わせて魔物避けとする、勿論煙の匂いはある程度時間が経ったら消えてしまうのでこれをケチって魔物に襲われる本末転倒な話もある。


「大丈夫ですよ、魔物避けはちゃんとしてありますから」


何しろこの馬車はゴーレム馬だ、魔物がやってきたら情け容赦なく魔物を退治して宝物庫に素材として突っ込んでくれる、むしろ自主的に魔物に襲い掛かって素材を狩ってくれる。

なお素材確保のためゴーレム馬は戦闘終了後に変形しヒューマノイドフォームとなって宝物庫の中に素材を収納してくれる、蹄では素材を持てないからね。

うん、その為だけに変形するんだ、勿論オレの趣味なので変形後のデザインはロボットアニメ風デザインで必殺技も完備してある、必殺技は大事だよね。


「そうか、それなら安心だ」


ウチの馬車の魔物避けの仕方を知らないレドウは納得し、彼に先導されて森の奥に向かう。

途中何人もの冒険者と出会うが彼らは純度の高い属性石や成長した水晶を探して森を探索しているようだった。だが不思議と誰一人として森の奥に向かおうとする者はいなかった。


「おい、この先は魔物が多くいるから止めておけ」


こちらに気付いた冒険者の一人が親切に声を掛けてくれる。

3人でパーティを組んでいるらしい、男一人に女二人か、色々考えさせるパーティだ。

スキルでステータスを確認すると平均20Lvほどのパーティだった、そろそろ中級者と言っても言い頃だな。 


「ああ、ありがとう。でもこの先の水晶が必要なんでね。折角声を掛けてもらって悪いけど進ませてもらうよ」


「そうか、無理をするなよ、最近このあたりでも魔物に殺される連中が居るんだ、危ないと思ったら直ぐに戻って来いよ」


「ありがとう」


レドウが礼を言って奥に進むので俺とアルマも男に軽く頭を下げてからレドウを追っていった。


 ◆


レドウに先導されて森の奥に足を踏み入れたその先は、


魔物の巣窟だった。


視界に移る魔物!魔物!魔物!

