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迫害 1

神教はラモール王国・アルカス同盟北東部を中心に大陸全土に広がり始め、レグリ教もヘリオス王国を中心に大陸全土に広まり始めるなど、二つの新興宗教は確実に勢力を広げていた。どちらの宗教も崇める神が実際に応えてくれるので急速に広がったのだ。そして、神教とレグリ教は互いに敵視し争っていた。神教は、フキノ村で神官の資格を手に入れた者達が順次布教に旅立ち、知識を広めることにより各地で見習いである修道士が誕生した。ちなみに、信者たちはフキノ村を神教の本拠地と考えていた。レグリ教は現在の体制に不満を持つ者達が多く信者となっており、公権力から目を付けらているために表ではあまり派手な行動は出来ないが、裏で勢力を拡大していた。


 ヘリオス王国とホルス聖教国との国境に存在する大森林。その奥深くに、漆黒のローブをまとった数十人の集団がおり、集団の前方には魔法陣の上に少年が拘束され寝かされていた。少年は口も塞がれており顔を恐怖に歪め、涙を流していた。そんな中、先頭にいたリーダーと思われる人影が話し始めた。


「これより我らが神、魔神レグリオス様への生贄の儀式を始める。」


その言葉にその場は静かな熱気に包まれた。そう、彼等はレグリ教徒であるのだ。


「魔を司りし絶対なる神よ!貴方様の完全復活のために、この生贄の恐怖・悲しみ・苦痛・怒り・命を捧げます!」


そして少年が殺されそうになった時、その場に呪文の声が響いた。


「<創造神たる大いなる神よ その偉大なる力を 立ちはだかりし邪悪なる敵 そのことごとくを撃ち抜く裁きの鉄槌となし 我が敵に降り注ぎたまえ ジャッジメント・レイン!>」


呪文が響くとレグリ教徒たちの頭上が歪み、光の雨が降り注いだ。光の雨は生贄である少年を避け、レグリ教徒たちを貫いていった。


「ギャッ!!」


「グァ!!」


レグリ教徒たちは何が起きたのか理解できないまま絶命して逝った。だが、リーダー格の人影はマジックシールドを展開し、難を逃れていた。彼は、姿を現した人物を見ると愉快そうに話し始めた。


「神教の神職、それも三大神官であるアシュトン大神官殿にお会い出来るとは、誠に光栄です。」


姿を現した人物は、大神官へと昇格したアシュトンであった。彼は警戒しながらレグリ教徒に応えた。


「私もこんなところでレグリ教の教祖であるアセル殿に会えるとは、思いもしませんでしたね。」


その言葉に人影、レグリ教の教祖であるアセルは愉快げに笑った。


「ですが此処で会ったのも大いなる神のお導き、貴方を此処で倒せばレグリ教は活動を大きく制限せざるを得ないでしょう。」


「くくくく。できますかね?」


「倒します。」


その場を暫く沈黙が支配したが、二人は同時に行動に移した。


「<創造神たる大いなる神よ その偉大な力をもちて 立ちはだかりし邪悪なる敵 そのことごとくを打ち砕きたまえ ライトニング!>」


「<魔を司りし絶対なる神よ その力をもちて 御身に仇なす不遜なる者を 死の闇に誘いたまえ ダークネス!>」


   ドガァァァ!!


光と闇の塊が二人から放たれ、中央でぶつかり合った。その衝撃により、砂が舞い上がり視界を奪い、アシュトンが警戒し辺りを見渡していた時、アセルの声があたりに響いた。


「今日はここで退かせてもらいますよ。貴方と戦うよりも私にはしなければならないことがありますのでね。では、また何処かでお会いましょう。」


「まて!」


視界不良のため実際にアセルが去ったのか判断できないためアシュトンは視界が回復するまで警戒を解かずにいた。


「・・・退きましたか。此処で倒すことができれば好かったのですが・・・仕方ないですね。」


アシュトンは未練を断ち切ると、生贄の少年を助けに向かった。


「もう大丈夫ですよ、すぐ家に帰してあげますからね。」


その言葉に安心したのだろう、少年は意識を失った。

実はこの子供は爵位の継承権は低いが、ヘリオス王国で王族の血を引く大貴族、アムール公爵の息子であった。後に、この時のことが神教にとって有難い事態を起こすのだった。



 ー世界樹ー

「ウルスラ様もご存じと思いますが、外では二つの邪教が勢力を増しています。ウルスラ様の威光が薄れるなどあってはならないこと、ましてウルスラ様以外に神が存在するなどと言っているのです!」


