前奏:◼️の祈り
人は願いを求め続ける
生きる糧か、欲望か、それとも絆か
願いに蝕まれたこの世界は、今も嘆き続けてる。
最期に夢見た希望は、救いを示してそれでも何れ誰かに
摘み取られて
ねぇ、誰か、気付いてよ
私にはもう、支えきれないの
ねぇ、誰か、応えてよ
私は、願うことも、許されないの
人は願いを、追い続ける
愛し子達の、未来を どうか──
◇
まるでヨーロッパの町並みに、現代の摩天楼がちょくちょく顔を出してきたかのようなネオンサイン。
海に包まれた孤島の街の光が、闇色の海空を明るく照らす。
そしてそんなある種の近代幻想的な町並みを、屋根伝いに飛び回る少女達の姿があった。
その先には、蛸に蝙蝠羽根が生えたような怪物。
「逃がすんじゃないにゃよ!!」
「わーってるよい♪」
金と銀、相反していないのに相反するような髪の色の少女達。
銀の髪の少女の言葉に、金の髪の少女は軽口で返した。
銀の髪の少女がその手に光をまとう、そして光は帯が編み込まれるように形を成すと石槍のような剣となった。
「くらえっ!!」
銀の少女が投げた石の剣は、まるでそれが当然の使命のように回転し弧を描いて怪物に向かっていった。
『……!!』
怪物は、それを忌避するように(って刃物なんだから当たり前だけど)寸前で高く飛びそれを避けた。
「あぁっ、惜しい!!」
「でもナイス誘導だよい、ジュリアちゃん!!!」
悔しがる銀の少女にそういうと、金の少女はいつの間にか怪物のすぐ後ろにて旗のついた槍を構えている。
「ほーむ…らんっ!!」
『!!』
金の少女がフルスイングで怪物に槍をたたきつける。
見た目以上の力で怪物は打ち出され、銀の少女は再び光から石の剣を取り出すとボールを待つバッターのように構えた。
「へいかまーん」
不適な笑みで石剣を構える銀の少女だが、その前に蛸は少女にとてつもない勢いで墨をはいた。
「にゃにゃっ!?わっぷぁ」
墨をもろにかぶり、怪物はそのまま墨のジェット噴射で飛んでいこうとしていた。
「あははー、災難だったねい?」
金の少女がその手に光をまとって触れると、墨まみれになった銀の少女は瞬く間に綺麗になった。
「うぐぐ~っ、美香……奥の手つかうにゃ」
「えぇ~……あれは派手すぎるから禁じ手って言ってなかったっけい?」
銀の少女の提案に渋る言葉を贈るが、その表情は賛成の意を示している。
「いいのにゃ!!この私を蛸墨まみれにしたこと後悔させてやる!!」
「了解で~い♪」
銀の少女が怪物の飛んでいった方向に指を鳴らすと、薄い糸のような光のラインが走る。
それは怪物の逃げ道をふさぐように半径数10キロの円を形成すると高さ3メートルの光の円柱となってその空間を結界として固定した。
「うひゃー派手だねい」
「まだまだぁ!!」
いい具合にテンションが上がってきたのか、二人の少女はその円柱に手を伸ばして口を開いた。
「『告げる、汝星の記憶の海より産まれいでし混沌の沼の子なり』」
光の円柱が回転を始める、その中には確かにとらえられた怪物の姿があった。
「『告げる、哀れなる混沌の子よ……あるべき姿、あるべき場所、ガイアの深遠はここにあり……』」
金の少女の詠唱とともに、円柱の上に黒い三角の魔法陣が展開される。
「「『あるべき場所、あるべき姿へ回帰せよ!!』」」
二人の詠唱が重なり、円柱の中央に真っ黒な穴があいた。
「「『アブホースディーバ!!!!』」」
その『魔法』に名前が冠されたその瞬間、穴が急激に凄まじい引力を発揮した。
光の円柱は泥のように形を崩して穴の中に吸い込まれていく。
そして最後は穴共々に小さい光の粒になったと思えば、優しい光の花火となって街の夜空を照らしあげた。
(綺麗……)
花火の優しい光の中で、不敵な笑みを浮かべる二人の『魔法少女』を街から見上げながら
私はそう感じていた。