割れたカボチャは消えない
ホラー苦手な人間が書いておりますので、なんと!怖くないです。
のんびりと一人暮らしをしていた。
防音もそこそこのワンルームマンションで、職場からもほど近い。
就職して四年目。
最近は自転車じゃなくて、健康を意識して徒歩で通勤している……が、週末に通勤途中にあるスーパーで買い物をすると少し荷物が重い。
お気に入りのレモン酎ハイの買いすぎだ。
500㎖じゃ少し物足りないが、350㎖を2本だと少し割り高なのが気になる。
いっそケースで買うか!と徒歩なのを忘れて買ったのは痛い思い出だ。
腰の痛みと周りからの視線を思い出して頭を軽く振る。
平穏な暮らし……のはずが、最近少しだけ気になる事がある。
それは、平日に親の手術に付き合うからと有給を取った日だった。
お隣の部屋から
ダンッ!!ダンッ!!
と大きい音がしたのだ。
何かを硬いもので叩くような、そんな音だった。
お隣さんは、俺と同い年くらいの男で、可愛いと言うより綺麗めな彼女さんが時々通ってきていた。
そんな部屋から聞こえる大きい打音。
普段生活音も気にならない程なのに聞こえた大きい音に、事件なのでは? と、恐る恐るお隣さんのチャイムを鳴らした。
手には何かあったら通報しようとスマホを握りしめていた。
ピンポーン
しばらくすると音は止み、扉越しに人の気配を感じた。
ガチャガチャと鍵を開ける音がして、息の乱れたお隣さんが姿を見せた。
「はぁ、はぁ、すみません。うるさかったですよね?」
「あ、はい。何か、えっと、」
「カボチャが……」
「……カボチャ?」
「実家の親がカボチャを丸々一つ送ってきたんですが、包丁が刺さったまま抜けなくなってしまって……」
「あ、あーーー!カボチャ!」
「はい、すみません。もうちょっとで切れそうなので……」
「あ、はい!気をつけて!!」
「すみません……」
パタンッ
あーーーーーーーーなんともなくて良かったーーーーー!!!
カボチャかぁ と、実家の母が同じように半分にしようとして包丁が抜けなくなり、父に助けを求めていた事を思い出す。
あれ大変だよなぁ とそこで、父の手術の立会いのために病院に行く事を思い出した。
大した病気ではないが、母から一緒にいて欲しいと言われていたのに、早くしないと間に合わない。
急いで支度して向かった。
結局、30分ほど遅刻して母にチクチクと嫌味を言われてしまった。
手術も無事終わり、入院中にまた見舞いに行くと約束して帰路についた。
お祝いに、コンビニで買ったレモン酎ハイは500㎖と350㎖を一本ずつにした。
マンションの自分の部屋へ続く廊下を歩いていると、お隣さんの扉の前に女性が立っていた。
時々見かけるお隣の彼女さんだった。
キッ と綺麗めな顔で扉を睨んでいて、修羅場の予感がした。
まぁ、俺は関係ないけど
小さく会釈して隣の自室の鍵を開ける。
はっ と俺に気づいた彼女さんは、気まずそうな顔で会釈を返した。
オハナシは、近くのファミレスとかでやって欲しいなぁ と、お隣から聞こえてくるだろう声を予想して、酎ハイの口を開けた。
その夜、予想していた喧嘩の声はしなかった。
それから、たびたびお隣さんの扉を睨む彼女さんを何回か見るようになった。
こちらが会釈すれは、気まずそうに会釈を返してくれる。
居留守でも使われてるんだろうか。
だが、それにしてと睨むだけで扉を開けようとしないのは何故なんだろうか。
ま!俺には関係ないけどー!
拗れるのは嫌だけど、俺も彼女欲しいなぁ〜
と酎ハイを飲み干した。
1週間経たないうちに父も退院し、退院祝いでご飯でも行こうと母から連絡が来た。
ちょうど仕事の兼ね合いで手術日から2週間目の日に有給を取れそうだったのでランチに行く事になった。
前みたいに遅刻をして余計な波風を立たせてもな、と母の不機嫌な顔を思い出して早めに家を出る事にした。
マンションの一階の出入り口を出た道路で、お隣さんと久しぶりに会った。
どこか疲れた表情に、部屋の前で扉を睨む彼女さんを思い出した。
「こんにちは。」
「あ、あぁ、こんにちは。」
「モテる男は大変ですねぇ。彼女さん、ずっとでしょ?」
「えっ!……な、何のことでしょうか?」
「そりゃ、隣の部屋なんだからわかりますよ〜」
気まずそうな表情に、隠さなくてもいいのにと苦笑した。
「あの赤い花柄のスカーフを首に巻いてる人、彼女さんでしょ?何回も扉の前で睨まれてたら外出もしづらいですよね。」
「な、何を。彼女が?い、いつ、」
「え?だって、よく扉の前にいるの見かけますよ?」
言葉を遮るようなってしまったが、そろそろ解決して欲しい。
そう思って、部屋の扉の前を見上げて
彼女と目があった。
自分を見ているわけではない。
だが、ゾッとするように憎しみのこもった目で隣にいる男を見ている。
「なんで、なんでなんでなんでなんで、だって彼女は」
ドゴッ
鈍い音が隣でした。
ゆっくり、確認するように隣を見た。
青ざめた顔で震える男の横でカボチャが地面で割れていた。
すとん と腰が抜けたお隣さんは股の間を濡らして震えていた。
「私はカボチャなんかじゃない。」
挨拶くらいでしか聞いたことはなかったが、確かに彼女さんの声が耳元でした。
その後、許してくれと何度も何度もうわ言のように呟くお隣さんを警察を呼んで引き渡し、ついでに警察署まで同行し
「一体何があったの!!!!」
と、心配をかけたであろう母からのありがたい大声をいただき、俺の隣室で起こった殺人事件は解決した。
痴情のもつれからの、撲殺。
その後、風呂場で解体をしていたらしい。
両腕がなければ、扉も叩けないかーそうかー。
怖すぎる。
今日は、レモン酎ハイだけじゃなく、グレープフルーツ酎ハイも飲もう!!
赤い花柄のスカーフが似合う彼女さんが成仏出来ますように!
ぐいっ と煽った酎ハイはいつもより苦い気がした。
ヒント グレープフルーツ酎ハイ
お隣さんの横で割れたカボチャは、消えてなくならなかったし、どこから飛んできたかも不明だし、お隣さんはカボチャを見ると頭を手で覆って謝り続けるようになりました。




