ショッピングモール物語その1
椋鳥はムクドリ科の野鳥で、大きさは大人の掌サイズ、嘴と脚が橙色身体全体が黒で顔はそれぞれ違うが白い模様がある。農園や河川で餌を突ついてる所をよく見かける。特に椋鳥は天敵から身を守るため人通りの多い駅前を選んで大群で塒にする事が多い。ここ倉敷市に建設中の倉敷北モール社長坂本良太郎はこれで悩んでいた。
「夕方になると必ず椋鳥の群れが、公園の木を占領して糞と騒音を撒き散らしている。大城田君なんとかならないかこれ」
「倉敷市に劇薬を使って駆除してもらいましょうか」
「野鳥は保護されているから、毒薬を使って駆除は出来ないだろう」
「よわりましたねえ」
「よわったなあ、他に椋鳥を退治する方法は無いかなあ」
「僕に考えがあります」
「どんな」
「今は言えませんが、椋鳥を退治してみせますよ社長」
「本当か、頼むよ」
「はい、じゃあ私は」
「何処行くんだ」
「南へです」
大城田は相棒を捜しに倉敷駅南口の一件のアパートに向かった。
「おーい、居るか」
「はーい、どなたかな?」
仕事もせずに街中をブラブラしてると噂を聞いたた暇田山の所だった。
「よお、お前仕事はあるのか」
「もうすぐオーブンする倉敷北モールの仕事は決まってます。あんたの所のモールっす」
「モールがオープンするまでは、仕事は無いんだろう」
「ありますっす。オープン前の研修が来週から行くっす」
「その研修の事だけどな、行かなくていい」
「えっ、なんでっす。俺、不採用っすか」
「不採用じゃないけど、オープン前に片付ける仕事があって相棒を探してる所で。それをお前に頼みたい」
「おれっすか。オープン前の仕事って、どんな仕事っすか?」
「モール周辺の環境を良くする仕事だ。給料はいいぞ、やるか」
「はい、やるっす」
暇田山は仕事の内容も聞かずに即答した。
「よし、決まった。それじゃあまず、ここに沖縄の往復チケットがある。これで沖縄行って」
「沖縄にっすか、何しにっすか」
「荷物を取りに行って欲しいんだ」
「荷物ってどんなっすか」
「沖縄の中城モールって所に行けば分かる。そこの小橋川って方から受け取って来て、これが住所と受取書だ」
「今すぐですか?」
「今すぐだ。飛行機の時間がない」
「了解っす」
「気をつけてな」
暇田山は身支度して急いで岡山空港にむかった。倉敷の高梁川河川敷は台風の影響で川が増水その濁流が河川敷グランドの地盤を剥ぎ取り地盤の砂が海岸の様に成っていた。その河川敷に二台の車が止まっていた。大城田が仲吉と云う男と仕事の事で会っていた。なんで河川敷かと言うと仲吉がいつもよる所だったからだ。
「こんどオーブンする倉敷駅前の倉敷北モールの仕事なんだけど、頼めるかな」
「どんな」
「椋鳥退治の仕事」
「椋鳥退治?」
「モーターパラグライダーで飛んで空から椋鳥の大群を追い払って欲しいんだけど、出来るかな」
「できるよ、でも俺のプロペラのエンジンはうるさいから、騒音公害で苦情がくるよ」
「それは大丈夫だ。俺の方で電気モーターエンジンを提供するから」
「電気モーターエンジンを、本当か」
「ここには無いけど、そのモーターエンジンなら静かだから騒音公害にはならない」
「興味あるねえ、やるやる」
仲吉は仕事を引き受けた。その頃、暇田山は那覇空港でレンタカーを借りて中城へ向かっていた。今は当たり前となったカーナビ装備の車で、カーナビの案内に従っていれば猫でも目的地に到着できた。目的地の中城ショッピングモールに到着すると、そのモールの裏が海岸に成っていて琉球松の防風林が高くそそり立っていた。その琉球松の間に一軒の小橋川パラグライダーショップが建っていた。
「ここだ、間違いないっす」
と、暇田山はショップの玄関を開けた。
「ごめんください」
「はい、どなたですか」
小橋川の奥さんが玄関に現れた。
「こんにちは、岡山から来ました。暇田山といいます」
「あっ、暇田山さんお待ちしてました。大城田さんから全て伺っております」
「そうですか、あのう早速ですが荷物は?」
「これです」
奥の方に1m四方のダンボール3個積まれていた。
「何が入っているんです?」
「電気モーターエンジンですよ」
「パラグライダーのですか?」
「はい、椋鳥退治に使うって言ってました」