どこのモンスター屋敷だよと言わずにはいられない量だった。


「魔物を刺激しないように隠れながら進むよ、それでも戦わざるを得なくなったら力を貸してもらうからね」


「了解」


「分かりました」


レドウの方針に従って隠れながら奥に進む。


「そういえばさっきの連中ですけど、マズイのがいましたね」


「そりゃ森の奥との境で採掘をしているんだから腕に自身はあるだろうだ」


注意するも水晶探しに夢中になって聞き流すレドウ、気付いていないのか。


「そうじゃなくて、水晶が必要だと言った時何人か動きが止まったんですよ」


「どういう意味だい?」


レドウは俺の言葉の意味が理解できなかったらしい、質問してきた彼に対し今度はこちらが教師として説明する。


「つまりマトモじゃない方法で水晶塊を手に入れようとしている連中がいるって事」


「それってつまり」


「「「持ってる奴から奪う」」」


全員の心が一つになった。


「さっき話した冒険者が森の浅い場所で殺されたやつがいるって言ってたでしょ、あれ多分水晶を奪った後に口封じに殺されたんですよ」


「ひどい、そんな事をする人がいるなんて」


ショックを受けるアルマの言葉を遮るようにレドウが否定の言葉を返す。


「いや、ちょっと待ってくれ、そりゃ荒くれ者も多いが流石に殺しをしたって話は聞いたことがないよ」


「別に殺さなくても力ずくで奪うだけでも良いし訴えられるのが困るのなら足を怪我させてから森の奥に放り込めば証拠も残らないですよ」


「だが幾らなんでも・・・・・・」


職人である彼にはそこまでして金を欲しがる人間の気持ちが分からないのだろう。

俺は初めての冒険で悟ったけどな。


「あそこにいた何人かは採取した石を詰める袋が全然膨らんでなかった、多分そいつらが犯人だと思う」


「そんな・・・」


「兎に角帰りは特に気をつける事、そして今から命がけで気をつけてもらおうか」


「え?」


俺からの突然の警告に軽く混乱するレドウ、だがそれに付き合っている暇は無い。


「ストームウォール!!」


魔法で嵐の防御壁を展開する。

その直後防御壁に黒い塊が飛び込んでくる、だが嵐の防御壁に吹き飛ばされあさっての方向に飛んでいきそのまま近くの木にぶつかって崩れ落ちる。


「な、なんだ一体!」


「魔物に見つかった」


そう、長々と話しこんでいる間に近くを徘徊していた魔物に見つかってしまったのだ。

そりゃ魔物も動くし話してりゃ音も聞こえるよな。

とりあえず今吹き飛ばした魔物のステータスを見るとしよう。


『ブラックダイヤベア

熊の魔物で頭頂部に非常に硬いブラックダイヤが生えていてそのダイヤで頭突きをする、強い固体ほどダイヤは硬く大きく美しい輝きを放つ。生命力が強く大変獰猛で毛皮の下の皮膚は非常に強靭、高級皮鎧の材料として重宝される。肉は食用に適さない』


すばらしい、これは確実に確保せねば、幸い嵐の壁に吹き飛ばされて気絶しているので今の内に止めを刺して宝物庫に突っ込んでおこう。


「クーちゃん、向こうから一杯来ます!」


アルマの声に従い森の奥を見るとなるほど確かにやって来た、数十匹の魔物が集団でやって来る。


「ま、まずい! 直ぐに逃げよう!!」


「アルル、ちょっとダイヤ採ってくるから障壁頼む、あと素材になるからなるべく傷をつけないように」


「はい!」


アルマを偽名で呼んでから気絶している熊に向かっていく。

いまだ気絶したままの熊の首元に剣を突き刺して完全に絶命させたらダイヤを引っこ抜き普通の袋に入れクマ本体を宝物庫に仕舞いこむ。

用事が済んだので戻ってくると障壁魔法で守られているアルマ達の周りを何十匹もの魔物が取り囲んでいた。


「うわぁぁぁぁぁ! も、もうだめだ!! こんな数の魔物に囲まれてしまったら逃げられない、ああ、後は魔力切れまで待つだけか・・・・・・」


良い感じにパニくってるな、俺は穏行スキルを発動させ後ろから魔物達を狩って行く。

切れ味に特化した水属性の魔法剣を宝物庫から出す、この剣は刃先から高圧極薄の水魔法を射出するウォーターカッターで鋼鉄でもサクサク切ることが出来る、切れすぎて普通の人間にはオススメしないが。

レドウがパニックに陥っているのでこちらに気付かないのも大変都合が良い、気軽に魔法具を使うことが出来るので作業はスムーズに行なわれた。

そして数分後には数十体の魔物全てが物言わぬ死体となった。


「終わりましたよ」


「・・・・・・え?」


レドウが顔を挙げるとそこには数十体の魔物の死体が積まれていた。

勿論金目の素材は真っ先に外してある。

他の素材となる部位はクリエイトゴーレムで作ったゴーレムをレドウに見えない様に隠れさせて、俺達が去った後に馬車に運ぶよう命じてある。


「き、君達がやったのか?」


この惨状に圧倒されたレドウはようやく言葉を紡ぎだす、まぁ無理も無い、見た目10歳ほどの子供がこれだけの数の魔物を倒したのだから驚くのも当然だ。


「やったのは全部クーちゃんですよ」


アルマが誇らしげに胸を張る、最近大変成長してきたな。


「アルルもアレだけの魔物を良く引き付けておいてくれた、ありがとうな」


「えへへ」


「凄いんだな、君達」


「ええ、だから安心して水晶の採掘をして貰って構いませんよ」


「ああ、ああ! 頼りにさせてもらうよ!」



これにより俺達に全面的な信頼を寄せてくれたレドウは採掘を行ないながら俺達に様々な知識を披露してくれた。


「水晶に限らず宝石加工のキモは何と言ってもカットする際に亀裂を走らせない事と、削った面をいかに綺麗に表面処理をするかだ。

前者は石の目を見る目を養う事と勢い良くカットする事だ、そして後者は段階的に目の細かい研磨剤で根気良く磨いていく事さ、もっともどちらも魔法具で大幅に工程を短縮できるようになっているけどね。

