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水晶祭二日目

先ほどの男の貼った依頼用紙を剥ぎ取り近くにいた係員の男に話しかける。


「これ、さっき出て行った人の張った依頼ですか?」


「ん? 坊主、仕事が欲しいのか?」


係員は話しかけてきたオレを見ても子供と侮らない、意外に子供の冒険者って多いのか?


「はい」


「だったらこれは止めとけ、ワリが合わん。やるなら右下の仕事のほうが子供向けだ、親がいるのなら右上の仕事をチェックして相談して来い」


「いえ、この仕事が気になったもので」


俺の言葉に係員は変わり者を見るような目で見る、いや実際そう見られているんだろうな。


「・・・・・・まぁ、冒険者だからなぁ」


どうやら当たりだったようだ、だが係員はワリと律儀な性格らしく俺の質問に応えてくれた。


「さっきの男はアクセサリ職人のレドウ、依頼内容の通り大型の水晶を求めているんだが、あいにくこの時期はめぼしい水晶は他の職人達に刈りつくされていて採掘できるようになるまで半年はかかるんだ」


それはおかしい。

水晶ってそんな簡単に大きくならないだろ普通。


「大型の水晶が半年で採掘できるようになるんですか?」


「ああ、このあたりに水晶の森って呼ばれる森があるんだ。

その森には濃い魔力溜まりがあって水晶の成長を飛躍的に促進させる。

ただ森の浅い場所にある水晶はさっきも言ったとおり狩り尽くされていて、お目当ての大きさの結晶が欲しいならもっと奥まで入らないといけないんだ、だがそうなると危険も増える。

森の奥は溜まった濃い魔力を喰らって凶悪になった魔物が闊歩する危険地帯だ、よほど腕に自信のある冒険者でもないと奥には行かないんだよ」


なるほど世界各地にある魔力溜まりの一つって訳か、どっちかってーと魔王であるアリスの案件だがアリスのフィルター機能はチャラい混沌によってオートメーション化されているのでアリスが来てもどうこうできる問題ではないだろう、もしかしたらここまで連れてくる事で溜まった魔力を効率よく吸い上げる事が出来るかもしれないがそれをすると水晶が採れなくなってこの街の住人が困るだろう。

結論としては問題が無いなら放っておいたほうが良い、だな。


「森の奥から強力な魔物がやってくることは無いんですか?」


「全くないとは言わないが基本出てくることは無い、あいつ等にとっては魔力の濃い森の奥地のほうが住みやすいんだろうさ、それに町は壁に囲まれているからな、盗賊だけじゃなく魔物も追い返してくれるのさ」


なるほど、対策も万全か。だったら俺が何かする必要も無いな。

俺は手に持った依頼用紙に書かれた内容を熟読する。


「その仕事を請けるんですか?」


改めて依頼用紙を見ていた俺の横からアルマも依頼用紙を覗き見る。


「依頼内容、護衛、搬送。

森の奥地での水晶塊を採取している間の護衛とその搬送、成功報酬銀貨5枚・・・・・・ですか・・・・・・」


「どう思う?」


依頼内容を呼んだアルマはなんともいえない顔をしている、当然だろう。


「正直、これで依頼を受ける人がいるとは思えません、どれだけの時間居るのか分からないのに危険な魔物の出る場所で報酬が銀貨5枚と言うのはちょっと安すぎるのでは・・・」


「一応後ろに続きがあるから読んでみ」


「・・・・・・入手困難な場所から水晶塊を発見採取した場合金貨3枚で買取の用意あり。

これ、最初から大きな水晶を採取してきて欲しいと書いた方が良いんじゃないですか?」


ごもっとも。


「自分の目でお目当ての水晶が欲しいんだとよ」


係員が捕捉で説明してくれる、ああ、職人のこだわりって奴ですか。

そう言うのを拘りだすと大抵碌な事にならんよな。


「でも水晶の森って言うのは興味あるな、ついでだから話を聞いてみるとしよう」


「クーちゃんがそう言うなら私も付いていきます」


「よし、それじゃあ依頼主の所に行きますか」


「はい!」


「しっかし今回はギリギリの時期に水晶の採掘依頼が多く来たなぁ」


俺達が協会を出る時にふと職員が漏らした言葉が妙に気になった。



5分ほど歩いて係員に教えて貰った依頼主の家に到着したんだが、なんと言うかそこは江戸時代の長屋のような建物だった。ドアはあるがカギは無し、とはいえ中世の文化水準の世界で一般市民の家にカギもへったくれもないか。