「椋鳥退治ですか。初耳です」
「どうします。今車に積んで持ち帰りますか」
「はい、そうします」
暇田山はダンボール箱を車に積んで中城モールを後にした。
「どうしようかな明日まで飛行機の便ないし沖縄で少し遊んで行こうっと」
倉敷駅上空を椋鳥の大群が龍が尾を引く様にくねくねと右へ左へと飛んでいた。
「なにあれ、気味悪い鳴き声」
駅前のアンデルセン広場の歩道橋に集まった。バスツアーの団体が空を見上げていた。その下の岡山空港行きバスターミナルに暇田山が沖縄から戻って来た。
「暇田山です。今帰りました」
と、大城田に電話を入れた。
「おっ、帰ったか。今から迎えに行くから待ってろ」
「はい、待ってます」
数十分で大城田はピクアップトラックで迎えに来た。
「疲れたか?」
「荷物が重くて大変だったっす」
「だろうな、ご苦労だった。これに荷物を積んで今から鳥取向かうぞ」
「鳥取っすか」
「鳥取の海岸でこれを試験飛行する」
「これ空飛ぶエンジンでしょう。大城田さんが飛ぶんすか」
「仲吉が飛ぶ」
「仲吉って誰すっか」
「ほら何時も高梁川河川敷で飛んでいる人、知らないかな」
「知ってるっす。土手沿に自転車で通ると時々見かける。そこで飛んでる人って仲吉って言う人なんすか」
「その仲吉が鳥取で待っている」
「なんでわざわざ鳥取で待ち合わせするんすか、近くに有るでしょう、飛ぶとこ」
「鳥取の天候がいいからだ」
「確かに岡山は雨っすね」
「中国地方で天気が安定した地域が鳥取県だから、そこで試験飛行したいと連絡が入った」
「鳥取って飛べる場所有るんすか?」
「広い海岸がある」
と、云う事で電気モーターエンジンを積んだピックアップトラックは山陽道を経て岡山道を経て米子街道途中の蒜山高原パーキングで休憩を取った。美味い蒜山焼きそばを食って大山にサヨナラを言って鳥取へ向かった。鳥取の国道9号線を東へ向うと左側が日本海で海岸からすこし離れた所に風力発電の風車が何機も設置されていた。
「バケモンみたいだなあ」
「こんなでかい物があると言う事でここの住民は迷惑しているそうだぜよ」
「そこを右に入って」
「えっ、右ですか。海岸は左側ですよ」
「この先が橋になっているから、右から入って橋の下を潜って海岸側に出るから」
「了解っす」
暇田山はウィンカーを入れ細い道に入った。そして、Uターンする感じで橋の下を括り海の方に出た。
「凄い長い海岸だ。地図で見るのとはじぇんじぇんちがうさあ」
「沖縄訛りかい」
「昨日まで沖縄行っていたから、訛りが移ったす。沖縄の事でチョット話長くなるっすけど、沖縄の観光ホテルはなんで海岸際に建ってるんすかね、鳥取海岸も湘南海岸も九十九里浜もそんな海際に建てたホテルないのに。海岸は住民の物が当たり前のはずが、沖縄県は一般市民には海岸は使わせないと言った感じでプライベビーチ風にホテルは建っている。賛成できないね」
「仕方ないよ、観光リゾートだから」
「あのハワイにだって海際にホテルは建ってない。フロリダのビーチもリオのビーチもす。沖縄だけっす」
「それもそうだな、おかしな話だ」
と、その時パラグライダーが二人の上空にやって来た。
「大城田さんおはよう、今からそっち降りるからまってて」
仲吉だった。仲吉は二人の前に着地して言った。
「お待たせお待たせ」
「日本海の上空はどうでした。北朝鮮の密航者でも発見しましたか」
「それは無かったけど、高度上げ過ぎて流されて参った参った」
「どこまで高度あげたのですか」
「高度計が限界の5000で止まってた。飛行届けだしてなかったから自衛隊機に発見されて撃ち落とされる所だった。なんとか、無線で交信して事情を話したから助かったけど。ふう、冷や汗かいたよ」
「まじっすか。それは災難だったっすね」
「高度あげすぎたらやばい所だから注意せんとな」
「北朝鮮へ流されたら無条件で撃墜されますね」
「うん、これからは低空で飛ぼうっと。ところで新しいエンジンは届いた?」
「車の荷台に積んでます。テスト飛行しますか」
「勿論、その為に来たんでしょうわざわざ岡山から」
大城田と暇田山はダンボールからモーターエンジンユニットを取り出して組み立て始めた。約2時間後組み立て完成して始動テストを始めた。
