ダンジョンバトル
地上に戻ってきた俺達はいったん解散して1週間後に再び迷宮に潜る事にした。
領主としての仕事もあるし色々仕込んでおきたい事もあるからだ。
やっておきたい仕込みの一つとしてイザーに会いに行く。
呼び鈴を押して待つことしばし、この街の家は全て俺が設計した物なので呼び鈴などの地球の現代建築の構造を一部採用している。
ファンタジーでは存在しない呼び鈴や貴重なガラス窓などを取り入れている。
ガラスの変わりに水晶を使用して居たりするが珍しい事には変わりない。
「はーいって領主様じゃない」
イザーがドアを開けて顔を出す、よかった今日はちゃんとした格好だ。
「や、ちょっと頼みたい事があってね」
「いいわ、立ち話もなんだから上がって」
「それじゃ失礼して」
イザーの家に入った俺は違和感に気付く。
この前来た時と部屋の内装が変わっているのだ。
「なんか変わってないか?」
「わかる?折角ダーリンと暮らす事にしたんだから快適な空間にしないとね」
なるほど、二人の愛の巣として模様替えをした訳か。
「お幸せに」
「ありがと」
イザーに入れてもらったお茶を飲みながら用件を説明する。
頼みたいことはシンプル、ダンジョンに潜る時いちいち一階から潜リ直すのは非常に手間だし時間の無駄だ。
だからイザーの空間魔法を使って到達した階層まで転移出来る魔道具を用意して貰いたいのだ。
「そうね、転移マーカーを置いておけば魔法で転移する時マーカーの位置を読み取って任意のマーカーの所に転移が出来るわ、魔法具での転移ならマーカーと1セットにして地上に配置した帰還用マーカーと迷宮に置く配置マーカーの二つとだけ行き来できるようにすれば簡単に作れるわ」
「それは助かる、さっそく装置を作ってくれるかな」
「ちょっと待ってて」
イザーは装置を取りに部屋の外にでる。
これで移動は大幅に楽になるな、探索を依頼している冒険者にも貸し出して魔王のダンジョンで配備する予定のレンタル装備の一つとして運用テストをさせるか。
盗難防止の為に現在地の分かる発信機と強制帰還装置も仕込んで貰おう。
暫くするとイザーが戻ってくる、だが何故か彼女は分厚いファイルを数冊持って来ただけだった、まさかそれが取り扱い説明書とか言わんだろうな?
「なにそれ?」
「私の研究資料よ、基礎研究のファイルだけだけど領主様にあげるわ」
「良いのか!?」
基礎とは言え、いや基礎だからこそとんでもない価値がある、今はもう失われた古代魔法文明の、しかも当時でさえ研究途上だった転移魔法の権威が書いた研究資料だ、金で買える様な物ではない。
そんな物をポンと渡してきたのだ、幾らオレでも驚かざるを得ない。
「活用してよね、基礎理論だけだけど領主様ならシャトリアで手に入れた私の資料と合わせて色々できるようになるでしょ」
懐が深いというかおおらかと言うか。だがくれるというのなら貰っておこう。
とんでもないモノを貰ってしまった。
「ありがたく活用させて貰うよ、ところで転移マーカーは?」
「それがあれば色々できる様になるはずよ・・・・・・」
「・・・・・・」
ああ、なるほど、研究の成果を分けてやるから後は全部自分でやれってか、そしてその理由はおそらくこの部屋の模様替えの原因さんが関係していると見た、つまりイチャイチャしたいからあんまり来るなってことだな。
とはいえお陰で転移を初めとした空間系の魔法を覚えることが出来るチャンスだ、活用させて貰おう。
イザーに礼を言って家を出た俺は新装備や携帯転移装置の作成に必要になる部品を買いに鉱山街に向かったのだった。
◆
そうして一週間が過ぎ携帯式転移装置と新魔法が完成したので再びダンジョンに潜る事になった。
出発前に冒険者協会の職員と探索を依頼している冒険者達に集まってもらい、ダンジョンの穴の前に暫定的に建てられた入り口兼冒険者協会支店の一角に設置した転移装置について説明をする。
