水晶祭一日目
人ゴミの中を暫く歩いてようやくお目当ての建物に到着する。
祭りの影響で人が多くてここまで来るのに難儀した、もっともこちらも観光半分なのでそれなりに楽しんだのも事実だが。
「凄い人でしたねクー・・・ちゃん」
「ん? ああ、アルルはコレだけの人ゴミは初めてだったか」
未だに偽名で呼ぶのにはなれないようで俺の本名を呼びそうになるアルマことアルル。
「はい、こんなに沢山の人が密接して歩いているのは不思議な気分です。そういえば先ほどの人達は大丈夫だったでしょうか?」
アルマが心配しているのは道中俺達のポケットの中を狙ってきたスリ達の事だ。
祭りの最中である所為か道中スリが何度もポケットに手を突っ込んできたのだ。とはいえ生憎と普通のポケットには大したものは入っていない、そして服に縫い付けた宝物庫は持ち主以外にはただのポケット・・・ではなくスリ対策に魔法がかかるようにしてある。
まぁ魔法というかぶっちゃけ毒だ、持ち主以外が手を突っ込むと手だけが空間を転移して毒袋に突っ込まれる、毒を浴びると火の中に手を突っ込んだ様な痛みが走りその後しばらくの間手に何かが触れるだけで痛むようになる。
何も触れていない状態ならまだ我慢できるレベルだが何かに触れた瞬間手に染み込んだ微細な毒素が皮膚を刺激する、言ってみれば手の表面に目に見えないトゲが刺さっている感じといえばご理解いただけるだろうか。
炎症は毒が分解されるまで続くのでスリをするどころではない、なにしろ寝るときはどうしても手を下さないといけないのだから。
その間に反省して真人間になってもらいたいものだ。
「大丈夫だろう。悪いことをしていたんだから自業自得さ」
まぁスリの事はどうでもいい、さっさと商工会に登録するとしよう。
建物の中は外の喧騒とは打って変わって静寂に満ちていた、何というかいつぞやの役所のような冒険者協会を思い出す。
「すみませーん」
カウンターの男に声をかけると男はけだるそうに顔を上げる。
「何の用だ坊主? ここは坊主みたいなガキの来る所じゃないぞ、親とはぐれたのか?」
「いえいえ、はぐれていませんよ。こちらの商工会に行商の許可を頂きに来たんです」
俺の言葉に男は怪訝そうな顔をする。
「お前が? 子供を寄越すなんてものぐさな親もいたもんだ。だが間が悪かったな、今は祭りの真っ最中だから行商が商売をするスペースは無いぜ」
「そうなんですか?」
「ああ、外を見ただろ、祭りの水晶細工が展示されているから行商人が商売をするには何週間も前から祭りのために予約をする必要があるのさ、もっとも予約できるのは一週間続く祭りの内の一日だけだけどな。
なにしろ祭りの間はみんな財布の口が軽くなる、商人たちはこぞって店を出したがるのさ」
なるほど、縁日の屋台みたいなもんか。
「雑貨屋に薬や薬の材料を買い取ってもらうのもだめですか?」
俺の場合そんな派手なものは売るつもりがないので売れるなら屋台でなくても問題ないので何とか許可がほしいところである。
「お、薬売りだったのか、丁度祭りの時期は生傷が耐えないから傷薬は品薄なんだ。もって行くと相場より少し高く買ってくれるぞ」
「では販売許可を頂けますか?」
「露天での行商でなければ許可はいらんよ。そっちは買取側の店が許可を取っているからな」
「判りました」
なるほど、行商と買取では同じ売り上げでも差が出てしまう、だから細かいみかじめ料を街の商人に負担して貰う事で外から来る人間が売りやすくしている訳だ。
こういった知識はどこの町でも同じなのかな? この機会に色々聞いておいたほうがいいかも。
「うん? 坊主は親から教わってないのか?」
まぁそういわれるわな、と言う訳で設定どおり盗賊に襲われて親を無くした事を伝えるとカウンターの男だけでなく暇をもてあまして聞いていた近くの職員までが泣き出した。
「そうかぁ、苦労したんだなぁ。けど諦めんなよ、真面目に生きてりゃ必ず良い事あるかんな!」
商工会の職員達から泣きながら慰められてしまった、なんか罪悪感が半端なくキツイ。
この街の人間は情に厚い人が多いのか行商をする上で必要な知識を色々と教えて貰った、それこそ裏の知識までだ。
