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終わり、そして始まり

 -天界ー

 天之竜河大神は縁側に座り、庭を眺めながら緑茶を飲んでいた。彼がいる場所は、神社でいう本殿にあたる所だ、本殿には中庭が存在し池があるが、プレイヤーがその池を見れば目を剥いて絶句した後に、遠い目をして


「神だからね・・・」


と諦めの境地に達するだろう。なぜなら、池にある水は滅多に手に入らない、あらゆることに効果がある万能の水だからだ。たとえば、状態異常はもちろん全ステータスの強化、ペナルティ無しでの死者蘇生なども可能である。そして、池の底に沈んでいる沢山の勾玉は、全ステータスの強化にS級魔法以外の全ての魔法攻撃を無効化する効果があるのだ。

 この水と勾玉をめぐって、上位ギルド同士の争いも起こったほどだ。その水と勾玉を、池と飾りにするほどにあるだけでなく観賞用にしているのだ、そんな境地にもなるというものだ。


そんな庭を眺めながら天之竜河大神は、くつろぎながら時を待っていた、ユニバースのサービス終了という時を・・・。


「ふ~・・・・・ゲームの中だけど、やっぱり緑茶はいいね~。紅茶も美味しいけど、やっぱり緑茶の程よい苦み、旨み、香りとかが最高だよ。」


そう言いながらゆったりと過ごしている彼の隣りには、美しい漆黒色をした烏「八咫烏」のカイがいた。カイは天之竜河大神が唯一創造したNPCである神使である。

 神使とは、神に直接仕えるNPCの呼び名の一種である。正式には眷属と呼ばれるのだが、殆ど使われることはなかった。それはともかく、神に仕えるNPCは神に直接創造されるか、神の手で転生するかによって、神に直接仕えることが可能な存在となることができる。呼び名は神々によって違い、最も多かった呼び名はやはり天使であった。

 もっとも、天使というモンスターもいたためプレイヤーが混乱することもあったが。・・・それはともかく、彼らは最上級クラスに匹敵あるいは凌駕する力を持っていた。

 そんな力を持つカイは、天之竜河大神が唯一創造した存在であり愛着も持っている。


「今まで大変だったな~・・・神になるのも大変だったけど、なった後も何をすればいいのかずいぶん考えたものだよ。他の神達も色々つっかかてくるし、それを撃退するときの戦いでも周りに凄い被害を出してしまうしさ~。もう散々だったよ・・・・でも、何だかんだ言って楽しかったな。特に現実ではできないような和風づくめの生活ができたのが最高だったね!」


彼はくつろぎながら今までのことを思い出していた。広大な世界を冒険しながら色々な発見をしたり、ダンジョンを探索しボスモンスターに敗北しそうになったり、神になったとき、カイを創造したとき、自分が考えた神具を作ったとき、和服のことを馬鹿にされてムカついたからちょっとお仕置きをしたり、攻めてきた神の一柱であり、神界を拠点とする「ヴァルナ」と戦い周囲を壊滅させたり、気に入ったプレイヤーやNPCに加護を与えたり、逆に気に入らないプレイヤーに神罰を下したりと、色々な事を思い出していた。


「神になってからはあまり昔の仲間と会うこともなくなったな~・・・残念だけど、神になる為の決まりだからね、少し寂しくもあるけど・・・仕方ないか」


そう言いながらカイを撫でていた。


「カイもな~自由に喋ることができればいいんだけど、NPCだからどうにもできないけどね」


一人で呟きながら緑茶をのんでいたが


「・・・・一人で呟いてるのってなんか虚しいな~・・・・それにしても僕って今、傍から見たら危ない奴なんじゃないかな・・・・まぁ、誰もいないから大丈夫か!」


そう言い一人で落ち込んだり、考え込んだり、元気になったりと忙しそうにしていた。・・・だがまぁ、危ない奴と思われるかも、という心配は必要ないだろう。すでに思われているのだから、知らぬは本人ばかりということだ。


「地上界では、皆どんな事をして最後の時が来るのを待ってるんだろう?神眼で見ればいいけど、楽しそうだったら自分も参加するために地上に降りたいっていう気持ちを持っちゃうかもしれないしな~・・・やっぱり最後はこの天界で終わらせたいし!それに気分が高揚して要らないちょっかいをかけちゃうと、皆に迷惑をかけてせっかくの楽しい気分を台無しにしちゃったら悪いからね!」


そんな風に地上界や他のプレイヤー達のことに思いを馳せていたが


「一人で今までのことを懐かしむのも、なかなかいいものだよね・・・」


そう考えこれまでのこと、そしてこれからのことについて、また考えだすのだった。

彼は、このユニバースで自分の好きな和服を着たり、現実では暮らせないような巨大な和風の家に住むなどが出来た。

現実ではできない色々なことをすることができ、充実していた。

 

そう、充実していたのだ。

 だが自分を満たしてくれたユニバースは今日、あと数秒でサービスを終了することになり、日常の生活に戻っていくことになる。

 そのことに寂しさを感じるが、仕方のないことだった。どんなに現実のようでも、所詮は仮想空間であり現実世界ではないのだから。それに、時が流れていけばこの気持ちも忘れていくことになるだろう、それが人間というものだ。

  あと五秒

 天之竜河大神は、目を瞑りユニバースに別れを告げた。


「さようなら・・・・今までありがとう。」


 

 3,2,1,0



「?・・・あれ?」


時間を過ぎたのにログアウトしないことに気づき、天之竜河大神が目を開けた時だった・・


  ズゥン!!


天界全体が揺れるほどの衝撃が突如起こったのだった。


「!!・・何だ!」


天之竜河大神は、驚愕の声を上げた。

揺れは一瞬でおさまったが、この異常事態に天之竜河大神はかつてないほどの動揺を覚えた。

 神の拠点全体が揺れるなど、本来あり得ないことである。あるとすれば拠点の主以外の神が、無理やり侵入したときぐらいだが、天之竜河大神以外の四柱の神々であるプレイヤーがログインしていないことは確認済みである。そのため、神の侵入という事態はないということであり、天界が揺れるほどの衝撃が起こるというのは異常事態であった。


「いったい何が・・・(落ち着け、サービスを終了するときに何か不具合が起きたのかもしれない、まず何が起こったのかの確認をしないと。)」


天之竜河大神は動揺から即座に立ち直ると、何が起きたのか確認をしようとした。しかし・・・


「どういうことだ・・・システムが存在しない。」


そう、ログイン・ログアウトを含めた全てのシステムが出てこないのだ。先ほどの揺れを上回る異常事態に焦りが強まったとき、天之竜河大神はあることに気がついた。


「これは・・・感覚がある?そんなバカな、ゲームのキャラクターである身で感覚を持つなんて・・・これではまるで現実みたいじゃないか・・・」


そう、まるで現実世界にいるかのような感じを受けたのだ。天之竜河大神の顔に困惑の色が強まった時であった。


「主よ、いかがされました?」


若い男性の声が聞こえたのは。


「いや、先ほどからの・・・!!」


天之竜河大神は無意識に答えていたが、誰かが話しかけてきたことに驚愕し、声が聞こえた方を見た。

それは、隣にいた神使である「八咫烏」のカイであった。




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