「この装置はダンジョンと協会を結ぶ転移装置です」
「て、転移装置と言う事は古代魔法文明の遺産ですか?」
早速質問してきたの冒険者協会の支店長ブルクだ。
「いや、正しくは古代魔法文明の資料を解析して俺が作った魔法具だ」
協会支店の中でどよめきが走る、大抵は俺の様な子供がそんな魔法具を作った事に対する懐疑の声だ、
もっともわが領地出身の冒険者や早い段階から此処に住み着いた冒険者にとっては今更なので今度は何をやらかしたという好奇の目だ、ほんと順応性が高い領民だよ。
「この転移装置のスイッチをこう操作すると装置を持っている人間の近くにいる子機リングを持っている仲間も含めてこの広間の装置の元まで転移してくれる。
注意して欲しいのは子機リングだけでは帰還は出来ない、これは今後改善するつもりなので我慢して欲しい、転移装置が認識する子機リングの範囲は3メートルまで、それ以上だと魔物も一緒に転移する危険があるからな」
「領主様、質問です」
知らない顔の若い冒険者が質問してくる、おそらく最近来た冒険者だろう。
「それは帰るときだけなんですか?出来れば既に行った階に行けると楽なんですけど」
「ああ、判る、また一階から潜り直しって面倒だよな」
やはり彼等もそう思っていたか、他の冒険者達も同じような事を言い始める。
「それについてはこれから説明させて貰う、この装置、マーカーと言うが、コイツはこれから君達に貸出す転移装置とセットになっていて、このマーカーの置かれた場所に一瞬で転移できる装置だ」
「それがあればダンジョンの下層に行く事が出来るんですか?」
「ああ、地上に帰る前にマーカーを壁際にでも置いておいてくれ、そうすれば次回地上から行く時はマーカーのある所まで転移してくれる。ただし転移できるのは自分達の転移装置とマーカーだけ、他のパーティのマーカーは使えない。
またマーカーはダンジョンに転移したら必ず持って歩くこと、紛失したら弁償して貰う」
「幾らくらいなんですか?」
「緑金貨1枚くらい?」
「「「「え?」」」」
流石に驚いたらしく全員が本気か? と言う目でこっちを観ている、真面目な話古代魔法を再現した魔法具だからそのくらいは見てもらわんと。
「ダンジョンに潜ったらすぐにマーカーを回収して普通に持ち歩けば良いんだよ、紛失も理由によっては考慮するから、あと同じ理由から地上に上がってきたら協会に装置を返す事、返した後で協会から持って来た装置に刻まれた番号と同じ数字が記載されたカードを発行されるから、そのカードを次回の探索の時に窓口に提出すれば前回借りた魔法具を再び借りることが出来る。
もし探索をやめて他の街に行くのならマーカーは回収する事、無断で持ち出して売り飛ばそうとしたら重犯罪だから魔法を使えなくされて鉱山送りの刑20年位かな」
「・・・・・・20年・・・」
冒険者の何人かが顔を青くしている、ちょっと考えたな。
他にも何人かが思案しているが弁償のリスクと探索の安全性を天秤にかけているようだ、何人かは良くない目つきをしているので要チェックだな。
◆
結局参加する全ての冒険者パーティは転移装置を借りる事にしたようだ。
「これで冒険がぐっと楽になるな」
「ああ、帰りを気にしなくて良いって言うのはホントありがたいぜ」
「オレとしては1階から潜りなおさなくて良いってのが気に入ったな」
「お宝を見つけたらコイツと交換して貰えねぇかなぁ」
「無理だろ」
冒険者達が軽口を叩きながらダンジョンに潜っていく。
俺達領主組はもう少し後になってから入る予定だ、というか領主の仕事をしてからでないとミヤが怒るのだ。
朝一でダンジョンに潜る冒険者達に転移装置を渡すために抜け出してきたのでなるべく急いで戻らないといけない、後続の冒険者に対する説明は冒険者協会の職員に任せて早足で帰宅する。
屋敷に帰る道を歩いていると妙に人が多い事に気が付く、何かあったのかな?