コレはなかなか幸先の良いスタートである、俺達は職員達に礼を言って商工会を後にした。
職員との話で結構時間を食ってしまったから冒険者協会に行くのは明日で良いか、今日はこのまま観光としゃれ込もう。
「とりあえず昼飯かな」
「どこもいっぱいですね」
キョロキョロと見回しながらアルマとめぼしい食事処を探すがあいにくどこも満席だった。
「屋台で買い食いするか」
「買い食いなんて悪い子みたいです」
とかいいながら楽しそうに屋台の物色を始めるアルマ、なんだかこっそり買い食いをする小学生みたいだ。
まぁ年齢的には小学生そのものなんだが。
「だから欲しいのはもっと大きい水晶なんですよ!!」
「お?」
「え?」
大きな声のした方を見るとなにやら店の前で若い男が店員と揉めている。
「何かあったんでしょうか?」
「だーかーらー、祭りの時期にそんなデカイ水晶用意出来ないって、もう売り切れてるって!!」
ふむ、どうやら水晶祭関係の人の様だ。
男は暫くの間店員と押し問答をしていたが最後には諦めたのか肩を落として去っていった。
「なにやら欲しいものが手にはいらなかった様だな」
「なんだか可愛そうですね」
「しょうがないさ、これだけ街に水晶細工が出ているんだ、良い水晶は売り切れなんだろう」
「では他の職人の方の様に水晶細工を作る人なのでしょうか?」
「多分ね」
まぁ、他人の事情だしな、詮索してもしょうがない。
それよりも俺達は祭りを楽しむとしよう。
「とりあえず腹ごしらえだ、美味そうな出店があったら適当につまんでいこう」
「直ぐにお腹いっぱいになっちゃいそうですね」
「適当に摘んだら宝物庫に入れておけばいいだろ」
「あ、そうですね」
宝物庫は異空間に繋がっているので料理などの生物が長持ちするのだ、といっても無限に持つわけではないのだが。
俺達はのんびりと買い食いしながら祭りを練り歩いた。
「凄いです、あの鳥の細工物! 風に吹かれて動いてます!!」
アルマの声に振向く、なるほど確かにすごい、キラキラ光る鳥の細工物が風に吹かれて動いている。
近くで見るとその理由がわかった、強度の必要な部分以外が極薄で作られている、それこそ風が吹いたらそのまま飛ばされるくらいに薄い。
そして、だからこそ人が近づけないように柵が立てかけてある、といっても無粋な柵ではなくこれまた水晶を利用した柵だ、いびつな形の水晶の柵は鳥が羽ばたいた「風」を意識して作られている、なかなか良いセンスだ。
他にも様々な水晶細工があった、純粋な細工物、アクセサリ、剣や鎧と様々だ 街中が水晶細工で光り輝いている、俺達は時間の許す限りその光景を楽しんだ。
「よくもまぁこれだけ凄い細工を揃えたもんだ、これを狙って盗賊が来るんじゃないのか?」
「その心配はねぇよ」
俺の独り言に返事があった事に驚いて後ろを振向くとそこには先ほど出会った門番がいた、手には屋台で買ったと思われる焼き鳥を持っている。
「よう、また会ったな」
「仕事はいいんですか?」
「祭りの時期は半日交代なのさ、っとさっきの疑問だが盗賊の心配は無い。何しろこの街は壁に囲まれているから入るにも相当な手間がかかる、入り口の門をみたろ、アレがぐるりと町を覆っているんだ」
入り口の門の高さはゆうに5mはあった、それが町をぐるりと覆っているわけだ。物見櫓もかねているであろう壁は遠くから来る盗賊を即座に発見、盗賊が来る頃には迎撃準備が完了していると言うわけだ。
「さらに水晶細工には盗難防止用の魔法が掛かっている、どれだけうまく隠してもすぐにばれるって訳さ」
なるほど、魔法と物理の2重のセキュリティと言う訳か、それならこの自信も理解できるというものだ。
「もう祭りは見てきたのか?」
「ええ、一通りは、明日から商売と冒険に戻りますよ」
俺の言葉にアルマがちょっと残念そうな顔をする、いや、まぁちょっとくらいなら祭りに参加してもいいけどさ。
「おっと、ソイツは早計だぜ坊主」
門番がドヤ顔で判ってねぇなぁ的なポーズを取る。
うん、このウザさ誰かを思い出す。
「他にもなにか催し物があるんですか?」
「あるもある、毎日あるぜ!」
毎日とな?