「すみませーん」


遠慮なくドアをノックするとドアの向こうからドタドタと音が聞こえ・・・


ガシャーン


いい音が鳴りました、その後数分ほどタイムラグがありドアは開けられた。


「ど、どちら様でしょう?」


中から現れたのは先ほど係員と口論していた男だった、ついでに言えば先日大型の水晶を求めていた男でもあった。

もっさりした赤い髪、手入れをしていないからかハンパに伸びたヒゲ、所々破けた作業服、さらに垂れ気味な目がだらしなさを助長している。

俺は依頼の紙を男に見せる。


「冒険者協会に貼られた依頼を見て来ました」


「ええ!? 君達が?」


俺の言葉に男は酷く驚く、恐らく見たからに強そうな歴戦の冒険者でも期待していたんだろう。


「いや、申し訳ないけど僕が行くのは危険な場所なんだ、君達じゃ足手まといだよ」


まぁ、妥当な反応だよな。


「俺達は協会に登録した冒険者です、俺は剣も魔法もある程度使えます、こちらのアルルは魔法で援護をしてくれます、旅の途中で何度か魔物退治の依頼を受けたこともあるので大丈夫です」


「魔物退治を・・・・・・いやしかしだね」


なおも男は渋る、ここははっきりと言ってやったほうがいいかな。


「依頼ですが何時までに目的の品を採取する予定なのですか?」


「え? ああ、僕の発表が4日後だから工房の皆と作業する時間を考えると明日の夕方までには町に戻りたい。」


超急ぎの仕事じゃん。


「やっぱり、こちらの依頼の紙ですが期限が書いてないですよ」


「え? うそ!」


「ここに書いてあるのは依頼内容と報酬に関する内容だけです」


男は俺から手渡された依頼の紙を見て仰天する。


「しまったー!、すぐに書き直して張り直しに行かないと!!」


男は慌てて書くモノを取りにいこうとするが制止する。


「貼り直しても依頼を受ける冒険者はいないと思いますよ」


「な、なんでだい!? 水晶の森に採取に出かける冒険者は多いんだよ、受けない冒険者が居ないとは限らないじゃないか」


男は慌てていながらもこちらの言葉に反論して来る、でも大事な事がすっぽぬけてるなぁ。


「今は祭りの時期ですから冒険者も大半は祭りを楽しんでますよ、冒険者協会もガラガラだったでしょう?」


「え? そういえば・・・いつもに比べて人が少ないなーとは思っていたけど・・・」


実は俺もこの街の冒険者協会に入ってエライ人が少ないなーって思ってたんだよな、だがそれも祭りの最中なのだから当然だ、ついでに言えば冒険者だけでなく依頼も少なめだった。


「それに護衛の報酬が銀貨5枚で大型の水晶塊を見つけたら金貨3枚とありますけど、どのくらいの大きさかどれだけの量がいるのか指定が無いので冒険者達も足元を見られるのを嫌がって自分達で採取して売ったほうがマシと考えると思いますよ」


「うう・・・・・・それはつい書き忘れて・・・・・・そうか、それで君達みたいな子供しか来なかったのか・・・・・・どうしよう・・・・・・」


男は頭を抱えてうずくまる。


「報酬を多くすれば良いんじゃないですか?」


だが俺の提案に男は被りを振って否定する。


「いや、この金額がギリギリなんだ、これ以上は手持ちが無い」


まぁこんなオンボロ長屋に住んでいれば当然か。


「明確な大きさを指定して水晶塊の採掘のみを依頼してはいかがですか?」


「それだと水晶がこびり付いた石の塊を持ってくる連中も居るから自分の目で見る必要があるんだ、それにもう時間が無いからまた採って来させる時間が無いんだ」


アルマからの提案も拒否される。

どこの世にも詐欺まがいの仕事をする連中は居るようだ、もっともそういう事を続けると冒険者協会に目を付けられて追放されることもあるんできっと足元を見れる相手を選んでやってるんだろうな。