その人だかりは屋敷が近づくに連れてどんどん多くなっていく。
「こりゃ何事だ?」
騒動の原因は正に俺が帰ろうとしていた領主の館だった。
「はいごめんよー、通るよー」
「うわ、押すなよおま・・・りょ、領主様!!」
「え?領主様?」
「あ、ホントだ領主様だ」
「お早うございまーす」
「お早う」
ウチの領民はホントフレンドリーだな、気安いとも言うが。
「領主様、この匂いは一体なんですか?」
「気になってしょうがないんですよ」
「また新しい飯屋が出来るんですか?」
領民達を足止めしている原因、それは領主の館から漂ってくるやたらとおいしそうな匂いだった、
この匂いを嗅ぐだけでよだれをたらしそうになってしまうほどだ。
勿論原因はアリスの料理に他ならない、おそらくダンジョンの食材を使って夢中で試作品を作って居るんだろう。
しかしこれでは暴動が起きかねない、仕方が無いのでメイドを呼んでアリスの試作品を振舞う事にした。
メイドに命じてアリスの許可は取ってあるので安心だ。
「この料理はわが領地に住む事になった魔王が作った料理だ」
「魔王?魔王ってダンジョンや城に住んで世界征服するって言うアレか?」
「バカ、そんなの神話の時代の話だぜ」
「でも魔王は危険だって爺ちゃんいってたぞ」
なるほど、これが一般人の魔王に対する認識か、勉強になるな。
「この料理は魔王がこの地で開く料理屋の試作メニューだ、特別に今日だけその料理を諸君に振舞おう」
領民達から歓声が上がる。
「メニューに入れて欲しい料理はこっちの投票所で料理のおいてあるテーブルの番号を記入してくれ、必ず選ばれるわけじゃないけど考慮する一因にはなる」
料理を食べた領民達に声をかけるが余り投票していくものは居ない、大体全体の2割って所か。
だがそれも仕方ないと言えば仕方ない、この世界の識字率は余り高くない、同じ中世でも江戸時代の日本が異常すぎたのだ、たしか全国的に平均50%の国民が文字の読み書きができ、社会的に弱者であった女性でも文字の読み書きが出来た、しかも大きな都市部では平均70%の識字率と言う世界的にもぶっちぎりの識字率だったことから日本に来た外人が驚いていたと言うのだから恐ろしいやら誇らしいやら。
そんな大人たちをよそに子供達は投票所に行ってメニューの番号を記載していく、中には食べたい料理を書いている子供も居る。
そう、この街の子供達は文字の読み書きが出来る、俺の政策で一定年齢までの子供は俺の運営する学校に通って読み書きと算数の勉強をさせているのだ。
文字が読めない人間が居ると本や手紙を読んだり手紙を代筆する職業が成立する、だがそれは長期的に見ると余りよくない。
読み書きが出来ない人間はそれだけ仕事の種類が少なく経済に格差が出来てしまうからだ。
大人達は難しいが子供達の世代では読み書きをできるようにして領民の文化水準を上げていきたいと考えている。
そうすれば将来優秀な技術者や医者が生まれるかもしれないからだ。
子供達を労働力としたい親には厳正な検査を行なって問題なしと判断すれば作業用ゴーレムを貸し出す事にしてある。
さらに学校に行く子供には給食がでるので親も感謝こそすれ文句の出よう者も無い。
むろんそう理解のある親ばかりでないがそういった親は子供に後ろめたいことをさせようとする親が多いので影で説得して学校に通わせる・・・説得である。
こうして卒業まで子供を保護し将来の就職に有利になるよう育てるのだ。
親がそうしたろくでなしの場合、保護した子供達は親の手の届かない場所で独立する事を希望する子もいる、そんな子達には厳しいがよりランクの高い授業を受けさせそれなりの仕事が出来るように仕込む。
上位教育を受けた子供達は俺の直轄の部下になったり人材を求める貴族や商人の元に就職を斡旋させる。
長期的スパンの計画だが焦る必要は無い、ゆっくり勧めていけば良いのだ。
料理をある程度出し終えたら人も減ってきたので後はメイドに任せて屋敷に戻りミヤのお説教をスルーしながら領主の仕事にいそしむ、今日は子供達の成長が見れて良い気分だ、お陰でいつもより仕事のペースが速く予定より一時間早く業務が終わった。
◆
午後からは再びダンジョン探索である。
今度は新装備の実験を兼ねた探索となる、まずフィリッカにアルマと同じゴーレムドレスを着てもらう。
基本的な機能はアルマの物と同じ強化服だが2着目なので若干性能が良い、それと身を守る為の盾を与える、この盾は普段はブレスレットになっているがスイッチを押すことでラウンドシールドが出るようになっている、見た目は重そうだが魔法で軽くなっているのでフィリッカでも軽々と持てるようになっている。物理、魔法を防ぎ、貫通系の攻撃が来たら盾の内部装甲に接触した瞬間接触した物を位相のずれた空間に転移する仕組みになっている、正直破格の性能だ。