「そうよ! 水晶祭は一週間行われる、そして祭りの出し物は一日ごとに変わるのさ」
「と言うことはそこかしこに展示されている水晶細工は・・・・・・」
「おう、今日しか見れない一点物ってわけさ」
そりゃまた豪勢な祭りだ、たった一日の展示の為だけにコレだけの物を作るなんて。
「そしたらこの水晶細工はどうなるんですか?」
アルマが至極当たり前の疑問を投げかける。たしかになぁ、コレだけの細工をどこに置いとくのやら。
「それも祭りの一環さ、夜になったら向こうにある領主様の館でオークションが開かれる、そこで金持ち達が気に入った水晶細工を競り合うのさ」
ああ、なるほどそういうことね、祭のために水晶細工があるんじゃなくて水晶細工のために祭がある訳だ。
そしてだからこそセキュリティもしっかりしているって訳だ。
「そうだよなぁ、幾ら出来が良くても水晶だけじゃそんな価値もつかんだろうしなぁ」
つまりは職人の細工技術を買っているわけか。
「「え?」」
「ん?」
なにやらアルマと門番が不思議そうな顔をしてこっちを見ているんだが?
「クラ・・・クーちゃん、水晶ですよ?」
「ああ、水晶だよな」
「水晶って言ったら結構な希少な宝石だぜ坊主」
「希少・・・・・・ですかねぇ?」
「クーちゃん、水晶ってどういうものか知らないの?」
「そうだぜ、水晶って言うのは属性石と同じ宝石だが属性の影響を受けずに大きくなった珍しい結晶なんだぜ」
そうだったのか、正直工作用の素材としてしか見ていなかったから宝石としての価値には全然気付かんかった。
となると日本から水晶を輸入したら大金持ちだなぁ、こんど日本に帰る転移装置作って大量輸入してみっか?
「いやー全然気にしたこと無かったですよ」
俺の言葉にがっくりと肩を落とす二人、そんなにがっくりする所かねココ?
