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マン・イン・ザ・ウォーター

先日のお風呂騒動から一週間、現在ダンジョンは封鎖中になっていた。

例のスパイシーバタフライの繁殖期が丁度今年だった様でダンジョンの各所で同様の被害が発生していた。

これが恋人同士ならまだ良いがそうでなかった場合は色々拗れる事になる。

中にはこれが原因で一歩進んだ関係になった男女の冒険者コンビもいたらしいが、逆に悲劇的な関係になったパーティもある。

そのパーティでは、とある女性がと同じパーティの男に恋心を抱いていた。

所が男が繁殖期のスパイシーバタフライの燐粉を浴びた事で一時的に女性を魅了する体質になってしまった。

もちろんその女性も例外ではなく男にメロメロになった女性は果敢にアタックしてついに男女の関係になった。

それだけ聞くと「あれ?良い話じゃね?」と思うだろうがさにあらず。

なぜなら女性は『筋骨隆々のアマゾネス』だったからだ。

此処まで来たらオチは分ったようなものだろう、彼女は部族の中でも驚くほど奥手でウブな女性であったが燐粉の効果で本来のアマゾネスの血が目覚め、男に対し物理的な意味で果敢にアタックした結果、男と夜明けのコーヒーを飲む事に成功したわけだ。

仲間の冒険者曰く、もはやどちらが被害者か分らない光景だったそうだ。

そうなった以上責任を取らないわけには行かず二人は結婚待ったなしの状態らしい。

唯一の救いは女性は料理上手で夫の影を踏まず楚々と付き従う大和撫子な事か、筋骨隆々だが・・・・・・


幸いその二人以外には喜げ・・・悲劇的な事態になった男女はいないので領主権限でダンジョンを封鎖した。

封鎖期間は繁殖期が完全に終わると推測される一ヵ月後だ。

それまでは鉱山の護衛や山を越えて来る越境者の取り締まりが冒険者の主な仕事になりそうだ。

丁度良いのでモネ湖の魔物討伐と封鎖した大穴の調査を大々的に行なう事にした。

ダンジョンを封鎖した事でダンジョンで稼いでいた冒険者達の不満を逸らす事も目的のひとつだ。

モネ湖はかなり広いので大型の魔物を討伐する為にゴーレムも出す必要があるな。

1週間後、冒険者達を大量に動員してモネ湖の魔物討伐を行う、またダンジョンとモネ湖の関連を調べるために水路の大穴から放流した小型ゴーレムを回収して得た情報からモネ湖に出没する魔物の出入り口の位置測定したので水棲種の冒険者達に調査をお願いする。

流石にゴーレムだけでは調査に限界があるので大穴がちゃんと埋まっているか直接確認して貰う事にした。同時にビデオカメラ付き有線ゴーレムを用意したので地上から水中の現場を確認する事にする。

朝食を摂ってモネ湖に到着すると既に多くの冒険者が待っていた、やる気があって結構。

依頼の最終受付時刻になった所で参加者を締切り冒険者達に呼びかける。


「諸君、俺がマエスタ領侯爵、クラフタ=クレイ=マエスタ侯爵だ。

本日はオレの呼びかけに応えてくれて感謝の念に絶えない」


大半の参加者は俺の事を知っているので驚かないが一部騒いでいる連中も居る、おそらく今回の討伐隊募集で集まった新入り連中だろう。


「諸君等にして貰いたい仕事はモネ湖に住み着いた魔物の駆逐だ、倒した魔物は冒険者協会の制定したランクにしたがって報酬が支払われる。より強力な魔物を倒せばそれだけ多くの報酬が手にはいるので頑張って貰いたい。・・・それでは始めてくれ」


必要最低限の事だけ伝えて討伐任務を開始する、どうせ冒険者は校長先生のお話を聞かないわんぱく小僧だからな。

冒険者達は蜘蛛の子を散らすように湖に散っていく、船を借りる者、自前の水かきで泳ぐ者、そして陸から釣竿をたらす者と方法は様々だ。

一応オレもゴーレムに命じて大物の魔物を狩るように命じる。

あとは数日に渡って狩りを続ければ完全ではないにしろ大半はいなくなるだろう。


まぁ俺は待つだけの身なので今の内に大穴の調査隊についていったカメラ付きゴーレムの映像を確認する事にする。

ケーブルは有限なので湖上にゴーレムと対の小船を用意してある、この船にはゴーレムと映像を表示する水晶ディスプレイを繋ぐ延長ケーブルが収納してあってゴーレムが動くたびに船からケーブルが延びる様になっている。

スキルで空を跳んで小船に乗り移った俺は水晶ディスプレイを起動させる、すると画面の中に水棲種の冒険者達の後姿が現れる。

どうやらゴーレムは彼等の後ろを進んでいるみたいだ。

画面に映る景色は岩に囲まれた水中洞窟の様だ、冒険者の姿から高さが10mはありそうだ。

暫く進むと洞窟は行き止まりになっていた、ただし正面に立ちふさがる壁は周囲と同じ岩の壁ではなくコンクリートの壁だ、間違いないダンジョンに空いていた大穴だ。

前回の探索で埋めた穴は無事機能しているようだ、これなら新しい大物を恐れる心配も無いな。

念の為この水中洞窟も埋めたほうが良いか、後日ゴーレムに命じて穴を埋めるとするか。


こうして数日の間、モネ湖では魔物狩りが続きめぼしい魔物は狩りつくされた、一匹残らずと言うのは無理だろうが普通の魔物程度なら昔からいたので問題ないだろう、あくまで遺跡から逃げ出した大型の魔物の排除が今回の目的だ。

