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ラーメン屋から異世界へ

初投稿です

表現の関係上残酷表現が出る場合もあります

「ここはどこだ」


俺は今ラーメン屋から出てきたはずだ、店から出ればいつもの商店街に出るはずだ。

そこから10分も歩けば就職したばかりの会社がある。

残業代が出なくて週休一日の会社だ、ボーナスなんてものはない。

なのに俺は今見知らぬ町にいる、それもアニメに出てくるようなファンタジーの町だ。

RPGに出てくるようなレンガの家、ネコミミの女の子がいて緑の髪の耳の長い人が

楽器を演奏して冒険者みたいな格好の人たちが闊歩している。

俺もう一度言った。


「ここはどこだ!?」

「ビックリしただろ?」


横を見ると見覚えのあるおっちゃんがいた、

そうだ、このおっちゃんが全ての元凶だ。


事を遡るは数分前。


「おおっ!!、兄ちゃん左利きか!」


ラーメン屋でチャーハンを食っていたらいきなり見知らぬおっちゃんに声をかけられた。


「ええまぁ」

「左利きっていやぁ器用だって言うよなぁ、兄ちゃんもそうなのか?」


なれなれしいおっさんだと思いながら厄介事は面倒なので無難に答える。


「まぁそれなりに」

「やっぱりか、はははは!」


食い終わったらサッサと出よう、人嫌いというわけではないが初対面のなれなれしい人間と楽しく談笑するのも面倒だ。

あと左利きは器用というのは俗説だと思う、器用かどうかはどちらかというと性格の問題だろう。

要は根気が続くかだ、発明とかになると発想の問題なのでなおさら利き手は関係ない。

物作りや創作活動は好きだが利き手で得をしたこともない、なにしろ左利き用の道具は高い。

たとえば左利き用のハサミなどは需要と供給が合わない所為で単価が数千円するのだ。

むしろ損をしている、最も現代では利き手フリーの安い道具が増えているので一般生活を送る分にはまったく問題がない。


「兄ちゃんならレアクラスになれるかも知れねえなぁ」

「?」


そんなことを考えていたらおっちゃんが変なことを言い出した。


「なぁ兄ちゃん、メシ食ったらちょっと付きあわねえか?いいバイト先があるんだよ」

「いえ自分就職してますんで」


なんだ?バイトの勧誘?ブラック企業か?

