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黄昏を駆ける狂詩曲  作者: 渡瀬 由
第一章 剣の墓標
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過去の幻影(2)

 過去の幻影、2パート目です。戦いはさらに激化していき……。

 今のは危なかった。

 ライルの肩には相手の剣撃によって鋼鉄でできていた装甲部分が半分抉られていた。


「いい腕だった」


 喉を突かれ、吹き出す血潮にまみれながら長剣を持った男は倒れていく。だが、その男は帝国兵ではなく国境を守る兵団の紋章と鎧を身に着けていた。


「王国の兵が、王都を攻め落とすというのか。くそっ!」


 認めなくなかった。この状況を。

 戦争さえ起きなければこんなことにはならなかったはずだ。それに――。


*****


「陛下、どういうことですか!? ここに残られるとは」


 帝国の兵が侵攻をはじめ、王都に攻め入りつつある。その最中、エルムス城内の謁見の間でライルは国王の決断を聞いていた。


「そうだ。ライル。私がここにいると情報を流した。さすれば帝国の兵どももこの城に重点を置くであろう。少しは街の戦いも緩くなるやもしれぬ。そのうちに逃げ遅れた民たちを連れて国を出るのだ」


「しかし! それでは……」


「私の命で僅かでも民の命を救えるのなれば、それは王として最後まで民の役に立てるというものだ」


「陛下!」


 国王に詰め寄りそうになったライルを初老の男が制止した。


「ライル! お前にはやってもらわなければならないことがあるのだ。よく聞け」


 初老の男はエルムス王国の貴族を束ねる、貴族院の議長であり、そして俺の父になる人だった。


「キャシーが子供たちを連れて先に国境の森に避難している」


「キャシーが!? そんな無茶な」


「あやつが何を言っても聞かないことぐらいお前も知っているだろう」


 キャシーと出会ったのは三年前だった。お互いに何も知らず小さな劇場で孤児院が主催したお芝居に警備で行ったことから知り合った。その時彼女は、


「子供は国の将来を担う大切なもの。その警備に騎士が来ないなんて信じられません!」


 そういって非番だった俺が劇場の警備を任されたのだ。気が付けばキャシーは俺にとってなくてはならない存在になっていた。

 騎士団長に昇格した時、俺はキャシーに結婚を申し込んだ。軽くあしらわれるかと思ったがその時見せた彼女の嬉しそうな表情を今でも俺ははっきりと思い出せた。


「ライル、キャシーを頼む。ここは老いぼれだけで十分だ。いきなさい」


「………」


 俺は、大きく息を吸い込むと扉に向かって歩き出した。


「陛下、そして……父上、お元気で」


 ゆっくりと閉まる扉。

 俺は陛下と父上から賜った最後の命令を遂行するべく、帝国兵が攻め入る街を駆けた。


*****


「ライル様、ここはもう無理かと……。申し訳ありません」


「お前が気にすることはない。よし。保護した者は全員無事だな?」


「はい。リーゲが森に向けて先導しています」


 帝国が攻め入った場所とは逆方向にある森林地帯。ここならまだ敵が入り込む余地はないはずだ。キャシーたちもそこにいる。急がなくては。

 この話は、主人公・ライルの「過去」の部分にあたります。彼がこれからどう生きていくのか……というターニングポイントを描いていきます。



 次回、過去の幻影パート3でまた!


※感想やら評価やらは大歓迎です。また、こんな話を書いてほしいというまったく関係ないものでもOKです。

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