それと言うのもイザーの空間魔法の基礎理論を学んだお陰なのだ、実際には亜空間に物を入れるアイテムボックスの機構を応用した物だったりする、ものは使いようだ。
「おおー!なんかすっごい冒険者になった気分!!」
「良かったですねフィリッカ様」
レノンは俺が武器を渡さなくて安心したようだ、わかってるって、一国のお姫様を戦わせたりしないよ。
そしてレンにはゴーレムドレスをベースに作ったノースリーブジャケットを渡す、今来ている服の上からでも着れる様になっている。
「わ、わわわわ私なんかがこんな良い物を頂いてしまっても良ろしいのですか!?」
レンが感動の余り怯えながら許可を求めてくる、安定の情緒不安定だな。
「レンはオレの護衛だろ、だったらもしもの時の為に守りを固めておかないとな」
「はい!いざとなればこの身を盾にしてでも領主様をお守りいたします!」
大げさだなぁ。
最後にアルマには魔法の発動体である杖を渡す、この杖は以前作った七天夜杖の詠唱補助機能が付いており魔法を使う際の魔力消費を抑え、魔法を発動した際に発生する詠唱硬直からの立ち直りを早める効果がある。さらにこの杖には防御障壁の魔術式が組み込まれているので魔法を発動させなくてもこの杖に魔力を通すだけで防御障壁を張ってくれるようになっている。
威力は一律同じになってしまうが魔力を込めるだけで魔法が発揚する魔法具はいざと言う時、役に立つ。
ついでに飾りとしてはめ込んだ属性石に魔力を蓄積させていざと言う時はそこから防御魔法用の魔力を引き出せるようにしてある。
「ありがとうございますクラフタ様、必ずお役に立って見せます」
むしろ守りに徹していて欲しいんだがそれを言うと落ち込みそうなので言わないで置く。
アルマはオレの役に立ちたいから魔法を覚えたみたいだし。
ドゥーロは魔物に変身する際服がやぶれてしまうのでアイテムボックスの袋をあげた、中には何着かの服がはいっている、こいつは元々魔物なので攻撃力も防御力もあって追加装備の必要は今のところ無い。
「ついでに塩やコショウも入れておいた」
「ありがとーご主人!」
どっちかと言うと調味料が良かったらしい、これから魔物を食べる時は塩やドレッシングをかけて食べるんだろうな。
全員の装備ダンジョンに再び潜る
「私達にはないんですか領主様」
骨、いやトラスーが自分達にも装備が欲しいと言外に要求してくる。
でもお前防具追加したら骨の隙間で回避できんじゃん、いやそのほうが助かるけどさ。
「んー、じゃあこれで」
「おお!これはまさしくにぼしと牛乳!!骨が健康になりますな」
やたら嬉しそうににぼしを食べながら牛乳を飲むトラスー、ステータスをチェックしたら生命力と魔力が回復してやんの、この世界のアンデッドはどうなってるんだ。
こんど傷口にカルシウムの粉末をまぶしてやろう。
こうなるとレノンだけ何も無いのはかわいそうなのでレノンにもアイテムボックスのスペアを渡す。
「フィリッカの荷物とか必要だろうし」
「おおおっ、まさか一介の騎士でしかない私にこのような貴重な物を頂けるとは、マエスタ侯爵には何とお礼を言えば良いか・・・」
しまった、やり過ぎてしまった、今のオレならマジックボックスは比較的容易に作れるのだが、古代魔法文明が崩壊して技術が停滞したこの世界では相当な貴重品だと言うことを失念していた。
馬が移動手段の世界で自動車をあげる様な真似をしてしまった。
まぁやってしまったのは仕方が無い、さっさとダンジョンにもぐろう。
◆
ダンジョンに潜ったら冒険者達が作った地図を頼りに最短ルートで下層に潜っていく。
正直火力が過剰なパーティなので魔物の攻撃と罠に気をつければ問題は無い。
疑わしかったトラスーの罠解除能力はダンジョン探索の空気を肌で感じる事で昔のカンが戻ってきたらしくサクサクと罠を解除できるようになっていた。
よくよく考えれば数百年間古戦場跡をさまよっていたので仕方が無いのかもしれない。
戦闘に関してはレンとトラスー、レノンにドゥーロが対処し、数が多い時はアルマの魔法で一掃する。
アルマはそれほど魔力が多くないので俺のマジックポーションが必須だ。
「破ぁ!浸透連掌!!」
「おお!」
レンの攻撃で隣接した魔物数体が同時に吹き飛ぶ、どうやら遠当てと浸透剄の合わせ技の様な攻撃の様だ。
だが俺が注目したのはそこではない。
レンが戦っている時、そこにとんでもない秘密が隠されている事に気付く、ミニスカで激しく動く事でパンツが見えそうなのだ!!