「いやー坊主は行商になるんだろ?だったら水晶の価値位知っておいたほうがいいぜ」
「です」
うーん、耳が痛い、俺の中で価値があるものって薬や工作の素材として優秀か否かだからなぁ、これからはそういった売り物としての価値も知るようにしたほうが良さそうだ。
「コイツは先が思いやられるな嬢ちゃん」
「はい」
むむむ、何だが疎外感。
◆
そしてその日の晩。
「それでは定例会議を始めます」
『始めまーす』
『よろしくお願いいたします』
フィリッカとミヤの声が通信機から聞こえてくる。
「アリスは?」
『アリス様でしたらこの時間は明日の仕込みをされているかと』
「アリスは遅刻か、じゃこのメンツで始めるか」
俺とアルマは馬車の中にある秘密の居住空間からミヤ達と連絡を取っていた。
この馬車の中にある積荷の箱の一つには空間魔法で拡張した居住空間が広がっている。
その大きさはちょっとしたお屋敷くらいの広さがある、日本で言えば食品スーパーくらいの大きさだ。
この空間の中には各種機材と宿泊施設、そしてキッチンまで揃っている。
下手な宿より快適になっているのは秘密だ。
そんな居住空間の一室にスパイ映画もビックリの通信施設が内蔵されていたりする。
『はーい、まずはフィリッカお姉さんからよ』
「たのむ」
『まずナンゾ男爵だけど廃嫡はマズイから次男が後を継ぐ事になったわ』
「長男じゃないんだな」
『長男は男爵の影響が強いし見せしめの意味もあるんでしょうね、でも君がアルマの婚約者になった時のゴタゴタで悪質な貴族は一掃したからあんまり貴族を減らしたくも無いって言うのがお父様の本音みたい』
声からでも口惜しそうな感情が聞き取れるあたりナンゾ男爵の人徳が伺える。
「現役の数が減ると有事の際に困るからだな」
『そう、跡継ぎの実務経験が少ないといざと言う時に短絡的な行動をするからなるべくゆっくり世代交代させたいって』
まぁ妥当な判断だわな、幾ら優秀でも経験が無ければ重要な案件を任せることは出来ないだろうし。
とまぁ表向きの報告はここまでだ。
「で、報告はそれで終わりか?」
『まっさかー、もちろんあるわよ。取って置きのネタが』
王都に帰るフィリッカに頼んでおいた仕事は順調に進んでいるみたいだ。
『ナンゾ男爵が暴走した件だけど、予想通り他にもいたわ、同じように他領の貴族にちょっかい出していたのは3人ね、表立っていないだけで他にもまだいるかも』
ふむ、ここまでは予想通りか。
『で、皆大事になる前に鎮圧されたんだけど皆揃って言うのは「自分達はだまされていた」って』
「何というか三下小悪党の常套セリフだなぁ」
『ちょっと違うのは誰も彼も自分を騙した相手の事を覚えていないって事』
ほう、何やら事件の匂いがしてきましたよ。
『本人達の記憶がある時期とおかしくなった時期から換算しておおよそ一年前に何者かと遭遇した形跡があるわ』
『ご主人様がアルマ様と結婚なされた直後ですね』
ミヤがその時期に起きたことを調べて報告してくれるが特に何かあったという時期でもないよな。
『いや、あるじゃない』
「え?」
『ありますねぇ』
フィリッカとミヤは分かったようだが俺にはさっぱりだ。
「クラフタ様、今々答えを教えて頂いたばかりですよ」
「え?」
横で聞いていたアルマにも分かったらしい、はて?
「私達が結婚した事ですよ」
はい?
「え? そんな事で?」
『そんな事じゃないわよ』
『ないですねぇ』
「ないですよ」
あっれー?なんか今日はアウェイじゃね俺?
