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4 保育園の周りは違法駐車の連続

あまりの言葉に、シンとなった子供たちの肩を抱くようにして、

「今日は中で遊ぼう」

 と、遠藤は言った。園舎にはいっても、凍りついたようになった子供たちの表情は硬いままで、

「ころすって」

 と、裕也は泣きべそをかいていた。

「あのおじいさん、いつもいつも、僕の家族に意地悪ばっかり言うんだ。」

 そう言って、震えるように泣き出すと、その場にいたほとんどが、つられるように泣き出した。みな、怖がってすっかり縮んでしまったようだった。

 遠藤は、近くにいた園長の堀田に何か囁くと、園長は、

「まあ。」

 と言って園長室に消えていった。遠藤は、他の職員と子供たちの様子を見ていたが、子供たちのショックはかなりの様で、なかなか涙の止まらない子供がいた。

 ちょうどその時、風邪気味で病院に寄ってきたという、あやのが母親とやってきた。あやのは、みすずと違って、遠くから通ってきている。近所の公立はどこもかしもいっぱいで、この保育園はかなり遠いのだけど、どうせ、車で出勤だからと、保育園からの、

「車での登園禁止」

 という通達を無視し続けている。『どうぜ、何分も停めないから』というわけで、隣のお宅の敷地の前に、毎朝当然といった風に停めている。車は、高級外車だった。

 その日は、あやのも薄らなみだぐんでいた。遠藤が気付いて

「どうしたの?」

 と訊くと、

「怖いおじさんに怒鳴られたの」

 と言い、それっきり黙りこくってしまった。

 そして、あやのの母があやのの荷物をしまっている時、

「清水さん、早く、車のところに行って」

 と、玄関のあたりから、事務の篠塚さおりが教室の中にいるあやのの母に声をかけた。何事かと、あやのの母は外にいったきり、園舎の中には戻らなかった。


 あの日、保育園の西側の隣にある、落合さんは、度重なる違法駐車に腹をすえかねて、違法駐車していた、あやのの母、清水雪乃に注意を与え、「何も迷惑かけてない」と、開き直った雪乃の態度が許せなくて、とうとう警察を呼んだのだった。雪乃が車を停めていたのは、落合さんちの西側にある道路で、そこはそもそも駐車禁止区域なので、どんな理由をつけたところで、雪乃が車を停めていたこと自体言い逃れできず、落合さんに至っては、何度も交通の妨げになっていて、事あるごとに注意してきたにも関わらず、

「子供の保育園の送り迎えの時くらい、大目に見てくれたっていいでしょう。」

 と、落合さんに言い返して、通報されてしまったようだ。

 おまけにこの日、落合さんは子供たちが、自宅の窓際近くの園庭で、大声を張り上げた事が、余計に怒りを増幅させる結果になり、警察が駆けつけ、清水雪乃が車のところまで戻った時には、頭から湯気が立ち上るほどの鬼の形相だったのだ。警察官の

「落ち着いて」

 という言葉は、なんの諌めにもならないほどであった。


 そんな騒ぎがあった事を知らずに、綾子がいつものように保育園にみすずをお迎えに行った時のことだった。

「あら、元気ないじゃない。どうしたの?」

 いつもなら、とびついて、迎えに行ったことに喜びを表現してくれるみすずの表情がさえない。いや、よく観察してみると、保育園全体が、しんみりしているように感じる。

「何かありました?」

 と、綾子が遠藤に尋ねると、遠藤は重い口を開いた。

「実は、西側にあるご近所のお宅ともめ事が絶えなくて。いろいろ手は尽くしていたつもりだったのですが、今日はとうとう、子供たち相手に怒鳴られてしまいまして。どうも、子供たちは、その時の尾を引いているようで、今日はみな元気が出ないようです。」

 と、今日あった出来事を話した。

「それで、雲梯って使えないようにしてあったんですか?」

 遠藤はうなずいた。

 それを聞いていた、裕也の母が、話に入ってきた。

「みすずちゃんちは、家が近くだし、みすずちゃんしかいないから、何もしらないかもしれないけど、お隣のおじいさん、いろいろうるさくてさ。うちなんて、裕也のほかに、上が二人で、下に一人でしょ。保育園のお迎えの時に家に置いてくるわけにもいかなくて、全員ひきつれてお迎えに来ると、必ず、『うるさい、さっさと帰れ』って。」

 もう、うちだって被害者よ。と云った剣幕で、綾子に

「いやなじいさんよ」

 と言って、帰って行った。


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