さっきからチラチラと見えそうで見えない。
だが神は俺を見捨てなかった、レンがとどめのジャンプアッパーを決めた瞬間ミニスカの中の黒い宝物が見えたのだ。
「見え!・・・た・・・・・・!? な! あ、アレは・・・・・・」
オレは余りの事に衝撃を受け声の限りに叫んでしまった。
「ブルマだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「え!? は、はい、旅の途中で知り合った知り合った方から、これなら見られても恥ずかしくないからって言われて」
「ちっくしょぉぉぉぉ!!騙されたぁぁぁぁ!!!」
なんと言う事だ、これではアンダースコートと同じ観られても恥ずかしくないモノじゃないか。
違うだろ! スカートの中はもっと夢と希望が詰まっているモノだろうがぁぁぁぁぁ!!!
スカートブルマは邪道だ! それを教えた奴はわかってねぇ!何も判っちゃいねぇよ!!!!
犯人は日本人に違いない!!
「クラフタ様?・・・・・・」
その瞬間ダンジョンの温度が下がった、体感で5度は下がった。
襲撃をかけてきた魔物が一目散に逃げ出し骨は死んだ振りをしている。
「何を騙されたのですか?」
判るはずがない、異世界の文化を知らないアルマにとってブルマや見せ下着と言う概念は理解の及ばないもののはずだ。
なのに怒っている、小ざかしい理屈など不要、わが魂がそれを許すわけにはいかぬとアルマの何かが訴えているのだ。
「い、いや、その・・・・・・」
『死』
脳裏に浮かんだのはその一言だった、俺は今日嫁に殺されるのか。
だが天は俺を見捨てなかった、大きな雄叫びをあげて空気の読めない魔物達が襲ってきたのだ。
「よし!全員戦闘配置!」
「は、はい!!」
「行きますか」
レンとトラスーが前線に出て殲滅を始めるが何体かの魔物が空中を飛んでこちらに向かってくる。
「ここは私が」
レノンが出ようとするが数が多い、ここは俺が戦おう。
「レンは3人の護衛を優先、敵は俺が叩き落とす」
ブロックアーム取り付けた新装備の出番だ。
「フィンガーバルカン!!」
ブロックアームの各指の先端に取り付けた筒から大量の魔力弾が発射される。
新装備フィンガーバルカン、取り付けられた外付け式の砲身に入っているのは火薬の詰まった弾丸ではなく魔力の詰まった属性石だ。
属性石から魔力を補充して属性石と同じ属性の攻撃を発射する。
両の指に火水風土の属性石を一対ずつ、両の親指は無属性の純魔力を込めた魔力石だ。
どれかの属性に耐性があっても他の属性で無理やり風穴を開ける力技の装備である。
メリットとしては大量に魔力の弾丸をばら撒けるのでザコ相手に重宝するのと魔力の補充が楽なことか。
やってくる魔物を片っ端からミンチにしていく。
「なんだかもったいないですね」
「今日は下層に潜るのを優先してるから構わない、必要なら後挽肉にでもすれば良いさ」
ちなみに後で消滅する魔力弾なので弾を取り除く必要も無い。
暫くすると後続の魔物も姿を見せなくなったので探索を再開する。
「んじゃ行くか」
魔物のお陰でアルマの追求がうやむやになったのはありがたい、彼等は厚く供養してやろう。
「クラフタ様、屋敷に帰ったらお話があります」
「・・・・・・はい・・・・・・」
うやむやになっていなかった。
陰鬱な気持ちで探索を進めて行くと一面に草原が広がるフロアに出た。
「うわー!!」
「何これ!」
「草ー!!」
子供達がはしゃぎだす、今まで単調な迷宮だったので興奮もひとしおの様だ。
「マエスタ侯爵これは一体?」
レノンははしゃぐより不審の感情の方が強いみたいだ。
「冒険者の報告にあった自然環境を再現したフロアだな、今後もこういったフロアが出てくるらしい」
「ダンジョンの中に草原とは・・・しかも先が見えませんよ」
先が見えないということはそれだけここが広大な空間だという事だ。
このフロアには馬タイプの魔物が多く草原に居る魔物で構成されているらしい。
「魔物きます」
レンの呼び声で全員が警戒態勢に入る。
やって来たのは角の生えた馬だった、だがいわゆるユニコーンとは違いその体色はシマシマだった。
ピンクと肌色のストライプの馬だった。
嫌なカラーリングだな。
「何あれ?」
「あれはユニコーンですね、ピンクと肌色のストライプはサクラ種の色です。馬刺しにすると大変美味です」
レノンがすかさず解説をしてくれる、もしかしてコイツって食道楽なのか?