しかしなるほど、それでこんな不可思議な依頼内容だったわけだ、ならまぁ交渉のしようもあるか。


「どうでしょう、俺達が護衛と採掘をして貴方のお眼鏡にかなった水晶のみを買い取ってもらうというのは?」


「い、良いのかい? それだと君達の負担が大きくなると思うんだけど」


むしろそっちに余計なことをされるほうが負担が大きいんだよ、俺達だけでやるなら魔道具やスキルを使って楽に冒険ができるからな、本当なら全部俺達がやりたい所だがお眼鏡に適う水晶か確認して貰うための移動時間を考えると連れて行ったほうが良い、転移装置を宿に置いておけばすぐに戻ってこれるけどそれじゃあ移動時間のつじつまが合わなくなる。


「問題ありません、これでも冒険者ですから。むしろこちらのペースで作業が出来るので効率が良い位ですよ、時間ないんでしょ?」


「・・・・・・確かに、森に行って採掘する事を考えれば一緒に採掘した方が早くて良いか・・・」


男はしばし悩み、やがて顔を上げた。どうやら決心が付いたようだ。


「折角来て貰って済まないがやはり子供を巻き込むことは出来ない、本当に危険なんだ。

悪いけど自分だけで行く事にするよ。

ああ、依頼のミスを教えてくれてありがとう、次からは気をつけるよ、これは少ないが御礼だ」


そう言ってレドウは銅貨を10枚ほど取り出してオレに差し出してきた。


「いえ、依頼を受けれないのなら受け取るわけにはいきませんよ」


「いや君達が教えてくれなければ無駄な時間を費やすところだった、そのお礼は時間を無駄にせずに済んだ事にへの正当な対価さ」


それに自分だけなら報酬を支払う必要も無いしねと笑う。

なおも渋る俺に対し時間がもったいないとばかりにレドウは無理矢理受け取らせ家の中に戻っていった。

本気で一人で採掘に行くみたいだな。


「どうするんですか?」


アルマは俺の決断に従ってくれるみたいだ、ホント物分りが良い嫁だよ、たまにはワガママ言って良いんやで。


「後ろからコッソリ付いていく」


「はぁ」


長屋から離れて見張っているとレドウが出てくる。

その姿は動きやすそうな皮鎧で腰に短剣を装備している、肩に大きな袋と採掘道具の入った道具袋を担いでレドウは歩き出した。


「追うぞ」


「はい」


ちょっとしたスパイ映画気分だ。



「あの、クーちゃん」


「ん?何?」


アルマが俺になにやら聞きたそうにしている。


「なんであの人の依頼を受けようとするんですか?」


「と言うと?」


「別に水晶の森に行くだけなら場所を聞けば済むだけですし、報酬もどちらかといえば安いです。

わざわざ食い下がってまで依頼を受ける理由が無いのでは?」


「まぁ、当然の疑問だわな」


「はい」


さてどう応えたもんか、考えを纏めてゆっくりと説明を始める。


「まず一つは水晶の森への興味かな、土地勘のある人間が居たほうが良い水晶を採掘できるかもしれないだろ?まぁお金をくれるガイドを雇うイメージで考えてくれればいいよ」


「二つ目は?」


「職人としての興味かな、行商が祭りの最中に店を出すにはかなり前から予約しないと行けないって言ってただろ? だとしたら・・・・・・」


「職人も相応の腕を持った方しか参加できない?」


「その可能性が高い」


水晶祭で展示されている細工物は実に見事だ、これだけの細工を創る職人に混ざるという事はレドウも結構な腕を持っていると見て間違いない。


「そして三つ目は予感、だ・・・」


「……もしかしてスキルですか?」


「ああ、『出会い』のスキルだ」


大聖剣メテオラに封印された108個のスキル、今までは自分の技術力の底上げをするために封印していたが、この旅では逆に活用しようと考えている。

その一環として幾つかのスキルを自分の身に宿し、アルマやミヤにもスキルを授けた。

ただしスキルを付けすぎると心身に負担がかかるみたいなので厳選したスキルのみを与えた。


これが分かったのはアルマに新しいスキルを与えた時だ。

オレがスキルを与えた直後、急にアルマが不調を訴えた、慌てて診察してみるが何もおかしなところは無く、肉体を正常な状態に戻す古代万能薬でも治らなかった。

そこでまさかと思いながら与えたスキルを外したら直ぐに体調が戻った、そこでようやくスキルが原因にあると思い至ったのだ。

その後俺はある実験を行なった、それはアルマが元々持っていたスキルを付け外ししたらどうなるかだ。


その為『測定』スキルを使用してアルマにステータス確認の許可を得る、流石に身内のステータスを無断で覗くのは裸を見るみたいで失礼な気がしたので事情を話し調べさせて貰った。