エルフは玉座に座している女神ウルスラに、外での神教とレグリ教の広がりについて懸念を伝えていた。


「そこで私は、人間達にウルスラ様の威光を知らしめるために、奴等と同じように祈りに応える方法が有効かと愚考致します。」


その言葉にウルスラは眼を瞑ったまま、なにも発言しなかった。


「邪教と同じ手段であり、不快に思われるかもしれませんが」


「ハイル。」


女神の言葉にエルフである青年、ハイルは言葉を切った。


「私がその程度のことも考えつかないと思っているのですか?」


「い、いえ!そのようなことはありません!」


「私も二つの宗教の広がりを無視できないと判断したときから、人々の祈りに耳を傾けていました。」


「そ、そうだったのですか。そうとは知らずに失礼を致しました。ですが、ウルスラ様が祈りに応えたという話は、失礼ながら耳にしていませんが?」


「確かに私は人々の祈りに耳を傾けましたが、まったく聞こえないのです。」


「そのようなことがあるのですか!」


ハイルは驚愕の声を上げた。なぜなら祈りとは、神々が祈りを聞く気がなければ届くことはなく、耳を傾ければ必ず聞こえるのだ。それが聞こえないとは異常なことであった。


「今までになかったことです。一体何が起こっているのか・・・。」


ウルスラは考え込むように眼を瞑り、ハイルも考え込むのだった。


(ウルスラ様の耳に祈りが聞こえないなど・・もしそれが故意に起こされたのなら、それをなした存在はウルスラ様に匹敵する力を持つことに・・・いや、そんなことはあり得ない。この世にウルスラ様に匹敵する力を持つ者など存在しないのだから。)


ハイルは一瞬考えついたことを即座に否定した。前までならば、彼の考えているように女神ウルスラに匹敵する存在はいなかっただろう。だが、現在は女神ウルスラを上回る力を持つ存在が、二柱は存在しているのだ。残念ながら、そのことをハイルが知る術はないが。

ハイルが原因について考えているとき、ウルスラが声を発した。


「ですが、このまま邪教を信じる状態が続くことは人類が余りにも哀れです。・・・そこで私は教皇に神託を下そうと思います。」


「どのような神託を?」


「世界を乱す邪教徒を排除せよ、と。」


「なるほど、確かに良い手段ですね。」


「異分子は排除しなければなりません。」


この決定により、神教とレグリ教の信者たちは苦難の時を向かえることになる。だが、この決定を下す原因となった状態を作りだした存在にとっては、何の問題もない決定であったが。




 -天界ー

天之竜河大神達は世界樹の中でのウルスラとハイルの話し合いを確りと見聞きしていた。


「よろしいのですか?信徒達が迫害を受けることになりましたが。」


「構わないさ、世界樹周辺に結界を張った時から、いつかこうなることは分かっていたからね。」


そう、ウルスラが信者の祈りの声を聞けなかったのは、天之竜河大神が世界樹周辺に結界を張り、祈りが届かなくしたのだ。なぜこの結界を張ったのかというと、祈りの声に応える神と応えない女神という差をはっきりと示すためだ。


「でも、中々いい具合に旦那やレグリオスの信仰が広まっていますね。」


「そうだね。負のエネルギーも順調に集まっているようだし、レグリオスの完全復活は確実だ。」


「しかし、レグリ教徒達は思ってもいないでしょうね。自分達が経験したほとんどの悲劇が、主により起こされたなどと。」


「やだな~僕はちょっと手を加えただけだよ。」


たとえばエール村を殲滅された事件は、天之竜河大神が夢で、領主に反抗する者達を大人しくさせるには見せしめが有効だと囁き、殲滅をさせたのだ。このように貴族達に囁くことにより、村などの虐殺をするように仕向けたのだ。囁かれた貴族は自分が考えた案だと思い、ためらうことなく実行していった。もちろん普通に統治している貴族が虐殺などするのは違和感がある為、圧政を敷いている貴族に限定して囁いていたが。


「この世界は言わば僕の創造物。何をしようが僕の勝手だろう?」


「もちろんです。ここは主が創造された世界、創造主が自分の作品を好きなように弄るのは当然の権利です。」


「旦那の思うように行動していいよ思いますよ。」


彼等は地上のことなど御構い無しに談笑するのだった。





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