とはいえ精密な作業はやはり人間の手で無いと良い物は出来ない」


「あの、石の目って何ですか?」


アルマの質問にレドウは嬉しそうに説明を行なう、きっとこういう話を出来る知人が少ないんだろうな。


「茹でた鶏肉を左右に引っ張るとピーと裂けるだろう? 石にもああ言った割れやすいラインがあるんだよ」


すごいざっくりした説明で驚いたが寧ろ素人にはそのぐらいの説明の方が分かりやすいみたいだ、アルマは手にした石をクルクル回しながら石の目を探している。


「全然分かりません」


「ははは、こういうのは長年のカンで分かるものなのさ」


ふと思い立って大星剣メテオラに収納された108のスキルを検索してみる。

神器である大星剣メテオラはスキル吸収機能があって便利なんだが、その特徴的なデザインから素性が割れる心配があるので縮小化の魔法具を取り付けてペンダント状のアクセサリに偽装してある。


検索したスキルの中の一つ、鉱石加工初級を発動して足元に転がっていたクズ属性石をナイフで一突きする。

するとクズ属性石はパキッと言う音を立てて真っ二つに割れた。


「なるほど、こういう事か」


「・・・うそだろ?」


「クーちゃん凄いです!」


割る所を見られていたらしくレドウが絶句している、アルマはいつも通りの平常運転だ。

さらに大星剣メテオラに収納された学習スキルと解明スキルを発動させ、再び石の目にそってナイフを差し込む、そしたら鉱石加工スキルを外して新しく拾ったくず属性石にナイフを差し込む、さっきほど綺麗では無いがそこそこ綺麗に石が割れた。

どうやら学習系スキルを活用すればスキルが無くてもある程度のことはできるようになるみたいだ、やっぱ色々使ってみないと分らんもんだな。


「君は一体何者なんだ」


呆然としたレドウが俺の正体を問うてくる。

いかんいかん、つい知的好奇心に引っ張られてやり過ぎてしまった、実験は人の居ない所でやらないとな。


「ちょっと器用なだけの普通の冒険者ですよ、さぁ、行きましょう」


「あ、ああ・・・冒険者って凄いんだな」



レドウの追求を逃れるために更なる森の奥への進軍を始めた俺達だったがそこで俺達は驚くべきモノと出会うことになる。


「なんだかさっきまでとは雰囲気が違いますね」


アルマの言うとおり森の奥の雰囲気が変わってきた、風景は変わらないんだが空気が重々しい。


「なぁ、さっきから魔物が少なくなっていないかい?」


レドウがポツリと呟く、そういえば奥に入ってから魔物との遭遇率が減っている気がする。


「奥のほうは魔物が少ないとかあるんですか?」


オレの問いかけにレドウは被りを振る。


「いや聞いたことも無い、森の奥は魔力に満ちているからむしろ数が多いはずなんだが」


ウォォォォォォォォン!!


まるで俺達の疑問に応えるように雄叫びが響く。

地震のような振動を響かせながら雄叫びはこちらに近づいてくる


「どうやらこの先にその原因がいるみたいだ」


「「原因?」」


アルマとレドウが声を揃えてこちらを見る。

この状況、かつて経験した危機に似ている、あの時はLv1だったが今回は違う。

恐らくこの先にいるのはあの時の様に生態系の頂点に立つモノかそれに近いモノ。


「新しい森の主がいる」


森の木々をなぎ倒し現れたそれは


巨大な『ペンギン』だった。


「へっ?」


ペンギンだった。


「「あ、あれは!!」」


アルマとレドウが揃って叫ぶ、え? 何? 二人共あの巨大ペンギンの事知ってんの?


「天を覆う漆黒の巨体」


「その鋭い眼光はあらゆる獲物を逃さず」


「それは宝石の王にして」


「魔を喰らう鳥の王」


「大いなる四天の一角」


アルマとレドウが回る様に交互に言葉を紡ぐ。


「「その名は元獣ダークフェニックス」」




「ふぁっ」



変な声が出た。

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[一言] ペンギン?が?フェニックス???凄いよこの人達!此の作者天災?(わざとです、変換ミスではありません)
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