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黄昏を駆ける狂詩曲  作者: 渡瀬 由
第一章 剣の墓標
9/29

闇を抜けて(3)

 戦争中の悲しい記憶が呼びさまされる回です。

 そして、物語の核心に迫る伏線があります。

 揺れる炎が、俺を眠りへと誘っていく。暗闇に引きずり込んでいくように……。


*****


 時間が止まったかのようだった。キャシーが斬られそうになっていた子供を庇い、背中に見るのもためらうような傷が生々しくできている。そこから、滴る血が乾いた地面を濡らす。


「キャ、キャシーッ!! しっかりしろ!!」


「ライル、後は……」


 動けなかった。束縛の魔法にかけられていたなんてことは関係ない。彼女を、子供を、民を、俺は傷つけたくなかった。誰もが恐怖を感じ、足がすくむような状況でキャシーは自分の信念で子供の命を救ってみせた。


「ふん。子供は助かってもお前の女はもうダメかもしれないぜ? その傷じゃぁな!」


 俺の中で、何かが弾けた。

 この連中を殺す。絶対に許すことはできない。だが――。



           『ライル、あなたなら――』



「う、うぉぉぉぉぉぉッ!!」


「なんだ!? この威圧感は……!!」


「トール! お前たちは早く行け!! 隣国の冒険者ギルドに応援を頼め! 帝国でもおいそれと追えないはずだ!」


「で、でも……僕だけじゃ……」


「お前の剣はただの飾りか! 騎士の名誉にかけて守り抜け、絶対にだ」


 トールは力強く頷く。

 大丈夫だ。アイツならきっと皆を守り切ってくれるはずだ。そう信じるしかない。そして、俺たちにできることは、一番の脅威であるこの連中を先に行かせないこと。この命に代えても必ず道を切り開いてみせるぞ!


「この男、束縛の魔法を剣気で打ち破ったのか!?」


「アルディ、すまない。お前の命をもらうぞ」


「何をいまさら。最後までお付き合いいたします! 騎士団長!!」


 アルディの言葉に、連中が一瞬たじろいだ。そうか。俺が騎士団長だとは知らなかったようだ。だが、それなら好都合だ。


「いくぞ!」


 連中が覗かせた一瞬のためらい。それこそが勝機。

 アルディはすぐさまリーダー格の男の右側にいた優男に斬りかかり、一刀で仕留めた。俺は左の男の腹に一発、剣の柄で攻撃を加えると、その後ろに控えていた、束縛の魔法を操る魔術師に斬りかかる。近接戦闘なら訓練を続けてきた騎士に歩がある。魔術師が斬られた後、立ち尽くしていた槍使いは間合いを測り損ね、槍による突きは空を切る。俺は槍を掴むと一気に詰め、胸を貫いた。あと、二人! そう思ったとき、リーダー格の男に挑んでいたアルディが急に倒れる。背中にナイフが二本。急所を貫いていたのだ。


「アルディ!? そこかっ!!」


 腰に固定されているベルトから短剣を引き抜くと、きらりと光る方向へと投げる。相手の短剣がわずかに俺の腕をかすり、出血する。だが、敵は致命傷のはずだ。


「ど、どうなってるんだ!?」


「どうする? 戦うか? まぁ、生きて帰すわけにはいかないが」


「く、くそっ! こんなこと聞いてねぇ!! 殺してやるぞ!」


「悪いが俺も死ぬ気はない」


「し、死んでたまるかよぉぉぉ!!」


 男が動こうとした瞬間、空を切り裂く鋭い音が木霊した。すべてを切り裂くような強烈な『剣気』それが一瞬で男の頭を切り裂いていた。


「誰だ!!」


 そこにはもう殺気はなく、気配も剣気も消えていた。


「誰だ? あの男を殺したのは。なんという技量だ……」



*****



「キャシー……すまない……俺が、もっと……」


「きにしないで…。子供は、無事?」


「気絶しているだけだ。じきに目を覚ますさ」


「そう、よか、った……」


 この傷では、もう助からない。俺はせめて彼女が怖くないように、淋しくないように努めた。それが俺にできる最後の愛情だった。


「ライル――あなたを好きになって、よかった」


「ああ、俺もだ」


 キャシーと俺はお互いに微笑んだ。

 目から、涙があふれてくる。そして、静かにキャシーは目を閉じた。

 ここまで書く必要があったのか? と考えましたが自分としては必須だと思いましたので書かせていただきました。


 次回は「闇を抜けて」最終話となります。お見逃し無いよう。

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