仕事柄外を旅することも多いみたいだしその関係でご当地グルメに詳しいのかも知れん。
「とりあえず試食しよう、話しはそれからよ」
もはや誰も戦闘とか言わなくなって来た、もはや食材を確保しに来ているとしか思えない。
面倒なので遠間からブロックアームに剣を持たせて突撃させ弄り殺しにする、こんな見晴らしの良い場所でわざわざ接近戦になるまで待つ必要ないわ。
後は魔法で遠距離から削っていく。
数分後10頭分の馬肉が焼きあがった、見た目はアレだが意外と美味かった。
馬肉を食べながら進むと草原フロアが終わり通常の迷宮にもどる、ふたたびマップを広げ下層への階段に向かう。
そうして数フロアを突破した先にお目当てのフロアを見つけた。
「このフロアは水がたくさんですね」
「どちらかと言うとでっかい水路の中に通路があるみたい」
アルマとフィリッカの言うとおりこのフロアはほとんどが水に覆われていて人間が通る通路のほうが小さいくらいだ。横を走っている水路は幅20m近い大きさで、さっきも巨大な何かが横を通り過ぎていた。
「クラフタ様、この魔物・・・」
「湖のごはんー」
アルマとドゥーロが言うとおりこのフロアにいる魔物はモネ湖に出没する魔物と同じだ。
つまりモネ湖の魔物は何らかの理由でこの迷宮に居た魔物が外界に流れ出てしまったのでは無いのかという事だ。
俺達は水路を警戒しながら先に進んでいく。
「あ!!あれ!」
フィリッカの声に視線を送ると水路の中に巨大な穴が空いていた。
やはりこのダンジョンが原因だったか!!
「この大穴を塞ぐ」
皆に事のあらましをざっくりと説明して宝物庫からゴーレムコアを取り出す。
「クリエイトゴーレム」
ダンジョンの壁を少し削ってから魔法でゴーレムを作る。
ゴーレムに発信機を持たせ大穴の奥に進ませる、この穴が本当に湖に繋がっているのなら発信機の信号は湖から出てくるはずだ。
ゴーレムが無事に奥に進んだら氷の魔法で大穴付近を凍らせる。
なるべく広範囲を凍らせるために水の属性石から作った魔法爆弾を使う。
コイツは氷の上級魔法の魔法式を刻んだ術式基盤に魔力の元である属性石を接続したものだ。
使い捨ての爆弾に上級魔法の魔法式を刻むなんて真似は、技術の衰退したこの時代の人間にとってとんでもなくもったいない行為だろう。
なにしろこの魔法式を刻んだ装置をちょっと改造すれば必要な魔力を流すだけで素人でも気軽に上級魔法を使う魔法具が出来るようになるのだから。
だがこれはあくまで実験用に作った物、この爆弾は過剰な圧力を与えて威力を高めているので内蔵した属性石が一回くらいしか持たないのだ。
それにこういった実験を行って技術を蓄積する事で将来的には時限爆弾なども作れるようにするつもりである。
と言う訳で実験を兼ねて魔法爆弾を放り込む、大体3秒くらいで発動するようにしてある。
魔法が炸裂した大穴付近の水は壁から半径10mほどが完全に氷となっており溶ける気配も砕ける様子も無い。
「凍らせて終わり?」
「いや、これは普通に凍らせただけだからこのまま壁の氷を削ってから穴を埋める」
魔法で重機ゴーレムを作り壁付近の氷を掘削させる。
無事削りきったらロックウォールの魔法で岩の壁を作り出し砕く、砕いた岩をこの世界特有のセメントのような溶剤と混ぜ込んで大穴に塗りこんでいく、ついでなので地の属性石を混ぜ込んで強度を高めておく。
最後に魔法で補修した壁を乾燥させ大穴は無事塞がった。
これで湖に新しい魔物が現れる事も無いだろう、繁殖してしまった魔物は居るだろうがそれは後日考えるとしよう。
これでこの迷宮に来た目的の一つが達成された。
後は気楽に冒険者気分を楽しみながらダンジョンの最下層を目指すとしますか。