こっちの内心を見抜いたのかおっちゃんがあわてて取り繕う。


「いやいや変な仕事じゃねぇよ、いや変か?」


いきなり取り繕えてない。


「まぁ一見は百聞に如かずだ」


百聞は一見に如かずです、すごい不安になってきた。


「ここの支払いは俺が持つからよ」

「分かりました!」


食事をおごってもらえるなら一回ぐらい良いだろう、安月給なんだ良いじゃないか駄目そうなら逃げよう。



そして俺は見知らぬ町にいた。


「ここはどこだ」

「どういうことだおっちゃん!なんなんだこの光景は!!」


言葉使いが乱暴になったがそんな事気にしていられない、

目上の人を敬えと祖父ちゃんに躾けられたがこの非常識事態、少しくらい礼儀を無視しても祖父ちゃんなら怒らないだろう。


「ここは異世界だよ」

「どういうことだおっちゃん!」


寝ぼけたことを抜かすおっちゃんに再度聞く。


「いやだから異世界だって」


どこの異世界ファンタジーだ、ラーメン屋でチャーハン食って異世界に行くラノベがあってたまるか。


「・・・真面目に答えてください」

「真面目なんだがなぁ」

「ラーメン屋を出ていきなり異世界とか言われて信じるやつのほうがおかしいでしょうが!!」

「俺は信じたぞ」


話が通じねぇ。


「仮に異世界だとしてなんでラーメン屋から出たら異世界なんですか、あのラーメン屋は異世界へのワープゲートか何か!?」


ファンタジー台無しである、だいたいあのラーメン屋には今までに何度か飯を食いみ行ったが異世界に行った事なんて一度も無い。


「ああ、あのラーメン屋は関係ねぇよ、俺がゲートを使ったんだ」


そういっておっちゃんは袖をまくる、そこには細い銀色の腕輪があった。


「コイツを付けてゲートオープンと言うと異世界へのゲートが開くのさ」


おっちゃんの言葉に反応したのか目の前にトンネル状の細い柱が現れる。


「っ!」


ゲートと呼ばれたそれは何も無い場所にいきなり現れた。



「これが・・・ゲー・・・ト?・・・」


目の前に現れたゲートは反対側が見えず真っ暗だ、なんとなく学園祭ので作った入り口のゲートを思い出す。

柱に触って見ると冷たい金属の感触がした、黒い部分は触る気がしなかった。


「信じてくれたかい兄ちゃん」


俺が静かになったのを見ておっちゃんがゲートを閉じる。


「ほんとに異世界なんですか?」


疑問を口にするが心の中ではもう疑っていなかった、何しろゲートとか言うモノが目の前で突然現れたのだ

3Dホログラフを作る機械でもなければこんなものを出すことはできない。

だが何も無い場所でホログラフなんて現代科学では無理だ、市販されていない立体ディスプレイや人為的なミストを

使用したホログラフなら現代でも可能だが何も無い空気中にはそんなものは表示できない、スクリーンとなる何かが必要なのだ。

しかもこのゲートは触れる事ができた、つまり本物だ。

驚きすぎて逆に冷静になる、信じるしかないのだ。

そして俺は自分の目で見たことは信じる性質だ、もう疑えない。


「じゃあ付いてきてくれ」


おっちゃんはそう言うとどこかに向かって歩き出す。

俺はあわてておっちゃんに付いていく、こんな見知らぬ町ではぐれたら大変だ。

おっちゃんについて行きながら町を見回すと改めて異世界にきたことに気づく。



「どこに行くんですか?」

「まずは兄ちゃんを登録する」

「登録?」

「ゲームでもプレイ開始時に名前とか入力するだろ」


いやゲームじゃねぇし。


「ところで兄ちゃん、クラスは何んだった?」

「は?」


ゲーム脳ですかおっちゃん。


「しがないサラリーマンですが」

「じゃ無くてこの世界でのクラスだよ」

「??」


俺が混乱しているのに気づいておっちゃんが何かに気づく。


「ああ悪いステータスの見方教えるの忘れてた」

「ステータス?」

「この世界の基本知識だよ、ステータスって唱えると頭の中に自分のクラスや能力値が浮かぶんだ」

「ステータス!」


早速やってみる、ステータスチェックはRPGの基本である。


「・・・」


ドキドキ


「・・・」


ワクワク


「・・・」

「・・・何もでないんですけど・・・」


嘘つき、ステータスなんて出ないじゃないか。


「はっはっはっ、まだ登録してないからな」

「登録ってさっき話してた奴ですか?」

