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信者 2

 -ラモール王国・フキノ村ー

雪巨人の住み家から自分達の村に帰ってきた村人達は、生きてまた戻ることができたことを改めて実感し、喜びに浸るのだった。そして、村人達は広場で宴の準備をし、村長であるヤマが皆の前に出て挨拶をするのだった。


「私は今、かつてない喜びを感じている!前回この広場に集まった時には、我々は死を覚悟していた。奴と戦えば生き残ることはできないだろうと分かっていたからだ。冒険者に依頼することはできず、領主への依頼も奴がいるという確実な証拠がなく討伐隊は派遣されず、慈悲の女神であるはずの女神ウルスラと教会は何もしてくれない、そのような状態であった。そして、奴と戦い我々の大部分が殺され、残りも殺されそうになっていた。」


皆は真剣な表情をして、ヤマの話を聞いていた。大多数の村人達は実際に殺されているのだから当然であるが。


「だが!奇跡が起きた!女神ウルスラは何もしてくれなかったが、女神などとは比べ物にならない大いなる神であらせられる天之竜河大神が我らをお助け下さったのだ!天之竜河大神は雪巨人を倒してくださっただけではなく、雪巨人によって殺された全員を生き返らせてくださった!慈悲の女神などといわれているあの女神よりも、よほど慈悲深き御方である!」


このヤマの言葉に村人達は大きく頷き、賛同を示すのだった。誰の助けもなく、女神からも見放された自分達を助けて下さった慈悲深き神・天之竜河大神。誰もが天之竜河大神に対して深い崇拝の念を抱いているのだった。


「そのような天之竜河大神が我々に頼みがあるというのだ!これは、我々が受けた大恩を少しでも返せる時である!それに神は我々を選ばれたのだ、これほど光栄なことはない!どの様な頼みかはまだ分からないが、神の期待に必ず応えてみせよう!」


「「「「おう!!」」」」


村人達は、自分達を助けてくれた天之竜河大神に少しでも恩を返せる、慈悲深き神である天之竜河大神のために働くことが出来るなどと思い、必ず神の頼みを成し遂げるという覚悟を持つのだった。


「では、雪巨人という脅威がなくなったこと、全員が生存できたこと、そして大いなる神との出会いを祝して、乾杯!」


「「「「乾杯!!」」」」


ヤマの挨拶が終わると、皆は食べ物を食べたり、お酒を飲んだり、踊ったりと楽しそうに宴を始めるのだった。


「サクラ!」


「なに?」


「僕達も踊らないかい?」


「そうね、一緒に踊りましょう!」


サクラとタチバナも皆が躍っている中央に行き、一緒になって踊るのであった。そんな光景を嬉しそうに見ながらヤマとウメは語り合うのだった。


「こういうのを幸せというのかしらね。」


「そうだな・・・。このように皆で笑いあえる日がまた来るとは思ってもいなかった。」


「ふふ、私もですよ。この生活を守っていきましょう?」


「あぁ、そうだな。」


宴は終始楽しそうな雰囲気で過ぎていくのだった。




 翌日、広場には、また村人全員が集まっていた。そう、天之竜河大神からの神託を待っているのである。

そして、


<聞こえるか?人の子らよ。>


天から聞こえる、大いなる神の声に村人達は皆、平伏するのだった。


「聞こえております、大いなる神・天之竜河大神よ。」


<うむ、では早速頼み事についてだが、私はあることを警告したいのだが、知らない神の警告など耳を傾けないだろう。そこでお前達の中の何人かに、警告と私の存在を広めてほしいのだ。>


「警告と神の存在を広める、ですか?」


<そうだ。>


「それは構いませんが、警告とはいったい・・・?」


<私が目覚めるきっかけになったことだ。>


その言葉に村人達は緊張した。長い間眠っていた創造神が目覚めるなど、よほどのことが起きていると思ったからだ。


<私がこの世界を創造したときにある存在が生まれた、それは魔神レグリオス。>


「魔神、レグリオス・・。」


<奴は世界を魔による統治、すなわち混沌が支配する世界にしようと、魔の軍勢を引き連れて私に戦いを挑んできた。人類も私と協力して共に戦った。そして、長き戦いの末、私は奴を倒し封じることに成功したが、世界は破壊されてしまった。だが、私は魔神との戦いで神力を多く消耗しており世界をすべて創造しなおすことは難しかった。そこで私は、世界の基本的な形を治し、生命体などあらゆる存在を構成する物質を世界に満たし、自然と生命体などが生まれるようにしてから、眠りについたのだ。>


