ゆれる炎(2)
この物語、そして全体的に影響を及ぼすと計画されている人物がここで登場します。
ぜひ、この続きも読んでいただければ幸いです。
すでに村の大半が炎に包まれていた。街路には無残に切り捨てられた村人たちが横たわっている。まさに地獄絵図とはこういうことを言うのかもしれない。だが、自分もそれは四年前に見てきた。
「酷いな。まさかここまでとは」
まだ、残党がいるかもしれない。警戒を解かずに村を歩いていく。焼け焦げた匂いとむせ返るような血の匂い、流れる風がそれを吹き飛ばしていく。そんな光景の中で異変を感じて思わず剣を抜き放つ。
(なんだ……?)
見事なほどに斬られている死体。
それは”すっぱり”という言葉がそのまま当てはまるような切り口。それだけで相当な遣い手であることはわかる。しかしなんだ。この驚くような表情は。
よく見ると、皮鎧にいくつか短剣が付けられ、手には使い込まれた長剣が握られている。隆々とした筋肉に強そうな足腰から村人にやられたにしては不自然だ。
「誰がこの男を斬った? 仲間割れしたのか……それとも」
ふいに背後から気配を感じて、剣を構える。振り返った先には誰もいない。ただ、微かに、どこかで感じたことのある『気配』が残っている。ここにいてはまずい。そう直感が告げていた。
一通り、村の中は見て回ったはずだ。声を出しても反応はない。それほど大きくはないこの村だ。村人全員が殺されていたとしても不思議じゃない。近くで炎が噴き出し、建物が倒れ始めている。どこも火が放たれてからだいぶたつようだ。
(やはり、無駄だったか)
誰かを助けられる、なんて思っていたわけじゃない。ただ解っていて何もしないことが心が許さなかったということだ。心の中に一緒にいるキャシーも。
(たすけて)
「!?」
さっき、声がしたような気がするが? 気のせいだろうか……。
(だ、だれか……こわいよ……)
いや、間違いない! 確かに聞こえる。
「どこだ! 返事をしろ!!」
返事は返ってこない。しかし、俺は声のしたあたりを探す。確かに、このあたりから聞こえたはずだ。それに急がなくては。
火に包まれた家の一角、何かの作業小屋のようなところから声はしたはず。半分、崩れかかっていていつ崩壊してもおかしくなかった。
「う、うぅぅぅッ……」
その子は、落ちてきた柱が重なり合った場所にうずくまるようにしていた。いつ壊れてもおかしくないような場所で、何かに守られているかのように、その空間だけが開けていた。
「大丈夫か? 落ち着いて……こっちに来られるか?」
その子は、ぼろぼろになった服、金色の髪は黒く汚れていた。印象的な青い瞳は怯えたように俺を見つめている。よほどの恐怖を味わったのだろう。無理もない。何とかこの子供だけでも助けられれば。
「さぁ、おいで。思い切って手を伸ばすんだ……!」
なかなか手を伸ばしてくれない子供。しかし、あまり時間は残されていないようだった。さっきから崩れる音が大きくなっている。この空間もいつ無くなるか分からなかった。
「手を伸ばすんだ、思い切って! 生きよう!!」
どうして、そう言ったのか俺は解らなかった。だが、この子をここで死なせたくなかった。
「う、うん」
ゆっくりと手を伸ばす。そして俺はその手をしっかりと握る。暖かい感触が俺に伝わってくる。
「よし! さぁ、来い」
子供がゆっくりとがれきの間から這い出してくる。それと同時に家は崩れ落ちて、子供がいた空間はあっという間に塞がっていった。
「よ、良かった……」
思わず口に出した言葉は、その子供に対しても、また自分に対しても当てはまる言葉だった。
いかがでしたでしょうか。
少し、緊迫した展開のパートです。この感じがあと二話ほど続く予定です。