「これでよし、今回転さすから、しっかり押さえててな」
暇田山は電気モーターエンジンの反動で倒れない様にしっかり押えた。
スイッチをONにするとプロペラがゆっくり回転し、徐々に速くなってプロペラの風速で砂をかきあげ、砂煙で周りの景色を変えた。
「仲吉さん、完成しました。テスト飛行お願いします」
「バッテリーだけか動力源は」
「はい、残量を表示するから、確認して飛んで下さい」
仲吉はキャノピーのカラビナをモーターエンジンに着け替えてキャノピーを立ち上げた。そのままアクセルを吹かし飛んで行った。地面すれすれに水平飛行したり、高度を上げてスパイラル降下したりして、テスト飛行を繰り返した。
「完璧だ、合格です」
と、仲吉は100点を付けた。それから三日後3人は倉敷モールの公園にいた。
「前より増えてるなあ」
「一羽千羽万羽」
「なんだその数え方は」
「椋鳥の数え方っす」
一羽の鳴き声がチュンチュンと可愛いが群れとなるとジュルジュルと不気味な鳴き声に聴こえる。その騒音に紛れて大城田の携帯が鳴った。
「はいもしもし」
「電話も出ないで何処行ってたの」
「鳥取県だよ」
「なにしに?」
「仕事に決まってるだろう」
「あっそ、私たちの事なんだけど結論がでたわ」
「うん」
「別れた方がいいみたい」
「まて、電話でこの話は辞めよう」
「今から実家帰るから」
「さようなら」
「おい待てよ」
電話は切れていた。
「どうしたっすか?」
暇田山が大城田の顔を覗いていった。
「嫁から、今から実家帰るって、離婚かもな」
「えっ、まじっすか。自宅へ戻らないとやばいっすね」
「べつに、気にならない。どうでもいいよ、自由が待ってる」
河川敷に到着した仲吉は電気パラグライダーをセッテングして無風の夕陽の空に静かに飛び、目的地に向かって飛行した。西阿知の住宅街を通過すると倉敷西モールが真下に、駐車場は満杯で空き待ち車が入口で列を作っていた。さらに真っ直ぐ飛行を続けると倉敷駅の円形歩道橋が見えた。倉敷北口に建設中の倉敷北モールが広がっていた。
「来ましたよ」
「来たか、無線で呼び出して」
「仲吉さんとれますか?」
「はい、とれます。そっちから見えるかな?」
「肉眼ではっきり確認できます」
「二三分でそこの上空いくから」
「待ってます」
木に群がっていた椋鳥がパラグライダーが接近して来ると一斉に飛び出して、倉敷駅周辺を一定の高さで飛んで逃げ回っていた。
「パラグライダーが接近しただけで全部逃げちゃいましたよ」
「パラグライダーを怖がっているんだ椋鳥は」
「椋鳥が居ないと静かっすね」
仲吉は倉敷北モール上空を旋回していた。
「仲吉さん椋鳥の群れから遠くに離れてもらえますか」
大城田が無線で交信した。
「了解、今から山の方に移動します」
「お願いします」
仲吉のグライダーが遠くに離れると案の定、椋鳥は元の木に集まり始めた。
「やっぱり、パラグライダーが離れたらこんな状態だ」
「仲吉さん取れますか」
「はい、取れますよ」
「また戻って来て貰えますか」
「了解今から戻ります」
仲吉のグライダーが倉敷モール上空に戻ってきた。すると又椋鳥は木から飛び出してパラグライダーから逃げ回った。それを何回か繰り返していると、椋鳥の数に変化が現れた。椋鳥の群が何組かに分かれていた。
「椋鳥の動き、上空から観てどんな感じですか?」
「椋鳥は二手に別れて飛んでる見たいだけど又合流するでしょう。今日一日だけでは退治できないけど、明日も同じ様に飛びますか」
翌日仲吉は夕刻電気パラグライダーで倉敷駅上空に飛来した。
「連絡しなくても勝手にやって来るんすね仲吉さんは」
「天気が安定してれば飛んで椋鳥を追い払う事になってるんだ」
「飛んでこない時も有るんすかね」
「雨と強風は危険だから飛ばないそうだ」
「じゃっすね、雨と強風が続いたら椋鳥退治できないっすね」
「大丈夫だ、もう成果は出ている」
「本当っすか」
「電気パラグライダーを使い始めてから確実に数が減っているよ」
「確かに減った様な気がするっす」
「野鳥観察のプロを雇って毎日椋鳥を数えて貰っているから間違いない。今もほらあそこで椋鳥の数を数えている」
大城田が指差す方向に双眼鏡を片手にカチカチと椋鳥の数を数えている男がいた。大城田は仕事の帰りその男を誘って居酒屋にむかった。