結果分かったのがアルマのクラスとスキルだ。


アルマのクラスはプリンセスウィッチ、姫魔女とでも言えばいいのか、なんだか魔法の国の女王になるために何故か地球に修行にやって来そうなクラス名だ。

魔法使い系のレアクラスで通常の魔法使いの上位互換であるだけでなく、特殊な姫魔法が使えるらしい。


さらにアルマは複数のスキルを所有していた。

一つは『予知』、これはルジウス王家の人間の多くが持つスキルなので予想は出来ていた。

問題は二つ目だ、その名は『隠れ里』、文字通りスキルの使用者を一定時間この世界から隔離する能力だ。隔離されている間は見ることも触ることも出来ない本物のチートスキルである。

何のことは無い、今までアルマが突然現れたり気付かれずに付いてきたのはこのスキルの恩恵だった訳だ。

さらにアルマは三つ目のスキルも持っていた。

三つ目のスキルの名は『祝福』、これは自身に対して効果を発揮するものではなく任意の対象に対して一時的に幸運を授けるスキルだった。

うん、チートにもほどがある、余りに危険なスキルだったので陛下にすら報告していないスキルだ。

もしこのスキルの存在が明るみになれば、世界中でアルマの奪い合いになるだろう。

どうやらこれまでのオレの幸運の一端はアルマにあったらしい。

しかもこれらのスキルは全て中級以上、中級の予知と祝福、上級の隠れ里。

我が嫁ながらとんでもないチートキャラだった、ある意味俺以上のレアっぷりである。

だがそれがアルマの悲劇の原因でもあった。

試しにアルマから上級のスキルである隠れ里を外した所、俺が鑑定を奪われた時の様な身体の不調を訴えるようなことは無く、むしろ体が楽になったと言われた。

其処からいろいろとスキルを付け替えて判明した事実は以下の通りだ。


スキルを過剰に持つと心身への大きな負担となる、

上級クラスを複数個持つ事は出来ない。

そして最後にスキルの最大保有数には個人差があるということだった。


ここから察するにアルマが病弱だったのはスキルを持ちすぎた事が原因だったのかも知れない。

そしてスキルの保有上限はフィリッカとアリスの協力を得たことで判明した、これは個人の資質と種族特性が原因の様だ。

アルマの上限が4つに対してフィリッカは6つまでスキルを所持できた。

そしてアリスが所持できたスキルは20個、貧弱魔王のアリスにこれだけの数のスキルを所持できたということは恐らく魔王という種族(?)が原因だろう。

だから俺はアルマの負担になるスキルを外して負担の掛からないスキルに付け替えてやった。

しばらくはこれで様子を見て健康状態を確認していこう。


それにしてもスキルの最大保有数と言い、もしかしたらこの世界の生き物にはステータス魔法でも解明しきれない隠しパラメータとでも呼ぶべきものがあるのかもしれない。コル師匠あたりが喜びそうである。


ちなみに俺は半分人間を辞めているので50個のスキルを取り付けれた。

流石にそれ以上は気分が悪くなったので直ぐに外したが。


そんな取り付けたスキルの一つが『出会い』だ。

善し悪しは別として強い影響を及ぼす者に出会うと教えてくれるセンサー形のスキルだ。


「だからあの人のお手伝いを?」


「そう言う事、ついでに言えば職人のコネも持って置いて損は無いからね」


「コネですか」


「そうコネ」


ウチの領地は様々な素材や食材に溢れている、なにしろ長年放置されていた詰み領地だったからだ。

ただ問題としてそういった原料を加工できる職人が少ない、それなりに外から職人が流れてきているがそういった連中はあくまで一攫千金を狙う山師的なところがある、確かな実力を持った本物のプロは少ない。だからこの旅の間に有能な人材をスカウトしたいと思っている。