『君ねぇ、成り立て成り上がりの貴族が王女と結婚したのよ、しかも降嫁して無い今だ王位継承権を持った姫が、普通ありえないの、わかる?』
そうなんだー、正直貴族の常識って未だに良く分からないんだよな、一応ラヴィリアに貴族のマナーを教わってはいるが貴族の常識というのは本当に面倒くさい。
「えーと、とりあえずそれが原因って事で良い訳?」
『かなり可能性が高いわね、クラフタ君が貴族の地位をもらっただけの成り上がりなら自分達の派閥に取り込んでその薬学知識を上手く利用したのでしょうけど、それを素っ飛ばしてアルマの婚約者でしょ、
さらに初代様に認められてそれすらすっ飛ばして結婚よ、健康になったアルマに取り入って息子を婚約者にしようとしていた連中はカンカンね』
完全に逆恨みじゃないですかー。
「そういう連中は最初の粛清で強制引退させられたんじゃないの?」
『そんなわけないじゃない』
ハッキリと否定された、そしてそのままフィリッカは言葉を続ける。
『閑職に回されたり後継者に後を継がされたのは本当に使えない状況の見えない無能ばっかりよ』
もう声だけでうんざりした感じがわかる、そんなに無能だったのか。
『いい、クラフタ君、どんな高潔な志で立ち上げた国でもね、時間がたてば腐るのよ』
うわ、声が死んでる。
『するとね、末端どころか木の真ん中から腐るのよ、わかる? 末端なら切ればいいわ、でも真ん中じゃ切るに切れないのよ、国も同じ』
フィリッカは淡々と無能な部下に対する恨み言を続けていく。
『私は時期王位継承者だから全ての貴族と会って話をすることも義務なのよ、海千山千の辣腕貴族達との話は油断できないけど実りの多い経験だったわ、上級貴族でなくても下級貴族でも貴族として敬意を表するべき人たちもいた……でもね』
声のトーンが固くなる、来るなー。
『本当に無能な連中っていうのはね、話が通じないんじゃないの! 話が根本的に間違っているの!! あいつ等は自分に「だけ」理解できる法則で生きる別の世界の生き物なのよ!!』
誰かに聞かれたらスキャンダルどころではない危険発言でございます、まじヤベー。
「一応聞いておくけど、ちゃんと結界張ってあるよなお前」
『あったりまえよ、こんな発言聞かれない保証がなきゃできないわよ』
フィリッカが帰る前に頼んだ仕事を遂行するための魔法具をいくつか渡してある、外界と隔絶して姿や音を観測されない様にする結界具もその一つだ。
『とにかくあの無能共を処分できたんだから関係各所君には大感謝よ』
それだけ聞くと恨まれる理由はなさそうなんですけどねー。
『それとこれとは話が別、君がアルマをかっさらったのは事実なんだから。今は嫌がらせくらいだけど、ちゃんと味方も作っておくのよ、横のつながりはホント大事なんだから』
「了解」
『残っているのは状況判断ができる連中だからまず尻尾を見せることはないわ、と言っても今回の件には連中は関わってないと思うけどね』
「あれ? そうなの?」
てっきりそいつらが黒幕だと思ったんだけど。
『いったでしょ、状況判断ができるって、連中ならそんな危険な事をせずにうまく操って美味しい汁だけを吸うわよ、こんな中途半端に使い捨てるような真似はしないわ』
なるほど、それが理由か。確かに今回は計画の穴が大きすぎて明らかに使い捨てられたと言う風情だったからな、だがそうなると。
「外部の勢力か?」
『でしょうね、姿を覚えていないことで魔法かスキルを使ってるのは明白、もしかしたら魔道具かも。ウチの家臣の誰かなら相手の記憶を消した後に屋敷の人間に姿を見られたら後々マズイだろうから外部の人間と考えるのが妥当ね』
『裏の仕事を行う者を使って繋ぎを取れば良いのでは?』
ミヤがフィリッカに疑問をぶつける、たしかに俺もそれが外部の人間である決定的な理由にはならないと思う。
『まず理由1、裏の仕事をする人間を間に立たせると余計な人間に事情を知られる事になる』
あ、そうか。それが理由で脅迫される危険があるもんな。
『理由その2、子飼いの人間を使うとそいつの使いだって信用して貰うために見せた証拠の品から足がつく、さらに記憶を消す前にその事を日記にでも書かれたら終わりよ』