「お疲れ様でした。乾杯」
生ビールのつまみに焼き鳥を添えていた。
「生ビールは美味いっすっす」
「椋鳥退治した後の事だけど、椋鳥は何処に消えるんでしょうか」大城田が訊いた。
「そうですね。また何処かの街で同じ事を繰り返すだけでしょう。他の野鳥より農作物の害虫を多く食べるので悪い所ばかりじゃないのですが、困った生きものです」
「果物園を食い荒らしたと、新聞記事を読んだ事ありますよ」
「そういう事、昔有りました。椋鳥は野鳥保護法で保護されてますから、毒薬で駆除出来ないけど。あの時は特例で椋鳥の駆除したそうです」
「毒薬を空から散布してですか」
「いいえ、網で一網打尽にその上か劇薬を振りまいてです」
「65歳以上の高齢者人口が2500万人特に中四国に集中している。それを踏まえてこれからのショッピングモールは高齢者の受け入れ体制が整ってないと競争相手に負けてしまう。だから、まず駐車場を高齢者や障害者に利用し易い設備にしたい」
モール社長坂本良太郎が大城田言った。
「これは駐車場の図面だ。君の意見は、何でもいい」
「そうですね、高齢者、障害者とは全く関係ない車両が止まっている所をよく他の駐車場で見かけます。だから、規則を守らない悪い運転手を見分ける為の障害者シールをバックミラーの裏側に貼ってそのシールが貼って無いと」
「貼ってないとどうなる」
「警報を鳴らすんです。つまり、障害者手帳を持っている方に障害者シールを配りシールをバックミラーの裏側に貼って貰う。次回来店した時はセンサーで障害者シールを読み取って駐車場可能になる」
「もし障害者シールが無い車が止めたら警報が鳴る訳だ」
「はい、警報よりも機械でアナウンスした方がいいかも知れません。ここは障害者専用駐車スペースです。関係ない奴は止めるな。って感じで」
「それを無視したら」
「係りの者がやってきます」
「このために人を置くのか」
「はい」
「全て自動にすれば人は要らんだろう」
「自動ですか」
「障害者、高齢者専用スペースをゲート式にするんだ。せっかくセンサーで読み取れる障害者シールが有るんだから、それを読み取って開閉式にすれば、関係無い一般車両は止められないだろう」
「それは、いいですね」
「もう、その方式を取り入れる提案はでてる。予算がね、金が掛かる」
てな感じで、坂本良太郎は新鮮なアイデアを誰彼構わず聞き回っていた。椋鳥の話に戻ろう。あれから何日も仲吉の電気パラグライダーで椋鳥を追いかけ回した結果、椋鳥は一羽も現れなくなった。
「やりましたね椋鳥は一羽も居なくなった。これで僕は販売の研修に行けますね」
「駄目だ」
「え」
「お前は俺の相棒だ」
「刑事じゃああるまいし相棒ですか」
「アパレルは諦めろ」
「他に仕事が貰えるなら諦めるけど。次の仕事ってどんな仕事っすか」
「何でも屋だよ」
「何でも屋ってなんすか」
「刑事みたいな仕事だ」
「刑事」
「ショッピングモールで起きるトラブルの処理班だな」
「万引きとかですか」
「そうだな、モールは犯罪が多いから警察の指導受けない様に犯罪が起きにくくする環境管理課だ」
「独りで広い敷地内見張るんですか」
「他にも雇うよ、今からお前の職場に案内するついて来い」
大城田と暇田山はヘルメットを被り建設中の建物の中に入って行った。ほぼ完成したメインのスーパー食品売り場奥に監視用部屋があった。
「ここがお前の職場だ。ここに座って店内を監視するだけ」
「楽そうな仕事だな」
「万引きとかは、警備会社に委託するから、お前は店員の監視とか酔っ払いや柄の悪い学生グループ、テロリストみたいなおっかない奴が相手だ。それは嘘で、迷子の世話とか迷った高齢者や転んで怪我したとか、そんなお客の手助けする仕事だ」
「お助けマンですか」
「そんなとこかな」
「めちゃ面白そうな仕事じゃないっすか」
「一度に何件も仕事がきたらパニックになるだろうな」
「まじっすか」
「その、す。す。すってのは辞めろ柄が悪い」
「そうすっかぁ」
大城田の携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
「あたしだけど、どうしてるかと思って」