「クーちゃん、斡旋に気を取られすぎて私のことを忘れないで下さいね」


「・・・・・・はい」


クギを刺されてしまった。


そうこういっているウチにレドウが大きな建物に入っていく、その建物には大きな馬の絵が描かれた看板がかかっていた。


「貸し馬車屋?」


「聞いたことの無いお店ですね」


アルマでも知らないとなると余りメジャーな店ではないんだな。

丁度従業員が居るから聞いてみよう。


「すいませーん、ここってなんのお店ですか?」


「ん?なんだ坊主、余所の町から遊びに来たのか?」


「はい」


こういう時、子供の姿だと聞き易くて良いなぁ。


「ウチは馬車を貸す店さ、向こうの方に水晶の森って言う水晶がたくさん生える森があるんだ、けどそこはちぃっと遠くてな、往復で丸一日掛かっちまう。そんで水晶を採りに行く連中に馬車を貸し出すのがウチの仕事って訳だ」


なるほど、買うより安いレンタルCDって訳だ、しかし気になるのは


「でもそのまま馬車を盗まれたりしないんですか?」


そう、普通に考えて馬車を盗まれる可能性があるから商売として成り立たないんじゃないだろうか?


「その心配はねぇよ、ウチの馬車には仕掛けがあってな、盗まれてもどこにあるのか分かるのさ、それに近隣の町にはウチの馬と馬車は買わないように頼んであるから犯人も売ることが出来ないのさ。

で、遠くに売りに行く間に街の自警団と国の兵隊さんがやって来てお縄になるって訳だ」


「なるほどー、でも兵隊さんって働いてくれるんですか?」


何しろこの国は後継者問題で揉めている為軍がマトモに機能していないのだ、その状況で犯人の捕獲と馬車の奪還を頼んでも動いてくれるかどうか。


だが従業員はチッチッチッと指を振ってオレの懸念を否定する。


「そこは心配御無用よ、ウチ等貸し馬車屋は国に結構な金を治めているし、町から町に人を運ぶ駅馬車も運営しているからな。

俺達の馬車に何かあったら国内の流通が滅茶苦茶になっちまうから、王子様達が喧嘩してても働いてくれるって寸法さ」


どうやらこの国では貸し馬車と言うのは結構重要な存在らしい、レンタカーと電車を足したみたいな扱いなんだろうか?



「なんだって!? 馬車が無い!?」


従業員に礼を言って分かれた俺達が貸し馬車屋の店舗に近づくと中からレドウの叫び声が聞こえた。


「申し訳ありません、急に大口のレンタルが入りましてね、一台も残っていないんですよ」


どうやら馬車は全て出払っているようだ、奥の厩舎からは馬の嘶き一つ聞こえない。


「そ、そんな・・・! そうだ、馬は? 馬車が無くても馬だけなら!!」


「すいません、馬も全部貸し出しているんですよ」


「っ!・・・・・・そんなぁ・・・・・・」


ヘナヘナと地面にへたり込むレドウ、無理も無い、片道半日だから往復1日、しかも森の奥にある鉱床の場所を探すのと採掘をする時間、さらに帰りは重い水晶を抱えて帰らなければならない、帰りは更に時間がかかるだろう。

とはいえそれなら何とかできる、俺がレドウに声を掛けようとしたその時だった。


「はっはっはっ、そんな所で小汚い乞食が座り込んでいると思ったらレドウじゃないか」


おお? イキナリ失礼極まりないセリフと共に現れたのはなんともドンくさそうな太った男だった。

レドウと同じくらいの年頃だろうか、紫の髪を短くそろえ清潔そうな外見なんだが・・・・・・なんと言うか見たからに趣味が悪い、恐らくは高価な服なのだろうが生憎と来ている人間と全く調和が取れていない、具体的に言うと似合わない。

そのくせ身に付けているアクセサリは素人目から見ても一級品だった、ただしゴテゴテと付けすぎて装飾過多となっていたが。

後ろには数人の取巻きが居るのでもしかしたら有力者の息子なのだろうか?