家臣達と冒険者協会が捕獲した魔物のランクをチェックして褒賞を支払っている。

そしてその近くでは商魂たくましい商売人達が魔物を狩る為の銛や網、レンタル船の貸し出し、そして軽食の屋台まで出ている。

素晴らしいバイタリティである、一仕事終えた冒険者達は屋台で食事を買って食いながら町に帰っていく、最近は簡単に食べれるファーストフードが流行で街にはハンバーガーもどきで溢れている。

この世界特有の食材を使った軽食などは創意工夫がこらしてあり日本に住んでいた時には考えもつかなかった料理が生み出されたりするので面白い。

笑えたのは茹でたニンジンのような根野菜の中をくり貫いて食べれる容器にした料理だ、地球で言えばソフトクリームのコーンと言った所か、そこに肉や葉野菜を詰め込んで食べるのだがこれが中々イケた。

食べるコンソメスープといった感じで根野菜なのでお腹も膨れる、ヘルシーで濃い味の苦手な人や老人に好評だった。

もっとも店の数が多いだけに次の日には屋台が消えていることもあったのだが。



モネ湖の魔物狩りが終わって数日、俺は予想外の面倒事に頭を悩ませていた。


「また水棲種か」


「はい、水棲種の若者達が水路で暴れているそうです」


「ゴーレムに確保させとけ」


ミヤの報告にうんざりしながら投げやりな指示を飛ばす。

近頃このアクアモルトの街では水棲種の若者が起こす騒動でてんやわんやだった。

それというのもこの街は水路が街と絡みついた非常に珍しい構造をしているからだ。

水棲種にはいくつかの種族が存在している、手や足に水掻きがあって陸上で活動できるサイ種、陸上でもある程度活動できるが水中生活が基本の半漁人コフー種、そして下半身が魚で完全水中対応のレム種だ。

今回問題を起こしているのはレム種の若者達だ。

彼らは本来内陸にある町には入れない、何しろ下半身が魚なので歩くことが出来ないからだ。

だがこのアクアモルトの街は河から遡上が可能である、水棲種の若者達もわざわざ海からこの街までやってきたのだ、それこそ鮭の遡上のように。

後で知ったことだがこの街は水棲種にとって夢のような街だったらしい、なにしろ陸に住む者達と同じ環境で生活が出来るからだ。

たとえば屋台、水路から金を払えば即座に料理を受け取れる、当たり前のことだが彼らにとっては全く当たり前ではなかった。

なにしろ海沿いの町でも水路などよほど大きな街でもない限り無く精々が港の船着場までである、水棲種の為に屋台や商店はあるが選ぶ選択肢は極端に少ない。

たとえば人気の屋台の料理が食べたいと思っても自分達で買うことは出来ないので誰かに頼まなければいけない。

そこで彼等の変わりに地上で買い物をするのが買い物仲介人だ。

彼らは手数料を貰うことで水棲種達の買い物を代行してくれる、仲介人によっては荷物の大きさ、商品の金額などから手数料を変動させる者もいる、水棲種達は買い物に合ったレートの仲介人に買い物を頼む。

ただ困った事にこういった商売ではこちらが商品の詳細を知らないのを良い事に代金をごまかしたり適当な商品をかって差額をちょろまかす連中が出てくる。最悪買い物の資金を持ち逃げするケースもある。

そんな自由の限定された彼等もわが街でなら自分の目で見て商品を選ぶことが出来る、水棲種にとっては画期的な事だと水棲種の冒険者が教えてくれた。


ただ自由度が上がると自由を履き違える馬鹿が出てくるのはどんな世界も同じで今回の騒動もそんな馬鹿が引き起こした騒動であった。


「あの、ご主人様・・・」


「ん? どうした? まだなにか報告があるのか?」


だがミヤは首を横に振ると申し訳なさそうな顔で俺に報告をしてくる。


「実は既に治安維持ゴーレムを出動させたのですが、動きの襲いゴーレムでは水棲種の若者達を捕まえることは出来ず逃げられてしまうんです」


「そりゃまいった」


ホント参った、今街で暴れているのは元気が有り余っている若い水棲種で彼らは水中に特化した種族特性を思う存分生かし騒ぎを起こしては水路に逃げるらしい。

街中に張り巡らされた水路は彼らにとっておあつらえ向きの逃走経路だったわけだ。

とはいえ領主として躾のなってないガキ共を放置しておくわけには行かない、こいつ等の好きにさせては領主として示しが付かない。



と言うわけで罠を張ろう、深夜の内に罠を仕掛け翌日の船の運航に制限をかける、全面禁止にすると稀ル危険があるからだ。

水路に作るので迷惑をこうむるのは水棲種くらいだ、この際彼等には我慢して貰おう。


「しっかし分らんな」


「何がですか?」


暴走する水棲種の若者、通称暴泳族が罠にかかるのを待つ俺とミヤ、彼等を待っていた時にふと漏らした呟きをミヤは耳ざとく拾い上げた。


「ああ、いや、理想的な街ならどうして暴れるんだろうなーってさ」


「犯人達の動機ですか?」


「ああ」


「確かに不明ですね」


そうなのだ、彼等には暴れるような理由が無い、寧ろ暴れることで水棲種の評判が悪くなり将来的には水棲種お断りの街になるかもしれないのだ。



なぜそんなメリットのない事をするのか、後に分ることだがその答えは俺が全く想定していないものだった。



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