あー、確かに、それくらいだったら動かないほうがましか。
となると外部犯の可能性は濃厚って訳か。
「了解した、こっちは気をつけるからそっちも無理すんなよ」
『まーかせて! 君から貰ったステルスマントと気配遮断スキルのお陰でお姉ーさん超一流スパイに変身なんだから!』
「貸しただけだぞー」
そう、フィリッカにはこうやって情報収集をして貰う代わりに俺の神器に入っていたスキルを貸し与えているのだ。
最近はスキル頼りの自分を鍛えなおす為にスキルを使わないように勤めていたのだが、だからと言って折角のスキルを死蔵しておくのももったいない、なのでフィリッカを初めとした俺が信頼できる一部の人間にだけ神器のスキルを貸し与える事にしたのだ。
フィリッカに与えたスキルの一つ気配遮断は文字通り気配を感じなくさせる、このスキルは気配察知に長けた熟練の戦士にこそ良く効く、さらにオレの創ったステルスマントを掛け合わせればかなり高い隠密性が期待できるのだ。
『次は私ですね』
フィリッカに続いてミヤが報告を開始する。
『マエスタ領は現状大きなトラブルもありませんが外部からやって来た人間が様々な所で騒ぎを起こしていますね。人が多くなっているといえばそれまでですが何割かは仕事でやっている者達がいるのは明白です、行動が非常に計画的で周辺の地理も熟知している者が何名かいました』
ミヤはミヤで事件が大きくなる前に犯人を捕まえてくれているようだ。
これは労ってやらんとな。
「よくやった、これからも事件が大きくなる前に騒ぎを収束してくれ」
『はい! ご主人様!』
ミヤはうれしそうに返事をする。
人間褒められればうれしい、それが人に奉仕するために生み出された人工生命ならなおさらだ、
「領地の報告はそれで終わりか?」
『いえ、ダンジョンでスパイシーバタフライの産卵期が終わった事が確認できましたので予定通りダンジョンの開放を行ないました。転移装置のお陰でまた2階層踏破し現在27階が確認された最深部です』
「そうか、未確認の魔物を狩ったら買い取って宝物庫で保存しておいてくれ」
鑑定系のスキルで調べるためだ、またスパイシーバタフライの時のような事件が起きたらイヤなので警戒しておくに越したことは無いだろう。
『最後の報告ですが監視用の動物型ゴーレムが国内に完全配備されました。これで国内の情報をゴーレムと転移装置経由で知ることができます。
指し当たっての情報としましては最近各地で騒動を起こすものが増えてきている様です、おそらく件の姿の見えない人物の差し金の可能性があります。
またマーカーを搭載した鳥型ゴーレムがわが国より5つ離れた国まで到達しました、まもなく数体が海に到達します』
これでまた移動範囲が増えたみたいだ、海についたら海水浴とかいいな、そして粉っぽい焼きそばを食べるんだ。
その後アリスが遅れて会議に参加したがそれ以降は特に実りのある情報が無かったのでお開きにした。
◆
この町について二日目の朝、今日は冒険者協会に言って依頼を確認するとするか。
何か軽い仕事を探して依頼を受けないと、とりあえず真面目に働いて金を稼いでいるアピールをしないと働かなくても生活できる理由を突っ込まれてしまうかもしれない。
それに依頼をこなせば信用が積み重なってより上位の依頼を受けやすくなる。
そう思って協会の建物に入った俺達だったが
「だから欲しいのはもっと大きい水晶なんですよ!!」
なにやら昨日聞いたようなセリフが聞こえる。
「クーちゃん、昨日の人です」
「みたいだね」
「ああ、このままじゃダンサーの衣装が間に合わなくなる」
男はカウンターの職員と数分もめた後壁に張り紙をして帰っていった。
「クーちゃん、あれは何を張ったんですか?」
冒険者協会は初めてのアルマは沢山の張り紙が張られた壁掛けボードに興味津々だ。
「あれは冒険者に依頼を頼むための張り紙だよ」
アルマを連れて依頼の紙を見回していたらさっきの男のものと思しき依頼を発見した。
「大型水晶塊採掘の依頼か」
なにやら面白そうな仕事だ、さっきの男にちょっと興味が出てきたぞ。