男はドスドスと音を立てて近いて来て、へたり込んでいるレドウを見下しながら言葉を投げつけた。


「こんな所に座り込んで、君の出し物はもう完成したのかい」


「ムド・・・・・・いや、まだだ、水晶が足りなくなって今から採掘に行くところだ」


ムドと呼ばれた男はレドウの言葉にわざとらしく身を逸らしながら驚く。


「今から!? それはちょっと遅すぎだろう、職人としてスケジュール管理ができていないんじゃないか?」


「・・・・・・間に合わせる」


「どうかな、この期に及んで材料が足りなくなるなんて君の構成が下手なんじゃないか?

そうやって材料を無駄にするくらいなら他の職人に回してやったほうが素材も喜ぶと思うよ」


「くっ」


「まぁ、僕には関係ないことだけどね、精々恥をかかないように辞退するなら早めに辞退したまえ、はっはっはっ」


そういってムドは取巻きを引き連れて高笑いを上げながら去っていった。


「なんとも濃い御仁だなぁ」


「貴族の中にもああいった方が多々いらっしゃると姉様が言っていました」


アルマがポツリと呟く、フィリッカも苦労してんなぁ。


「と、兎に角ここで落ち込んでも仕方ない、何とかして馬車を探そう」


俺達が話し込んでいるとレドウがヨロヨロと立ち上がり馬車を探そうとする、なかなかガッツがあるじゃないか。


「だがここでダメならどこに頼めば・・・」


「あー、それなら宛がありますけど」


途方にくれているレドウに話しかけると凄い勢いでこちらに振り返る。


「え? ほ、本当かい!?って君達はさっきの!!」


「オンボロ馬車で宜しければ、その代わり馬はタフなので長時間走り続けれますよ」


何しろ中身はゴーレムだからな。


「・・・・・・構わない、貸し馬車が無い以上贅沢は言ってられない。断っておいて今更だが頼む、馬車を貸してくれ!!」


即断で頼んでくるレドウ、どうやら馬車がないことはかなりダメージがデカかったみたいだ。


「おっと、ウチの馬車は貸し馬車の様に盗難対策をしていないので貸すことは出来ません」


「え? だったら何故?・・・・・・」


「どうでしょう? 貴方が水晶の森の案内をしてくれるのなら馬車に同乗しても構いませんが?」


「ええ?」


こっちの馬車を借りる気だったレドウは意味が分からなくて混乱している様だ、まぁ驚かして楽しむ趣味も無いしサクサク話を進めよう。


「俺達は水晶の森に行きたいんですけど生憎と祭りのせいで案内人を雇えそうも無いんですよ」


「!」


オレの意図に気付いたレドウはハッとした顔をしてこちらを見る。


「それなら僕が森へ案内するよ!!」


「商談成立ですね」


俺とレドウはがっちりと握手をする。


「よろしく!ああ、今更だけど僕の名前はレドウ、水晶職人だ」


「俺はクー、戦士兼薬師です、多少なら魔法も使えます、こっちはパートナーのアルル」


「アルルです、クラスは魔法使いです」


「それじゃあ早速出発しよう!」



宿に預けてある馬車を出すために店主に声を掛ける。


「どうした、もう町を出るのか?」


「いえ、仕事で水晶の森に行く事になったので馬車を取りに来たんです」


「部屋はどうする?今日の分の代金は貰っているが森に行くなら往復だけでも丸一日はかかるだろう?」


「祭りが終わる日まで借りますので追加で代金をお支払いします」


「そうか、ちょっとまっとれ、弁当ぐらいは用意してやろう」


オレから追加の料金を貰った店主はカウンターから出て厨房に入っていく。


「ありがとうございます、出来れば三人分お願いします」


「わかった、馬車まで持って行くから出立の準備をしとけ」


宿を出た俺は厩舎に入り馬車を出す準備をする、と言っても特にする事も無いんだが。


「こ、この馬車で行くのかい?」


馬車のオンボロッぷりを見たレドウの声がうわずっている。

まぁ見た目ホントにオンボロだからな。


「言ったでしょ、オンボロだって」


「聞いてはいたけど予想以上と言うかホントに走るのかと言うか・・・・・・いや贅沢は言っていられないか」


「ちゃんと仕事はしてくれますから安心してください」


「ああ、頼むよ」


信頼と言うより懇願といった感じの声音だった。