「そのような事が・・・・。」


「世界が一度滅びていたなんて・・。」


村人達は自分達が暮らす世界が一度滅びていたと知り、驚愕の声を上げた。そして、ヤマはある疑問を質問した。


「では女神ウルスラとはいったい?」


それは、村人達も疑問に思っていたことであった。


<おそらく私が眠りについた後に誕生した神だろうな。そして、私が世界に満たしていた物質を使い、世界を今の形にしたのだろう。>


「なるほど。今の世界はそのようにして出来たのですか。」


ヤマや村人達は疑問が解消し納得すると同時に、世界の成り立ちを知り興奮するのであった。


<そうして私は、長き眠りについていたがレグリオス復活が近いことを感じ、目覚めたのだ。>


その神の言葉に、話の流れから予想はできていたが実際に言葉にされることにより、村人達は深い衝撃を覚えるのだった。神に戦いを挑み、世界を滅ぼすきっかけを作った魔神が復活しようとしているのだから当然であったが。


「で、では警告とはその魔神についてですか?」


<そうだ。>


「なるほど・・・。いくら警告しても、それを告げた存在が何者なのか知らなければ誰も信じない、だから天之竜河大神の存在を広めることも同時にしていく、そういうことですね?」


<そうだ。また、私のことを教える存在についても、お前達が教えても大丈夫、そう思った存在だけでよい。>


「よ、よろしいのですか?」


<かまわない。多くの存在に教えたところで信じる者は少ないであろう。ならば、少数でも信じる可能性が高い者に教える方がよい。>


「た、確かにそうかもしれません。」


<それに、私の方でも色々対処していくつもりだ。だから教える存在については、お前達の判断にゆだねる。>


「わかりました!私達の出来る限りをしていきます!」


村人達は自分達の行動が恩を返すだけではなく、世界の危機に対して立ち向かうことでもあることを知り、体中にやる気をみなぎらせるのだった。


<すまないな、漸く平和に暮らせるようになったにもかかわらず、このような事を頼んで。>


「いえ!そのような事はありません!私達は天之竜河大神に恩を返せるだけでも嬉しいのです!そして、私達は大いなる神であらせられる天之竜河大神の忠実なる僕です!お気になさらずに。」


<よいのか?ほとんどの者が女神ウルスラを信仰しているが?>


「かまいません!女神ウルスラなど大いなる神であらせられる貴方様と違い、信仰する価値もありません!」


村長であるヤマの断言に、村人達も一斉に頷くのだった。


<そうか。お前達のその思い、ありがたく思うぞ。>


その言葉に村人達は歓喜に震えた。なぜなら天之竜河大神が、自分達が信仰している神が自分達の思いを受け止めてくれたからだ。そのような中、サクラはあることに疑問を感じ質問をするのであった。


「大いなる神よ、質問をしてもよろしいでしょうか?」


「サクラ!」


いきなり代表である村長ではないサクラが発言をしたことに村人達は驚愕し、すぐに注意をするのだった。だがそれは、天之竜河大神によって止められる。


<かまわん。何だ?人の子よ。>


「魔神レグリオスは、なぜ復活しようとしているのですか?」


<それは、お前達人類のせいなのだ。>


「え」


「「「「え」」」」


サクラだけではなく、村人全員が思いもしなかったことを言われ驚愕するのだった。


<お前達人類は多くの争いを起こしてきた。そして争いで死んだ者の無念、怒り、悲しみそれらが負のエネルギーとなり魔神の力となったのだ。>


「そ、そんな・・・。」


サクラは、そして村人達も自分達のせいで恐るべき存在である魔神レグリオスが復活してしまうことを知り、呆然とするのだった。そんな彼らに、天之竜河大神は暖かい声をかけるのだった。


<気にすることはない、争いは誰もが起こすのだからな。私はお前達を見捨てることはない。>


「おぉ神よ。」


その慈悲深さに、村人達はより深く崇拝の念を持つのであった。


<では、そちらに神使を派遣する。>


「神使、ですか?」


<私に直接仕える眷属だ。お前達にわかりやすく言えば、エルフのような感じだ。>


「そ、そのような方を派遣して下さるとは・・。ありがたいことですが、よろしいのですか?」


<気にすることはない。神使から我が使いとしてふさわしい服装、儀式の仕方など、より詳しいことを訊くがいい。>


「はい!大いなる神のご期待に必ず応えてみせます!」


<期待している。>


その声を最後に神の気配は急速に遠のき、消えていくのたっだ。村人達が平伏した体勢から体を戻すと、ヤマが皆に呼び掛けた。


「皆!大いなる神の願いは困難ではあるが、我々を信じて頼まれたのだ!また、この事態を招いたのは我々人類でもある。必ず成し遂げるぞ!」


「「「「おお!!」」」」


村人達は困難ではあるが、神のために、世界のために、必ず良い結果にしてみせると誓うのだった。





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