「ああ、この世界では協会で登録するとステータスなんかの生活スペルが使えるようになるんだ」

「生活スペル?」

「生活スペルってのは俺達の世界で言う戸籍とか運転免許なんかを魔法で確認できるようにするモンなんだよ、あと俺達地球人はこの腕輪も支給される」


つまりどっちにしろ登録が必須なんじゃねぇか。

俺の恨みがましい視線に気づいたのかおっちゃんが笑う


「いやぁ、悪い悪い、ついうっかりしてた。なんせ久しぶりの転移者だからなぁ」

「転移者?」


また見知らぬ単語だ、しかしそれをおっちゃんに聞くことはできなかった。


「協会に付いたぞ」



その声につられて前を見ると目の前になんともいえない微妙な建物があった。

分かりやすく言うと石作りの学校というところか大きさもファミレスくらいだ、違うのは2階建てという所くらいか。

大きさも微妙でデザインもしょぼい。


「さぁ登録に行こうか」

「つかまだ働くと決めたわけじゃ」

「大丈夫大丈夫、レンタルビデオ屋の会員登録よりは楽だから」


なんかたとえが微妙だ、DVDやブルーレイディスク全盛のこの時代にビデオっていって子供達に通用するのかなダウンロード配信のほうが身近だろうし

しかしここでおっちゃんにへそを曲げられると日本に帰れなくなる危険があるのでおとなしく付いていくしかないか。

協会の建物の中は意外と涼しかった。

冷房があるようには見えないが外と比べて体感で2度は低い気がする。


「なんつーか普通だ」


それが俺の協会に対する感想だった。

ゲームで出てくるような巨大魔法装置や不思議な鉱石とかそういうものは一切無くなんというか日本の役所みたいだ。


「お役所みたいだろ」

「まぁ・・・」


見たいじゃなくてまんま役所だ、しいて言うなら建築素材が違うくらいか。。

レンガ風の大理石っぽい石をセメントのようなもので固めているみたいだ


「おーいユノちゃん新人連れてきたぞー」


おっちゃんが窓口に向かって声をかける。


「新人さんですか?久しぶりですね」


ユノと呼ばれた女の子がおっちゃんに返事をする。


窓口の向こうに見える姿はいわゆる猫耳少女だ、思いっきり人間の耳も付いてるが。

水色の髪が目を引くかわいい女の子だがこの場所では異質だ、いや猫耳が異質なのは言うまでも無いが

問題は彼女の見た目だ、彼女は役所で働くにしては幼すぎる。

見た感じ中学生くらいじゃないか?本当にファンタジー世界なら実際には外見年齢以上の年なのかもしれないが。


「ああ、早速登録を頼む」


当人を無視して話を進めないでいただきたい。


「じゃあこちらの用紙に記入をお願いいたします」

「あのー」

「なんでしょう?」

「ここ何処ですか?」

「セントラルの町ですが?」


ここはセントラルというのか、じゃ無くて。


「いや町の名前でなくてですね」

「?」


こちらの意図が伝わってない、うぅっ、正直聞くの抵抗あるなぁ。

ここまできて、壮大なドッキリとか言われたらどうしよう。

とはいえ聞かない事には話が進まない。


だから言った。


「ここは本当に異世界なんですか?」




なんか沈黙が痛い。

じーっとこっちを見るユノさん、気持ち猫耳が動いたような気がする。


「マックスさん」

「おう」


呼ばれておっちゃんが返事をする、そうかおっちゃんの名前はマックスだったのか。

似合わねぇ、どう見ても40台の日本人顔のおっさんの名前に聞こえねぇ。


「もしかして説明無しにいきなり連れて来たんですか?」

「おう!」


おっちゃんが元気よく返事をする。


「おう!じゃありませんっ!!!」

「お、おおぅ」


いいぞよく言った。


「本人の承諾および事前説明無しでの転移は禁止といったじゃないですか!」

「い、いやちゃんと説明したぞ」

「なぁ兄ちゃん、メシ食ったらちょっと付きあわねえか?いいバイト先があるんだよとだけ言われました」


これだけ言うとのこのこ付いてきた自分も相当だと反省せざるを得ない。


「マックスさん!!」

「いや兄ちゃんはレアスキルを獲得する素質があると俺のベテランの勘がだな・・・」

「左利きだからレアスキルがゲットできるかもって言ってました」

「兄ちゃん!!」


おっちゃんが悲鳴を上げる。


「それの何処がベテランの勘ですか!!」


その日俺は役所の床で正座をしながら自分の娘ほどに年の離れた猫耳の女の子に説教されるおっちゃんを目撃する事となった。