馬車を外に出すとちょうどタイミング良く店主が弁当を持ってきてくれた。


「なんだレドウじゃないか、コイツを運ぶために森に行くのか?」


「ええ」


「コイツは偏屈だからうっとおしかったらそのまま置いて来い」


「酷いな、僕は偏屈なんかじゃないですよ!!」


「ほれ、女房の作ったメシだ、見た目よりはイケるぞ」


レドウの抗議を無視した店主はオレに3人分の弁当を手渡す。


「ありがとうございます」


「気をつけてな」


店主に見送られ俺達は町を出る。


「で、どっちに向かえば良いんですか?」


町を出たは良いが水晶の森の場所が分からないので早速レドウに聞く。


「北の方角に進んでくれ、そうすると轍で土を踏み固めた道があるからその道に沿って進むんだ」


「了解」


レドウの指示に従って北に向かうと街道を外れた野原に一本の土色の道が伸びていた。


「水晶の森へ採掘に行く為の馬車に踏み固められて自然に出来た道だ、この道をそれない限り自然に水晶の森に辿り着く」


なるほど、現代日本の様にアスファルトと白線で作られた道ではないがこれだけハッキリと色が違えばこれも立派な道だ。実際には馬車が走ることで草がひき潰されて出来た走行後なんだけどな。


暫く馬車を走らせているとレドウが御者台に顔を出してきた。


「こんな早く走って馬は大丈夫なのかい?」


おっとしまった、つい見知った人間とだけ乗っている時の癖で巡航速度で走らせてしまった。


「言ったでしょ、タフな馬だって、ちゃんと後で休ませますから」


「そ、そうか、大丈夫ならいいんだ。でも馬に無理をさせなくてもいいからね。

最悪僕は次回出展すればいいんだから」


律儀な奴だな、自分のことよりも馬を心配するか。まぁゴーレム馬だからそんな心配無用なんだけどね。

それでも余り走らせると怪しまれるので昼食休憩と言うことで馬を休ませるフリをした。


「凄いなぁ、もうこんな所まで着ちゃったよ、普通の馬車の半分近い時間で来れたよ」


昼食に宿屋の店主が用意してくれた弁当を食べながらゴーレム馬の速さに興奮するレドウ。


「もしかしてこの馬は軍馬か軍馬の子供なのかい?」


全く疲れを見せずに走り続けたゴーレム馬に対して軍馬とでは無いかと言う妥協点を見出したようだ。


「死んだ親が連れて来た馬なので詳細は分かりませんがよく働いてくれますよ」


「あ、ゴメン」


聞いていけないことを聞いてしまったかとレドウが謝ってくる。


「別に気にするようなことじゃありませんよ」


「ありがと、でもこれだけ時間を短縮できたから昼からは馬を休ませるためにもゆっくり進もう」


「分かりました」


食後お茶を飲みながら休憩した俺達は再び移動を開始する。レドウの提案で先ほどよりもゆっくりと馬車を進ませる、最もそれでも普通の馬車並みの速度が出ているのだが。


「このペースなら夕方より前に森に着きそうだ、さすがに夜に森の奥に入ることは出来ないから入り口付近で小さくても純度の高い水晶を探そう」


現地に着いてからの行動について馬車を走らせながらミーティングを行なっていると視界に大きな森が見えてきた。


「森が見えて来ましたよ」


「え? もうかい?」


驚いたレドウが慌てて御者台に顔を出す。


「ホントだ、水晶の森だ」


驚きの余り呆けた顔をしているレドウをそのままに馬車を進ませる、実はレドウに気付かれない様に馬車のサスペンションを快適モードにして速度を上げていたのだ。サスペンションが衝撃を吸収してくれたお陰で速度アップに気付かれなかったという寸法だ。


「到着したんですかクーちゃん?」


気になったのかアルマも御者台に顔を出してくる。


「まだ着いてないよ、ホラ、向こうの森が目的地さ」


「楽しみですね、どんなところなんでしょう」


アルマはまだ見ぬ水晶の森に胸を躍らせている。


「そんなに期待しすぎないほうが良いと思うけどな」



俺とアルマは先ほどまでのレドウの様に呆けていた、アルマに期待しないほうが良いと言ったオレだったがそれは間違いであった。


「これが水晶の森・・・・・・」


「綺麗・・・・・・」


水晶の森、それは森全てが宝石で出来た奇跡の森だった。

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