倉敷西モールから大城田の嫁からだった。
「変わりなく仕事に出てるよ、おまえは」
「新装開店で残業中よ、少し休暇して又仕事だけど」
「そうか、大変だな」
「あなたも、食事はちゃんと取ってるの」
「外食してるから心配ないよ」
「そう、あっ時間だ行かなくっちゃ」
「がんばれよ」
「貴方も」
二人の会話に別居してる感じはなかった。
「よかったすねえ、仲直りできて」
大城田のすぐ後ろで盗み聞きしていた暇田山が言った。
「聴いていたのか」
「実家から戻られたんすか奥さん」
「戻ってない」
「そっすか」
「さあ終わりだ。帰るぞ」
暇田山の事を少し記す。彼の実家は香川の漁師町亀山村で、そこに両親と妹が暮らしてる。親には仕事もせず倉敷で遊んでるとは言えず。「真面目に仕事してるから」と、親に心配かけるのが嫌で嘘をついていた。が、これからは堂々と仕事頑張ってるから、と笑顔で言える時が来た。
倉敷北モールの建設は順調に進み、内装も完成して後は品物を陳列するだけだった。そして遂に倉敷駅北口に倉敷北モールが完成した。開店前から客の長い行列ができていた。開店と同時に客が我先にと押し寄せてきた。
「おい、暇田山聞こえるか」
無線を飛ばした。
「はい、取れます」
「迷子だ。Aブロックで保護して来て」
「迷子ですね、了解す」
倉敷モール店内は県内外からの客で混み合っていた。暇田山は5歳くらいの子を保護した店員から引き継ぎ迷子センターに連れて行った。そこへ大城田が洗われた。
「もうすぐクリスマスだな」
「もうっすか、早いすね」
「そいでだ。社長が考えて欲しいと頼まれた。競争相手の倉敷西モールに負けないくらいのクリスマスツリーを飾りたいと」
「考える必要ないっすよ。ただ電飾を飾ればいいだけじゃないっすか」
「素人じゃあ有るまいし。お客が驚く様なやつがほしいんだって」
「そっすか」
「駐車場でトラブルです」
駐車場係りから無線がはいった。
「何処の駐車場かな?」
「東側正面の障害者用駐車場です」
「了解す。今行きます」
倉敷北モールの高齢者、障害者専用駐車場はゲート式に決定し、高齢者や、障害者手帖をカメラにかざすとコンピュータの画像処理で障害者、高齢者と判断すると勝手にゲートが開くシステムだった。
「どうしました」
「あっ、暇田山さんここです」
暇田山は違う人に話しかけていた。
「そっちっすか」
「ここのゲートが開かないんですが」
「手帖拝見できますか」
ゲートが開かないと訴えていた人に障害者手帳の確認をした。
「どうぞ」
暇田山は手帳を借りてカメラに近づけて反応を確かめた。
「おかしいな、脚立持って来てもらえますか」
「はい、ただいま」
係りの男は脚立を担いで戻って来た。
「早いっすね」
「すぐそこでしたから」
「今から脚立に登りますから支えて貰えますか」
「はい」
暇田山はタオルを片手にカメラの届く位置まで登った。
「やっぱりそうだ。レンズにシミが付いてる」
暇田山はタオルでその白いシミを拭き取った。
「あれ、この匂いこれはムクドリの糞だ。又戻って来たか?」
暇田山は『空の』生き物を探した。
「どうしました」
係りの者が言った。
「あっいや、何でもない」
暇田山は脚立をおりた。
「すみません、もう一回手帖をかざして貰えますか」
今度はゲートが開きみんな拍手で笑顔になった。暇田山が仕事を終えロッカーで着替えてる所に大城田が話し掛けてきた。
「明日なんだけど」
「あっ、大城田さん何んすっか」
「明日俺と境港に行くぞ」
「何しにっすか?」
「ホタルイカ知ってるか」
「ホタルイカっすか。知ってます食べた事もあります」
「それの調査だ」
「ホタルイカの調査?」
「鳥取県境港市で珍しい鳥が発見されたってニュース知らないか」
「はい、はい見たことあります。今鳥取県で話題になってますす」
「ある学者の話ではホタルイカを食べたから光ると言ってるけど、それの調査だ」
「そんな事調べてどうするんすか?」
「仕事だ。とにかく明日、頼むな」
「はい、わかりましたっす」
翌日大城田と暇田山は鳥取へ向かった。
「もっと飛ばして、ここは高速道路すよ」
「安全運転第一だ」
「高い高速料はらって、もったいないすよ」
「事故ったら意味ないだろう」
「そっすね」
「ここで休憩だ」