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第七話

「貴方も来たのね」


 フェスタが部屋に入ると無邪気な笑顔でプリメーラが迎えた。

 一方、クリスの方はフェスタに振り向きもしない。それにムカついたフェスタはクリスの正面に回り込んで、文句の一つも言おうとしたがそれを飲み込む。

 クリスの表情は先程フェスタが見た苛立った表情を、彼女ですら声をかけるのを躊躇うほど険しくしていたのだ。まさに鬼の形相だった。

 この表情と対して笑顔でいられるプリメーラに、フェスタは尊敬に近い感情を抱いた。


「貴方も私に文句を言いにきたの?」

「何の話ですか?」


 話しかけられたことを幸いにクリスから視線を外したフェスタだが、質問の意味が分からなくて問い返す。


「あら、クリス。パートナーに自分の意見を言っていないの?それはいけないわね。仕事の話は何でもするように言ったはずよ。貴方には足りない部分がある、それを補うためにフェスタをパートナーにしたというのに」

「今はその話は関係ないだろう。私の質問に答えてくれ」


 関係ないってことはないだろうとフェスタは思ったが、仰ぎ見たクリスの顔がやっぱり怖かったので口を噤んだ。この手の顔の美人が怖い顔をすると、本当に迫力があると学んだフェスタである。


 さて、ここまでの会話の流れで分かる部分も多いと思うが、この三人の関係性はマリアンナに紹介されているものと真実は異なる。

 【薔薇の棘同盟】―――クリスはその存在をマリアンナに『恋に関わる全ての存在を救済する』ものだと説明した。三人ともその同盟に属する者である。

 同盟はその存在が公に知られるものではなく、多くの人が知らない裏の組織だ。

 その始まりはミスティーアで有名な乙女と王子の悲恋の物語であると言われている。

 国民が知っている物語は、あくまでフィクションのために真実と多少違う部分があるらしいが、基本的には二百年程前の史実に基づくものであり、村娘と隣国の王子の身分違いの恋は確かに存在し、それは女王に引き裂かれ悲恋になったこともまた事実らしい。

 同盟はその村娘であり、乙女である人物が、自分たちと同じような苦しみや悲しみを味わう恋人たちが少しでもいなくなればいいと、その願いから生まれたとされている。


 よって、その大きな目的の一つに障害のある恋を助ける、成就させるというものがある。

 その役割を担う人物の事を同盟内では遂行者と呼ぶ。遂行者は何らかの障害や問題があり、結ばれることが難しい恋人たちを助け、それを成就させることが一番の仕事である。


 そして、同盟にはそれとは違うもう一つ大きな目的がある。その役割を担う人物は救済者と呼ばれている。

 恋とは恋人同士が結ばれて、全てが終わる訳ではない。恋は成就しても恋人たちは二人だけの世界でずっと生きていく訳ではないからだ。

 家族・友人・社会。恋の障害とは総じてそういった二人以外の関係性が理由であることが多い。よって、恋を成就させるためには、往々にして恋人たちとそれらの関係性が悪くなる結果に陥る。


 『恋に関わる全ての者に幸せを』


 同盟のたった一つのルールであり、乙女の切なる願いでもある。

 彼女は叶わなかった自分の恋を嘆くだけでなく、例えそれが叶ったとしても、その結果で誰かが、何かが犠牲になることが悲しかったのだ。嫌だったのだ。


 その願いを叶えるために生まれたのが救済者という役割を担う者。彼らは恋の成就によって、損害を被る可能性があるものを根こそぎ救済するのが役割となる。

 例えば身分差の恋の場合、世間体を改善させるために様々な噂や評判を流したり、裏工作をし対する。また、恋敵がいた場合には、振られた相手が新しい恋をできるように手伝ったり、彼ら、彼女らが幸せを掴めるようにアシストする。

 などなど、数を挙げればきりがない。恋の数だけ遂行者たちは様々な計画で恋を助け、救済者たちはその恋によって波及する全てを幸せにしなければならないのだ。

 同盟はこの大きく二つの役割によって成り立っていた。


 そして、その二つの役割を従え同盟の頂点に立つ盟主が存在する。

 盟主は不思議な力を持つという。その力の源は不明だが、その力によって盟主は遂行者や救済者に恋に困る恋人や、恋に傷ついた人を指示し、人知が及ばない事でもあっても、それらを叶え、救う事ができるという。

 現在の盟主の名はプリメーラ・ヴァトン。

 生まれ、経歴などは一切不明。一説には乙女の子孫ではないかと言われたり、どこかの大貴族の妾腹だなど、彼女については同盟内でも様々な噂が飛び交う。要するに誰も確かな事は知らないという事だ。

 はっきりしている数少ないことは、彼女が長い歴史を持つ同盟の本拠地で有り続ける【薔薇の館】の主であり、彼女が不思議な力を持っているという事。

 それは同盟において絶対であり、同盟に参加している者は皆、その意思に従うことが当たり前であるのだ。不思議な力の前に、何の力も持たない者は無力でしかないのだから。

 しかし、今、クリスはそれに否を唱えていた。

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