ちょっとシュールだ。


「大変申し訳ありませんでした」


たっぷり10分ほどおっちゃんを説教してからユノさんが俺に話しかけてきた。


「あー、いや気にしないで下さい」


ヘタな事を言ったらこっちに飛び火してきそうだったので無難な返事をする。

正直説教の矛先がこっちにまで来るのはごめんこうむる。


「それでは登録を行いますのでこちらの用紙に記入を行ってください」

「やっぱり書くんですね」


何事も無かったかのようにペンと用紙を渡される。


「えーとこのままうちに帰してもらうわけには?」


これを書いたら後戻りできない気がする。


「本当に申し訳ありません、一度こちらの世界に来られましたら正式に登録して冒険者になって貰わないと転移の腕輪を支給できないんです」

「巻き込まれただけなんで送り返すって言うのは?」

「規則なので」


うんやっぱお役所だわここ。


「規則ですか」

「規則なんです」

「・・・」

「・・・」


うーんほんとに申し訳なさそうな感じだしゴネづらいなぁ、猫耳たれてるし。

なんか可愛い、ええ私猫派ですから肉球万歳。


「なーに、登録しちまえば転移の腕輪を支給してもらえるしちょっとこっちで冒険して合わなきゃ辞めりゃいいんだよ」

「マックスさんは黙っていてください」


空気を読まないおっちゃんにユノさんが一括する、もっと言ってやってください。


「ご安心ください、当協会は日本政府が発足した正式な機関です、契約用紙に記入したことで貴方に不当な要求をすることはありません。」

「日本政府ですか」


ジャパンすごいな。


「はい、むしろこの用紙に記入していただくことは貴方を日本政府が保護することの証明になります」

「パスポートみたいなもんですか?」

「ええ、そう考えていただいて間違いはございません、それではまずこちらにあな

たのこの世界での名前を記入してください」


いや待て。


「この世界での名前?」

「はい」

「本名じゃなくて?」

「この世界で使用する名前です」


ゲームのキャラメイクですか?。

こちらが不審がっているとユノさんが説明を補足する。


「名前という物には力があります、日本でも真名や言霊という言葉がありますよね」

「ええ」


ゲームなんかで有名な召喚獣を従わせる真の名や言ったとおりの出来事が起こる力ある言葉という奴だ、

つまりこの世界では言葉や名前は俺達の世界より重要ということか。


「この世界では名前を知られると悪意を持った魔術師達に悪用される危険があります。

その為この世界で使う偽名のようなものが必要になってくるわけです」


「書類にはその偽名を書く欄しかないんですけど?」


普通本名も書くよな。


「この世界で本名を書いたら誰に知られるか分かりませんので絶対に書かないで下さい、また同じ世界から来た人間にも教えないで下さい。」

「同じ世界の人間にも?」


そりゃまたなんで?


「こういう事は言いたくないのですがこちらで魔術師になった方が貴方に悪意を持って行動するかもしれないからです」


同郷だからって信用するなって事か、シビアだ。


「ちなみに名前は真剣に考えたほうがいいぜ」

「まぁこの世界でずっと使うなら変な名前にはできませんからね」


おっちゃんはこちらの言葉にニヤニヤしている、殴りてぇ。


「マックスさんの言葉はともかく真剣に考えたほうがいいのは確かです、名は力ですから」

「ひでぇよユノちゃん」


二人の漫才を上の空で聞きながら俺はこの世界で使う名前を考える。

ユノさんの名は力という言葉が気になったからだ。

この言葉には深い意味がある気がする、それこそ言霊という奴か。


おっちゃんは俺が左利きだからレアスキルを手に入れられるかもといった、左利きは器用だからと。

それについて聞こうとしたがおっちゃんは再び説教タイムだ、

しかも説教する人が増えている、アレに近いてはいけない。

きっとたいした意味は無かったのだろうそう思おう。


この世界で名乗る名前、利き手、器用、名は力、それらの言葉が頭の中をめぐりながら用紙に記入していく。


極自然に、あらかじめ決まっていたかのように書き込むべき文字が思い浮かんでくる。


この世界で名乗る俺の名前は、


クラフタ=クレイ=マエスタ

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